欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は2012年7月、単一通貨ユーロを救済するためなら「どんなことでもする」と約束した。それから4年近くたって、これまで一度も使われたことのないECBの方策を巡り、法的議論がくすぶり続けるとは予想しなかったのではないか。
問題になっているのは、公的債務危機を防ぐためECBに与えられた、ユーロ圏各国の国債を買い入れる「国債買い取りプログラム」(OMT)だ。OMTを設定したことで周辺国では信頼が回復し信用力格差が縮まったため、OMT自体は発動されたことがない。
だが、OMTの合法性についてはドイツからの集団訴訟で疑義が申し立てられた。原告らはECBが権限を逸脱しており、買い取りが事実上、国家予算の財源になると考えたのだ。この件に関し欧州司法裁判所(ECJ)は15年、訴えを棄却した。もともとECJにこの件を委任したドイツ南部のカールスルーエにあるドイツ憲法裁判所は21日、OMTが必ずしも欧州連合(EU)の条約に抵触せず、ドイツ議会が持つ予算決定権を脅かしてもいないとして合法との判断を示した。
しかし、事態はこれで終わらない。同憲法裁が下した2つの裁定、とりわけECJに対しての指摘は、通貨ユーロの欠陥を浮き彫りにした。ECBと他のユーロ諸国の緊張は、EU法を解釈するECJと、自国の憲法を擁護する各国の裁判所の間にある不安定な関係を映している。
同憲法裁は基本的にECJの裁定を支持したものの、条件付きだった。同憲法裁は、OMTがあくまで金融政策のプログラムであり、財政政策の領域に踏み込むものではないという主張をECJが額面通り受け入れたことを批判した。OMTのような「参加国の憲法上の独立」や民主主義や主権の原則に影響を与えると同憲法裁がみる方策に対し、ECJがより厳しい司法審査をする必要があるとも述べた。
結局、ECBは景気刺激策としてOMTよりも量的緩和(QE)を採用するようになった。一部には、QEも金融政策と財政政策の垣根を超えるものだとの見方もあるが、QEがEU法に抵触していると議論する方が難しい。
■効果的な経済政策に障害が出る可能性
とはいえ、もしOMTが将来的に必要になり、もっと一般的にいえばユーロ圏がより中央集権的になれば、ドイツ憲法裁とECJの緊張は、効果的な経済政策をとるうえで深刻な制約になりかねない。これまで同憲法裁は、政策をドイツ基本法(憲法)に反するとして直接無効とはせず、警告を発することにおおむね甘んじてきた。ただ、こうしたことで、ユーロ圏各国による財政連合や、単一通貨ユーロが長期的に機能するのに必要な別の形での統治の実現が遅れるかもしれない。
EUはかなりの程度、単一政策を施行するのではなく、それぞれに政策を持った参加各国の連合体という形になっている。政策立案をじっくりと進めることができ、国家に一定の権限があるサービスなどの分野では、少なくともこの形が機能している。しかし、各国の中央銀行が様々な方策を自由に使い、機動的に動く必要のある金融政策では、統一した司法判断がなければ混乱を生む。
ドイツにも適応されるEU法の合憲性について、ドイツ憲法裁に判断を下す権利があるのは疑うまでもない。しかし同憲法裁は、ユーロ圏全体にかかわる金融政策が、予測可能性や継続性をもって実施されなければならないということを考慮する必要がある。
(2016年6月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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