文/近藤大介(週刊現代編集次長)
東アジアではアメリカ軍と同等の軍事力
このたび、『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』(講談社現代新書)を上梓した。
「パックス・チャイナ」という言葉は、私の造語である。
古代の地中海世界で展開された「パックス・ロマーナ」(ローマ帝国のもとでの平和)、産業革命後の「パックス・ブリタニカ」(大英帝国のもとでの平和)、第二次世界大戦後の「パックス・アメリカーナ」(超大国アメリカのもとでの平和)などに続き、習近平主席は21世紀のアジアに、「パックス・チャイナ」(中華帝国のもとでの平和)の構築を目指している。
古代から19世紀前半まで、長年にわたってアジアには、「冊封体制」と呼ばれる「パックス・チャイナ」が機能していた。これは、宗主国である中国と、属国(朝貢国)である周辺国との「緩やかな主従関係」だ。
ただし、中国大陸と海を隔てている日本と、高い山を隔てているインドは、このシステムに組み込まれずに生存できた。
1840年になってアヘン戦争が起こり、清帝国はイギリスに屈したことで、「世界ナンバー1」の地位を失った。それから約半世紀後の1894年に日清戦争が起こり、清帝国は日本に屈したことで、「アジアナンバー1」の地位も失った。
こうして20世紀の前半は、日本がアジアを軍事的に支配した。20世紀後半は、引き続いて日本が経済的に、そしてアメリカが軍事的に支配した。
21世紀に入って、周知のように中国の台頭が目覚ましい。2010年に中国は、GDPで日本を追い抜いて、アメリカに次ぐ世界ナンバー2の経済大国にのし上がった。
中国は、公表している経済統計も軍事費も正確さと透明性に欠けるが、私の推定では、経済力でアメリカの3分の2、軍事力でアメリカの3分の1規模まで来ている。
軍事力に関して言えば、世界中に展開しているアメリカ軍と違って、人民解放軍は東アジア地域に集中しているので、東アジアにおいては、すでにアメリカ軍と同等の能力を有していると言ってよい。
換言すれば、20世紀と21世紀しか実感のない現存の日本人が未経験の世界に、アジアは突入しつつあるのだ。それが、「パックス・チャイナ」の世界である。
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