ウナギについては世界のどこにも前例はなくまったく未知の世界」と説明する桑田部長
また、ウナギの仔魚(しぎょ:稚魚の前の段階)の飼育にはマダイ養殖などで培った従来技術があまり応用できず、生態にあわせた独自の養殖技術を新たに確立しなければならない。たとえば、ウナギの仔魚を育てる場合は水槽を毎日交換しなければならないが、マダイやヒラメは3週間くらい水槽を変えなくても済む。ウナギの仔魚は水槽内に発生する細菌に弱いためだ。
エサも、水槽の底に置くなど独特の手法で与えている。桑田部長は「近海魚の養殖は、卵さえとれればマダイとほぼ同じだが、ウナギについては世界のどこにも前例はなくまったく未知の世界」と説明。実用化の時期は、現時点ではわからないという。
大量のシラスウナギを育てる技術の確立へ
ウナギ完全養殖の実用化に向けて、同研究所では(1)受精卵、(2)エサ、(3)飼育方法、の3テーマの研究を通じて、シラスウナギを大量に育てる技術の確立に取り組む。「まずはコストがかかろうがとにかく大量に作り、次にコストダウンを図る、というステップで研究を進める方針」と桑田部長。
このうち、(1)では、大人のウナギを成熟させて、良質な受精卵を産ませるためのホルモン剤を開発。これにより、卵のふ化率が従来に比べて向上したという。
(2)のエサは現在、絶滅の恐れも指摘されるアブラツノザメの卵を使っていることから、鶏卵や魚粉を用いた代替エサの開発に着手。実際にシラスウナギが食べ、生育するところまでは到達しており、今後はアブラツノザメの卵を使ったエサと同程度の生残率・成長率の実現をめざす。
(3)では、容量10リットルという小規模な水槽を使って水温やエサの与え方などといった基本的な飼育技術の確立に取り組むほか、大量飼育の実現に向けて同1000リットルの大型水槽の開発も進めている。
桑田部長は「前例がない分野は、研究でトライアルアンドエラーを重ねても成果に結び付くのはほんの一部。技術開発とはそういうものだが、それでも、いつかは必ずわれわれの手でウナギの完全養殖を実現したい」と力を込める。
天然シラスウナギの漁獲量が回復するか否かは、現時点で不透明な状況にある。実用化が当分先になろうとも、ウナギ完全養殖の研究動向には、今後も熱い視線と期待が注がれることだろう。
(取材・文:具志堅浩二)