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【記憶遺産】
慰安婦申請、中国当局が背後で主導か オバマ米大統領の広島訪問で「中国こそ被害者」アピールも
【北京=矢板明夫】韓国に事務局を置く日中韓などの8カ国・地域の民間団体からなる「国際連帯委員会」が、慰安婦関連資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)への記憶遺産に登録申請した。中国外務省の報道官は「被害国の民間組織による共同申請を支持する」と公式に表明した。今回の申請で、歴史問題で日本と徹底的に対抗したい中国政府が裏で大きな影響力を発揮した可能性が高い。
申請は、複数の国・地域の民間団体が連携したという形を取っているが、その中で中国と韓国の団体が主導的な役割を発揮したといわれている。韓国には政府から独立した民間団体は多くあるが、一党独裁体制の中国では、民間団体の活動が厳しく制限されており、外国と連携し政治活動を目的とする団体は、政府の別動隊である場合がほとんどだといわれる。例えば、日本との民間交流を推進する民間団体、中日友好協会の職員は準公務員によって構成されている。
中国の公文書館は昨年、慰安婦に関する資料の登録申請をユネスコに見送られており、今回は形を変えて再挑戦したといえる。中国の共産党関係者は、「この時期の申請は中国にとって外交上、大きな意義がある」と指摘した。
2015年12月、慰安婦問題をめぐる日韓合意を受け、中韓両政府による歴史問題の対日共闘体制は解体。中国が今回、慰安婦関連の民間団体との連携を強化したのは、韓国世論の反日感情をあおり、朴槿恵政権の日本との接近を牽制したい思惑がありそうだ。
中国当局はまた、5月末にオバマ米大統領が広島を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花したことで、日本が戦争被害者であるとの国際的イメージが広がることを警戒している。中国としては再び慰安婦問題を持ち出すことで、「中国こそ被害者だ」とアピールする狙いがあるとみられる。