今回は九井 諒子さんの『竜の学校は山の上』より生まれつきの体の違いをテーマにした作品「現代神話」を紹介したいと思います。
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九井 諒子さんといえば2016年の「このマンガがすごい!」で1位を受賞した『ダンジョン飯』が有名。
ダンジョン飯 1巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))
- 作者: 九井諒子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / エンターブレイン
- 発売日: 2015/01/15
- メディア: Kindle版
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「古典的なダンジョンRPGの世界」「モンスターを食料にして冒険」「料理の過程が妙にリアル」などの要素で一発でゲーマーの心をわしづかみにした作品ですが、今回はそちらではありません。
あ、もちろん『ダンジョン飯』も面白いですよ。マルシルさん一押し。
ハイファンタジー派・ローファンタジー派*1どちらもオススメ
九井 諒子さんは『ダンジョン飯』以前に3つ単行本を出版されていますが、そのどれもが短編作品集です。
どれも極端に重厚な歴史や世界観などは扱わず、むしろそのあたりを簡潔にはしょって「なんとなく、ごく当たり前のように」不思議な現象が描かれるのが特徴です。
その中で1番最初に刊行された『竜の学校は山の上』では魔王を「倒した後」の勇者の葛藤や苛立ちがかかれた「帰郷」「魔王城問題」や、現代社会にドラゴンが種族として存在する世界の大学を描いた表題作「竜の学校は山の上」などがあるのですが、今回はその中でも
現代社会に「2種類の人類がいたら」
という前提で描かれた『竜の学校は山の上』の「現代神話」を紹介したいと思います。
頑健な体を持ち疲れ知らずの「馬人(ケンタウロス)」と特に取り得のない「猿人(ホモサピエンス)」が共存する世界
馬人は一日3時間しか睡眠が必要なく、会社が代休で休みでも「暇なので働きに顔を出す」ぐらい働くのが大好きな種族。
身体能力も高く、しかも寿命が短いので年金を殆どもらわない。
経済社会にとっては至れりつくせりの人材(社畜?)です。
一方猿人は現代社会の我々と一緒。
普通に6時間以上は睡眠をとらないといけないし、仕事だけでは息が詰まるし気晴らしもしたくなる。
力も走る早さも馬人には全然及ばない。
こんな「馬人」と「猿人」が共存する現代の日本っぽい社会。
同じ会社で働く馬人の「タナベくん」と猿人の「ミキさん」のストーリーと、ごくごく普通の日常生活を送る猿人の「みちおくん」、馬人の「しーちゃん」のストーリーがオーバーラップする形でお話は進みます。
生まれつきの身体の違いって、何なのだろう
タナベくんが「暇なので」会社に向かうと、同じ電車に同僚のミキさんを発見します。
ミキさんは仕事が終わらずイヤイヤ出社している最中なので、能天気なタナベくんに苛立ちを隠せません。
勤める会社も大半は馬人。
ですがこの世界の7割は猿人の為、馬人の労働に制限をかけることで猿人の労働環境を維持しようとする法案が通りそうになっています。
馬人から見れば猿人は仕事の出来が悪いくせに社会福祉だけはもっていく存在であるため、法案に対し不満を漏らす上司と口論になり、会社を飛び出してしまうミキさん。
「猿人であることを情けなく思ったりしないのか?」
上司の言葉が深く突き刺さります。
一方で身体の作りが全然違っていても、一緒に同じものを食べ、同じ家で暮らし、同じところに出かけるみちおくんとしーちゃん。
色々トラブルはあるけれど、馬人と猿人の軋轢も知っているけれど、仲良く毎日を過ごしています。
この違いは何なのか。
環境が変われば、問題も変わる。
タナベくんが途中で
「もし地球上に猿人か馬人のどっちかしかいなかったら、もっと暮らしやすかったんでしょうかね」
という問いを発します。
ここでのミキさんの回答も一つの見解ですが、実際に猿人しかいない世界の私達は答えを既に見ています。
同じ種族だけしかいなくとも、ほんの僅かな違いで差が生じ、争いとなり、問題が発生する。
視点を変えるたびに、新しい問題が発生したり、前は問題であったことが問題にならなくなったり。
そこらへんを理解しているのかいないのか、猿人寄りのメディアを遠ざけて馬人向けのニュースを購読しようかと提案するみちおくんに対し、しーちゃんはこう締めます。
「そんなもの なんにも違わないのよ なーんにも」
と。
まとめ
この世界ではたまたま馬人が経済で能力を発揮できる条件が整っていましたが、何かの条件が変わればあっという間に逆の立場になるでしょう。
活躍できていない人も「働く」内容が変わったとたん活躍できちゃうのであれば、今の外部からの評価は「そんなもの」ぐらいの気持ちで捉えておくのがいいのかも。
こんな感じでちょっと考えさせられる短編が他にもあるので、『ダンジョン飯』以外の作品もぜひ読んでみてくださいねー。
以上、『竜の学校は山の上』より「現代神話」のレビューでした。
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*1:ハイファンタジーとは異世界ものなど、不可思議な現象(魔法など)がごく当たり前にある世界を題材とした物語。ローファンタジーとは現実世界に不可思議な要素を加味した物語。