高橋洋一(嘉悦大学教授)

 英国の国民投票の結果はEU離脱だった。残留派国会議員の死があり、直前の世論調査では残留派が盛り返していたと報道されていた。投票率の低い若い世代は残留派が多く、その人たちが投票率を上げるかどうかがポイントされていたので、国民投票の投票率が7割を超えたことも、直前に残留派有利とされていた。ところが、ふたを開けてみたら、予想以上の離脱派の票が伸びた。

 英国はもともと欧州大陸から離れており、自らを「欧州市民」と考える国民の割合は他の欧州諸国と比較して低いが、特に、EUに属していなかった時代の経験を持つ高齢者で、「英国は欧州でない」という意識は強い。そうしたオールドパワーが、低所得層と結び付いて、ヤングと高所得者層を破った。

 離脱すると英国は、貿易自由化や資本取引自由化の恩恵を受けられなくなる。英国は世界でもっとも開かれたグローバル金融市場の中心地としてのシティの地位は重要だ。さらに、英国がEU離脱すれば、スコットランドに英国からの独立とEU加盟を誘発する。それだけでも、英国の経済と安全保障の大問題だ。

 英国は、EUに加盟しながら自由貿易の恩恵を受けつつも、ユーロに加盟しないで、独自の金融政策を行い、雇用を確保できるという「いいとこ取り」の国だ。

 EU離脱は英国に短期的な経済苦境をもたらすのは確実ながら、移民流入を認めたくない国民の支持を得た。
ロンドンの証券会社のモニターに映し出された、辞意表明するキャメロン英首相=6月24日(ロイター=共同)
ロンドンの証券会社のモニターに映し出された、辞意表明するキャメロン英首相=6月24日(ロイター=共同)
 いずれにしても、英国のEU離脱によって短期的にはポンド安、通貨不安になるのは避けられない。実際、国民投票当日、はじめは離脱回避の楽観論から1ポンド1.50ドル台であったが、一時1.33ドル台まで急落した。また、欧州大陸への輸出に関税などのコストが発生する可能性がある。英国のシティでは、金融機関はEU単一パスポート(免許)が有効でなくなり、欧州大陸で新たにEU単一パスポートが必要となり、シティの金融機能の一部が欧州大陸に移るかも知れない。

 さらに、EU統合への欧州各国で根強い懐疑派のスペインなどで離脱運動を勢いつかせるだろう。

 英国財務省によると、EU離脱後の英国は景気後退に陥り、2年後の経済成長率は残留の場合を3.6~6.0ポイント下回るという。すると、金融業界をはじめとして産業競争力がなくなり雇用が激減し、英国経済は壊滅的になる。離脱の場合、経済成長の落ち込みに対応する失業率は1.3~2.2%も増加する。

 IMF(国際通貨基金)も、17日、国民投票が「今の英国を取り巻く最も不確実なリスクだ」と指摘した。英国が離脱した場合、2018年の経済成長率は1.3~5.2%ポイント減少し、失業率は0.3~1.2%も増加するという。

 これらの試算は、離脱を警告する意味があり、ちょっとオーバーかもしれないが、EU離脱という未知の世界では的外れともいえず、あり得る範囲だ。