星空文庫
よるのないくに 2 (1)
コーエーテクモゲームス・ガスト 製 作
Piro-Piro chronicles 編
故郷―忘れられない思い出と、過去
★
―夜、か
思わず立ち尽くして見とれてしまうほど、黒く美しい宵闇が、一面に広がっていた。
一見穏やかでありながら、一抹の不安をも抱かせる、澄みきった黒真珠のような暗黒で染めあげてから、きらきらと、まばゆく光る玉石を無造作に散りばめた、あたかもひとつの美術創作のようなその大空を、ゆっくりと振り仰ぐ。
そこで私はてんびんの星座をひとつ、なぞり書いて見いだすことができた。
遠く広がる草原の、少し荒っぽい一本道を、ひとりの少女が歩いていた。
―二度と忘れはしない
とあることがきっかけで、今に至るまで、苛烈な旅路を渡り歩いてきた少女にとっては、久しく帰ってきた故郷の道、そして故郷の星空である。
しかし、月明に照らされ露わになった少女のその表情は、決して明るいものではなかった。
物言わぬ彼女が黙って向かう道筋の先には、ぽつぽつと灯る星の煌きと、見渡すかぎりの新緑の大地と、そして一つだけひっそりとたたずむ、小さな丘が見える。
古くから、村の住人たちの間では、その丘は古い神々が降り立つ神聖な場所だと云われており、大層な社を建てては、年中祭事が行われている。だが、そんなくだらない迷信は彼女には必要なかった。
神さまなんかよりももっと大切な、それでも切ない、複雑なものが、そこにはあった。
ふもとへとたどり着いた少女は、ゆっくりと、ただの一歩を踏みしめるように、その小高い台地を登っていく。さきほどまで降りしきっていた小雨で、草木は透明の露に濡らされ、月光の静かな輝きをその身に宿していた。
登り切るまでに、果たしてどれくらいかかっただろうか。
ようやく丘の上の小さな広場にまで行き着いた少女は、それから”いつもの場所”に座った。”いつもの場所”とは、丘の縁のぎりぎりの、だいたい真ん中のところだ。ここに座れば、小さなこの村であれば簡単に一望することができた。
まばらに見える古い家屋。収穫盛りの、色鮮やかな作物が実る耕作地。あたりを囲むようにそびえ立つ山々の巨影。そして、藍空に浮かぶ蒼白の満月。
―何も変わっちゃいない
何も変わってはいない。目の前にある小村も、人々の営みも、絶えず繰り返される自然の様相も。
―でも、
少女は、左手を横に突き出す。しかし、それは虚しく空を切って終わった。
手のひらを、冷たい地面に押し付ける。なにより身近で、なによりそこにいるべきぬくもりは、もういなかった。
―どうして
でも認められなかった。認めたくなかった。
あれは―夢だったんだ。きっとあの子は帰ってくるはずなんだ。
私が決して忘れずに、ここであの子のことをずっと、想いつづけていれば、きっと、きっと必ず。
少女は暗い夜空の下で、きらめく星々に想いを馳せる。空を見つめるその瞳からは、深い哀しみの雫が、止まることはなかった。
あの日々を。あの思い出を。
ゆっくりと瞼を閉じて、まるで夜の夢を見るかのように、彼女は去りし過去の記憶を、ひとり静かに追憶した。
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★ページ下部★
『よるのないくに 2 (1)』 Piro-Piro chronicles 編
(★完結済 1,291文字 約3分)
更新日 | |
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登録日 | 2016-04-19 |
Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。
(背景紹介) http://slib.net/60549
★元ネタはゲームソフト。未プレイの方もお気軽に!
【ガールズラブ】【ファンタジー】
★1,291文字 約3分