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第238話 乱れ咲く『否常識』の戦華
「おっと……」
「くっ……ちょこまかと!」
ぶぉん、と勢いよく振るわれる剣。
それをバックステップでかわしたザリーは、砂に足を取られないように注意した軽快な動きでさらに数歩後ずさり、自らを真っ二つにせんとせまる追撃をかわす。
すぐに片づけるつもりだった獲物に、延々と逃げ回られ……それを追いかけているラミア族の戦士は、かなり機嫌が悪そうな様子だった。
ハイエルフの王・ギャナーガスが言った通り、ミナトが戦っている砦の周囲には、伏兵や遊撃要員として待機している者たちが複数いた。状況に応じて加勢するつもりだったのだろう。
数は1つにつき数十から数百と、ミナトが直接相手をしている者たちに比べれば少ないが、存在を知られておらず、戦法によっては効果的な奇襲をかけられる存在である点が大きい。
遠距離からのタイミングを合わせた戦略級魔法や、一時離脱してきた前線部隊たちの掩護・回復など、用途はいくらでもあるのだから。
それらを各個撃破すべく、エルクの号令により散開した『邪香猫』一同は、それぞれが『新装備』を手に……伏兵たちが隠れているところへと赴いていた。
彼ら自身もまた、ミナトと同じように……仲間に手を出されたことに対する憤りを胸にして。
「さっきから逃げてばかりで……戦う気があるのか貴様⁉」
「なきゃここ来ないでしょ。当たったら死んじゃうんだから、よけるのは当然じゃないか」
「くっ、生意気な人間め……」
細い動向が特徴的な蛇の目でにらんでくる『ラミア族』……100に上ろうかという数だ。
しかし、彼らラミア族は体が大きいがゆえに、一度に動ける数はそう多くないため、うまく立ち回ることができている。
もっとも、その蛇の下半身の素早さは、決して侮ってはいいものではないが。
そんな中、比較的冷静に戦況を見極めている……ラミアの幹部格と思しき男が、疑念を含ませてザリーに問いかける。
「人間……なぜ我らに歯向かう、などという質問は時間の無駄ゆえにしないが……貴様の目的は何だ? まさか、ちょこまかと動いて我らをいらだたせることなどではあるまい?」
ザリーは、突如としてラミアの部隊の前に現れると……そのひょうひょうとした口調で、人狼族やオーグル族と並んで好戦的とされるラミアの戦士たちを見事に挑発してのけ、こうして交戦状態に入ったわけだが……例外的に冷静な思考を持っている幹部の男には、そのザリーの態度や行動に、多くの疑問があった。
「貴様が、あの黒髪の男の仲間であることは調べがついている……我々が合流できないよう、足止めするつもりか? たった1人で?」
「さー、どうだろうね」
「だとしたらそれは無謀というものだ……貴様ではどう見ても、我々には勝てんぞ」
確かに、目の前にいる男の実力は……人間という種族の平均的戦闘力から考えれば、かなり高水準と言っていいそれ……しかし、自分たちラミアからすれば、決して驚異的に高いと言えるほどではない。
少なくとも、単騎で100に迫る数の精鋭部隊を相手にして戦えるレベルではない。それが、ラミアの幹部格である男の見立てだった。
楽勝……というほどではないとはいえ、やろうと思えば、10も戦士をあてがえばさほど時間をかけずに殺してしまえるだろう。
現にラミアの戦士たちに対し、手傷を負わせることはできても……1体として仕留めることはできていないのだから。
再びその真意を問おうとした……その時、
ドガアアァァァアアアン‼
「「「……っ⁉」」」
突如として……彼らの別部隊が構えていたはずの方角で、轟音と共に巨大な火柱が上がったのを見て……その場にいたすべてのラミアたちが驚愕する。
その直後、幹部格ははっとした。
「まさか……仲間がいたのか! 貴様まさか、我らとの分断を狙って……勘付いて加勢に行かせないためにこのようなことを!」
「ご明察~。しかし、予想よりだいぶ早かったな……って、もう来たか」
その直後、轟々と炎が燃えるような音と共に……突如として空が明るくなった。
ラミアたちに加え、ザリーもまた見上げたその先には……
「お待たせーザリー。って、アレ? まだ戦い始めてなかったの?」
「いや、最初に言ったじゃないの。シェリーさんが合流するまでは回避重視の時間稼ぎに専念して、合流して戦力増強してから一気に潰すってさ」
「それはそうだけどさ……こいつらあんまし強くないじゃん。ザリーだけでも十分だと思ったし……だからもう残ってないかなー、って思ってたんだけど」
慇懃無礼なことを言いながら、シェリーは……当然のように空を飛んでいる。
そしてその姿は、いつもの戦闘装束とは大きく違ったものだった。
鎧のデザインに大きな差はないが、その両手には真新しい深紅の手甲がはめられている。
足にも同様に、膝上まである深紅のブーツと、それと一体となった脚甲があった。
そして、最大の特徴は……背中、肩甲骨のあたりから生えている、炎の翼である。
もちろん、体から直接生えているわけではなく、鎧のパーツの1つとして取り付けられているもの。そこから轟々と燃え盛る炎が噴出している、といい形だが……確かに翼としての機能は持っており、極めて自然に滞空できている。
加えて、そこから周囲に放たれる強烈な熱気と光に、ラミアたちは表情をしかめた。
すると、そんな中でも涼しい顔をしているザリーが……にやり、と笑みを浮かべ、
「ま、確かにね……前までの僕なら、そんなことは口が裂けても言えなかったけど……最近はそれなりに強くなってる自覚はあるしね、僕」
言いながら、ザリーは懐から、やや豪華な装飾品、といった見た目の腕輪を取り出し……左腕に装着。
直後、その腕輪が光を放ち……ザリーの体を包みこんだ。
ほんの数秒でその光が収まると、そこに立つザリーの姿は、先程までとは大きく違っていた。
シェリー同様、装備全てが大きく変わっているわけではないが……シェリーのものとよく似た、ブーツと一体化した脚甲を装着している。ただし、カラーリングはオレンジ。
加えて、防塵用のそれと思しきデザインの重厚なゴーグルを身に着けていた。
さらに、肩から羽織るような形で……オレンジ色の外套を身に着けている。
それはミナトが、ザリーに断って、以前ザリーが『トロン』で買ったものに手を加えたもの。
「さて、じゃあ……そろそろ僕も暴れようかな。シェリーさんが合流して、勝算も立ったし」
「もとからあったでしょうに……謙虚というか、慎重というか……」
「職業柄、やるなら確実に成功するように動くってのが、心情なもんでね……」
そう言った直後、唐突にザリーの姿がそこから消える。
目をむいて驚くラミアたちだが……そのさらに直後、
――ザシュッ!
「ぎゃあああぁぁあああっ⁉」
その場にいたラミアの1人が、喉元を何か刃物のようなもので掻っ切られたかと思うと、次々に同じように、周囲にいるラミアたちが殺されていく。
(っ……足音はもちろん、全く気配を感じんだと……⁉)
ラミアたちが倒されていく速さからして、本人も相当な速さで移動しているはず。
にもかかわらず……装着した新たな装備の恩恵なのか、足音も気配も、走る際に風を切るような音も全くしない。土埃の1つも上がらない。
幹部ラミアはそれに驚きつつも、すぐさま舌を出してチロチロと動かし……周囲を探る。
蛇と同じように、ラミア族は舌を使って周囲の状況……匂いや体温などを感じ取ってザリーの居場所を探ることができるからだ。が……
(バカな……全く感じとれん!)
それでもなお、ザリーの居場所を探ることができない。
ラミアたちは、何もいないところに向かって威嚇したり、怒号を上げたり、武器を振り回したりしているが……さしたる意味があるはずもなく、次々にその命を散らしている。
しかも、一撃で喉をきりさくその短剣は……徐々にその速度を上げている。
運よく一撃で死ななかった者については、すかさず他の場所に斬撃を加えたり、心臓を的確に貫いたりして確実に仕留めているうえ……ひと息に何人もの喉が血を吹き出すこともあった。
先程までの、殺されはしないが攻めることもできないでいたザリーの姿は完全な擬態であると、もはやその場にいたラミア全員が悟っていた。
そこにさらに……追い打ちとも呼ぶべき災厄が降りかかる。
「じゃ、盛り上がってきたところで私も参戦するわね? よろしくー♪」
「……え? ちょ、ちょっと待ってシェリーさん!? 今ここでシェリーさんに暴れられると僕も巻き込まれ……」
姿を消しているザリーが言い終わるより先に、シェリーの背中の炎の翼が一層強く燃える。
同時に、手甲についている車輪か歯車のようなパーツが『ドルルルン、ドルルルン‼』と激しく回転し……そこから炎が噴き出して手甲を覆った。
しかし、装備の優秀さゆえか……シェリーにそれを熱がる様子はない。
その炎と、羽から出た炎が絡み合い、混ざりあい……構えている炎の魔剣にまとわりついて……見た目からしてかなり凶悪なビジュアルが出来上がった。
刀身の周囲が高熱でゆがんで見えており、まだ滞空しているのに地上のラミアたちが息が苦しくなるほどの熱と、それにともなった乾燥を生み出していた。
シェリーはその、灼熱の炎をまとった魔剣を、大上段に振りかぶり……
「そぉーれぇ‼」
何のためらいもなく振り下ろし……ミナトが『焔魔橙皇』でやったのと同じような傷跡を大きく大地に刻んだ。
その直線状にいた何体ものラミアの血肉を消し炭にするか蒸発させ、消し飛ばしながら。
☆☆☆
同じころ、別の場所では……同様に『新装備』によって『否常識』な力を得たミナトの仲間たちが、襲い来る亜人の軍団を相手に猛威を振るっていた。
――ドキュン!!
「ぐあぁあ!」
「くっ……また……おのれ、生意気な人間め!」
「空の王者たる我々に向かってかような狼藉……許さんぞ! なぶり殺しにしてやるおごぁ!」
――ドキュン!!
「はいはい、有言実行できる見込みもない強がりはみっともないだけですよ」
言いながら、素早く狙いをつけて再び銃を放つナナ。
その両手には……いつも使っている『ワルサー』と、もう1つ……新たに開発された『デザートイーグル』なる拳銃型魔法発動体が握られ、二丁拳銃で戦場を立ち回っている。
収束する時間など無に等しいほどの刹那の間に形作られる魔力弾丸が、空から弓矢や魔法で攻撃を加えてくる翼人族の戦士たちを的確に打ち抜き、仕留めていく。
ある者は脳天を撃ち抜かれ、またある者は翼を打たれて墜落して。
高機動と三次元的な動きを武器として相手をかく乱しつつ戦うことができる翼人たちではあるが、こちらも負けじとトリッキーな動きで戦うナナが相手である上……
「くそっ……死ね、人間!」
「ほっ、と」
もう1つの『新装備』により……ナナもまた、飛行能力を持っている。
肩口から肩甲骨のあたりにかけて装着された、機械の翼を思わせる装備により、空へと舞い上がったナナは、同じように立体的な軌道で飛行して翼人たちをかく乱しては、次々撃ち落とす。
その戦闘力に恐れをなした翼人たちが後ずさると、今度はナナは銃を『ショットガン』に持ち替え、面攻撃を連射して非情無情の追い打ちを仕掛けていく.
やけになって特攻を仕掛けてくるものには、素早く片手に『ワルサー』をもってヘッドショットで仕留める。眉間を撃ち抜かれ、一瞬にして屍に変えられる翼人たち。
逃げ出す者も出始めていたが……『去る者追わず』などという精神はこの戦場に持ち込んでいないナナは、容赦なく後ろから撃ち落としている。
そしてさらに、翼人たちはナナにばかり構ってはいられない理由があった。
狙撃を警戒して、ナナだけに集中してみていると……今まさにそういう状態にあった1人の翼人が、飛来した火炎弾によって黒焦げにされ、断末魔の悲鳴と共に墜落した。
それをなしたのは……黒に近い灰色の羽毛を闇夜に溶け込ませ、時に自身の羽ばたきよりも静かに、時にド派手なまでの大規模攻撃魔法をもって、翼人たちを叩き落としまくっているアルバだ。
空を飛んで立体的な軌道で攻撃できるというアドバンテージを、その回避能力が無意味になるくらいの面攻撃や精密射撃、そして大規模攻撃で封殺すべく組まれたコンビである。
姿を見せた直後、そのまま周囲に……火炎に氷雪、雷撃に暴風といった魔法の絨毯爆撃を始め、先程までに倍する勢いで翼人たちを減らしていく。
さすがに恐怖したらしい連中が、一時体制を立て直そうと後方に下がった彼らだが……その真逆、アルバを挟んでさらに距離を取ったところで、ナナが構えていたさらなる脅威に気づいていなかった。
それは、拳銃型でもなければ『ショットガン』でもない。『スナイパーライフル』でも『ロケットランチャー』でもない……もっともっと恐ろしいもの。
機械的な外見と、2m近くになろうかという長い砲身、そしてそこに収束していく凶悪なまでの魔力が、繰り出される一撃が極めて危険なものであると物語っていた。
しかし、アルバがその射線上から退避してからようやくそれに気づいた翼人たちに……打てる策など残されていなかった。
次の瞬間、『対戦車ライフル型』の魔法発動体に収束した魔力が、青白い破壊光線――しかも、直径2mほどにもなろうかという、口径を考えるとどう考えてもおかしい大きさ――となり、薙ぎ払うようにして翼人たちをまとめて消し飛ばした。
☆☆☆
一方こちらは、『オーグル族』と『人狼族』、そして『ギルマン族』という、ラミアよりもさらに好戦的かつ凶暴な3種類もの亜人種族が陣を張っている戦場だが……
「おぉーりゃあぁぁあああ!!」
「おーりゃー……やっぱ趣味じゃありませんねこーいうキャラ」
「なら言うな……」
その戦場は、一言で言うなら……一方的な蹂躙を受けていた。
ミュウが次々に呼び出す召喚獣たち……そのすべてが、ミナトの『甘やかし』によって取得したものかあるいは、ミナトが作った『CPUM』をミュウが契約して自在に呼び出せるようにしたことによる、超が付くほどに強力なものばかりだったからだ。
『ローザンパーク』周辺で捕まえてきた巨鳥『シムルグ』や巨狼『ガルム』、ギルドの依頼で討伐対象だったのを仕留めた『ドラゴン』、他の危険区域にわざわざ出向いて捕まえてきた『ニーズヘッグ』や『ソレイユタイガー』など……最低でもA、最高Sランクの怪物たち。
それに加えて、ミナトが作った人工モンスターである『スケルトンスライム』や『アシッドスライム・熱濃硫酸』、さらには、既存の魔物を改造して作った『メカドラゴン』や『トロピカルタイラント・トリカブトスペシャル』といった凶悪な面々。
それらが一斉に襲い掛かり、亜人の軍団を千々に蹴散らしていく。
時折、それを抜けてミュウを直接攻撃しようとしてくるものもいるが……それらはあえなく、前衛としてミュウの主語についているセレナとシェーンによって斬り伏せられていた。
そして当然というか、ミュウやシェーン、セレナの装備も……ミナトによって魔改造がなされたものになっている。
「それよりミュウ……魔力は大丈夫なのか? 先程から強力な召喚獣を立て続けに召喚している上、魔法攻撃も自前で行っているようだが……」
「問題ありませんよ。ここからじゃんじゃん供給されてきますから」
そう言うミュウの姿は……ここにいる3人、いや、『新装備』を受け取った『邪香猫』全員の中でも、特に異彩を放っているものだった。
何せ、空中にふわふわと浮遊する、円形の台座のようなものに座っている。上にはひじ掛けや背もたれもついていて、割と座り心地はよさそうである。
ミュウの意思一つで自由自在に動くこの浮遊玉座は、内部に小型魔力炉を搭載しており、座っているミュウに対して魔力を供給している。そのバックアップを受けて、ミュウはその炉が続く限り魔法を使い続けることができるのだ。
なお、実はこの玉座も、分類的には『CPUM』にして、ミュウの『召喚獣』である。
定期的に外部の手を入れたメンテナンスが必要になる、という弱点があるが。
それに加えて、魔法の威力や召喚獣操作の精度を高める効果のある……天使の輪のような光輪が、頭の上に浮いている。シールド発生機構も搭載されており、後衛のミュウにはぴったりだろうということでミナトが開発したものだった。
加えて、ミュウを守っているシェーンの装備は……動きを阻害しないようなデザインの、しかしきっちりと急所を守るような作りになっているスケイルメイルだった。
それは、水龍の鱗と『蒼海鉱石』を組み合わせたあつらえになっており、水属性の魔力に相性がいいため、主にその魔力で攻撃の補助などを行うシェーンには扱いやすいものになっている。
加えて、空気抵抗や水中での水の抵抗を減らしたり、立てる音をかなり軽減したりすることができるため、戦闘の補助能力もかなり高いものになっていた。
さらに、振るっているサーベルもまた、シェーン専用の武器としてミナトが作ったもの。
軽くて扱いやすいものでありながら、切れ味は龍の鱗を軽々と両断するレベルであり、さらに水の魔力によってさらに切れ味を増したり、水刃を飛ばしてウォーターカッターのようなこともできるなど、多様な攻撃ができるようになっている。
おまけに、今回の戦いでは活躍の場はないが……水流を操作する力があるため、シェーンが得意とする水中戦では、鎧とあわせて水の抵抗が邪魔にならないどころか、むしろ威力が上がるというとんでもないものに仕上がっていたりする。
そして、セレナの装備は……シンプルであるがゆえに強力な3つがそろっていた。
魔法合金の繊維で形作られた戦闘服は、敵の物理・魔力両方の攻撃の威力を軽減し、逆にこちらの攻撃の威力を底上げする仕組みになっている。編み込まれた術式により、魔法にはブーストがかかるうえ、人工筋肉のように物理攻撃の威力も上がるのだ。
加えて、手にしている剣は、ただ大きくて頑丈なだけ、のわけがなく……魔力を流すことで切れ味が恐ろしいほどに上がるように加工されている。柄に仕込まれている装置と術式から魔力が加速されて放出され、刀身の表面を高速で循環することによって……言うなればチェーンソーのように、対象を砕断することができる。
そして盾であるが……これが一番凶悪である。
重量級かつ超防御力を誇るのはもちろん、表面に展開したエネルギーフィールドにより、魔法・物理ともに威力を大幅減衰させる上、種類によっては反射すらする。また、元からあった魔力弾の発射機能も健在だが……問題は、新たに追加した最後の能力だった。
限界はあるが……盾によって防御した相手の攻撃のエネルギーを蓄積し、衝撃波にして放出することができるのである。防御すれば防御するほど、強力無比なカウンターを使えるのだ。
なお、限界まで蓄積して放出すると……AAA程度の魔物なら容易く木っ端微塵になる。
そんな3人による蹂躙にさらされている3種族に、反撃の目は見つかることはなかった。
……が、実はこの3人すらしのぐ暴虐にさらされている者たちがいたりする。
☆☆☆
それは、翼人と巨人の混成部隊だった。
さらにそこには、調教された空を飛ぶ魔物たちが共にいて……人間、あるいはミナトに対して、空から奇襲をかけるという目的があった。
制空権を握れば、終始戦いを有利に進められるだろうという思惑からだった。
その方針は、間違ってはいなかっただろう……相手が『邪香猫』でなければ。
制空権を握るべく送り出された、空の精鋭部隊たちは現在……比喩表現抜きで、爆撃機による一方的な蹂躙にさらされていた。
「くそぉ、何だあの鋼の鳥は⁉」
「早すぎて攻撃が当たらん……当たってもはじかれる……」
「何とかして奴を止めぐびゃっ!」
今また、20ミリ魔力弾機銃によって爆散させられた翼人が地に落ちていく。
それをやってのけたのは……ミナトが開発した魔法式爆撃機『ヤタガラス』であり……それに搭乗し、操縦している、『邪香猫』専属最先端兵器テストパイロットのクロエである。
最近、ミナトから彼女に申し渡された『役目』……それこそが、こういった仕事。
機械類の操作にたぐいまれなる才能を発揮したクロエは、ミナトが自重をやめていくにつれ、徐々に形になってきたこの類の戦闘兵器を動かして感想をレポートにまとめる、という役目を担うことになったのである。
そして彼女もまた、その役目を心底楽しんでいたりする。
その彼女が現在操縦しているのは……先に述べた通り、爆撃機『ヤタガラス』。
ミナトが自重なしで作り上げた、見た目は現代の地球……のそれすら上回るであろう性能を誇る戦闘機。エネルギーフィールドによる鉄壁の防御力と、搭載されている多彩な兵装による超火力によって暴れまわる。
さらに、操縦者には思考加速や耐G強化などの支援魔法がかかる術式が組まれている……とはいえ、ミナト以外にこの機体の性能を極限まで引き出せるものがいるかと問えば……それは、おそらく1人しかいないだろう。
「よっし、もう一丁!!」
超高速で翼人たちの陣営を盾に突っ切り……まとっているエネルギーフィールドと、翼部分に展開している魔力式カッターによって十数人を一気に血霧にしたクロエと『ヤタガラス』は、急旋回して再び真正面に翼人と調教モンスターの軍団をとらえると、今度は魔力弾の機銃を乱射した。
機体の下部に6門連装で備え付けられているそれは、コクピットに備え付けの『ロックオン補助用術式』のバックアップを受けたクロエによって、何体もの魔物を狙い撃ちにして墜落させた。
その間に接敵して、槍や弓矢で攻撃してくる翼人たち。
当たってもさして痛手ではないのだが……クロエは加減速や急旋回を繰り返し、時にシンプル、時にトリッキーな動きでそのすべてをかわし、さらに何人かを返り討ちにして見せた。
魔法という反則技によって物理法則のいくらか無視した動きができるためだろう、空の支配者を自称する翼人たちは、その動きに全くついて行けない。
それだけでも涙目なのだが……さらにそこに追い打ちをかける者たちが、地上に存在していた。
『モォォォオオオォオッ!!』
『ガルルルァァアア!!』
『ギュアアアァアアッ!!』
『ウォォオオォ―――ン!!』
ミナトが先の戦いで砦の攻略のために使った『バッファロー』に加え……同じく『十二支』のCPUMである3体が共に暴れている。いずれも、機械の体を持ち……モチーフである動物をかたどった存在となって。
強靭な四肢に、上あごから生えた長く鋭い牙が特徴的な『スミロドン』。
たまにミナトが狩ってくる西洋の『ドラゴン』とは違い……蛇のように長い胴体を持ち、翼を持たない形で描かれる、東洋の『龍』のいでたちをした『東龍』
犬……ではなく、もはや狼と言っていい形の鋼の体躯を持っている『ハウンド』。
それらが、いずれも超大型重機と同等かそれ以上の体躯で……ある者は牙で、ある者は爪で、ある者はミサイルで、ある者は機銃で、地上から翼人を援護しようとする『巨人族』たちを屠り去っていく。
巨人族は、大きさにばらつきがあり……小さいものでは3~4mほどしかないものもいる。大きいものになると、イオをも超えて20m近くになるものもいる。
3mかそこらのものなどは、一当てあされただけで……まるで交通事故にあったかのように吹き飛ばされて動かなくなる。サイズ差と勢い、そこからくる威力を考えれば当然だろう。
加えて、乗用車と違って相手の4体は角だの爪だの牙だので積極的に殺傷してくる。
挙句の果てに、距離を取っていても銃火器やミサイルで攻撃してくるのだから、巨人は涙目であろう。普通の人間が相手なら圧倒的な武器になるサイズ差も、いい的になっているだけだ。
だというのに、そこからさらに状況が悪化するなどと……誰が予想しただろう。
それは……上空から聞こえる爆撃音が、完全に止んだことから始まった。
「よーし、翼人は今ので全滅したわね……じゃ、地上の方の仕上げと行きますか!」
言いながらクロエは、現在巨人たちが蹂躙にさらされている地上へ向けて急降下しつつ……コントロール用のタッチパネル式モニターを操作して、あるコマンドを呼び出した。
それこそが、ミナトが厨二病を全開にして仕込んだ最大の『否常識』要素にして、何気にクロエもお気に入りである、この『ヤタガラス』の最終兵器。
それは……
「よっし行くわよ! 『十二支合体』!!」
十二支って何なのかわかんないけど! と心の中でつぶやきながら、クロエがそう言った瞬間……音声認識で命令を受領した『ヤタガラス』が、他の4体に指令を飛ばす。
するとその直後、異変が起こった。
『バッファロー』が体を起こすようにして変形し……人間の腰から下の部分のような形に、その姿を変えた。頭は、ちょうど上半身が上に乗る部分に来ている。
『東龍』は体を折りたたむようにして変形し、ちょうど人間の胴体が鎧を着たかのような形に姿を変えた。
『スミロドン』と『ハウンド』も、他2つよりも少し小さめの体を折りたたみ……人間の右腕と左腕を思わせる形状に姿を変える。
そしてその真上で、『ヤタガラス』――十二支の『酉』が、内部にクロエを乗せたまま、兜をかぶった人間の頭部を思わせる形状に変形し……他の4つのパーツと、1つになった。
足、胴体、右腕、左腕、そして頭部……それらが合わさって生まれたのは……鋼の巨人。
早い話が、ミナトの趣味によって生まれた『巨大合体ロボット』であった。
そしてその手には、折りたたまれずに残った『東龍』の体の一部……頭と尾の部分が変形してできた、薙刀のような武器が装着された。
「さて……クライマックスと行こうじゃないの、巨人諸君?」
大型の巨人すら凌駕する体躯となった巨大ロボ。
ミナトがつけた名は……『エトライガー』といった。
『干支』と、巨大ロボットに名前を付ける際のある種のお約束である『名前の最後が『ガー』とか『ダー』とか『オン』とかになってる』という法則を参考に……そして運の悪いことに、午前3時、深夜テンションに突入していた頭で考えたが故の結果であった。
名前はまあ、後日ミナトが『どーだろうコレ……』と思うものではあったが……その実力は、単に5体を束ねただけなどではなく、相対している巨人たちにしてみれば……まさしく絶望的なそれであったりする。
それが何をもたらすかは……数秒後、巨人たちは身をもって知ることになるのだった。
☆☆☆
「圧倒的じゃないの、うちの連中は」
「まあ、当然の結果」
場所は変わって、『オルトヘイム号』のコントロールルーム。
司令塔役をやるために残ったエルクと、操縦担当として船に乗っているネリドラとリュドネラは、伝わってくる戦果を随時モニター等で確認して、そうつぶやいていた。
ミナトが自重なしで作り上げた『新装備』。
『自分の実力がそれに釣り合うまではとりあえず待ってね』との主張により、メンバーたちへの支給が見送られていたそれらは――本当のところだと、性能がやばすぎるためにとりあえず遠慮したという裏の理由があったりもする――実践投入され、仲間たちの手で振るわれるやいなや、鬼のごとき戦果をたたき出していた。
「私も一応、間に合わせだけど『新装備』もらってたし……ハイエルフの連中に借りを返しに行きたかったんだけどね……ま、しゃーないか」
「司令塔は船にいてもらわないと、いざという時に困る。私とリュドネラだけじゃ、船の操作で手いっぱいだから」
「はいはい、わかってるって。油断はするつもりはないから、安心しなさいな」
(でも、これならシェリーたちは全員問題なさそうね……あとは……)
そう心の中でつぶやきながら、エルクは……隅の方にあるモニターに目をやる。
そこには……魔力式のガトリング砲で一気に大人数を相手取っている、ミナトの姿。
しかし、他の場所で殲滅作業にいそしんでいるシェリーたちの戦果や撃破速度に比べると……ミナトの実力を鑑みるに、少し遅いような、手間取っているような印象を受ける。
それでよくよく見てみると……エルクはすぐに気づいた。
シェリーたちが相手取っている亜人たちよりも、ミナトが戦っている者たちの方が……動きがいい者が多いことに。
(向こうに精鋭を集めてた、ってわけね……ミナトの戦闘能力を危惧すれば、むしろ当然の判断か……けど、それにしても……)
そこで、少し険しい表情になるエルク。
その胸中には……誰よりもミナトを知る彼女だからこそ抱いた、ある『違和感』があった。
「……ネリドラ」
「何、エルク?」
「今回の作戦……様子見とか以外で、ミナトが手加減するような手筈……ってなかったわよね?」
「? ……私が把握してる限りでは、ないと思うけど……」
ミナトの動きが、どうも……ぎこちない。
それが、モニターを通して戦場の様子を見ていたエルクの感想だった。
『新装備』による恩恵が限りなく大きいとはいえ、同じ亜人の軍勢を、『邪香猫』のメンバーは次々と、一方的に蹂躙することができている……ミナト以外は。
いま彼女が予想した通り、ミナト攻略のために精鋭部隊が投入されている可能性は確かに高いし、連携して攻められれば手こずるのもわからなくもないが……それにしても、ミナトがああまで攻めあぐねている様子なのは、エルクには解せなかった。
今更言うまでもないことだが、ミナトの戦闘能力は、他のメンバーたちに比しても圧倒的に高い。最近やった模擬戦でも、ミナトを除いた全員でかかったにもかからわず、十数分で全滅させられてしまったほどだ。
どこに攻撃を当てれば勝ち、何発当てれば勝ち、などのルールを設定すれば、また別だが。
今は『新装備』によって全員の戦闘能力が大幅に底上げされているとはいえ、それはミナトも同じ。むしろ、ミナトの扱うものこそ、強力ゆえに扱いが難しい彼専用のものが多いはず。
となれば、個体の実力が多少高い亜人が相手でも、他のメンバー同様、ほとんど反撃すら許さずに圧倒する戦いができるはずなのだ。
現在も、傷を負うような事態にはなっていないし、超のつく多数を相手にしていることを考えれば、十分に善戦できているのは確かだし……厳密に言えば、別段『苦戦』しているわけでもないのだ。ただ単に……できるはずの戦いをしていない、というだけで。
……それでも、違和感はぬぐえない。
(まあ、ミナトにはまだいくつも隠し玉はあるし、武器だってわんさか持ち込んでる。あの程度の連中なら……いざとなれば、それらを使えれば殲滅できる。でも……何かしら? あの……微妙に戦いに集中できてない、みたいな、動きのぎこちなさは……?)
考える。不安を消すために。
しかし、答えは出ず……エルクは仕方なく、無駄に頭のキャパシティを占領する疑念と不安を、一時頭の外に押しやっておくことにした。
しかしエルクは、緊張感まで緩めることはなく、司令塔としての仕事を全うすべく、座席に座りなおしてモニターをにらみ続ける。
+注意+
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