真・恋姫†無双 劉虞伝 ~駄目人間の三国志~ 作:敦賀
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第二話 漢王朝の興亡洛陽にて、趙雲が董卓と面会を行っていた。
董卓の目元は黒ずんだ隈ができており、軽い化粧はしているが隠しきれていない。劉虞からの書状を預かった手は冷たかった。
「開けてもよろしいですか?」
「………あっ、ええ、もちろん。」
(これが董卓か……)
人形のような美しさをもつ少女だった事がうかがえるが、今は病弱、死にかけという言葉が先に出てしまう。精神的にも肉体的にも限界を超えている。今、こうして会話できているのが不思議な有様だった。
「……なるほど、劉幽州牧は今回の勅が陛下のご意志であるのかどうか確証が持てない為、趙雲さんを派遣し、それを確認したいということでよろしいですか?」
「ええ、陛下への謁見など、私のような者が本来許されることではない事は承知しております。ですが、君命ゆえ理解していただきたい。」
「謁見は許可の方を出しましょう。準備に時間がかかるためしばし、骨休めの方をしていてくださいますか?」
「董卓殿のご配慮に感謝いたします。……失礼ですが、洛陽に来るまでにいくつか噂を聞きました。正直、幽州で確認していた事と状況が違いすぎるといっていい。その事について説明をできる者を付けていただくことはできませんか?」
「そうですね。詠ちゃん…任せてもいい?」
「うん、わかった。謁見の準備はボクの方でやっておくから、月は少し休んでいて。」
「……ごめんね。ありがとう。」
そう言って董卓が退出すると、賈駆がため息を漏らす。
「随分とお疲れのようですな。」
「ええ、正直、しばらく休養でも貰いたい気分ね。まあ、そんな事をしていたら、明日にも私たちは屍になっているでしょうけど。」
「……それほど、今の宮中は酷いのですか?」
「ええ、酷い。正直、何が酷いのかを説明すると、一日かかっても出来ないから、聞きたい事を取捨択一してくれると助かるわ。」
「では、なぜ、皇帝が亡くなり、劉協皇女が帝位にあるのか?それをお聞きしたい。」
趙雲がまず洛陽に来て驚いたのが、皇帝の代替わりだった。皇帝の意志を聞きに来たら皇帝が死んでいた。そして新しい皇帝が立っている。董卓が劉弁を殺し、劉協を立てたというのがもっぱらの噂だ。
「まずはそれよね。勘違いされたくないから初めに言っておくわ。死んだから帝位を譲ったわけではないの。私たちが帝位を劉協様に譲らせて、それから死んだのよ。」
「なに?どういう事だ?」
「皇帝の劉弁は、正直言って暗愚だったわ。言語障害も抱えていて、言葉は親族や世話役の宦官を通さないと誰にも伝わらない状態。」
「だから排したと?」
「……それだけなら問題は無かったのよ。それでも盛り立てることはできた。問題は陛下が寵愛する宦官の子弟を高官につけようと圧力をかけ始めたのよ。」
賈駆は語りだす。皇帝達を保護した後の行いを。
***
董卓達が皇帝達を保護した後、行ったのは軍事力の掌握であった。董卓は自分の一族である董太后(霊帝の母)を殺害した復讐を大義名分にして、洛陽で最大戦力を持つ何進の弟の何苗を殺害し、董太后閥の残党を糾合して洛陽最大の軍事力をもつ勢力として地盤を作った。
皇帝擁立の功により、董卓は前将軍となり、宦官との政戦で処刑された者、そしてその家族の名誉を回復していった。そういった事が功績として認められ、相国に進んだ。
天下に名高い名士達が董卓政権に名を連ねた。司空の荀爽、侍中の陳紀、尚書令の蔡邕、大鴻臚の韓融はその代表といっていい。
袁紹達が動いても関係ないほど盤石な体制を築いていた。
だが、そこに劉弁が爆弾を落とす。
宦官政治の復活を指示したのだ。
董卓の政治は反宦官、親士大夫を前面に押し出している。いまさら宦官を側近にしろという命令に従えない。劉弁は自分の意見が董卓に通らないと分かると、高官達に宦官達の子弟を自分の側近にしろと命令を下し、圧力をかけるようになった。
劉弁からしてみれば、それは当然の事であった。なぜ見ず知らずの奴らを周りに置かなければならないのだ。自分の側近くらい自分で決めるぞ。という意志表示である。それを示唆したのは何一族や宦官の一族である。もしそれを許せば、復讐をするに決まっているし、今の政権を支持する者達は董卓を見限る。
董卓は劉弁を帝位から降ろすことを決断した。
反対はほとんどなかった。なぜなら、彼らは霊帝の宦官主導の政治を嫌っていたし、それに戻る事は自分たち一族の名誉が再度汚されることに繋がるからだ。そうして、劉協が皇帝になったのだが、そこを付け込まれた。
劉弁が何者かに殺されたのだ。
そして、それを行ったのが董卓であると噂が流れた。あまりにも早すぎた。
「それからの私たちは後手に回らざるを得なかったわ。」
反董卓連合の大義名分として、皇帝劉弁の暗殺の罪を董卓に着せている。あまりにも出来過ぎた話だった。タイミングも最悪すぎたといっていい。
「なるほど、そういうことでしたか。」
「私も月も中央の政戦を甘く見過ぎていたわ。あいつ等は皇帝さえも平気で殺すことができる。正直、私たちの手に負えるものではないのかもしれない。でも、手を引けない。手を引けば……破滅しかない。」
賈駆は頭が良すぎた。それゆえに董卓と自分はもちろん、協力してくれた者全員が死ぬことが分ってしまう。連合が勝ったとしても群雄割拠になってしまうことも分かってしまう。勝つしかない。しかし、それが出来ない。
現在、漢王朝の北部には南匈奴と白波賊の連合約十万が控えており、東には反董卓連合が二十万。西は異民族反乱が起きており、そちらも十万相当。南は袁術の本拠地の南陽が控えており、そこの動員数は後漢でも随一の十万を超えるまでの力をもっている。それに対して董卓軍は五万が精々だ。四方を敵対勢力に包囲されている董卓軍は三方の攻撃に備えて兵力を洛陽に残さなければならない。一方面に出せる兵力の限界が三万。あまりに少なすぎた。
「これから、ボク達は連合と戦う為に出兵するつもり。正直、勝ち目は薄い。でもこれ以上、連合の圧力を前に士気を維持することは出来ない。首班である董卓の名と万の軍の応援が不可欠になった。はっきり言って、自殺行為に近いわ。」
「なぜそれを私に?」
言う必要はない。こちらの勝利は目前だ。だからこちらに味方しろ。と言った方が、董卓にとって利のはずだ。
「負けた後、殺されることは覚悟している。でも、仲間は違う。趙雲、私たちが死んで、仲間が幽州に避難したらそれを保護してほしいと伝えてほしい。多分、連合が勝てば、月に味方した者も殺される。特に呂布や張遼はボク達の自殺に付き合ってくれた恩があるから。死んでほしくない。それだけよ。」
「………」
「つまらない事を言ったわね。陛下への謁見は出来るだけ早く実現するつもり。陛下への忠誠を持ってくれている唯一の勢力だもの。悪い様にしないわ。あんたは謁見をしてさっさと帰りなさい。これからは時間が重要になるから。」
これからの群雄割拠に備えろ。まだ幽州は自分たちと違って終わっていないのだから。と暗に示す。
「さっさと、帰れ………か。それをすれば君命に背いてしまうな。」
「えっ?」
「私が言い付かっているのは、陛下が真に劉虞殿の力を欲しているのかを見極めること。そして、有利、不利で味方をするのかどうか判断しろ。とは言われていない。劉虞殿は天子が本当に害されているのであれば、連合に付く。噂が偽物であれば、連合を叩く。とおっしゃられた。私に、董卓殿が死んだ後に連合の声明は嘘であり、董卓殿に付いた方がいいと報告させる気か?」
趙雲は賈駆の肩を両手で叩く。
「なに、勝てばいいのだろう。簡単なことだ。この常山の昇り龍が味方して勝てぬはずがないだろう!」
「あ、あんた……はぁ、馬鹿ね。呂布や張遼と一緒。」
「なに、そういう君主を仰いでしまったのだからしょうがない。それは呂布や張遼たちも一緒だろう。」
「わかった。ボクの真名を預ける。ボクは詠。必勝の策無くして戦うのは好みじゃないけど、死中にこそ得られるものもある。この国を共に救いましょう!」
「了解した。我が名は星。寄せ集めの軍勢など、我が槍にて討ち滅ぼしてくれよう。」
二人は篤く手を握り合った。
董卓の目元は黒ずんだ隈ができており、軽い化粧はしているが隠しきれていない。劉虞からの書状を預かった手は冷たかった。
「開けてもよろしいですか?」
「………あっ、ええ、もちろん。」
(これが董卓か……)
人形のような美しさをもつ少女だった事がうかがえるが、今は病弱、死にかけという言葉が先に出てしまう。精神的にも肉体的にも限界を超えている。今、こうして会話できているのが不思議な有様だった。
「……なるほど、劉幽州牧は今回の勅が陛下のご意志であるのかどうか確証が持てない為、趙雲さんを派遣し、それを確認したいということでよろしいですか?」
「ええ、陛下への謁見など、私のような者が本来許されることではない事は承知しております。ですが、君命ゆえ理解していただきたい。」
「謁見は許可の方を出しましょう。準備に時間がかかるためしばし、骨休めの方をしていてくださいますか?」
「董卓殿のご配慮に感謝いたします。……失礼ですが、洛陽に来るまでにいくつか噂を聞きました。正直、幽州で確認していた事と状況が違いすぎるといっていい。その事について説明をできる者を付けていただくことはできませんか?」
「そうですね。詠ちゃん…任せてもいい?」
「うん、わかった。謁見の準備はボクの方でやっておくから、月は少し休んでいて。」
「……ごめんね。ありがとう。」
そう言って董卓が退出すると、賈駆がため息を漏らす。
「随分とお疲れのようですな。」
「ええ、正直、しばらく休養でも貰いたい気分ね。まあ、そんな事をしていたら、明日にも私たちは屍になっているでしょうけど。」
「……それほど、今の宮中は酷いのですか?」
「ええ、酷い。正直、何が酷いのかを説明すると、一日かかっても出来ないから、聞きたい事を取捨択一してくれると助かるわ。」
「では、なぜ、皇帝が亡くなり、劉協皇女が帝位にあるのか?それをお聞きしたい。」
趙雲がまず洛陽に来て驚いたのが、皇帝の代替わりだった。皇帝の意志を聞きに来たら皇帝が死んでいた。そして新しい皇帝が立っている。董卓が劉弁を殺し、劉協を立てたというのがもっぱらの噂だ。
「まずはそれよね。勘違いされたくないから初めに言っておくわ。死んだから帝位を譲ったわけではないの。私たちが帝位を劉協様に譲らせて、それから死んだのよ。」
「なに?どういう事だ?」
「皇帝の劉弁は、正直言って暗愚だったわ。言語障害も抱えていて、言葉は親族や世話役の宦官を通さないと誰にも伝わらない状態。」
「だから排したと?」
「……それだけなら問題は無かったのよ。それでも盛り立てることはできた。問題は陛下が寵愛する宦官の子弟を高官につけようと圧力をかけ始めたのよ。」
賈駆は語りだす。皇帝達を保護した後の行いを。
***
董卓達が皇帝達を保護した後、行ったのは軍事力の掌握であった。董卓は自分の一族である董太后(霊帝の母)を殺害した復讐を大義名分にして、洛陽で最大戦力を持つ何進の弟の何苗を殺害し、董太后閥の残党を糾合して洛陽最大の軍事力をもつ勢力として地盤を作った。
皇帝擁立の功により、董卓は前将軍となり、宦官との政戦で処刑された者、そしてその家族の名誉を回復していった。そういった事が功績として認められ、相国に進んだ。
天下に名高い名士達が董卓政権に名を連ねた。司空の荀爽、侍中の陳紀、尚書令の蔡邕、大鴻臚の韓融はその代表といっていい。
袁紹達が動いても関係ないほど盤石な体制を築いていた。
だが、そこに劉弁が爆弾を落とす。
宦官政治の復活を指示したのだ。
董卓の政治は反宦官、親士大夫を前面に押し出している。いまさら宦官を側近にしろという命令に従えない。劉弁は自分の意見が董卓に通らないと分かると、高官達に宦官達の子弟を自分の側近にしろと命令を下し、圧力をかけるようになった。
劉弁からしてみれば、それは当然の事であった。なぜ見ず知らずの奴らを周りに置かなければならないのだ。自分の側近くらい自分で決めるぞ。という意志表示である。それを示唆したのは何一族や宦官の一族である。もしそれを許せば、復讐をするに決まっているし、今の政権を支持する者達は董卓を見限る。
董卓は劉弁を帝位から降ろすことを決断した。
反対はほとんどなかった。なぜなら、彼らは霊帝の宦官主導の政治を嫌っていたし、それに戻る事は自分たち一族の名誉が再度汚されることに繋がるからだ。そうして、劉協が皇帝になったのだが、そこを付け込まれた。
劉弁が何者かに殺されたのだ。
そして、それを行ったのが董卓であると噂が流れた。あまりにも早すぎた。
「それからの私たちは後手に回らざるを得なかったわ。」
反董卓連合の大義名分として、皇帝劉弁の暗殺の罪を董卓に着せている。あまりにも出来過ぎた話だった。タイミングも最悪すぎたといっていい。
「なるほど、そういうことでしたか。」
「私も月も中央の政戦を甘く見過ぎていたわ。あいつ等は皇帝さえも平気で殺すことができる。正直、私たちの手に負えるものではないのかもしれない。でも、手を引けない。手を引けば……破滅しかない。」
賈駆は頭が良すぎた。それゆえに董卓と自分はもちろん、協力してくれた者全員が死ぬことが分ってしまう。連合が勝ったとしても群雄割拠になってしまうことも分かってしまう。勝つしかない。しかし、それが出来ない。
現在、漢王朝の北部には南匈奴と白波賊の連合約十万が控えており、東には反董卓連合が二十万。西は異民族反乱が起きており、そちらも十万相当。南は袁術の本拠地の南陽が控えており、そこの動員数は後漢でも随一の十万を超えるまでの力をもっている。それに対して董卓軍は五万が精々だ。四方を敵対勢力に包囲されている董卓軍は三方の攻撃に備えて兵力を洛陽に残さなければならない。一方面に出せる兵力の限界が三万。あまりに少なすぎた。
「これから、ボク達は連合と戦う為に出兵するつもり。正直、勝ち目は薄い。でもこれ以上、連合の圧力を前に士気を維持することは出来ない。首班である董卓の名と万の軍の応援が不可欠になった。はっきり言って、自殺行為に近いわ。」
「なぜそれを私に?」
言う必要はない。こちらの勝利は目前だ。だからこちらに味方しろ。と言った方が、董卓にとって利のはずだ。
「負けた後、殺されることは覚悟している。でも、仲間は違う。趙雲、私たちが死んで、仲間が幽州に避難したらそれを保護してほしいと伝えてほしい。多分、連合が勝てば、月に味方した者も殺される。特に呂布や張遼はボク達の自殺に付き合ってくれた恩があるから。死んでほしくない。それだけよ。」
「………」
「つまらない事を言ったわね。陛下への謁見は出来るだけ早く実現するつもり。陛下への忠誠を持ってくれている唯一の勢力だもの。悪い様にしないわ。あんたは謁見をしてさっさと帰りなさい。これからは時間が重要になるから。」
これからの群雄割拠に備えろ。まだ幽州は自分たちと違って終わっていないのだから。と暗に示す。
「さっさと、帰れ………か。それをすれば君命に背いてしまうな。」
「えっ?」
「私が言い付かっているのは、陛下が真に劉虞殿の力を欲しているのかを見極めること。そして、有利、不利で味方をするのかどうか判断しろ。とは言われていない。劉虞殿は天子が本当に害されているのであれば、連合に付く。噂が偽物であれば、連合を叩く。とおっしゃられた。私に、董卓殿が死んだ後に連合の声明は嘘であり、董卓殿に付いた方がいいと報告させる気か?」
趙雲は賈駆の肩を両手で叩く。
「なに、勝てばいいのだろう。簡単なことだ。この常山の昇り龍が味方して勝てぬはずがないだろう!」
「あ、あんた……はぁ、馬鹿ね。呂布や張遼と一緒。」
「なに、そういう君主を仰いでしまったのだからしょうがない。それは呂布や張遼たちも一緒だろう。」
「わかった。ボクの真名を預ける。ボクは詠。必勝の策無くして戦うのは好みじゃないけど、死中にこそ得られるものもある。この国を共に救いましょう!」
「了解した。我が名は星。寄せ集めの軍勢など、我が槍にて討ち滅ぼしてくれよう。」
二人は篤く手を握り合った。