【速報解説】「英国EU離脱」

2016年06月24日 12:59

イギリスのEU離脱をめぐる国民投票は、どうやら離脱派の勝利に終わりそうな形勢。最終結果を踏まえたものでないが、離脱という前提で暫定版として書いたもので、気の早い読者のための特別提供です。性格上、改訂するのであしからず。

一気に離脱ムードに雪崩を打って流れそうなときに、残留派の労働党女性議員テロ事件が起きて、冷や水を浴びせかけられたのだが、流れを止められなかった。

世界経済にそれこそリーマン・ショック級の衝撃で、奇しくも安倍首相の予言が当たってしまった。

若い世代が70%を超える率で残留に傾いたのに、60%以上が離脱という高齢層の無責任な我が儘が通ったのは、日本と同じ。まさに、シルバー・ポピュリズムだ。

ただし、若者が一国孤立主義に向かわないのはイギリスの未来の希望で、日本だけが良ければいいというSEALDsなど日本の若者に見習って欲しいところだが、それでもダメだった。

アメリカ大統領選挙の予備選挙でトランプやサンダースのようなポピュリスト候補が健闘するようなことも起きるのも根は同じ。常識的にはトランプに有利に働く。逆にこれでイギリス経済が沈没して世界がポピュリストに懲りてくれれば禍転じて福と成すことになるのが希望か。

この投票の影響をさしあたっての世界経済を横に置いて、EUの将来、イギリスの国内政治、民主主義のあり方という三点から簡単に論じたい。 

第一にEUの将来である。

私はアゴラでもすでに書いたことがあるように、英国は残留が有利になるように、EUから独自の政策を許されたのだが、それによって残留しても中核から外れ外様大名的なメンバーにならざるをえなくなっていたので、その意味では影響はすくないかもしれない。イギリスとしては、自由貿易協定などで影響を最低限にしたいところだが、それを許したら、ほかに脱退希望国が出かねないので、そんな甘い顔は出来ないのがジレンマだ。

とくに、オランド仏大統領は再加盟はありえないと明言。http://agora-web.jp/archives/1670659.html

欧州全体で移民政策は、全般的に厳しくなるだろう。一般人がもつ移民に対する悪い感情は当然にある。建前論に逃げてそういう状況を放置しているから極右・極左の伸長を招くのだ。 

タックスヘブンについても厳しい対処をしないと、統一市場が大企業や高額所得者に有利という批判が今後とも避けられない。統一市場は今回の投票でも労働党が残留支持であることでも分かるように、弱者に有利なことが多いのだが、現状では超大企業が得している部分も強い。これを目に見えて減らさないと一般国民の支持は得られない。 

第二に、イギリスの国内政治だが、色分けは、保守党はまったく二分、労働党はほとんど残留支持、独立党は離脱、スコットランドや自民党は残留支持。日本では野党のほうが孤立主義だが、欧州のリベラルや穏健左翼はほぼ統合派。アンチ統合派は極左だ。保守党は今後の党内のまとめが難しい。労働党は左派から選ばれたコルビーは隠れ離脱派といわれれるが、党内での孤立をおそれて残留支持にまわった。そういうこともあって、少し労働党にとって相対的に有利に働くだろう。 

第三は、直接民主主義への反省があってしかるべきだと言うことだ。そもそも、民主主義が正しい結果を得ることに向いた制度だということはない。民主主義の利点はその決定に正統性を与えることであって、結果の良さではないということが再確認されるべきだ。

一方、個別問題についての直接民主主義は、代議制民主主義を崩してしまう危険がある。なぜなら、間接民主主義は、政策体系全体の信任を問えるが、個別問題の賛否を問うと、全体への影響を無視して判断が下される。

また、アメリカ大統領選挙の予備選挙でトランプやサンダースのようなポピュリスト候補が健闘するようなことも起きる。もちろん、直接民主主義を交えることのメリットはあるが、デメリットも多いということの再確認が必要だ。安直な直接民主主義への信奉への反省となるべきだ。

※アゴラ編集部より;本稿は暫定版です。開票結果確定を受け、改めて一部補足する予定です。

八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学大学院教授

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