正社員と非正社員、大企業と中小企業、都市と地方。高齢者と若者、稼ぎや資産の多い人と少ない人……。

 様々な格差・不平等の拡大を実感する人は多いだろう。誰もが生き生きと暮らせる社会をめざすには、再分配政策を強め、格差を縮めることが不可欠だ。

 その際、社会保障などの予算措置に加え、大きな役割を担うのが税制だ。安倍政権が消費増税を先送りし、年金や介護分野での低所得者対策が後回しになりそうなだけに、税制を広く見直して再分配を進める重要性はますます高い。

 具体的には所得税と相続税、法人税について「持てるところから取る」という基本方針をしっかりと掲げることが必要だ。

 所得税では政府税制調査会が昨年秋、働き方や家族のあり方の多様化、格差の拡大などを踏まえて論点を整理した。女性活躍推進の観点で始めた配偶者控除の見直し作業を発展させ、各種控除の改変を焦点にすえる。

 税率の見直しも忘れてはならないだろう。所得税率は5~45%の累進制だが、株式の配当や売却益への課税は20%が基本だ。年間所得が1億円を超えると実際の税負担率が下がっていく傾向があるが、高所得者ほど株式を多く持っているからだ。

 相続税では15年から、基礎控除の縮小や最高税率の引き上げなどで課税が強化された。それにより、死亡に伴って相続税が課される比率が4%強から6%程度に高まると見られる。

 不動産相場が高い大都市圏での影響はどうか、政府は分析を深めるとしてさらなる増税には慎重だ。だが、資産の再分配のカギとなるのが相続税だけに、段階的に強化していくべきだ。

 そして、法人税である。

 安倍政権は、企業の負担を軽くすれば賃上げや投資が進むとして税率の引き下げを急ぐ。

 確かに賃上げはある程度実現し、投資も持ち直しの傾向にある。しかし企業が全体として過去最高水準の利益をあげ、多額の現預金をため込んでいる状況からすればまったく力不足だ。企業におカネを使ってもらうには、むしろ課税強化が検討課題になるのではないか。

 論点は多いのに、参院選での議論は低調だ。民進党など野党4党は「累進所得税、法人課税、資産課税のバランスの回復による公正な税制」という共通政策を掲げたが、自民党の公約は消費増税の延期以外に税制に関する記述がほとんどない。

 めざす社会像を知る手がかりの一つが税制である。各党や候補の主張に耳をすまそう。