「エモい」ってなんだ? 「エモい」の意味をいろんな人に聞いてみた
2016/6/24 20:05 ネタりかコンテンツ部
「うわーそれ超エモいっすね」
後輩のK君(24歳)は「地元の夏祭りで旧友の赤ちゃんを抱かせてもらった」という僕の話にそう答えた。
……エモい? 違和感を覚えつつもそのときは流したが、今考えても納得がいかない。
「感慨深い」という表現が適切なような気がするが、10歳離れればそれは「エモい」なのかも。
……いや、これは世代ではなくみんな各々の「エモい」があるのかもしれないぞ。
各業界での「エモい」
「エモい」調査員のサカイエヒタです
そんなわけで「エモい」について調査する面倒な事態となった。
そもそもこの「エモい」の語源は「emotional(感情)」の「エモ」であることは間違いないだろう。しかしネットで「エモい」を検索すると、そりゃもうみんな自分勝手にさまざまに解釈してる。
音楽業界での「エモい」は「あのバンドはエモい」「あの旋律はエモい」といったように、使い方や対象は広義に渡る。音楽と「エモい」が仲良しなのはなんとなくイメージできる。
ファッションにおいての「エモい」は音楽業界のそれとは少し違い「エモい髪型」「エモい雰囲気」といったビジュアルに対しての「エモい」が目立つ。「エモい」で画像検索すると「黒髪、メイク、前髪長め」な男性の写真がずらりと並ぶ。
Yahoo!画像検索が導き出した「エモい」
また、変わった解釈として「”エモい”は”エロい+キモい”の造語」といったものもあった。「emotional」どっかいっちゃってる。
若者言葉の「スゴイ」「ヤバイ」の上位互換であるというちょっと乱暴なエモい用例もあった。
しかし、ネットの情報も大事だけど、やっぱりリアルな人間に聞いてみようじゃないか。
今回は女子大生、アーティスト、音楽関係者へ「エモい」について聞いてみた。
女子大生にとっての「エモい」
まずは若者の代表である女子大生に聞いてみよう。僕には「女子大生に聞けば、世の中に存在する問題の9割は解決する」という自負がある。解決しない残りの1割は、解決しなくて良いものなのだ。
今回取材に応じてくれたのは大学三年生のみづきちゃん(左)とゆみちゃん(右)。
――ということで、「エモい」について聞かせてください。ふたりは「エモい」って使いますか?
ゆみ ……あまり使わないかなあ。
みづき そう? 私はたまに聞くし使うこともあるよ。でもTwitterとかLINEだけかな。
――SNSでは使うけどリアルな場では使わない?
みづき はい。少し前にサークルのグループLINEで「エモい」って使うのがちょっと流行って。サークルの幹部の人がみんなに向けて使ってたんだけど……これです。
――「エモさが増しつつある」。秋も深まってきました、みたいな使い方ですね。これは斬新だ。
みづき でもこの使い方、私は間違ってると思うんですよ。エモは増してこないし。私が思う「エモい」って、「懐かしい」と似ているんですけど「懐かしい」ほど古い記憶ではなく……1年くらい前の出来事を友だちと話して「なんかエモいよね~」とか使いますかね。
ゆみ うん、その使い方は正しいと思う。辛い思い出とかではなく、楽しかった思い出に使うんじゃないかな。
――懐かしいもの、ポジティブなものに対して使うのであれば「実家にいる優しいおばあちゃんのお味噌汁」はエモいですか?
みづき それはエモくないですね。おばあちゃんの味噌汁は「懐かしい」であって、「エモい」はおばあちゃんに失礼な気がする。友だちとか、同世代の人との会話や思い出に対しては「エモい」でOK。
ゆみ たしかに若い人同士が使う言葉って感じがします。だから30代とか、年上の人が使うのは……
みづき 引きますね。
――30代男性が「エモい」を使うと引く。なるほど……。(こわい)
みづき はい。気をつけたほうがいいと思います。無理してる感じがしますから。
女子大生に丁寧に「引きます」と言われると、もはや今回の取材自体を否定されているような気がして、30代の僕はとてもドキドキする。
総じて彼女たちの使う「エモい」はあくまでもSNS上でのやり取りや感想に使う程度で、これといった定義や強いこだわりはないようだ。
となるとこの取材自体が彼女たちにとって「この取材なんなの? そんなに女子大生と話がしたかったの?」と捉えられてしまった可能性もある。
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アーティストにとっての「エモい」
次は客観視された「エモい」ではなく、「エモい」をまさに生き様にしている人物に聞いてみようと思う。幾人かの情報提供者から「エモいといえばアイツ」と教えてもらったのが料理人兼アーティストの岡村飛龍氏。渋谷にあるシェアハウス「渋家(シブハウス)」の元メンバーであり、料理人でもある彼は常日頃「エモい」を多用する人物だ。
――「エモい料理人」という肩書きを持っている飛龍さんですが、飛龍さんの考える「エモい」ってなんでしょうか。
飛龍 「エモい」っていうのは、ある種の「ギブアップ」なんです。
――ギブアップ……? どういうことでしょう。
飛龍 「エモい状態」とは、たくさんの情報量が流れ込んできて自分の中で処理しきれない状態になることなんです。「俺はもうパンパンなんだ!」ってメッセージなんですよ。もちろんポジティブな意味合いで。
――その「情報」というのは、音楽や映像のことでしょうか。
飛龍 もちろん音楽や映像もそうですが、五感を刺激するすべての情報のことです。例えばサカイさんも、今まで見たこともない美しい景色に出会って、ため息しか出ないって経験ないですか。
――たしかに、感動して気の利いた感想が出てこなかった経験はありますね。
飛龍 それがまさに「エモい状態」です。俺はスペインに行った際、歴史ある教会を観光したんですが、建築物のビジュアルやお祈りしている老人たちの姿、教会の匂いや音といった情報を過剰摂取しちゃって「エモい状態」になったんです。「エモい状態」は飲食店でもクラブでも、教会でも起こるんですよ。
――なるほど、感情を動かされる情報をインプットしすぎて言葉にもならないとき、「ギブアップ」のように「エモい」という言葉が生まれるんですね。
飛龍 そうなんです。だから若いときはそういった情報を許容する器がまだ浅かったから、なんにでも「エモい」ってなっちゃったんですよ。
財布落としたら「あ、エモい」とか言っちゃったり。セックスも「エモい」し、塩ラーメン食っても「エモい」、味噌ラーメン食っても「エモい」(笑)。
――それはもはや病気ですね(笑)。
飛龍 あまりにも俺がいろんなものに「エモいエモい」ばかり言ってたから、ある日知り合いの女の子に「エモを私物化しないで!」と本気で叱られたんですよ(笑)。それぞれみんなの「エモ」があるはずなのに、俺が使いまくるせいで「エモい」を使う時に一瞬俺の顔がノイズとして混ざるようになっちゃったと。いわゆる「エモの乱用」ですね。一時期、仲間内で問題になりました(笑)。
――「エモの私物化」に「エモの乱用」……その後改善できたんですか?
飛龍 成長していくにつれ、心から「こいつはすげえ」って人に出会ったんですね。するとそれまで「エモい」と思っていたものでも「これは取るに足らないエモだな」とわかってきた。そういった弱めの「エモ」への言葉として使い始めたのは「グッとくる」ですね(笑)。
――一般的な意見として「エモい」を「懐かしさ」のようなニュアンスで捉えている人も多いと思うのですが、飛龍さんはどう思いますか?
飛龍 間違っていないと思いますよ。時空を超えた「エモ」はあると思うんです。たとえばなんでもないアヒージョ食った瞬間にシナプスがガチッときちゃったり。それはアヒージョそのものが「エモい」なのではなく、アヒージョの中に含まれていた、自分でも気付かなかったバックグラウンドに触れた瞬間に「エモい」は訪れるんじゃないかと。俺らの無意識下にはこれまでの体験が溜まっていて、そういった過去の体験となんらかの形でリンクした瞬間に「エモい」は訪れる。
――ということは予期せぬシーンでも訪れるものなんですかね。自分でも「なんでこんなものに?」っていうような。
飛龍 そうですね。そういった無意識下の中にある「エモ」との衝突を俺は「エモいアクシデント」って呼んでます。
――つまり「エモい料理人」というのは、そういった「エモいアクシデント」を食事という体験で起こす料理人ということでしょうか。
飛龍 そうなんです。五感すべてを刺激させる体験って「食事」くらいしかないんじゃないかと思うんです。「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」。五感すべてを刺激すると必然的に情報量は多くなりますから「エモ」を生みやすい。そういった意味で、俺の提供する料理で人をパンクさせて「エモ体験」をしてもらいたいんですよ。さまざまな人のバックグラウンドが含まれた食事を提供するのが「エモい料理人」なんです。
どんなものにも「エモい」を使ってしまっていたことで「エモを私物化しないで!」とまで言われてしまった飛龍氏。しかしそこには彼なりの「エモい」の定義があり、「エモい状態」であることを認める素直な自分がいたのだろうと話を聞いて理解した。最初に言っていた「“エモい”はギブアップである」という彼の言葉は僕の中の「エモい」の定義を少し変化させてくれたように思う。
音楽関係者にとっての「エモい」
最後は「エモい」という言葉がこの世に最初に生まれたであろう音楽業界を代表して、音楽レーベル「Maltine Records(マルチネレコーズ)」の主宰、トマド氏に「エモい」について聞いてみる。彼にはこれまでのインタビュイーが語ってきた「エモい」についても説明した。
――いろんな人に「エモい」について聞いてきました。正直、ますます「エモい」がわからなくなってしまった感はあります。
トマド 特に飛龍くんの「エモい」はかなり上級者向けですからね(笑)。(トマド氏と飛龍氏は元ルームメイト)
――まず最初にはっきりさせておきたいのですが、今回お題としてあげた「エモい」と、音楽のジャンルである「emotional」は別ですか?
トマド それは別ですね。サカイさんがおっしゃっているジャンルの「emotional」はロックの形態の一種です。僕もこのジャンルについてはそこまで詳しくないのですが、今回の「エモ」はジャンルとしての「Emo」とは関係のない、口語としての「エモい」です。
――トマドさんは日常的に「エモい」は使うんですか?
トマド 僕の場合はマジトーンでは使わないですかね(笑)。僕の周りでも真顔で「エモい」を使っている人は少ないです。
――「エモい」は結局どのような意味合いを含めた言葉なんでしょうか。
トマド 「“エモい”とは、こういう意味だ」と言えないのがまさに「エモい」なんだと思うんですよ。サカイさんももう気付いてると思うんですけど(笑)。
――うっ……。たしかにそうなんです。もはや定義付けはできない言葉なんじゃないかと。
トマド でも女子大生のお二人が言っていた「1年くらい前の出来事はエモい」というのは納得できますね。きっとそれは「現在と関わっている、作用している」という点がポイントなんじゃないかと。現在と別離したものは「懐かしい」になるけど、現在の自分にわかりやすく作用していたりリンクしているのは「エモい」になる。
――なるほど、現在に影響している「懐かしさ」ですね。
トマド つまり、主観に頼ったみんなそれぞれの「エモい」があるんじゃないかと思うんです。過去の自分と現在の自分が必要ですから、それぞれ何に対して「エモ」を感じるのかは各々違う。「エモい」は人に提示するものではなく、つぶやきのように出てくる言葉ですから。
――コミュニケーションを図るための言葉ではなく、自分の心情を吐露する独り言のようなものですか。
トマド ええ。だからTwitterのような「つぶやき」で多用されるし、使いやすいんだと思うんですよ。SNSの発展とともにみんなに使われるようになった言葉でもあるんじゃないでしょうか。「エモい」はさまざまな感情を含みやすい言葉だったんだと思うんです。
――便利な言葉だからこそ、さらに「エモい」の幅は広がってきて、僕のように悩むヤツも出てきたのかもしれませんね。
トマド ええ。音楽業界でも「“エモい曲”とはこういう曲だ」というのは言えなくなっていて、「エモい曲作ってくれ」なんてオーダーはなかなか難しいです。「アッパーな曲作ってくれ」は比較的可能だと思うんですけど……。「エモい」は各々の「エモい」があるので、そこはフィーリングの問題かなって。結果論での「エモい曲」が生まれることの方が多いんじゃないでしょうか。
――それは意外でした。僕はてっきり音楽業界の人は確固たる「エモい」を理解しているのかと……。ではなぜ音楽と「エモい」は相性がいいんでしょうか?
トマド 音楽っていうのはいわゆる「エモい状態」が起きやすいメディアなんだと思います。テレビや映画などと比べて自分から取りにいくメディアではなく、日常の無意識下の中でも情報として体内に入ってくるメディアなので。また、音楽は形のないものですから、そういったぼんやりとしたものの言語化をみんな常に求めているんだと思うんです。
――今後は僕も気にせず「この曲はエモいね〜」って使ってもいいんですね。「それはエモじゃねえ!」って怒られるんじゃないかと心配してました。
トマド もちろん。それぞれ対象への思い入れがあるから、他人の「エモい」は否定しちゃいけないと思います。逆に「これがエモだ」なんて強要もしちゃいけなくて。まあ、とはいえなんでも「エモいエモい」でもつまらない世の中になっちゃいますけど。
――あ、それってつまり「エモの乱用」ですね(笑)。そんなトマドさんでも、好きな「エモい」嫌いな「エモい」はあるんですか?
トマド 強いて言えば、「エモい」は深夜の時間帯に生まれてほしいというか……(笑)。昼間の会議室で生まれる「エモい」は疑えって思ってます(笑)。
まとめ
今回、さまざまなジャンルの人々に「エモい」について聞いてきた。当初から感じていた「“エモい”は人それぞれ」がより確固たるものである結果となり、「お前、結局同じ場所に立ってるじゃねえか」状態ではある。しかし実際には僕は三周してここに立っているのであり、そこには大きな違いがあるのだ。
後輩が使った「うわーそれ超エモいっすね」は間違いではなかったし、僕にとってはやはり間違いでもあった。こうしてまたひとつ「調べても調べなくても同じ答え」を僕は手に入れたのであった。こんな調子で80年突っ走ろうと思う。
「“エモい”は人それぞれ」
取材協力
岡村飛龍 https://twitter.com/hiiiiiiryu
ライター:サカイエヒタ(Concent編集部)
投稿ありがとうございます。
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