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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第13章 コード・オブ・デイドリーマー

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閑話5 大きな庭をキレイにしよう



「んー……やっぱ荒れてるな……。このへんも手を加えた方がいい、か……」

今僕は、『拠点』の建設予定地からはだいぶ離れた、森の中にいる。
新しくもらった土地の様子を調べている最中だ。

『リアロストピア』という国の様子から想像できていたことではあるけど、ホント荒地が多いし……それに加えて、無計画に森林が伐採されまくってる。

ただひたすら、需要に任せて燃料や建材にしたんだろうな。アドリアナ母さんの部族の村があったって森も、半分以上切り開かれてて……残りの半分にもダメージが大きい。
『御神木』のところまではそれが進んでいなかったことは、不幸中の幸い、だな。

「この光景見ると、地球で環境保護団体が躍起になるのも多少はわかるな……ま、だからって調査捕鯨とか威力業務妨害してよくはないんだろうけど」

「ちょう、さん……ほげー? あの、何のことですか?」

「うん? ああ、こっちの話」

と、斜め後ろを振り向きながら、聞こえてきた不思議そうな声に応えて返しておく。

そこにいるのは……やわらかい色合いの緑色の髪が特徴的な、1人の美少女。
しかし、エルクではない。彼女の髪も緑だけど……今回、僕が一緒にいるのは別人だ。

……別『人』っていうのも、ちょっと違うんだけどね。彼女、人間じゃないから。

髪はやや短め、髪型はボブカットに近いか。若草色の葉っぱでできた髪飾りをつけている。
同じく緑色のワンピースに身を包み、首元には木の実を使ったような意匠のアクセサリー。

そして、見た目は人間であるように見えるその少女からは……明らかに、人間どころか、エルフ系種族でも出せそうにないほどに澄み渡った魔力を感じる。
その魔力の質はもはや、亜人ですらない。『精霊』のそれだ。

「それはそうと……ネールちゃんから見て、この森、どう?」

「そうですね……すごく、澄んだ魔力を感じます。でも、外部からのダメージが大きくて、どんどん質が悪化してきてる、っていう感じかもしれません。このまま放っておいたら……自力で元通りの力を取り戻すか、傷が大きすぎて死んでいくか……半々、でしょうか」

「そっか……思ったより厳しい状況だな」

納得しつつ……さて、思い出していただけただろうか。

彼女の名は、ネール。植物系精霊種『フェスペリデス』の少女。
もう2年近くも前になるが……『花の谷』に行った時に知り合った、あの子だ。

あの時の彼女はまだ『アルラウネ』だったわけだけど、僕の『他者強化』によって進化してこうなった。それ以来、あの『花の谷』の森におけるリーダー的な存在として、年下の『ドライアド』や『アルラウネ』たちを引っ張っていた。

こうして会って話すの、すっごく久しぶりな気がするけど……実は、ちょこちょこ会いに行ってたりするんだよね、僕ら。

しょっちゅうじゃないけど、年に何回かは。遠くの親戚に会いに行くみたいな感じで。
特に、花料理のシーズンには必ず行った。

そして、そのたびにネールちゃん達から歓迎され、一緒にご飯食べたり遊んだり、外の世界――って言った方が的確だ。少なくとも、森から出ない彼女たちにとっては――の話をしてあげたり。冒険者の、文字通り『冒険譚』と言える土産話は好評で、毎回一緒にもっていくお土産と同様、すごく楽しみにしてもらっていた。

その時に見る、小さな子たちの世話や歓待のために奔走するネールちゃんの、忙しそうでありながら楽しそうな様子には、見ていてほほえましくなったもんだ。

で、そのネールちゃんが何でここにいるのかというと……話は、少し時をさかのぼる。



ネールちゃんの種族である『フェスペリデス』は、森の守護者として名を知られている、かなり高位の精霊種族である。
ランクはAA。その魔力は森の中であればさらに強化され、森の植物や魔物、さらには限定的ながら気候すら操れるため、ならず者たちへの対処も楽々行う、文字通りの守護者だった。

最初のうちはまだまだだったけど、今ではそのポテンシャルを十全に使いこなすことができるだけの技能を会得しているため、あの森では敵なしだそうだ。

こないだ、森の外からやってきたランクAの魔物を完封して倒したらしい。すごいなおい。
その魔物は、売れそうな毛皮をはぎ取った後で森の木々の栄養分にしたそうだ。怖いなおい。

ちょっと見ない間にたくましくなっていたネールちゃんだが……こないだ『花の谷』に行った時に、相談を持ち掛けられた。

『引っ越しを考えてるんですけど、よさそうな森とか、ないですか?』と。

最初、驚いた。前に、彼女たちのような『精霊種』は、生まれた土地で一生を過ごす、と聞いていたし……そこを離れると力が衰え、死んでしまう、という話だったはずだからだ。
実際、彼女が『アルラウネ』だった頃、彼女自身の口からそうきいている。

しかし、どうも『フェスペリデス』は、森と共存する存在である『ドライアド』や『アルラウネ』とは少し違い……共存と同時に森を広げ、緑豊かな土地を作る、という立ち位置らしい。
具体的には、住んでいる森が十分豊かになったら、場所を移して他の森を豊かにする。

加えて、彼女が精霊としての力で森にもたらす恩恵は、『アルラウネ』だったころとは比較にならないほど強力であり……『ミネット』周辺は前にもまして緑豊かな、自然あふれる土地になり、ほぼ枯れ木の園と化していた『北の森』すら復活しつつあるという。

加えて、彼女の存在に触発されたのか、はたまた森が豊かになった結果か……あの森には今、彼女と同じように『進化』する精霊種が複数いるそうだ。

元々あの森には、『アルラウネ』が2人か3人いる程度、他は『ドライアド』だった。

しかし今は、10人の『アルラウネ』に加え、『フェスペリデス』がネールちゃん以外にもう1人、さらに、その2種の中間である『エコー』という精霊種が4人ほどいるらしい。

……中間がいるってことは……あの時ネールちゃん、一足飛びで進化してたのか。

まあ、それはともかく。

そりゃすごい、よかったね……で終わればよかったのだが……ここまでくると力が強力すぎて、森の中で精霊の力が干渉しあってしまうらしい。

森が必要以上に広く広がって、人間の生活域を侵食する……なんてことこそないものの、若干植物が育ちすぎて日影が増えたり、森の恵みである果実や山菜、キノコなんかが取れすぎて食べきれない……なんてことが起こるようになった。

加えてその頃からネールちゃんは、種族としての本能なのか、他の土地に移り住みたい、という衝動が時たま起こるようになったんだとか。
先に話した『フェスペリデス』の、森から森へ渡り歩いて緑を育む生態?のせいだろう。

このまま『花の谷』にとどまるでもいいけど、ここはひとつ『のれん分け』みたいな形で引っ越して、また別な土地に緑を育むのもいいかも、なんて考えて……僕に相談してきたそうだ。

面倒を見てる子たちは、さびしいからって引き留めてくるそうだが……その一方で、同様に種族の本能として、そうするのが正しい、と感じてもいるらしく、励ましてくれたり、『後は任せてください!』って背中を押してくれる子もいるとか。

実際、後輩である『フェスペリデス』や『エコー』たちも、もう立派に森の管理を任せていいレベルらしいので、お姉さんとしてこれから先の森を預ける決断をしてもいいんじゃないかなー、と思っているそうで。

そんなことがあったのを、先日思い出した僕は……思い付きで、彼女を、今後、僕ら『邪香猫』の庭になるであろうこの森に招いてみたわけだ。

で、現在に至る。

それで感想を聞いてみると、『霊能力者シャーマン』たちが住んでいた森だけある、とでも言うのか……森に充満している魔力はとても澄み渡っていて、精霊種であるネールちゃんからすると、すごく居心地がいいらしい。
引っ越し先としては全く文句なしだ、と初見で断言できるくらいに。

「あ、でも……さっきも言った通り、森が被っているダメージも無視できないレベルです。そこから癒していかないといけないな……面積も広いし、私1人じゃ大変かも……。『エコー』を1人か、2人、一緒に連れてこようと思ってたんですが……もう少し増やそうかな」

「ん? ああ……大丈夫だと思うよ、ネールちゃん。そのへんは、僕にも考えがあるから」

「考え……ですか? あの、差し支えなければ、聞いても?」

「うん。緑化とか、土壌回復とかに使えそうなアイテムや魔法薬に心当たりがあるんだ。無難なとこで、多用途液体肥料を『アリエス』の能力で噴霧して回るとか……あ、この際だから『ベルゼブブ』とか使ってみるのもいいかも。というか、いっそ色々と品種改良した種や苗を……山菜とか、キノコとか、果物や野菜も……」

(……何で、だろう? 楽しそうなのに……何か、一抹の不安が……)

なぜかちょっと微妙な表情になってるネールちゃんが気になったけど……その直後、ふと思い出したかのように、

「あ、そうだミナトさん。その……引っ越しなんですけど、その際にちょっと必要になるものがあって……」

「うん? 何?」

「えっとですね……この森に、それなりに大きくて、できれば……質のいい魔力を豊富に含んでいる木とか、あります?」

聞けば、『フェスペリデス』は森から森へ引っ越しする際、その森でこれから暮らしていけるように、自分と森との間に『縁』のようなものを作るらしい。その際に、その土地に生えている木と『契約』なるものを行い、自分の存在そのものと、森やその魔力をなじませるそうだ。

別にコレをしなくても定住自体はできるが、やった方が楽らしい。

そのためには、今言った条件に当てはまるような、ある程度立派な木が必要とのことで、僕に聞いてきたわけだけど……あるな、心当たり。思いっきり。

おそらく……あの『御神木』。あれが最適だろう。
ただ、アレはアドリアナ母さん達が信奉してきただけあって、それなりにどころじゃなく魔力その他が豊富で強力なので、逆にすごすぎて規格に合わない可能性もある。

一度、ネールちゃんを案内して見てもらって……問題なければ『契約』してもらうのがいいだろう。彼女の話だと、木そのものに害になるようなことはなく、むしろ益になるらしいしね。

この時僕は、そんな軽い気持ちでそう決めたんだけど……まさか……

後にこの決断が、あんな事態を招くとは……



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