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第240話 真の『覚醒』
あとがきでお知らせがあります。
面倒かもですが、お目通しいただければ幸いです。
「…………ん…………?」
場所は……ネスティア王国の大都市『ウォルカ』。その中心部にある、ひときわ大きな存在感を放つ建物……『冒険者ギルド』。
そこで……遅くまでかかった仕事がようやく片付き、さあ帰ろうと思っていた彼女、アイリーンは……ふと、何の前触れもなく、歩みを止めた。
上着を抱えて見送りに出ようとしていたバラックスが、突然動きを止めた自分の主に対し……不思議そうに声をかける。
「どうかなさいましたか……ギルドマスター?」
「………………」
アイリーンは答えない。
そのまま、何やら考え込むようにしばし沈黙を守り……たっぷり数十秒も経った。
そして、もう一度話しかけた方がいいか、とバラックスが思った頃になって……
「バラックス……お前今、何か感じなかったかい?」
「……と、申されますと?」
「いや、うまく言えないんだけどね……何か、こう……」
――どこかで、何か……とんでもないものが生まれたような……
☆☆☆
同時刻……ネスティア王国王都『ネフリム』。騎士団総帥執務室。
「………………」
その部屋には、1人しかいなかった。
ゆえに……ドレーク・ルーテルスは、誰に何を問いかけるでもなく……ふと思いついたように、窓の外を見た。
方角は……西。ちょうど……リアロストピアがある方角。
150年を超える人生の中で、酸いも甘いも経験したドレークだが……今、彼の胸の中には……かつてないほどに明確かつ大きな……しかし困ったことに、自分の直感以外に根拠が何もない『胸騒ぎ』があった。
そして、気が付くと……彼は、呟いていた。
「……ミナト、か……?」
☆☆☆
同時刻……リアロストピア中北部。とある廃村。
「……これは、まさか……」
「……? どうかなさいましたか、アクィラ大臣?」
同じ種類の胸騒ぎを、より近くで感じたアクィラ。
彼女の『仕事』の前に、色々と準備をしていた中……アイリーン、ドレーク他と同様、異変に気付く。
数秒前までの世界と……今の世界。
どこかで、何かが……ほんのわずかに、だが、決定的なまでに……何かが、変わったと。
「……ミナト。あなた、とうとう……」
☆☆☆
「……あら? 何かしら、今の……?」
とある教会で、敬虔なシスターが、
「――ニャ?」
ある大きな屋敷で、娘や孫、ひ孫たちに囲まれながら……猫耳の獣人の女性が、
「……お?」
仕事をしていて、そのまま机に突っ伏して眠ってしまっていた、天然パーマの傭兵の頭領が、
「……うぬ?」
とある海底都市で、スライムの酸味が癖になる茶をすすっていた死者の王が、
「……おや……これは……?」
動乱の国で暗躍する、白黒コートにレイピアを携えた男が、
「……グルルル……?」
今まさに異形の怪物どもを殺し終えた、琥珀色の翼で飛翔している黒き龍が、
「……くくくっ。やはり……」
机の上に並べたチェスの駒をいじっていた、スーツにシルクハットの純白の肌の男が、
それぞれに……感じ取った。
今までこの世界にいなかった『何か』が、この瞬間……この世界に生まれたことを。
☆☆☆
「……どう思うよ、アレ見て?」
「どうも何も……見たままじゃろう。というか、感じたまま、というか……」
ミナトの戦場から数km離れた、とある小高い丘の上。
そこで……すさまじく遠くまで見渡せる、特殊なマジックアイテムを覗き込んでいる2人がいた。
彼女たち2人は……かなり前から戦場を観察していた。
建前は……自分の弟子の戦いを見守ることと、危なくなったら助けてやること。
しかし、その真の目的は……以前から感じていた、『何かが起こる』という予感……それを確かめること。おそらくはその中心にいるであろう、自らの弟子を観察することによって。
そう考える、吸血鬼の女性の隣には……このところ、故あって彼女と行動を共にしていた、昔なじみである女性が立っている。
肌は褐色。髪は銀。そのスタイルは、見事なまでに出るところが出て、締まるところが締まった、女性としてこれ以上なく魅力的なもの。
大人の色気も漂わせるその女性は……マジックアイテムの向こうに見える少年を見据え、
「……お主が心血を注いで育て上げただけはあるのぉ……まだ若いくせに、あの境地に至りおったのか、あの小僧……」
「おうよ、すげぇだろ……とかいいつつ、俺も驚いてるんだけどな……まさかあのバカ弟子、これほどまでに早く……『夢魔』の最後の扉を開くとは……」
「……おぬしから見て、どうなのだクローナ? あの小僧は、そこに至るにまだ十分な地力を持っていない、という見方なのか?」
「いや、俺は別にそうは思わねえ……が……さすがにこの早さは予想外だった。わざわざおめーに頼んだのは、一度あいつを見ておいてもらいてえ……ってのもあんだよ、テーガン」
「……なるほどのう。普通なら、『自分の弟子なんじゃから自分で面倒見んかい』とでも言っておくところじゃが……相手が相手じゃな、今回は……気持ちは、わかる」
「悪りーな、頼むわ。人間の観察や、指導なんかは……なんだかんだでお前の方が得意だ。それにひょっとしたら……俺一人じゃ手に負えねえ可能性もあるか、とも思ってよ」
「……否定できんな、実際にこうして見てしまっては……。どうやら間違いなく、『目覚めている』ようじゃしのう……」
「やっぱそう見るか? お前も」
「ああ、間違いない……あの小僧、完全に覚醒しておる」
そこで一拍置いて……
「夢魔の究極能力…………『ザ・デイドリーマー』」
(……だけじゃねえようにも、見えるが、な……)
ぽつりとつぶやくように言った、戦友、テーガン・ヴィンダールの隣で……クローナ・C・J・ウェールズは、そう、声に出さずに心の中で思った。
☆☆☆
「………………」
……同時刻。とある場所。
彼女は、感じていた。
愛する我が子が……とうとう、自分と同じ力を手にしたのだ、ということを。
自分と同じ領域に、上ってきたのだ、ということを。
母の愛と、心の底からの嬉しさを織り交ぜた、満面の笑みを浮かべて……リリン・キャドリーユは1人、遠くから祝福を送るのだった。
「…………来たか……ミナト……!!」
☆☆☆
「………………ふぅ……」
……時間にして、一瞬……長くても数秒の出来事だったはず。
だけど、体感的には……随分長い間、夢を見ていた気がする。
何にも塗りつぶされていない、ただ広がっているだけの……幻想の世界。
そこで出会った、明るい茶髪の、若い女性。
ここ最近……夢の中で、何度かその顔を見たことがあった……なぜか僕を抱きかかえ、疲れをにじませた顔で力なく笑っていた、あの人。
その穏やかなほほえみは……何だか、見ていて安心できるそれだった。
そして彼女は、僕に力を授けてくれた。
閉ざされていた鍵を開き、あるべき姿を取り戻してくれた。
そして最後に……笑って、背中を押して、送り出してくれた。
『いってらっしゃい』と。愛情に満ちた笑顔で。
だから、僕も……返した。『いってきます』と。
「…………すぅー……ふぅー…………」
おそらく、かなり大きく変わっているであろう僕の雰囲気に、亜人連中が困惑している中……僕は目を閉じ、落ち着いて、深呼吸を1つ。
そして……
「……ありがとう……お母さん……!!」
直後……開眼。
と同時に、僕の体から……夜の闇を押しのける勢いで、黄金のオーラがあふれ出す。
それを見てだろう。正面に立っているギャナーガスの顔に……露骨なまでの驚愕が浮かぶ。
それは、周囲を取り囲んでいる、他の主力連中も同じの様子。
驚愕と困惑、動揺、そして少しの恐怖が入り混じった感情が顔に現れている。
「貴様……それは……!?」
そんな中、最初に口を開いたギャナーガスが、ストレートに疑問を口にした。
「まさか貴様……貴様も、『アーク』だったのか……!?」
「……くくっ……」
黄金のオーラに、爆発的に膨れ上がる魔力。
肉体の変容こそなけれど、確かに、僕の身に起こったこの変化は……『アーク族』の能力発動に似ている……というか、ほぼ同じものだと言っていいだろう。
ゆえに、パッと見てそう思ってもおかしくはない……が、
「そう思う? けど、残念……微妙に違うんだな、コレが」
そう、違う。この力は……『アーク』のそれじゃない。
似てるけど、違う。
確かにこの変容は、アークのそれと同じく、2つの力の『相乗効果』でできたものだ。
けど、『同じ2つの力』じゃない。『よく似た2つの力』の相乗によるものだ。
ゆえに、アークの力とは似て非なるもの……しかし、決して劣るものではない。
というか、コレを目覚めさせてくれたあの人も……こういう結果を生むとは思っていなかっただろう。単に、僕の中に眠っていた力を開放する……目的はそれだけだったはずだ。
それが、まさか……開放と同時に、一緒に眠っていた『夢魔』の力も覚醒して、
目覚めさせた方の力が、偶然にも夢魔の力と、ある意味よく似た力で、
しかも、その2つはどちらも非常に特殊かつ強力極まりない力で、
挙句の果てに、その2つが相乗効果を起こし……こうして、疑似的な『アーク』化を引き起こすなんて……誰が予想できるだろうか。
(ま、パッと見て聞いただけじゃ思い浮かばないけど……よくよく考えれば、確かに似てるっちゃ似てるわな。どちらも……『相反する2つ』の壁を取っ払って干渉させる力、っていう点では……母さんの『夢魔』も……あの人の『霊媒師』も)
彼女が、僕の頭にそっと手を添えて……その瞬間あふれ出したのは……僕の心。
記憶。意識。願望。欲望。
膨れ上がり、燃え上がり……殻を破り、『外』にまであふれ出す。
超えられるはずのない壁が、崩れた。『夢』が『現』を食らい始めた。
『夢』と『現』。『死』と『生』。
『前』と『今』。『嘘』と『実』。『内』と『外』。
相反する2つ。決してまじりあうことのない2つ。僕の中にある、太極。
それらが、僕に何を可能にしたのか……今、僕は直観的に理解している。
帯から3枚の『CPUM』のカードを取り出す。
本来は、使えない……まだ調整前で、未完成のカードを。
しかし、今の僕なら……使える。
いや、今だからこそ……使える。このカードが、未完成だからこそ。
カードから出てくるのが……構築が不完全な、しかし疑似的な意思を持つエネルギー体……いわば、幽霊とか、魂とでも呼べるような、強力かつ不確かな存在だからこそ。
『夢魔』と、『霊媒師』。
リリン・キャドリーユと、アドリアナ・ベネビュラスカ・ベイオリウス。
僕の、2人の生みの母親の力……それら両方を受け継いだ、今の僕なら……!!
魔力の充填が完了。
空中に、紫色に輝く魔法陣が3つ浮かび上がり……エネルギー体の3体の魔物が出現。
『Walpurgis!』
『Georgius!』
『Uroboros!』
体がエネルギーでできた、ボロボロのローブをまとった骸骨『ワルプルギス』、炎を吐きながら飛んでいる龍『ゲオルギウス』、自分の尻尾にかみついている蛇『ウロボロス』。
そいつらが僕の周りを、亡霊のように回りだす。
僕はそこで手をかざし……そいつらが出てきた魔法陣を、僕の真上に引き寄せ……3つを1つに融合させる。重ね合わせるように……それでいて、混ざりあい、溶け合うように。
3つは1つになり……2周りほど大きな魔法陣ができた。
そしてそこに、3つの魔物が……1つになった魔法陣に吸い込まれていき、魔法陣は一層輝く。
そして次の瞬間、魔法陣は僕の体を通り抜けて地面に落下し、焼き付けられ……その周囲を、すさまじいまでの『闇』の黒紫色の魔力がほとばしり、台風のように渦巻き始めた。
その中心に、僕は立っている。
そして、いつものように……顔の前で、手を『×』の字に。
その瞬間……火山の噴火のごとく、魔力が噴き上がる。竜巻のごとく吹き荒れる。
膨大な『闇』が渦巻き、まとわりつき……形を成す。
材料になるのは……『パワードアームズ』と『ジェノサイドアームズ』。
それらの先にある……『ジョーカー』シリーズ。
加えて……3体の特殊な『CPUM』。
その補助となる……僕が考え出し、頭の中に入っている……いくつもの魔法の術式。
最後に……最近、完成させたものの……実用化には至っていなかった、ある発明。
それら全てを食らいつくして生まれた何かが、僕を覆いつくし……新たな力へと変容していく。
頭の中に流れ込んでくる感覚が、情報がそれを知らせる。自然とそれらは、意味を持って僕に語り掛けてくる。どこか機械的で……しかし、だからこそ僕好みな感じに。
『精神エネルギー増大……臨界点突破。虚実境界線崩壊、イメージ現界、実数事象侵食開始』
『『ワルプルギス』『ゲオルギウス』『ウロボロス』――吸収完了。能力完全掌握』
『装甲概念化。把握・理解。変容・構築開始――完了』
『魔法回路・制御術式構築完了。演算テスト……正常確認』
『魔法式縮退炉……正常稼働』
『コンディション・オールグリーン。『アルティメット』発動用意完了』
「OK…………『アルティメットジョーカー』!!」
魔力が晴れた時……僕の体は、今までのどれとも違う、新たなる『切り札』をまとっていた。
胸部などを覆うプロテクターに、手甲と脚甲。
それらを含む全身の装飾は、金色で縁取られ、飾られた漆黒の装甲。
胸部装甲の中心には、ピンポン玉くらいの、漆黒の真珠みたいな宝玉が埋め込まれている。
体を覆っているのは、普段の戦闘服でもなければ『パワードアームズ』のロングコートでもなく……例えるなら、ライダースーツに近い。重厚さはほぼなく、スマートな外見。
肌の露出は首から上以外にはなく、指先まで含め、全身が一様に黒と金に覆われている。
首元からたなびくは、いつもの白ではなく……いつもよりも長い、金色のスカーフ。
頭には、山羊の角……というより、アンテナのようなものが、頭の左右に装着されている。
腰の帯は、結び目があったはずの正面の部分に……自分の尾に噛みついているかのような意匠の、金色の龍の頭を模したバックルが装着されていた。
そして……なぜだか知らないが、髪の毛が……金色になっている。
加えて、瞳の色も変わってるようだ。黒だったそれが、澄んだ緑色になっていた。
理由は……わかんないけど。
……しかし、こりゃまた……随分と、僕好みのスタイルに仕上がったもんだ。
ライダースーツにプロテクター装甲、か。特撮ヒーロー大好き人間としては、心躍る。
……とか考えたら……
――ゴォォォオオオッ!!
「……ぅお」
周囲に、散って晴れたはずの闇魔力が再び渦巻き、荒れ狂い始めた。
もしかしてコレ……僕の感情とかテンションに呼応してたりする? してそうだな。
「……っ……な、何だ一体これは!? 何なんだその姿は!?」
と……今気づいたけど、随分とギャナーガス他が狼狽していた。
驚きもあるかもだけど……察しているのかもしれない。僕が発現させた、このモード……『アルティメットジョーカー』の異質さと……危険度を。
しかし、プライドからか……どうにか見下し的上から目線と不遜な態度を取り戻したらしいギャナーガスは、
「……っ……調子に乗るなよ、人間! たかだか力の底上げがなされた程度で、我らとの間に存在する隔絶した差というものが埋まると……」
「……くくっ……」
「……!? 何がおかしい!?」
「いや、必死だなー、と思ってさ。そんなに大声出さなきゃいけないくらいビビってるなら、喧嘩なんて売らなきゃいいのにホント……ま、いいよ。あんたらの思考回路を理解するのも、あんたらに常識を期待するのも……もうあきらめてるから。と、いうわけで……」
――ここからは、もう遠慮しない。最初から最後まで、僕の独壇場だ。
ぐっと、体に力がこもる。
魔力があふれ出し、暴れだす。風が吹き、地面が揺れ……空気が震え、雷がほとばしる。
ここから何が始まるか……この力を思いっきり振るった時、何が起こるのか……そんなもの、誰にもわからない。無論、僕にもだ。
だから僕は……ただ思いっきり、暴れるだけだ。
今の僕は……かつてないくらいに……『デイドリーマー』だから。
「Ladies and Gentlemen!! あーんど脇役、悪役、引き立て役諸君!! 大変長らくお待たせいたしました! 『デイドリーマー』ミナト・キャドリーユ! 無双するんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!」
精神の世界で何があったかは……まだもうちょっと後、ということで。
次回、多分、おそらくこの小説史上最大規模の大暴れ回になります。
お好きなBGMか何か用意してお待ちください。
では、前書きで通知させていただいた連絡の方を。
『魔拳のデイドリーマー』、書籍版7巻が、今月下旬発売予定です。
今回は、王都編の前半あたりまでの収録です。ギーナ、メルディアナ他がイラストになりました!
それに加え、本編には影も形もない、書籍版オリジナルのストーリーも収録されていたりします。
気が向いたら手に取ってみていただければ幸いです。
それに伴い、19日~20日ごろに、該当箇所の差し替えを行います。
ご了承ください。
後ほど、活動報告にも詳しく載せる予定です。
+注意+
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