4/1に入社した新入社員です。
入社前に聞いていた仕事内容と異なる仕事をすることになりました。
同じような思いをして辞めていった社員がここ数年で何人もいるそうです(いわゆるブラック企業でしょうか…?)
私自身、この仕事ができなければ大学で学んだことを活かすことができないのですでに転職も考えていますが、やりたい仕事のために遠い地へ引っ越してきたので今後どうしようか迷っています。
ご質問誠に有難う御座います。
アスタリフトという化粧品をご存知でしょうか?
もしかしたらご存知ないかも知れませんが、アスタリフトとは元々フィルムメーカーだった「富士フイルム」が発売している化粧品ブランドで御座います。
フィルムというと馴染みのない方もいらっしゃるでしょう。
勿論私と同年代以上の方からすれば、馴染みもあるかと思いますが、携帯カメラやデジタルカメラが普及する前には、フィルムをわざわざ現像屋さんに持って行って現像して貰わないと写真を見ることが出来ないという時代があったのです。
フィルムカメラに馴染みのない方からすると「昔は不便だな」というような印象を抱くかも知れませんが、つい10年前、2004年まではフィルムカメラの方が普及台数が多かったので、そんなに昔のことでも御座いません。
さて、このフィルムカメラという産業で、事業を大いに拡大していたのが富士フイルムで御座います。
その頃の富士フイルムの事業というのは
1 フィルムを売る
2 現像屋さんに「フィルムを現像する器具」を売る(紙、現像機、現像液等)
3 おまけで医療用のカメラとか作る
というのが基本でした。
これだけで、と言っては富士フイルムに失礼ですが、基本的にはこれだけで何十年と何万人もの社員を担う大企業で有り続けた企業、それが富士フイルムで御座います。
さて、そんな富士フイルムですが、2000年頃から経営が不穏な雲行きになりました。
お察しの通りデジタルカメラの台頭が原因です。
デジタルカメラが普及すると、まずフィルムが売れなくなります。
さらに「フィルムがダメなら現像を」と考えても、皆様自宅のプリンターで現像をするようになりました。
ならば「パソコン現像用の紙を」と考えても、殆どの方が現像しないでパソコンで見るようになりました。
つまり富士フイルムの事業の中核がほぼ完全にデジカメとパソコンに淘汰されてしまったのです。
事業の半分以上が完全に死滅。倒産しない方が不思議なレベルでの淘汰です。
そんな時に富士フイルムが行ったのが「化粧品事業」への進出で御座います。
幼い頃「富士フイルムが化粧品へ」というニュースを見た記憶があるのですが、私の記憶が正しければ世間の多くから「迷走」「暴挙」というよう冷ややかな反応でした。
「全く関係のない業種で成功するはずがない」
当時の世間の反応は極めてまともなものだったでしょう。
ですが、富士フイルムにも全く勝算が無かったわけではありません。
その勝算とは「感光技術」です。
感光とは簡単に言ってしまえば「光に当たった時、物質がどう変化するか」ということなのですが、フィルム写真は、この感光で写真を写しているため、フィルムを作る富士フイルムには膨大な量の「感光技術」のノウハウが御座いました。
そしてこの感光技術は老化防止にも重要な「活性酸素」という物質の制御も含まれており、これが富士フイルムの勝算で御座います。(※その他、フィルム技術、現像におけるコラーゲン等々も富士フイルムの化粧品事業に多大な影響を与えましたが、ここでは割愛させて頂きます。)
つまり「化粧品のノウハウでは勝てないかもしれないが、活性酸素の制御のノウハウは資生堂にもカネボウにも負けない」ということで御座います。
結果として、この化粧品事業への参入や、写真フィルム技術を応用した液晶テレビのパーツ事業などの成果もあり、富士フイルムは「デジタルカメラ」という危機から脱することに成功致しました。
さて、前置きが長くなりましたが、ご質問者様の質問にお答えさせて頂きたく思います。
まず、今ご質問者様が就職している会社がブラック企業かどうかということは一旦置いておきましょう。
私には分かり兼ねますし、正直に言えばどうでもいい話です。
私が質問文を読んで一番問題に感じたのは「大学時代の勉強が活かせない」ということで御座います。
デジタルカメラが台頭して来た時、富士フイルムの社員はどのように考えていたと思いますか?
富士フイルムは何も咄嗟の思い付きで化粧品事業に手を出したのではありません。
デジタルカメラが台頭する20年くらい前から、必死に生き残りを考えていたので御座います。
その時に考えたことは「今持っている技術を、どう活かせばいいのか?」ということ。
勘違いをして頂きたくないのですが「化粧品事業に手を出したら、たまたま感光技術が役に立った!」というわけではないのです、今ある技術を必死に考えた結果、「化粧品」と言う活路を見出したので御座います。
「今持っているものをどうしたら活かせるか」
私が何を言いたいかお分かり頂けますでしょうか?
今のご質問者様は「この企業だと大学時代の勉強が活かせない」のではありません。
もっとずっと単純でただの「学んだことを活かせない人間」ということになります。
今の企業がご質問者様に合っているかどうかは分かり兼ねます。
ブラックかどうかも分かりません。
辞めたければ辞めれば良いでしょう。
ですが、恐らく今のご質問者様では「大学時代に学んだことと、ぴったりと合っているように見える会社」に入ろうとも、大学に学んだことは、きっと役に立てることが出来ないと思います。
何故ならば「今持っているものをどうしたら活かせるか」という意識が無いからで御座います。
余談になりますが、私は大学生の頃、家庭教師をしておりました。
数学が嫌いな生徒が多かったので、よく「こんなこと勉強して何の役に立つの?」と聞かれたのですが、その時に「いつかきっと役に立つよ」とだけは絶対に言いませんでした。
「数学」に限った話では御座いませんが、「役立てよう」と思わない人間に「役に立つ機会」は絶対に訪れないと考えているからで御座います。
なので「君が役立てようと思えば、武器になる。思わなければ何の役にも立たない」と答えていたのですが、よくあれでクビにならなかったと、今では笑い話という形で役に立たせております。
ところで一条君
富士フイルムの事業を
大きく脅かしたデジタルカメラですが
世界で初めてデジタルカメラを
発売した会社ってどこか知っていますか?
う~ん……
とかですか?
CASIOはデジカメで成功したのは
間違いありませんが、世界初ではありませんね。
じゃあSONY?
正解は
です。(※東芝と共同開発)
え!?
ここが富士フイルムさんの凄いところです。
富士フイルムさんは
自分の会社の主力商品である「フィルム」を
駆逐するデジタルカメラを
自分の会社で作ってしまったんです。
ちなみにこのカメラは売れたんですか?
…………基本的に
はい?
基本的に新しい商品って言うのは
値段が高くなるわけです。
まあ、仕方ないですね
この世界初のデジタルカメラの値段っていくらだと思います?
ちなみに当時の物価は今とほぼ同じです。
30万円くらいですか?
公式な情報が見当たらないのですが……
300万円くらいだったらしいですよ。
300万円!?
ちなみに当時300万円で買えたものを考えてみると……
日産シルビア(約200万円)
自動車
東芝DynaBook(約20万円)
ノートパソコン
Sony CCD-TR55(16万円)
ビデオカメラ
写ルンです(1000円)
使い捨てカメラ
富士フイルム
さらにファミコンを買って、
赤プリに泊まって、
ドラクエの1~3を買ってもお釣りがきます……
それだけのものを買える値段で、
10枚程度しか写真が取れないデジタルカメラを
買う人がいると思いますか?
いるかもしれないですけど…………
少なくともこの商品は
商業的には失敗したんですよ。
ただ、こういった失敗があったからこそ、
富士フイルムさんは今でもこうして
素晴らしい企業であり続けていると言えます。
アスタリフトに代表される
「富士フイルム」の大成功の裏には
いくつもの大失敗が存在するのですよ。
なお、この失敗の後に、
CASIOさんがデジタルカメラで大成功を収め、
その後、富士フイルムさんも
デジタルカメラで成功をします。
ちなみにCASIOさんのデジカメは65,000円でした
ところで一条君
話は変わりますが、呉服屋って知っていますか?
こういうのですか?
偏見すぎますよ……
というかそれは越後屋的なやつですよね?
呉服屋と言うのは、
ようするに和服を売っているお店ですね。
江戸時代には誰もが和服を着ていたので、
呉服屋はたくさんあったのですが、
明治になるにつれて、呉服屋は徐々に姿を消していきます。
洋服を着る人が増えたからですね!
その通りです。
ですが、一つ面白い話を聞いたのでお伝えしたいと思います。
「呉服屋が、洋服屋になったのではない。」
「呉服屋は呉服屋のまま消滅し、新たに洋服屋が出来たのだ。」
※誠に申し訳御座いませんが情報源を覚えておりません。
本当に申し訳ないのですが、
何の本で読んだのかが思い出せないことをお許しくださいませ。
これ、どういう意味なんですか?
江戸時代には呉服屋さんがあったのですから、
明治になり、洋服屋が必要になったなら
呉服屋さんが、洋服を作りそうなものではありませんか?
そうですね。
和服と洋服で構造は違いますけど、
服を作るって意味では同じですもん。
ですが、現実はそうならなかったそうです。
「これからは洋服の時代だ!」と言われても、
呉服屋の殆どは「洋服」を作らずに
「呉服屋」として倒産していきました。
その一方で、呉服屋と関係のないところで、
新しく「洋服屋」というお店を作った人が登場し、
洋服屋が誕生したそうです。
なんで呉服屋の人は洋服を作らなかったんですか?
当時の方に話を聞いたわけではないので断言は出来ませんが
むしろ
「呉服屋が、なんで洋服を作らなくちゃいけないんだ!?」
って思っていたのではないですか?
だって洋服の時代になるのだから仕方ないじゃないですか……
「現実がそうだから仕方ないじゃないか」
「誰かがやらなきゃいけないんだから仕方ないじゃないか」
「嫌でもやるしかないじゃないか」
「間違っていたとしても、それしか道がないなら仕方ないじゃないか」
「このまま挑戦しなければジリ貧だから、リスク覚悟で挑戦するしかないじゃないか」
「これまで頑張ってきた努力は認めるが、時代が変わったんだからしかたないじゃないか」
いくらでもありますけど、そういう理由では、ほとんどの人は動かないんですよ。
「現実から目を逸らすな」
と言うのは簡単ですけど
そんなことが出来るなら
誰も苦労しません。
まぁそうですよね……
富士フイルムさんが凄いのはこの点だと思います。
今の私たちは
「デジカメが普及しないはずが無い」
と自信を持って言えますが、それは結果を知っているからです。
もちろん、当時の技術者のほとんどは、
デジカメが普及するのは
時間の問題だと知っていました。
だから、対策をするしかないことも知っていた。
ですが、そんな理由で人は動かないんです。
なぜなら絶対に
デジカメなんて、あれじゃ人間の魂が籠らない。
それに高いし、フイルム写真の良さだってある。
もちろんデジカメも売れるだろうけど、フイルム写真は必ず残るさ。
みたいなことを言い出します。
時代が読めないんですね……
それは違いますよ?
え?
時代が読めない人なんて、多くはありません。
自分にとって
「不都合な未来」が見えてしまった時に、
目を背ける人間と
目を背けない人間
がいるだけですよ。
…………
君だって、
このままじゃ永遠に彼女が
出来ないことくらい
分かっているじゃないですか。
な、なにいってるんですか!?
気付いているのに目を背けているだけでしょう?