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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第13章 コード・オブ・デイドリーマー

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第236話 1 VS 70000

「でぇぇえええい‼」

大きく前方を、弧を描くような軌道で……『焔魔橙皇エンマダイダイオー』で薙ぎ払う。
瞬間、大爆発が起こって兵士数十人が吹き飛ぶ。その中の何割かは、人間の形をとどめていない。爆発が原因の者もいれば、単に今の斬撃で真っ二つにされた者もいる。

さらに、同時に拡散した毒ガス成分によって、周囲の兵士たちの動きが軒並み悪くなる。即死はしなけれど……戦うにも、逃げるにも支障が出るレベルには。

大体2、3回も振るうと、射程圏内にほとんど敵がいなくなるので……そうなったら僕は、素早く踏み込んで兵士たちの中に飛び込み、また大爆発斬りを繰り返す。
しかも、その斬り方によってさまざまな形に攻撃が変化する。

横凪ぎに振るえば、前方半円状の敵が吹き飛ぶ。

突きを繰り出せば、ドラゴンのブレスのように直線状に爆炎が焼き払う。

縦に振り下ろせば、突きほどではないけれど、長く炎が伸びると同時に、着弾地点を中心にクレーターができる規模の爆発が起こる。

その場で回転するように振るえば、爆発と同時に全方向に炎の津波が押し寄せて焼き払う。

さらには、そのたびに毒がまき散らされ……あと、地味に斬撃のたびに多少なり衝撃波とかも発生してたりしてなかったり。

前世では、こういう感じに1人で数百、数千の敵を相手に、片っ端から斬りまくっていくようなゲーム――いわゆる『無双系』――は、あんまりやらなかったし、得意でもなかったんだけど……今回、このコンボ技を考える際には、その経験をいくらか参考にしている。

薙刀とか槍でああいう感じに無双するのって、いざ本当にやるとなると……一度に斬れてもせいぜい数人だ。百や二百ならともかく、千とかの数になるとさすがに時間も手間もかかる。

だから、攻撃範囲を広げる+殺傷力を高めるにはどうしたらいいか……って考えて、可燃性の毒ガスと、爆炎を出す薙刀……っていう力技に落ち着いた。
僕と同じことを普通の人間がやったら、一発目で自爆だけど。

まあ僕は問題なく使えてるので……開戦から数分で、もう多分2000人くらいは消し炭にしたと思う。毒にやられてるのを含めれば、もっと多いかな?

そのせいで、最初は数に頼んで押し切れると思ってた兵士たちも、及び腰になって僕から距離を取る……というか、はっきり言って逃げる感じの動きになっている。
追いかけて斬るのはたやすいけど……効率はやや悪い。

なので、次なる武器を使おう。

その場で大きく回転して斬り払い、周囲を取り囲んでいた50人くらいを爆殺した後……僕は帯から、次なる一手となるマジックアイテムを取り出した。
それは……ピンポン玉ほどの大きさの、金属の球。それが、三つ。

僕はそれに、魔力を流し込み……ちょっと遠くの、兵士たちが固まってるあたりに向かって、3つとも……ただし、少し着弾地点がばらけるように、勢いよく投げ込んだ。

すると、その球は……

「「「ぎゃあああぁぁぁああああっ⁉」」」

「な、何だこりゃあ⁉」

「わ、わかんねえ! でも、すごい勢いで跳ね回ってうぎゃああぁ!」

「ひいっ⁉ た、盾があぐぁあっ⁉」

地面やら、兵士の体やら、防具やら……いろんなものにぶつかっては跳ね返り、ぶつかっては跳ね返り……を繰り返して、大暴れし始めた。
そう、ちょうど……前世にあったおもちゃである『スーパーボール』のように。

金属でありながら、弾力があってよく跳ねるという性質を持っているあの玉は、魔力を込めて投げると……勢いを衰えさせずに、延々と超威力で跳ね回り続ける凶器と化す。
その威力たるや、下手な金属製の防具なら砕くか貫通し、装備者に致命傷を与えられる。

それと同じものを帯から何個も取り出し……同じように方々へ投げる。
戦場のあちこちで、そいつらが暴れだす。僕に近づかなくても、どんどん殺されていく。

跳ね回った末に、時々こっちに飛んでくることがあるので……その時は打ち返してまた別な方向へ飛ばし、暴れさせる。

こうなるともう、どこにいれば安全、なんて定義はきれいに消し飛んでしまっている。

目に見える形で近づいてくる、爆炎と斬撃。
目に見えないが捕まれば確実に死ぬ、毒ガス。
そして、どこから飛んでくるかわからない、数十個の殺人スーパーボール。

死をまき散らす3種類の乱舞にさらされ……もはや、軍全体が恐慌状態になっていた。

僕が言うのもなんだが……無理もないだろう。僕は今、およそ彼らが普段から想定して訓練している『戦争』というものとは、かけ離れた形で暴れているわけだし。

戦争といえば、一般的にイメージされるのは……多くの兵士を用意し、陣形を組ませ、戦略を組み立てたうえで……将に率いられたその兵士たちが、同じようにして構えている敵兵たちと激突してその総力をぶつけ合う、というものだ。

こんな風に……たった1人の化け物が繰り出す、よくわからない攻撃の嵐にさらされて、次々に仲間たちが命を散らしていくような状況など……想定してはいないんだろう。

(ま、だからって手を緩めることはありませんけどもねー)

丁度いいタイミングで、3つ一度にこっちに飛んできた鉄球をキャッチし、それを目の前にぽい、と軽く放って……『焔魔橙皇』の柄で、ビリヤードのように一撃。

思いっきり強く突いた結果、まさしく弾丸のごとき勢いで飛んだそれらは……進行方向にいた兵士たちを数十人ぶち抜いて遠くまで飛び、そこでまた暴れだした。

と同時に、僕は帯から新たなマジックアイテムを取り出した。

スーパーボールに続いて取り出しましたるは、メタリック&メカニカルな外見のベーゴマ、って感じの見た目だ。ただし、大きさは普通のコマと同じくらいある。
それを手に持ち、魔力を込めると……掌の上で超高速で回転を始める。

前世の日本では、古き良き時代の遊びだったベーゴマが、今風に姿形を変えて小学生の間でブーム再燃してたなー……なんて思い出しながら作った。
名付けて……『フレイムスピナー』。名前の由来は、今わかる。

回転し始めたそれを、空中に放り……『焔魔橙皇』で打って遠くに飛ばす。
するとその瞬間に噴き出した炎を、『フレイムスピナー』がからめとるようにしてまとい、燃えながら回転して飛んでいく。そして、その周囲の炎が急激に大きくなり……着弾して地面の上で回り始めるころには……巨大な炎の竜巻をその周囲に発生させている。

しかも、『フレイムスピナー』は、一か所にとどまらない。まさしくベーゴマのように、回りながら縦横無尽に動き回り……必然、その周囲の火炎の竜巻に、何人、何十人もの兵士たちを巻き込んで消し炭にしていく。

しかも、あれには超小型の魔力炉を組み込んである。周囲の熱を吸収して魔力を発生させるという……こいつと相性抜群な奴を。

『フレイムスピナー』は魔力で回り、動く。動きながら、炎で周囲を焼き尽くしていく。
その熱で内蔵された魔力炉が魔力を生産し、その魔力でまた動き続け……という、敵側からしたら地獄のようなループ構造になっていたりする。

むろん、さすがに無限に動き続けるのは無理だ。魔力炉の出力限界や魔力損耗もあるし、部品も急激に摩耗する。
実のところ、十数分くらいで止まり、炎も消えてしまうのだ、アレ。

まあ、うまく使えば……その十数分で数百人の敵を燃やし散らすことも可能なわけだが。

で、そんな凶悪なおもちゃを……はいっ、ドン! あと9個ほど追加します。

……そして出来上がったのが、この地獄絵図である。

戦場……というか、敵軍の中心付近で、斬撃と共に爆炎を放ちながら、一撃一殺ならぬ十殺二十殺ペースで屍を量産する僕。
その周囲で、跳んで跳ねて砕いてブチ抜いている数十個のスーパーボールに、炎の竜巻で豪快に焼き尽くしている10個の『フレイムスピナー』たち。

しかも、時折『フレイムスピナー』にスーパーボールがガツンと当たってはじかれることがあるんだけども……そうなると、移動自体はゆっくりな『フレイムスピナー』が急激に動いて位置を変える。そのため、竜巻が離れたところにあるからといって油断できない。

挙句の果てに、漂っている毒ガスに竜巻の炎が引火して爆発が起きたりしてるし、その爆風でまた『フレイムスピナー』が動いたりで、もう散々。

爆炎と火柱が暴れまわる戦場で……兵士たちは、もはや統率された動きなんてものはほとんどできておらず、恐慌状態に陥っていた。

僕らから遠い位置にいる兵士たちはまだましだけど……近くの連中はもう、悲惨。
やけになってかかってきて死ぬか、逃げようとして結局逃げ切れずに死ぬか。
そして、その向こうに新たに見えた兵士たちも、ほどなくそんな感じになる……の繰り返し。

指揮官らしき連中は、懸命に兵士たちをまとめようとしてるけども……うまくいっていない。

混乱が大きすぎるのもそうだけど……今回は敵が敵だ。

数十、数百の兵士からなる『軍』が相手なら、相手の動きをよく見て狙いを読んだりして対応する、なんてことも可能だろう。

しかし、今の敵は僕1人。それにプラスして、まったく動きの読めない……というかそもそも生半可な動体視力じゃ目で追うこともできない小さな玉と、手の出しようがなく逃げるしかない炎の竜巻が相手なのだ。

つまり……てんで対処のしようがない。
スーパーボールは防具とか盾とか普通に貫通するし、炎の竜巻は特殊な術式で補助してるので、水や土をかけても簡単には消えない。さっきから、魔法が使えるらしい兵士が水の魔法で火を消そうとしてるのを何回か見たけど……失敗して結局逃げ遅れて焼け死んだ。

結果、指揮官は『落ち着け』とかそのへんの指示くらいしか出せていないのである。

それに加え、それっぽいのがいると僕がスーパーボールでビリヤードをスコーンとやって狙撃するようにしてるので、指揮官クラスも徐々に減ってきているはずだ。それが余計に、恐慌状態が悪化し続ける要因になっているのは確かだろう、狙ってやってるし。

気が付けば……炎主体の無差別破壊攻撃にさらされた戦場には、中心付近からいびつな円状に黒く焼けた地面その他が広がっている。

この20分あまりの間に、万単位の兵が燃え散ったことだろう。見た感じ、最初の数から半分くらい……いや、もうちょっと少ないか。
となると、残り3万と少しってとこかな。

マジックアイテムをふんだんに使ったとはいえ、ミサイルみたいな大量破壊兵器なし、比較的アナログな武器だけでこのペースなら……まあ、上々と言っていいんじゃなかろうか。

…………さて、

「ふぅ、そこそこいい運動になったな……じゃ、ここからはもうちょっと楽するか」

言いながら、僕は帯の収納から……『CPUM』のカードを、何枚か取り出す。

手にしているのは、『かに座』『さそり座』『牡羊座』『いて座』の4枚。

魔力をこめ、前後左右に投げつける。

「よし……じゃ、暴れろ諸君」

魔法陣、展開……CPUM、召喚。
『キャンサー』『アンタレス』『アリエス』『サジタリウス』の4体の人工モンスターが現れ、さらに、さっき村人たちを救助させた『ピスケス』も返ってきた。
そして、それぞれの能力をフル稼働させて、周囲の兵士たちを蹂躙していく。

いすれも魔力はたっぷり残ってる。
加えて、そろそろ駆動限界になる『フレイムスピナー』をさっき遠隔操作で自爆させ、新しいのを放ったので、もう十数分の間、地獄は続く。

最初よりも兵が広範囲に散っちゃったし、中には逃げ出し始めたのもいるみたいだから、今までと同じペースで片づけるのは無理だろうけど……戦力として『CPUM』を追加したことでそれを補ってるから、それほどペースを落とすことなく片づけていけるはず。

無作為に動き回るスーパーボールと『フレイムスピナー』たち。

それらに当たらないように、間を縫って逃げ惑う兵士達を……『CPUM』は、優先的に襲う。

機銃や砲撃、ミサイルや爆雷を周囲にまき散らす『キャンサー』と『サジタリウス』。
『アンタレス』はそれに加えて、2つのハサミと尻尾のドリルで物理的にも攻撃している。

さらにその隙間を埋める攻撃を放っているのが『アリエス』だ。
『牡羊座』をモチーフにした、機械の羊の外見をしているこいつは……その周囲に、パッと見ると羊毛に見える『何か』をまとっている。

しかし、その正体は毛などではなく……雲。
それも、魔法によって発生させた……雷雲だ。

そして『アリエス』は、その雷雲を急激に膨らませ――というか、大量に放出しまくってるだけなんだけど――それを薄く、広範囲に広げていっている。
面積にして、実に……戦場の2割ほどを覆いつくすまでに。

で……暴走アナログ兵器や他の『CPUM』からうまく逃れて立ち回っている兵士たちがいるあたりを狙って……電撃を放って始末している。

雷雲は魔法発動の媒介。コレが覆っている部分ならば、どこにでも雷の魔法を遠隔で発生させられる。アリエスに持たせてある能力の1つだ。

雲全体に電撃を帯びさせて、面攻撃兵器ばりに範囲内を一気に攻撃するすることもできるけど……それをすると消耗が大きい上に、媒介として使っている雷雲が一気に薄まってしまう。
今回は、こいつは取りこぼしを狙い撃つぐらいがちょうどいいのだ、大部分は、『キャンサー』たちが片づけるわけだし。

で、その戦場の外縁部を、周回するように『ピスケス』がうろついている。加速したり減速したり、時折方向転換したりしつつ……戦場から逃亡しようとする者たちを見つけると、急降下して地面ごとかじりとって丸飲みにする。
そして数十秒後……溺死体となった兵士たちをぺっと吐き出して捨て、次の獲物を狙う。

ピスケスは、体の周囲だけでなく、中まで全部大量の水で満たされているため、丸飲みにされるとその体内で溺死してしまうのだ。
おまけにその体内の水は、洗濯機みたいに上下左右に激しく対流しているというおまけ付き。じっと息を止めて、吐き出されるまで待っている、なんてことは絶対にできない仕様。

ちなみにさっきは、人命救助のために体内は水を抜いてた。

ぼーっとしてれば死ぬ。
よけて立ち回っても電撃で狙い撃たれて死ぬ。
逃げようとしても溺れ死ぬ。

まさに絶望と言う他にない状況で……軍隊らしい戦い方が全くできないまま、急激に数を減らしていくリアロストピア軍。

見た感じ、もうそろそろ1万切るんじゃないかな……なんて思っていると……戦場のど真ん中に、1人たたずむ人影を見つけた。

信じられないものを見るような目で、何もできずに壊滅した軍の惨状を……しかし、目をそらすことなく受け止めるかのように、仁王立ちになってその目で見ていた。

見覚えある……っていうか、約30分ちょっと前に、僕に『降伏しろ』って言ってきた人だ。将軍さんだ。
土埃まみれになってる上、逃げ惑う兵士たちにぶつかられでもしたのか、若干装束や鎧が汚れたりボロボロになってたりして、一瞬気づけなかったけども。

本来、彼を守るために常に何人か控えて周囲を固めているはずの、直属の護衛の人たち――さっき、僕に降伏勧告してきた時は確かにいた――は、1人もいなくなっている。
逃げた……わけではなくて、最後まで役目を全うして逝ったようだ。将軍さんの周囲に、それらしき連中の亡骸がいくつも見られる。

将軍さんがこうして逃げずにそこに堂々と立ってるのは、情けない姿を見せてはこの人たちに申し訳ない……とかいう感情があるからなのかもしれない。

しかし……堂々と立ってはいるものの、勝敗を諦めずに戦う、ということはできなさそうだ。
色々と、悟った目をしている。どう足掻いても覆せそうにない、この戦いの行く末、とか。

「……これほどの、ものなのか……」

誰にともなく、呟くように口にしていた。

「愚か者は我々だったようだな……現実を知らぬまま、眠れる獅子をつついてたたき起こした結果がこれか……。弱き民を虐げて強くなった気になって、数を揃えただけで勝った気になって……蓋を開けてみれば、戦いにすらならずに、始まる前に全てが終わろうとしている……」

……僕に話しかけてんのか、それとも単なる独り言なのかは知らない。
けど、もうほぼ片付いてるし……もう数分前から、僕にかかってくる兵は1人もいなくなっていたので、『焔魔橙皇』を肩に担いで、将軍さんの真正面に立って話を聞いてみる。

僕を視界にとらえた将軍さんは、しかし表情を特に変えたりすることなく、あきらめから滲み出してくるような独白を続けている……と、思ったら、

「……私はかつての昔、旧王家の代よりこの国に仕えていた……しかし、クーデターに参加して反旗を翻し、旧王家を打倒し、今の地位についた……」

何か知らないが、語り始めた。

「……言い訳をしたいわけではないが……民のため、国のためだと思ってやったことだった。あの頃は……伝統という名の悪習によって、政のみならず、国内の流通や人事の全てが縛られていた。古くからの歴史を持つ者だけが、能力の有無にかかわらず優遇され、新参の者は力があっても冷遇に甘んじ、搾取に苦しめられ……国全体がゆるやかに衰退していっていた」

ふーん。

「クーデターにより旧王家を打倒してから、私は部下たちと共に、新たな強い国を作るべく腐心してきたつもりだ……。そのために、一時的にではあれど、民に厳しい負担を強いる増税にも、円滑に政を進めるための賄賂や癒着にも目をつぶった……この先にきっと、前よりも強く、よりよい国が形作られると……そう、信じて……それも、はかない夢だったようだが、な」

「それは、誰のせいで? 楽することを覚えてバカばっかやってる貴族連中のせい? それとも、努力してる最中のあんたらを現在進行形で蹴散らしてる僕のせい?」

「……誰のせいでもないのだろう。これは……因果だ。私が妥協という名の逃げを続けてきた結果が、こうしてめぐってきた……それだけのことだ」

ため息交じりにそう言うと、将軍さんは空を仰ぎ見て、

「結局のところ……私は、何も変革など起こせていなかった。ただ、苦しむ者を変えただけで、何かを成した気になっていたということだ……。何一つできぬまま、今度は私が苦しみ、滅ぼされる側に回ったことに、今になってようやく気付いた……それだけのことだ」

「あっそ……で、僕にそれ聞いてどーしろと?」

「……何もないさ。何も……言えるはずもない。求められるはずもない。敗者となった私は、勝者であるお前達に、奪われることしかできんのだから……。だが……1つ聞きたい」

そして、将軍さんは僕の方を見て、

「お前は……この国で何をする? 我らを打ち滅ぼし、その後に何を望み、何を築き上げる?」

「知るか」

即答。
自分でもちょっとだけ驚くくらい、自然に、あっさりと……そんな言葉が口をついて出た。

「何勝手に、この戦いに変なバックグラウンド設定してんの? 何を勝手なエピソードくっつけて、信念とかかけた宿命の戦いみたいにしちゃってんの? 超うざいんだけど」

少し前まで、このおっさんが自分で醸し出していた……シリアスで、どこかしっとりした感じの空気を盛大にぶち壊す勢いでしゃべる僕に……将軍のおっさんは、ぽかんとした表情でそれを聞いている。

見た感じ、そんな返事が返ってくるとは思ってなかった、っていう風な顔だ。

やれやれ……これだからお偉いさんってのは面倒だ。

こちとらただ単に、仲間に手を出された仕返しと、今後ちょっかいをかけてこないようにヤキを入れに来てるだけだっていうのに、こっちが意図してもいない変な動機やら何やら、勝手に余計なもの邪推して付け足して、勝手に戦いの内容をややこしくするんだから。

そもそも、喧嘩を売ってきたのはそっちの方だっつーのに。

確かにこの戦いは、あんたらにしてみたら重要な一戦なのかもしれない。
国が滅ぶかどうかを決める、天下分け目の戦なのかもしれない。

確かに、この戦いの結果次第で、国内の情勢も大きく動くんだろうよ。

今まで権力を持っていた奴が失脚して、苦渋を舐めていた奴の時代が来るんだろうよ。
滅ぶ町と栄える町がそれぞれ生まれて、喜ぶ民もいれば困る民もいるんだろうよ。

勝っても負けても、色んな面で、色んな方向に、この国は劇的に変わっていく……そんな、とんでもなく大事な一戦なんだろうよ。

だけどね……そんなことには僕は興味ないし、知ったこっちゃないんだよ。

「いいように戦いを美化してんじゃないよバカ。僕はただ、『やられたからやり返してる』だけだ。あんたらが気にしてる他の事情や懸念や心残りなんか死ぬほどどうでもいいし、やることやったらあとは知らん。勝手に困って勝手に滅べ」

「……お前は……自分が関わった戦いがもたらす、この先の世の動乱に……見て見ぬふりをすると……? 当事者として、最後まで、責任を持つつもりが……ないというのか……?」

……だーかーら……最初からそれは言ってるだろっつーのに……

「欠片も、ない! 以上、話終わり!」

その後の返事は聞かず……僕は、そう言うと同時に、『焔魔橙皇』を突き出して……トップスピードの刺突を、そのおっさんの胸に突き立てた。
爆炎が噴き出し……数秒後、おっさんは影も形もなくなっていた。

ったく……人をこの『リアロストピア』って国の歴史の登場人物キャストの1人みたいに勝手に考えやがって……付き合ってらんないわ。

勝手に吹っかけてきた喧嘩の末路なんぞ知るか。困るなら勝手に困れ。滅ぶなら勝手に滅べ。

さて、と……総大将も打ち取ったし、後は兵の掃討だけだな。
もう指揮系統がまるで機能してなくて、戦うことすらせずに逃げ惑う兵士たちをプチプチ消していくだけの作業、といった感じになっている。
ろくに反撃もしてこないばかりか、錯乱して見方を手にかけてる奴までいるよ。

この分なら、壊滅させるのに、あと1時間とかかるまい。

ただし、あくまで……

(……こいつらは、だけどね)

☆☆☆

一方その頃……『オルトヘイム号』の甲板では、ミナトからリアルタイムで届く戦況を分析しつつ、エルクがぽつりとつぶやいていた。

「……こりゃホントに、私たちが着く前に終わりそうね」

「え……7万人くらい兵士いるんじゃなかった? 今の段階・・・・でも」

「もうすでに9割方終わってるみたい」

「……本格的にお義母さんに似てきたわね、あの子……」

エルクの報告に、甲板にいる『邪香猫』のメンバーその他は……ある者は戦慄を、ある者は呆れを、ある者は興奮を……それぞれに感想として覚えていた。

そんな、やや混沌とした空気の中……ほとんど気配も音もなく、甲板に降り立った者がいた。

『サテライト』を発動させていたエルクだけが、悪意を感じるほどにこっそりとやってきたその男の到着を察知し……溜息をつきながら、振り返った。

今回は敵でない、ということはわかっていても……やはり歓迎する気にはなれない、とその表情でわかりやすく表現しながら。

「来たわね、闇商人」

「はい、参上いたしましたよ、マドモアゼル」

その声に、ぎょっとしてエルクの視線の先を追い……そこに立っている白コートの男……ウェスカーの存在を目視で認知して、エルク以外の面々は驚愕を隠せない様子だった。
いくら事前に、今回は手を組んでいる相手だ、と聞いていたとしてもだ。

そんな中、唯一特に狼狽することもなく対応してくるエルクに、ウェスカーは感心しながら、

「このたびは私共『ダモクレス財団』にご用命をいただきありがとうございます。お客様にご満足いただけるよう、最大のサービスを心がけてまいりますので、どうぞ末永くご愛顧を……」

「無理」

「おや、それは残念……まあ、気が向いたときにでもお声をおかけください」

ばっさりと『今後のご愛顧』を切り捨てたエルクだが、ウェスカーもウェスカーで、本気で言っているわけではなかったのか、さらりと流していた。

「さて、時間もありませんので本題に入らせていただきましょう……こちらが今回の『茶番劇』の詳細なプランと、リアロストピア正規軍の最新の配置・分布図、そして各地における『役者』たちの潜伏場所や人数等をまとめさせていただいたものになります。それと……『小道具』を引き取らせていただきたいのですが?」

「準備はできてるわ……こっちよ」

エルクは、ウェスカーから渡された書類に簡単に目を通すと……あらかじめ用意していた『あるもの』――ウェスカーの言う『小道具』を渡すため、彼をつれて、船の中へ入っていった。



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