「一般の方は驚かれたと思いますが」とか言う
っていうか、もう結論は出ているので先に述べると、井上公造を眼前にした時に覚える違和感は、一義的に「報告者」を意味する「リポーター」を名乗っているのに、自分はジャーナリスティックな日々を重ねている、とのアプローチを重ねてくるところにある。彼は、大きな芸能ニュースが発覚した後でスタジオに呼ばれると、多くの場面で「そういった情報は早い段階から耳に入っていた」「その手の噂が僕のところにも聞こえてきていた」などと言う。
たとえばSMAP分裂騒動の最中に、レギュラー出演している『おはよう朝日です』(ABCテレビ)で、井上公造はこう述べている。動画サイトで確認できたので正確に引用するが「一般の方は驚かれたと思いますが、僕らは去年の夏からこの話は聞いていたので、驚いたというより、表面化したことに驚いた」という。これはなかなか芸能ジャーナリズムを軽視している。この発言がよくできているのは、このように発言することで、あたかも自分は、スクープした週刊誌と同等かそれ以上に内部情報に精通しているとPRできる点にある。つまり、他人のふんどしで信頼を獲得していく。じゃんけんでグーを出した人に対して、「うんうん、グーを出すと思っていたよ」と指摘してくる感じ。じゃんけんに臨んだ後でそんなことを言われたら、大抵の人は「オマエ、ふざけんなよ」と突っかかるだろう。
「○○さんのこと知ってるよ」系
ベッキーがテレビ復帰した翌週(5月16日)、『ミヤネ屋』(日本テレビ)に出演した井上は、この件は彼女の復帰をもって終わるわけではないとし、今後のポイントを箇条書きにし、「“最後のヤマ”は今週木曜日に…」と記した。どんな情報を持っているのかと身構えていると「木曜日に出る『週刊文春』が何らかの記事を出すのではないか」との分析で、仰天する。
それは分析と呼べる代物ではないはずだが、彼の口から繰り返されてきた「実は知っていた」という後だしジャンケンの反復を受けて、いくらかの人は彼のことを「事情を知っている人」との誤読をしてしまうのだろう。私のように、ライターとしてマスコミ業界の端っこで呼吸をしているだけでも、「○○さんのこと知ってるよ」に始まる人脈自慢だけで食い繋いでいるように見える人と出会うのだが、その時についつい漏らしては相手の顔を硬直させてしまうフレーズ「知ってるから何なんですか?」を、用途は違えど、テレビの前の井上にも向けたくなる。
加藤浩次は、大きな芸能ニュースが明らかになる度に『スッキリ!』(日本テレビ)に登場する井上に対し、ひとまず茶々を入れてみることを忘れない。例のごとく、一部からはそんな情報も入っていた、などと言えば、情報が入っていただけでは意味がないでしょうとの類いの指摘を加え、ノーマークだったと正直に吐露すれば、私たちと何にも変わらないですねと皮肉る。それらは場を温めるパフォーマンスとして展開されるが、加藤が思う以上にただただ真理であって、真顔で頷く。今、ネットを中心に根も葉もない噂から広がる誹謗中傷をいくらでも浴びる芸能人や事務所にとって、後だしじゃんけんを徹底してくれる井上は「安心できるリポーター」なのだろうけれど、ならばもう「ジャーナリズム」の部分を小出しにしないでほしい、と思う。だってそのスクープは、(善し悪しに差はあれど)それぞれの編集部や物書きが必死に掴みとったものなのだから。ズルい、と思う。
「本当に卑劣な仕事ですね」に答える
井上は、食料品会社や明太子製造会社でサラリーマンとして勤めた後、雑誌編集者や新聞記者を経て、梨元勝に誘われる形で芸能リポーターの道を歩み出した。この職種をとにかく忌み嫌ったのがルポライターの竹中労。案の定、安易な言い回しではないのだが、引用する。彼は梨元を名指しした上で、A・ビアス『悪魔の辞典』から「REPORTER」の項目を引き、「[臆測によって真実に到達しようと努め]るがいったん到達するや、[折角の真実を言葉の嵐で雲散霧消させてしまう文筆業者である]」とした上で、「かの突撃レポーター・梨元某氏をごらんなさい、A・ビアスの古典的諷刺は、80年代のこんにちでも堂々と通用する」と言い、「努めて客観的に報道する」のがルポルタージュなんて「貧しい認識」であり、それでは「梨元氏とえらぶところがありません」とした(竹中労『決定版ルポライター事始』)。A・ビアスの古典的諷刺は、2010年代のこんにちでも堂々と通用する。方々へのバランスをとり、客観視して精通っぷりを見せる風土は、通用するどころか強固になっている。
『アウト×デラックス』(フジテレビ)に出た井上は「そもそも僕、芸能界のスキャンダルなんてそんな興味ないんですよ。仕事だからやっているんですよ」と自虐的に宣言した。一方、一般人から「本当に卑劣な仕事ですね」と言われてTwitter上で小競り合いになった時には「芸能は格下と言う考えが差別です。政治、経済、社会ネタ、スポーツも含め、全て同じステージに立っています」と勇ましく宣言している。どちらなのだろう。彼のことをもっとキチンと知ろうと自著『一瞬で「本音」を聞き出す技術』を開くと、なぜ離婚情報は女性サイドから仕入れやすいかというと「女性はしゃべるという行為を我慢できずに、しゃべることでストレスを発散しています。男性の場合は秘密を自分の中だけに溜め込むことができます」などといった既視感のある指摘ばかりが連なっている。
それを「精通」とは呼びたくないのです
芸能人当人がプライベート情報をいくらでもSNS等でバラ撒き、それ以外のスキャンダルを一部の雑誌がすっぱ抜くという構図が定まった現在、芸能リポーターという仕事が、その間に立って「どっちも知っています」とアピールする役務になりがちなのは分かる。でも、その度に「これ、知っていました」を積み上げられても頼りない。接し方に困る。繰り返すけれど、そうやって、方々へのバランスをとるのがうまいことを「精通」とは呼びたくないし、そういう反復が芸能リポーター以外の、「芸能人を語ること」全般への懐疑に派生していく可能性がある以上、嫌だなと思う。
(イラスト:ハセガワシオリ)
トークイベント開催!
二村ヒトシ × 武田砂鉄
【開催日時】2016年07月07日(火) 開場19 : 30 開演20 : 00
【場所】本屋B&B
【入場料】1500円+ 1 drink order
【受付】予約はコチラ
【イベント詳細】B&Bのイベントページからご覧ください。
中村佑介 × 武田砂鉄
【開催日時】2016年07月31日(日) 開場13 : 30 開演14 : 00
【場所】下南田町集会所(京都市左京区)
【主催】ホホホ座
【入場料】2000円(ホホホ座1階500円商品券付)
【受付】予約はコチラ
【イベント詳細】ホホホ座のイベントページからご覧ください。