今朝のあさイチ!は子どもの発達障害特集。
アメリカで研究が進んできた応用行動分析(ABA)に基づく療育の特集でした。
当法人が提供するペアレントトレーニングを受け、家庭でABAに基づく療育を行っているご家族にも密着していただきました。当法人が提供できる支援については、以下の記事まとめていますので、ぜひご覧ください。
記事はこちら→あさイチをご覧くださった皆様~提供できる発達障害のABA療育情報~
私自身は、大学~大学院まで発達心理学と応用行動分析に基づく療育支援を学び、その基盤をもとにNPOを立ち上げ、ペアレントトレーニングを中心としたABAに基づく療育支援を提供してきました。200名を超えるご家族をサポートしてきた経験から、ABAのエビデンスは、日本の療育全体に普及していくべきと実感していますが、同時にその限界や運用工夫の必要性も感じてきました。
SNSやtwitterでの反響を見ても、
「希望をもらった」という肯定的なものから、
「親が頑張らないと否定されるような気がした」
「子供を普通に近づけることがいいことなのか」
といった懐疑的な意見まで様々。
あさイチはとても分かりやすく、素晴らしい内容でしたが、やはり時間が限られていたので、
専門的、臨床的の観点から、気になる部分を勝手に1問1答形式で補足、解説したいと思います。
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Q1.ABAって発達障害の療育方法の名前なの?
A. 違います。心理学の名称です。
応用行動分析(Applied Behavior Analysis)の略です。心理学の1つで、生物の行動原理を、ヒューマンサービスを中心とした様々な領域に応用する際の科学的な方法論です。療育に特化した学問ではなくて、適用範囲はスポーツ選手のトレーニングや組織マネジメント、リハビリテーション、教育など多岐にわたります。(参考→ウィキペディア→行動分析とは)
Q2.
ABAって新しい方法なの?
A. 違います。発達障害の早期療育に関しては1980年代から研究が進んできました。
1980年代から、発達障害のお子さんに対するABAに基づく早期療育の研究が進んできて、症状改善のエビデンスが蓄積されてきました。なので、決して新しい方法ではありません。特に米国では、福祉や教育サービスのエビデンスを重視する文化があるため、療育のスタンダードとして資格が作られ、公費で受けられるようになってきました。日本でも、20年以上前から大学や親の会など一部の現場では行われていましたが、エビデンスが重視される風潮が高まり、社会的に注目され始めたのは本当に最近です。
Q3. ABAの詳しい方法を知るには?どこで支援が受けられるの?
A.ABAをベースに支援をしている団体や、書籍、サイトなどを以下にまとめてました。
日本では、公的にはそこまでまだ普及していないという現状がありますので、民間の機関や家庭療育が中心になってしまいますが、 いくつか機関や情報サイトをご紹介します。
NPO法人ADDSHP(ABAとは)
http://www.adds.or.jp/?page_id=1012
色々な支援情報を載せています。
トータスキッズ 自閉症と発達障害の情報サイト
日本でABAに基づく支援を提供している機関をまとめたサイトです。
WEBマガジンひみつ基地(無料読者登録
http://children.publishers.fm/editor/220/
ABAを子育てに生かすための記事をいくつか掲載しています。
NP法人つみきの会さんhttp://www.tsumiki.org/
全国に支部がある、ABAに取り組む親の会です。テキストやDVDで療育を学べます。
あさイチにも取り上げられていた、NOTIAというセラピスト派遣サービスも提供されています。
Q4. ABAでほめていると、ほめたり、おだてないとやらない子になるのでは?
A. 段階的に褒めることを間引いたり、達成感でできるようになっていくことを目指します。
番組でも近い質問がありましたね。ABAにおいては、お子さんに教えたことがある程度できるようになってきたら、褒めることを間引いていく所まで支援に含まれています。毎回でなくても、たまに褒めれば行動が維持されるということが示されているからです。
また、しっかり褒められて、行動にお子さんが手馴れてくると、だんだんと「達成感」のような内発的な動機付けが育っていきます。なので、お子さんが慣れていない教え始めの時期は、しっかり褒める。できるようになってきたら徐々に減らしていく、ということが可能です。
Q5. 成功例ばかり取り上げられていた。ABAで皆が通常学級に行けるわけではないでは??
A. その通り、お子さんの発達の状態によって、目標にする行動も進路も違います。
当然、通常学級に進学するお子さんもいますが、そこのみをゴールとして目指すような風潮は、良くないですね。早期療育で重要なのは、2-5歳の脳の可塑性(変化・成長しやすい)が高い時期に、その子どもさんにとって分かりやすい方法で関わってあげることで、様々な可能性を最大限に広げられる基盤を作ることです。幼少期に、家族がお子さんの得意、不得意を徹底的に知り、得意な学び方を知っておくことも重要です。
番組の例のように、「こうやれば『うー』って言えた!という小さな成功体験を親も子も沢山積んでいくことで、良い相互作用が生まれ、結果的にお子さんの発達は促進されます。親御さんもお子さんの特性に合った環境を作ったり選択したりできるようになっていきます。
Q6. 療育を親が頑張らないといけない、やらない親が悪い、という風潮につながるのでは?
A. 療育は、親も子も楽になるためにも重要です。ABAは余裕のある人だけがやるもの!ではなく、子育てに取り入れるものとして広がっていく必要があります。
保護者が療育にコミットするのが、効果という意味ではやはりベストです。当法人の最も親御さんのコミット度が高いプログラムは、週10時間程度の家庭療育を推奨しています。
しかし、家庭や親御さんの状況は様々なので、家庭ごと様々なパターンを用意する必要があります。家庭でがっつり取り組まないとだめだ、、、ABAは余裕のある人やるものだ!とは思わないで欲しいです。ABAは「丁寧な子育て」くらいのイメージで、まずは親子でお互いが楽になるように取り入れるところから、お子さんも親御もスモールステップで。
専門家が近くにいない場合は、オススメ本やどこでも受けられるe-learinigもありますので、活用してみてくださいね。
書籍:家庭で無理なく対応できる 困った行動Q&A: 自閉症の子どものためのABA基本プログラム4
(学研のヒューマンケアブック)家庭で取り入れられるABAが分かりやすく解説されています。
場所を問わずに学べる療育支援プログラム「ネットでぺあすく」
Q7. 褒めるところがない。親に余裕がない場合は?
A. まずは親御さんの余裕を作り出せるように色々な人の手を借りましょう。既に日々出来ている当たり前のところを見つけて褒めるとことからスタートしましょう。
余裕がない=お子さんのなんらかの行動への対応に困ってきた/いる状態が多いと思います。なかなか褒めるところがない・・・と感じてしまいますよね。あまりに余裕がない場合は、行政のサービス(児童発達支援、放課後等デイ、一時預かり)や周囲の人のサポートを利用して、親御さんが休養を取れる状態を作ることを重視してください。
ポイントは、「普段当たり前に出来ているところから」褒めるということ。
褒めるって、新しく素晴らしいことができたとか、何か特別なイベントを想定してしまいますが、もっと普通にできていることからでOKです。「朝ごはん沢山食べていいねぇ」「靴履くの早くなったね」「箸の使い方うまいね」「今日も学校頑張ってきたね」くらいの、当たり前のことから。お子さんの変化もあるはずですが、親御さんがお子さんの良いところに目を受けるというマインドにスイッチするためのきっかけにもなります。
Q8.
ABAは子供を普通に近づけようとしている!ありのままをうけいれていないのでは?
A. 課題意識としては重要。障害の有無に関係なく、個々の子供たちの強みや成長のチャンスを見つけ、最大化する、それがABAに基づく早期療育です。
よく言われる問題で、支援者が課題意識として持っておくべきテーマで、お子さんの強みを無視して、社会のやり方にばかり近づけるような支援は良くないですね。しかし、ABAの対極が「ありのまま」を受け入れることだとしたら、それはお子さんの沢山の可能性を見過ごすリスクがあることを注意すべきだと思います。
障害のある子もない子も、家族や社会との相互作用の中で生きていくことは変わりません。家族が、その子にとって分かりやすい関わり方や教え方を学ぶ。子供は、周囲の人の関わりを理解する力や、人に伝わりやすいコミュニケーション方法を学ぶ。普通の方法などなくて、例えば「ちょうだい」と言葉で言える子は言葉で練習しますし、ジェスチャーやキーボード、絵カードで「ちょうだい」のコミュニケーションを練習するお子さんもいます。
こういうことを繰り返し、お子さんと社会とのポジティブな相互作用を増やし、お子さんの発達を促進していくことが、ABAに基づく早期療育です。でもこれって、通常の子育てでも行われていることで、障害に関係なく、個々の子供の成長のチャンスを見つけ、最大化する、そういうことだと捉えています。
以上、TwitterやSNSでの反響をみて、私なりに感じたことをまとめてみました。
現状の日本では、個々の家庭の状況によりそって運用できるABAでないと、広く普及は難しいと思っています。行政のサービスとして定常的にABAに基づく療育が提供されている状態があり、+αのメニューとして、ライトなものからガッツリタイプのものまで、ペアレントトレーニングが選べる、というのが、現状の理想です。ここは、法人として頑張ってモデルケース作りを進めようとしているところです。
支援機関の情報については、また別途、詳しくまとめたいと思います。何かあれば、可能な限りの支援情報をお伝えしますので、当法人までお問い合わせください。
メール→advanced@adds.or.jp
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