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第232話 喧嘩上等全面戦争
「一体どういうことだ!? 南部ガラスタ砦で、一体何が起こったというのだ!?」
朝も早い時間……場所は、『リアロストピア共和国』の首都『ネオリア』。
その中でも一際大きな建物である、政庁。その会議室。
朝一番、と言うにも早い時間で飛び込んできた、大変なニュースを原因に緊急に開催されている軍議にて……そこかしこから、同じような怒号が響き渡っていた。
『南部ガラスタ砦』……エルクやレジーナといった、今回の一件において重要な捕虜達を幽閉し、そのための戦いにおいて活躍した兵士達を休ませ、この後の戦いのために兵士達を詰めさせていたその砦が……昨日夕方に襲撃を受け、壊滅したという知らせ。
捕虜達は全員脱走、というよりも奪還され、そこで指揮を取っていた軍の幹部人員は、客将であるクラウドを含めて全滅。兵士達もその多くが命を散らし、最早軍としての体裁を保てていないままに、あちらこちらへ敗走したらしい。
その中の1名が、真夜中になってから別な砦へ逃げ延びたことから、この件が発覚した。
報告を受けたその砦の兵士達は、最初こそ『何をバカな』と言っていたが、その生き残りの兵士の鬼気迫る状態に疑念を抱き、確認の早馬を出したところ……真実だと判明。
直ちに首都に向けて報告を走らせ……今に至る。
高位の貴族と思しき壮年の男たちが集められ、突如として持ち込まれた信じられない事態に、どうしたものかと、唾を飛ばしながら喧々諤々の議論をぶつけている。
もっとも……内容そのものは、保身にかかるものが大半を占めるようではあるが。
「だから、さっきから言っているだろう! 私の部署に持ち込まれた情報は、これで全てだと!」
「バカを言うな! こんな程度の情報で何が決まるものか、職務の怠慢では無いのか!」
「何だと!?」
「ええい、落ち着かぬか、お前達はァ!!」
その様子についにたまりかねたと思しき、上座に座る者……現リアロストピア国王が、一喝してその場を黙らせた。
そして王は、1人の男に目を向けて問いかけた。
「場を仕切りなおす。ガーソン伯爵、今一度報告で入った内容を皆に述べよ。その際、入ってきた情報全てを述べるように。何が必要で何が不要かのの取捨選択は、皆で行う」
「は、はっ! で、では……皆様、今しばしご清聴を……」
再度、情報の入手元であるという男……この王都で情報統括を担当している、ガーソン伯爵により、かいつまんで報告がなされ……出席者達は、各々の頭の中で要点をまとめた。
襲撃を受けたのは、昨日の夕方ごろである。
実行犯は、報告によれば3人。内部にいたハイエルフの裏切り者を含む。
実行犯の1人は、例の『旧王家の生き残り』の黒髪黒目の少年。
捕虜は、『生き残り』であるレジーナを含め、全員奪還された。
砦は壊滅。幹部は全員死亡。敗残兵はほぼ全員逃亡し、再編成は不可能。
「……にわかには、信じがたい報告だが……確認はしたのか?」
「さすがに距離がありますので、私の手の者が直接したわけでは。ただ、近傍の砦の責任者の公印の押された書類を受け取っておりますので、事実と判断できるかと」
「バカな! たった3名に砦1つが壊滅だと!? そんなことあってたまるか!」
と、貴族の1人が言い出し、またしても会議が紛糾しそうになった所で……再び国王が睨みを効かせ、腰を浮かしかけていた者たちは、椅子に座りなおした。
「……その3名、1人は内部にいた裏切り者だったな? それも、ハイエルフの」
「は……そのように報告を受けております。なお、その者は城の中で交戦の末死んだようです。死体が見つかったとのことでしたので、間違いないかと」
「なんと……くっ、亜人め、このような形で我々に恩を仇で返すとは……!」
「やはりあのような連中、付け上がらせるべきではありませんな。今後このようなことのないよう、一度大規模に粛清を行って、身の程というものを思い知らせてやるべきでは?」
「まあ、その話は後にしましょう……今は襲撃の実行犯についてです。して、ガーソン伯、残りの2人のうち、1人は例の男だそうですが……もう1人は?」
「騎士のような格好をした、若い女だったそうです。髪色は水色で……身元までは……。黒服の男の別働隊としてひそかに侵入し、脱走を幇助したと思われます」
この『水色の髪の、騎士のような女』とは……もちろん、『バルゴ』に憑依して実体化したリュドネラのことである。
「し、しかし……たった2、3人だけに砦が壊滅させられた、というのは、あまりにも荒唐無稽では!? 以下に腕利きの冒険者とはいえ、数百人の兵士を相手にすれば……いずれは消耗し、体力・魔力が底をついて倒れるものでしょう?」
「確かに……その兵士が確認できた者がそれだけだった、という可能性もありますな」
「魔物を使役していた、とも聞きましたが?」
「戦闘能力が高い者は、総じて一芸を極めた者が多いものです。自身の戦闘能力だけで規格外の者が、他にいくつも力を隠しているというのは……いささか不自然では?」
「と、いうことは……仲間が何人か隠れていたという可能性もあるわけですな? 魔物の召喚・使役や、脱走の幇助も、そやつらの手引きやも」
「そう考えるのが自然でしょう……冷静になって考えてみれば、いくらなんでも、たった2人で砦を落とすなど、考えられますまい?」
『現場』という者を知らない貴族たちでは、このようなところに議論が落ち着いてしまうのも、ある程度仕方ない結果と言えよう。彼らの常識では、人間とはいかに個として強かれど、数の暴力には勝てないものである、という考え方が根本にある。
それを意にも介さない存在など、それこそ異形の魔物のようなものくらいである……いや、それすらも兵力を投入すればどうにかなる、というのが、彼らの共通の常識だった。
「さて……大げさに伝わってしまったならず者共の虚像におびえるのも、このくらいにして……建設的な議論に入ろうではありませんか?」
貴族の誰かが、すっかり落ち着きと余裕……そして、普段の偉そうな態度を取り戻しつつ、似たような状態に戻りつつある参加者達に呼びかけた。
「そうですな……まず第一に、奪われた小娘を含む『生き残り』2人ですが……追っ手を出すのは確定として、どうします? もういっそ、始末してしまった方がいいのでは?」
「確かに……落としどころを見つけて、『旧王家派』ともども懐柔すればと考えておりましたが……この分だと、予想以上にそ奴らは爆弾ですな。身内に抱えても、リスクが大きく……いつまた我らに刃を向けるかという不安は、中々消えそうにないやも」
「連中の昨今の士気上昇は、旧王家の生き残りの発見に端を発する……ならばその者が死んでしまえば、今度こそ復興の望みもたたれ、絶望して大人しくなるのでは? そこをついて根絶やしにしてもいいし……大人しく田舎にでも引っ込んでくれれば、それもよし」
「ですな。命乞いでもしてくればまた別ですが……」
このあたりから、彼らの話は……普段の、自分達の欲望を全面に押し出し、その他を二の次に押しやったものへと変わっていく。
喉元過ぎれば何とやら、とでも言うのだろうか……話題はすっかり、この騒乱を収めた後に、首謀者達にどう落とし前を付けさせてやるべきか、という所へシフトしていた。
「いっそ、男の方が命乞いをしてきてくれればよいのですが……武に優れる様子ですし、戦奴隷になどできれば、実用性がある」
「いや、やはり女の方では? 兵士の替えなどいくらでもいますし……飼い殺しにしつつ、目上の者に対する礼儀作法というもの、夜な夜なを叩き込んでやるのも面白い」
「そういえば、同行している者たちの中にも、見目麗しい女子が何人もいたとか」
「旅芸人一座を隠れ蓑にしているらしいですな……男の方は冒険者ですが、仲間には同じように、身の引き締まった女子が幾人も……当然そやつらに関しても、ならず者の同胞として捕えて差し支えないのでしょう?」
「国家反逆罪での捕虜となれば、身柄の保証などあってないようなものですからな。取調べということで、王都に召喚してしまえば……まあ、事務的な所はどうとでもなる」
「うむ。まずは我々が直々に、その罪深さを教えてやるとして、その後は……まあ、何人かは兵士共に回してやってもいいかもしれんな」
「そういえば、最近使っている奴隷が古くなって、具合が悪くなってきたのでした。これはある意味、丁度いい機会やも……」
「奴隷商にも声をかけておきましょう。犯罪奴隷として一度そこに流し、そこから買い上げる形にすればいい。法も侵さず、商人の懐も潤う。ほほ、皆が幸せになれますな」
それぞれの欲望を存分に吐露し、会議冒頭の不安感などすっかりどこかへ追いやってしまった貴族達。
それを見ていた、彼らの意見のまとめ役となっているガーソン伯は、
(……本当にそれでよいのか……? そのように簡単に、欲望に満ちた緩い予想が達成できるものなのか!? 私には、こやつらが……熊の巣穴の前でたき火をして肉を焼いているような愚か者にしか見えん……それは、私が、間違っているのだろうか……?)
「さて、では……何にせよまずは、まぐれで人質を取り返し、いい気になっている愚か者共をひっとらえる所からですな。問題となるのは……旗印となる2人が戻った所で、旧王家派が大規模な活動を始める可能性がある所くらい、ですか」
「ならばいっそ、この機に奴らを殲滅してしまいましょうぞ。軍の大部分を動員し、国内全域の叛徒共を端から叩いていくのです。浮き足立った所をいとも簡単に叩き潰されれば、頭も冷えるでしょうからな……今度こそ奴ら、自分たちの身の程を思い知る時でしょう」
「付け足すならば、連中に加担し、かくまっていた村々を、物品を接収した上で見せしめに焼き払ってしまうのがいいかと。今後同じようなことが起きないための防止策になりますし……昨今何かとうるさい陳情を自粛してもらう、いい薬にもなります」
「うむ。両民共……旧王家の打倒によって新しい国に住めるようになったというのに、その舵取りをしている我らに負担を強いるようなことを述べるようになって……生意気な。ここらで灸をすえねばならんと思っていたところだったのだ」
「黙って我らの指示に従い、農地を耕して税を治めていればよいものを……それが、あの者共のあるべき姿。今以上を望む傲慢を、この機に正してやりましょうか」
いつもの姿を取り戻した貴族達による、『取らぬ狸の皮算用』を絵に書いたような会議は、その後数十分続けられ……そこで決まった方針は、直ちに軍部に伝えられた。
十数年前のクーデター以来の規模となる、大規模な軍事行動。
目的は、国家反逆者の掃滅。及び、その首謀者一味の身柄の確保、あるいは殺害。
王都直近の砦に軍を集結させ、そこからローラー作戦の要領で北上。途中にある村々を査察し、反乱者がいた場合はしかるべき対処を行いつつ、最終的に首謀者を確保する。
旧王家派のうるさい連中を、ようやく黙らせることができる……そんな思惑を脳内に躍らせながら、貴族達は議場を後にしたのだった。
その余裕の笑みが、数日後、どうなるかも知らないで……
☆☆☆
同時刻、
どこか、深い森の中……そこに用意された、城とは呼ばないまでも、かなり大きな邸宅。
その一室……会議室にも、大食堂にも見える部屋で……異形の者たちが、卓を囲んでいた。
ほとんど人間と変わらない姿をしている者から……かなり人型からは逸脱した姿かたちをしているものまでいる。
それぞれ椅子についているが……容姿や大きさの関係から、椅子に『つく』ということが出来ないものもいる。
その数……全部で9名。
「……しかし、壮観じゃのう……十氏族の長が一度に揃うなど、何年ぶりのことか」
「今や、九氏族だけどね」
全身を鱗に覆われ、指に水かき、背中やうなじにヒレの生えた男が、おかしがるような調子で言えば……下半身が蛇の胴体になっている妖艶な美女が、呆れたように返し、
「左様……『ネガエルフ』の連中が、目も当てられぬほどになり、我らの前より去ってから……早いもので、もう2年か」
「2年も20年もさして変わりない……永劫に近い時を生きる我らにとってはな」
下半身が馬になっている壮年の男が、懐かしみつつも疎ましがるような調子でそう述べれば、青白い肌に鋭く長い牙が特徴的な身なりのいい男が、無感情に呟く。
「だが……酒を飲んでだべるだけの生活ももう終わりということじゃあ! そのために今日こうしてワシらを集めたのじゃろう? ボスよォ!?」
「ウラノス! うるせぇぞ! 毎度毎度ムダに声がでけぇんだよテメェはァ!」
「人のこと言えた義理かテメェコラ、ガルガル!!」
「落ち着きたまえよ君達……全く、相変わらず品のない。あとヴォルフ、君一番うるさいよ」
3mはあろう大柄な、山賊風の男が、部屋全体に響くほどの大声で言えば……頭に2本の角の生えた、同じくらいに大柄の男が怒鳴りつけ……さらにその男を、体毛に覆われた体に狼の頭を持つ、(おそらくは)男性がさらに怒鳴りつけ……それをいさめつつ、同時に見下すような視線を投げかけながら、背中から翼の生えている優男が声をかける。
その様子を、上座に座って見ていた、色白の肌に長い金髪、あご髭と口ひげ……そして、長く尖った耳が特徴的な、渋みと貫禄を漂わせる壮年の男が、ため息をついた。
「騒がしいことよ……来る聖戦を前に、少しは静謐にしているということができんのか」
「無理な話よ、そんなの。私らがどういう集団かってことくらい……あんたも同じ穴の狢なんだから、知ってるでしょ?」
「ああ……今更、気にすることでもない」
下半身が蛇の女と、青白い肌の男が、そっけなく言う。それを聞いた翼の男は、
「的を射ているが……エキドナも、ヴラドも、元も子もないことを言うね。ガレス、ハザウル……君達からも何か言ってやりたまえよ」
「気にしなければよいだけの話だろう……それに、言っていることは全面的に正しいと言っていい。我らはそれぞれ、自らが在りたいように在ることしかできんのだ」
「そういうことじゃ、イカロス……しかし、話が進まんのう。ボスよ、騒がしいのは無視して、本題に入ってしまってはどうじゃ? 時間もあるわけではないのじゃろう?」
下半身が馬の男と、半魚人の見た目の男が、それぞれ興味なさげにそう言ってのける、
「……確かに、ハザウルの言うとおりだ。時間を無駄にすることもない……皆、しばし聞け」
耳の長い男のその言葉に、室内は……完全に静寂、というわけでは無いが、一応、話を聴く姿勢に入り……それを確認して、男は口を開く。
「気は熟した……我らが行動を起こしてより半世紀、結果が目に見える形で実り始めてより十数年……人間共は、その愚かしさ極まる行いにより、自らの国が死のうとしていることすらわからずに、かりそめの楽園にて惰眠をむさぼっている……」
「我らを御することに成功し、優位に立っていると思い込み、悦に浸っているわけだ……ふふん、暗愚な下等種族らしい勘違いだね」
「暴走を抑え、窮地を救い、対立を取り持っていると思われている我らが……自分たちが『亜人』などと呼ぶ者たちが、すでに結託しているなどとは、考えもしておらんのじゃろう」
「そう勘違いするように誘導してあげたのは、私達だけどね」
「だが、そろそろ夢から覚ましてやるのもいい」
不思議なもので……話を進めるうちに、静かにこそならなかったとはいえ、全員が同じことを考え始め、一応のところ、心を1つに纏めつつあった。
それを、上座から見下ろすようにして確認し、男はさらに口を開く。
「近く、この国は終わりを迎える……無能なる人間共の偽りの天下は終わり、真なる支配者に玉座を返してもらう時がきたのだ。その時、この『リアロストピア』は……我ら、力ある氏族の天領となる」
『ボス』と呼ばれた男の、演説か何かを思わせる言葉に、聞き入るようにしている8人。
『ハイエルフ族』と同様……この国では、『亜人』と呼ばれる者たちが、人間と手を結び、半ばその庇護を受けるような形で存続を可能にしていた。
およそ150年ほど前から始まったその交易があったからこそ、僻地に住んで数を減らしていた亜人達は、幾度かあった侵攻に耐えて今まで生き延びることが出来、人間は人間で……ミナト達が言っていたように、砂礫ばかりで資源に乏しいこの大地で、それなりに豊かに暮らしていくことが出来ていたのである。
それもあって、この国の民には、亜人だということで差別的な見方をする者はあまりおらず、町や村での人間と亜人との交流は割と自然に行われてきていた。
しかし、民達はともかく……国の高い地位に生きている者達は、亜人達を見下している者も多かった。自分たちが庇護してやるからこそ、奴らは生きていられる……自分達は、奴らの上に立っているのだ、と。
そして、亜人達のうち……『氏族』と呼ばれる、古い歴史と、それゆえに高いプライドを持つ者たちは……人間に恭順して『支えあう』などというやり方を嫌っていた。
力が衰退したがゆえに、戦乱を避けるため、という理由で甘んじてはいたが……いつか、彼らの考える『あるべき姿』に戻ってやろうと、虎視淡々とその時を待っていた。
そういった考え方を持つ亜人は、当時まだ『ベイオリア』という名だったこの国においては、どちらかといえば少数派であったかもしれない。人間達との心地よい共存関係に、満足している者も多かったのだ。
しかし、彼ら『氏族』は――亜人の中において、貴族や王族などと似ている……その種族の代表格のような一派である――単純な数ではなく、その力の強さという面で見れば、同族の他の者たちを大きく上回っていたと言える。それゆえに、自分たちが先駆けとなって、惰眠をむさぼるに甘んじている同族をたたき起こす……という目的意識を持ってもいた。
やがて、少しずつ彼らのもとに力が戻るに従い……彼らは、野望を現実のものとするため、行動を起こし始める。
「我らはこれまで、1上辺だけの方便とはいえ、人間と対等の地位などという苦境に甘んじてきた……しかし、とうとうそれをあるべき姿に戻す時が来た」
「左様! 人間など我ら選ばれし種族の足元にも及ばぬ! 下僕に過ぎんわ!」
「数ばかり多い下等な者たちに、身の程を教えてあげなければね……」
「然り……全員、里に戻り次第、戦仕度をせよ! 此度の戦にて……我々は、あるべき姿を取り戻すのだ!」
ハイエルフの総本山『ステイルヘイム』の王……ギャナーガスは、同士である『ラミア族』『吸血鬼族』『オーグル族』『巨人族』『ギルマン族』『ケンタウロス族』『翼人族』『人狼族』の代表達を前に……力強くそう言い切った。
☆☆☆
「……くぁ……! あー、よく寝た」
むくり、と……毛布を押しのけて起き上がる。
時刻は……午前6時。うん、いつもと同じくらいの時間帯だ。
えーっと、ここは……ああ、そうだ。オルトヘイム号の僕の部屋だ。
昨日の夜、エルク達つれて拠点のキャンプに戻ってきて……その後、奪還記念の宴会した。
まだまだやることはたくさんあったけど……まあ、今夜くらいはいいだろ、ってことで。
シェリー達も、無事帰ってきたエルクに抱きついたりして、すっごく喜んでたし。僕が負けることは無いだろうと思ってたし、ネリドラ経由でリアルタイムで情報を聞いてたものの、やっぱり顔を見て安心したみたいだった。
シェリーは今言った感じで飛び込んで抱きついてたし、ナナとクロエは、抱きつきこそしなかったものの、『よかった~!』って本当に心から安堵した様子。
ネリドラとミュウ、シェーンも、前の3人ほど表情に変化はなかったけど、安心した様子はありありとわかった。
そんな若人達を見て、セレナ義姉さんとノエル姉さんは、うんうん、って頷いてた。
で、一番安心してたのはターニャちゃんだ。
『お姉さま』ことエルクとの付き合いが僕よりも長い彼女は、帰ってきたエルクを見た途端、どこにそんな力があったんだ、っていうくらいのパワーでシェリーさんを押しのけ……わんわんと大泣きしながらエルクにだきついて、そのまま数分離れなかった。
その後しばらくしたら、なんと泣き疲れて寝ちゃったんだから驚きだ。
で、横を見ると……その泣かれた側のエルクが、すやすやと寝ている。
起こすのはやめとこう。一晩で奪還したとはいえ……捕虜なんて体験して、牢屋に入れられて、精神的な疲労も大きかっただろうし。
ひょっとしたら、このまま昼くらいまで寝てるかもしれないが、それはそれで構わない。
これからの『準備』は……ひとまず、やれるところまでは僕がやればいい。
え、『準備』って何かって?
そりゃもちろん……この国を相手取った喧嘩の、本番の準備だよ。
まず、あの砦の連中は壊滅させたとはいえ、あいつらは尖兵に過ぎない。あいつらに指示を出し、『旧王派』を弾圧・摘発しようとしていた黒幕……すなわち、現政権の連中は健在だ。
すでに王都に『南部ガラスタ砦壊滅』の報告が入っており、今日にも対応……おそらくは、軍事行動になるであろう見通しのそれは始まるだろうとのこと。
と同時に、何か水面下でちまちまテロとかやってる『旧王家派』。こいつらも邪魔。
さらに、エルク達からの情報で、表向き現政権に強力してるハイエルフの連中がさらに影で何か企んでるようなので、場合によってはその連中も相手にする必要がある。
僕ら『邪香猫』が平穏を取り戻すには、それを含めて全部を粉砕するしかない。
まず手始めに、旅芸人を隠れ蓑にしていた『フラワー』の連中は、全員この『オルトヘイム号』の牢屋にぶち込んでおいた。
僕が帰ってくるやいなや、また同じようなこと言い出してやかましかったのもあるし……レジーナにも言い寄り始めた。
丁度その時、レジーナは……自分の身の上や、あのジジイ連中に『神輿』として協力することになった経緯――予想通り、半ば脅されて無理矢理だった――なんかを話した上で、真正面から僕らや『知らされてなかった組』に謝罪してた所だった。
事情を聞かされた時、レジーナは最初は拒んだ。そんな身分要らない、と。
しかし、レジーナが王家の生き残りであることは事実であり、自分の大切な者たちに危険が及ぶ可能性がある。不運にもレジーナの親類縁者や仲のいい者たちのいる町や村には、『旧王家派』の構成員の拠点があることもあり、そこから遠からず現政権はその事実に気付くだろう。彼らを助けるためには、先手必勝、自分が力を持って立ち上がるしかない。
そんな言葉で説得――もとい、脅迫され、苦しみながら決断したそうだ。自分の夢や楽しみを全て捨ててでも、大切な人達を守るために、自分は『神輿』をやろうと。
決して……大層な大義やら何やらなんぞ、考えたりせずに、だ。
元・副団長を前に、レジーナは……どうやら、押さえ込んでいた感情が爆発したようで、
『もう嫌! 私、女王なんてやりたくない! 私はレジーナ・ドララットよ、ベイオリウスじゃない! 私は……私は普通に、楽しく歌って踊って、皆と過ごせればそれでいいのに! 勝手な宿命だの運命だの押し付けないで! わけわかんないことに巻き込まないでよ!』
目に涙を浮かべて、そう叫んだレジーナは……そのまま泣き崩れた。
それでもあーだこーだ言い出し、最終的に『ならばミナト殿が王となれば、あなたはより自由な身の上となりましょう! 我々と共に説得を!』だの『以前にも申しました通り、あなたが立ち上がることこそ、ステラ達を……あなたの大切な人々を守る手段なのですぞ!』だのとほざきだしたので、聞いてらんなくなって物理的に黙らせたんだっけ。
こういう、宗教に近い盲信者には何を言ってもムダ。筋道通った反論をいくらしようとも、筋道通ってない暴論で返してくる。相手にしないのが一番だ。
前にも似たような某正義バカを相手にしたことがあるが、こいつはアレよりたちが悪い。
アレがマシというつもりはないが、曲がりなりにも誰かを幸せにしよう、苦境から救おうと思って行動してたあいつと違い、こっちはもうすでに居もしない『旧王家』への義理のためだけに、立場も主張も何も構わず、いろんな人の人生を滅茶苦茶にしようとしてるんだから。
一応『国民のため』とかも言ってたけど、多分それがなくてもこいつらやるだろうし。レジーナ脅してテロかクーデター起こそうとする気がするし。
それが正しい、あるべき姿だ、現政権は悪だ、って……最近似たような主張聞いたな。
もうぶっちゃけウザいから、その場で殺そうかとも思ったんだけど、何か使い道あるかもしれないし、一応生かしておこうってことで、脱走の心配のないこの船の牢屋に入れた。
そんなことを考えながら、僕はエルクを起こさないように、そっとベッドから抜け出し……アルバに『あとよろしく』と小声で伝えた後、甲板まで出た。
肌寒い風が僕の肌を撫で、しかしそれによってすっきりと目覚めることが出来た所で……待つ間に、1つ情報を整理しておこうか。
さっき僕は、『すでに王都に『南部ガラスタ砦壊滅』の報告が入っている』と述べたが……この情報はどこから来たのか、というところだ。
僕は帰ってからずっと、エルクと一緒にいた。
飲み食いして騒いでる間はもちろん、部屋に戻ってからも、風呂入る時も、寝る時も。どちらが言うでもなく、トイレ以外ずっと一緒にいて……そのままその日を終えた。
その間、偵察に出たわけでもないし、偵察を放ったわけでもない。
というかそもそも、ずっと南にあるという王都『ネオリア』までは、数百キロだか距離があるので、普通の移動手段では数時間じゃとても往復できない。ましてや、諜報なんぞやれるはずがない。そういうCPUMとかも、まだ作ってないし。まだ。
ではなぜ、王都に情報が伝わっている、などという情報が僕の手元にあるのかと言うと……それは、昨晩のことだった。
宴会が一区切りついて、僕とエルクが今のように甲板で涼んでいた所に現れた、こいつに聞かされたのだ。今、僕の後ろに立っている……こいつに。
「おはようございます、ミナト・キャドリーユ殿」
「……おはよ、ウェスカー」
くるりと回れ右してみると、いつものポーカーフェイス+イケメンスマイルを顔に貼り付けた、白黒コートの男がそこに立っていた。
昨日の夜も、こんな感じでこいつは僕らの前に現れた。
タイミングがタイミングだけに、夜の闇の中からいきなり現れたこいつに、僕もエルクもぎょっとして警戒したものだが……今回はどうやら(今回も、か?)、僕らに何かするような目的で訪れたわけでは無いらしい。
しかし、ただ顔を見せに来たというわけでも当然なく……ウェスカーは僕に、ちょっとした『取引』の申し出をしに来たのだった。
簡単に説明を受けると、こいつ……というか、こいつが所属している『ダモクレス財団』は、前々からこの国で色々と暗躍していたらしい。
紛争・内戦を行っている、『現体制派』と『旧王家派』の双方へ武器を売りつけるという、まんま『死の商人』的なことに始まり……情報の売買や、奴隷の流通。
さらに、亜人が多く所属していたことから、そのへんとの調査や交易もやってたそうな。
もっとも、ハイエルフを主とするその『亜人』の連中は、やはりというか見下した感じの連中が多いせいで、取引する品物の品質はともかく、関係としては理想的なものが築けたとは言いがたく、年々取引条件も好ましくないものになっていくので、切り時だと思ってたらしい。
同時に、現政権もいろんな意味で末期なので、絞れるだけ搾り取って、あとは内乱で滅ぶなりなんなりさせようと思ってたそうだ。容赦ないな。
で、そんな国で最後の商売に取り掛かろうとしていたこいつが、僕に何の用、というか取引だったのか……っていう話に戻るんだけど、
簡単に言うと、ウェスカーからの話は2つ。
1つは、耳が早いコイツは、僕の出自や、それが原因で降りかかってくる面倒ごとを断ち切るために、僕が暴れるつもりだということも知っていた。
それに関して、『手を組まないか』というもの。
具体的には、僕が動くのに都合のいいように、この国の軍の動きの密告や、今後ウザそうな『旧王家派』の調査、さらには奪い取った戦利品の売却・洗浄もやってくれるという。
あ、洗浄って、クリーニングじゃなくて、ロンダリング的な意味のアレね。
報酬の額なんかは、応相談、とのことだった。
そしてもう1つは……僕が動いたことで、ウェスカーは『この国も終わりだな』と悟ったのか、最後にひとつ大きな商売を考えているそうだ。内容は秘密らしいが。
その商売を上手く運ぶために、僕にも一部協力してもらいたいらしい。
最も、盗みやらなにやらの片棒を担いでほしいとか言うわけじゃなく……どうも『何かをしないで欲しい』って感じの申し出みたいだ。
で、昨日の夜のうちに答えを聞くことはせず、ウェスカーは僕らに、そこそこ分厚い書類の束を渡し……『ご一考ください』と言い残して消えた。
ナナ達に手伝ってもらいながら分析した所、その書類は……この国の軍部の内部資料だった。それも、かなり重要な情報がわんさか載ってる感じの。
とんでもないのを説得材料に置いてったもんだ、あの男……こりゃ、わりと本気だな。
その夜、宴会後にみんなで話し合って、この要求をどうするか決めて……
で、今、その返事を聞きに、こいつはこうしてここに来ているわけだ。
「……なるほど。お受けいただけますか」
「ああ。と言っても、情報に関してはともかく……資金洗浄とかについてはあんまり考えてないよ。お前んとこを完全に信用できるわけじゃないし……。素材とかならぶん捕って普通に僕が使うし。要らないもん引き取ってもらったりはするかもしれないけど」
「そうですか、それは残念……それで、もう1つの条件……こちらからの要求に関してなのですが……簡単に申し上げれば、『現政権側以外の相手をしないで欲しい』という所ですかね」
? どういう意味?
「結論を申し上げますと……現在この国では、民衆達によるクーデターが計画されているのですよ。それも……『旧王家派』とは、全く関係のない経路で」
そのクーデターは、『ダモクレス』の息のかかった、というか協力関係にある連中が主導して行っているそうで……今はまだ水面下でのみの活動で、『旧王家派』を隠れ蓑にして上手いこと現政権に気取られないように準備を進めていたらしい。
この国の現政権を打ち倒し、現政権でも旧王家でもない、自分達のための政治をやるために……『民主主義』に近い感じの、議会を国の決定機関にすえて政治を行うことが出来る体制を目指して、民衆が立ち上がろうとしているんだそうだ。
それを準備はほぼ整っているらしいが、そこにこの国で僕が暴れる、という情報を得た『ダモクレス』は……それを利用しようと考えた。
僕が暴れれば、この国は国家崩壊級の大ダメージを受けるだろうと思われる。
しかし、僕の性格からして、この国を支配しようとか考えているわけでもないはず。
ならば、それを利用し……僕が暴れて国がぐらついた所を倒せば、最小限の被害・労力で最大限の結果を出せるだろう、と『ダモクレス』および、革命の中心人物は考えた。
ゆえにウェスカーは、それをあらかじめ僕に了承して欲しいそうだ。
現政権打倒の暁には、僕が暴れた分も含めて、民衆の怒りによる『革命』の結果ということにして喧伝する。そのため、僕の戦果はほとんどまんま『革命』の指導者達の戦果になる。
それを了承して欲しいとのこと。
加えて、革命の邪魔をしないでほしい……すなわち、国の軍はいくら殺戮してくれても構わないが、巻き添え含め、極力民衆に手を出すことはしないでほしいらしい。
暴徒化して略奪とかしてたり、逃げ惑う貴族とかの肥え太った連中を袋叩きにしてる光景とかがあって、ちょっと目障りかも知れないけど、見逃してね、とのことだ。
どちらも……特段、僕に不都合は無いな。
戦果なんかに興味は無い。僕はただ、実害を及ぼしてくる連中を排除したいだけだし……その事実を隠す結果になるのであれば、むしろありがたいかもしれない。
無関係の民衆も、別にどうこうするつもりは元々なかったので、それもいい。
そう伝えると、ウェスカーは丁寧に礼を述べた上で……僕への情報提供について、という点に話題を移してきた。
「報告に関しては、我々の所で使っている召喚獣に手紙を運ばせる、あるいは私が直接あなた方の所にお持ちします。信憑性についてはその都度お話しましょう。それと、報酬ですが……今回は当方からも要求を呑んでいただいていますので、多少勉強させていただきます」
「ふーん……差し引きチャラになったりはしないの?」
「それは難しいですね。当方としては、拒否されたらされたで別な方策を考えればいいだけの話でしたので。無論、効率等は落ちるでしょうが、それでも十分な戦果を見込めます」
なるほど……そういわれればそうだな。
仮に僕が2つ目の要求を呑まなかったとしても、僕はどっちみちこの国を滅ぼす。とりあえず今後ちょっかい出してこないであろうレベルまで、現政権を叩き潰す。
その『僕が国を滅ぼした』っていう話が、隠されずに流布されることなり――それは別にいいんだけどね。母さんも昔やってたっぽいし――今後、ちょっと面倒かもしれない。
『ダモクレス』及び『革命』側は、極論、時期をちょっとずらすだけでもいいのだ。
僕が国を滅ぼした後、ここを去るのを待ってから行動を起こせば、到底建て直しの出来ていない国をひっくり返すことくらいは簡単に出来るだろう。被害も、僕の喧嘩と同時にやる場合よりは多いかもしれないが、平時に革命を起こすより断然少ないだろうし。
まあ、『革命』っていうより、無政府状態の国を纏める、って形になるかもしれないが。
そう考えると、僕にメリットがあるわけだから……ウェスカーの言ってることは間違ってはいないわけだ。
「もっとも、さすがに大国の諜報能力までごまかせるかと聞かれれば難しいですので……ネスティアのあの王女様を含め、各国上層部あたりは真実を知ることになるかもしれません」
『あの』王女様……で誰のことかわかるってのもすごいな。
「ああ、それはどっち道……っていうか、もう知ってるかも。僕の方からドレーク兄さんに、『隣国滅ぼすから』って昨日手紙送ったし」
「おや、左様でしたか。まあ、それは別にいいでしょう……かの国も、藪をつついて蛇を出すような真似はしないでしょうしね」
あっそう。
「さて、話を戻しましょう……報酬についてですが、こちらに見積を用意しました。ごらん頂いて、これをもとに交渉を進めたいと思いますが……いかがです?」
と、ウェスカーが差し出してきた、紙数枚程度の束であろう薄い冊子を受け取りつつ……
「それはいいけどさ……ちょっと参考までに聞きたいんだけど、いい?」
「? 何です?」
「随分前の話を掘り返すんだけど……コレ、その報酬の足しとかになる?」
言いながら、僕は……『帯』からあるものを出し、ウェスカーに突き出した。
それを目にして……珍しくウェスカーがそのポーカーフェイスを崩し、驚愕を露にした。
「……なんと……」
数秒ほどそのまま時間がたっても、ウェスカーは表情を取り繕おうとしない。今更やっても、とか思ってるのか……それともただ単に、驚き続けてるのか……。
視線の先にあるのは……数ヶ月前、僕が母さんと『ネガの神殿』を探検してた時に見つけた『魔祖の棺』だ。
一年以上前になるが、こいつは王都で『魔祖の棺』を集めている的なことを言っていたはず。
その時、渡してくれれば買い取る、と言っていた。だから、今回コレで代金の足しになれば、と思って提案してみたのである。
ただ、1つ懸念がある。
この棺、実は……
「あ、でもさウェスカー。この『棺』なんだけど……鍵開けたら、かかってたらしい術式が消えちゃって、ただの金属製の箱になっちゃってるんだけど、それでもいい?」
この『魔祖の棺』、当然僕と師匠で調べてみたんだけど……どうも、鍵を使って開錠すると、組み込まれていた防御と呪いの術式が失われてしまうらしいのだ。
開けた直後はまだあったんだけど……その後、徐々にその反応がなくなり、しばらくすると、ほとんど魔力を……それこそ、この箱のレアメタルにこびりついてるごく僅かな魔力くらいしか感じ取れないほどに、キレイさっぱり消えてしまっていた。
残滓すら残っておらず、当然逆算して再現したりもできないとわかった時は……師匠と揃って落胆したものだ。まだ研究したりなかったのに、と。
構成する金属は、ちょっと端っこを削って調べてみると……そこそこ貴重であれど、金で手に入るようなものばかりだったので、今ではすっかり『ちょっと豪華な箱』なのである。
ウェスカーはあの時、同じように『開錠された』棺を……正確には、母さんが『開錠』したと思っていた――実際には破壊されていたわけだが――僕が持っていると思って欲しがってたから、大丈夫だとは思う。
……今思うと、あの時ウェスカーは、もしかしたら知っていたのかもしれない。『魔祖の棺』が、鍵で開けると力を失うことを。
だから僕が、開けた後の空箱を持ってるかもしれないと思ってたんだろう。
そして、僕の予想はどうやらあたりだったようで、ウェスカーは『失礼』と一言断って僕から『棺』を受け取り、ポケットからルーペのようなものを取り出して、鑑定?を始めた。
そのまま、たっぷり1分ほどもかけて、隅々まで見たかと思うと……
「……本物のようですね。驚きました……まさか、コレを出されるとは」
「お気に召したんなら何より。それ、いくらぐらいになるかな? 報酬の足しになる?」
「足しどころか、コレだと貰いすぎですね……その上、鍵まで付けていただけるとなると……」
そのまま、しばし考えるように視線を宙にさまよわせ、
「……よし、ではこうしましょう。報酬はコレで全てで結構です。加えて、我々『ダモクレス財団』で、情報面等から最大限のサポートをさせていただきます。そうですね……あなた方の移動や戦力等に関する情報操作を行って、有利に行動できるようにいたしましょう。その他、ご要望があればなんなりとおっしゃってください」
と、言ってきた。
え、何それ? マジで? いいの、そんなに?
「ええ……差額が、チップでもらえる分の査定額を超えていますし……『総裁』から、コレを渡されるようなことがあれば、その方に最大限の便宜を計るように仰せつかっていますので」
との返答だが……気になる単語が出てきたな。『総裁』?
語感からして、こいつらのボス的な立ち位置みたいだけど……?
ちょっと面食らっている僕に対し、ウェスカーは営業スマイルを一応浮かべなおしつつも、先ほどよりも明らかに真剣な感じになって、さらに交渉を進める。
交渉といっても、値切りとか腹の探りあいとかではなく……ただ単に、僕の方から『ダモクレス』に依頼する内容を詰めただけだけど。
「では……以上の内容で契約を遂行させていただきます。その他にも何かご用命・ご質問等ございましたら、いつでもお申し付けくださいませ、お客様」
「……なんかお前からそう呼ばれると、悪いけどちょっと気持ち悪いな……まあいいや、んじゃ、ほどほどによろしくってことで」
「かしこまりました。『ダモクレス財団』最高幹部ウェスカー・サービュナイト、全霊を持ってご期待に沿えるよう努力いたします。どうぞ、今後ともご愛顧のほどを……」
そういい残して……何気に初めてフルネームで名乗ったウェスカーは、転移して去った。
つか、あいつ最高幹部なんだ?
今後ご愛顧はないと思うけど……しかし、ここに来て意外な味方がついたもんだ。
敵の敵は味方、的な感じの関係だけど……まあいいや、アウトローとは言え、心強いっちゃ心強い。あいつの戦闘能力は、僕が身をもって知ってるし。
……それに、だ。
「アウトローな味方なら……こっちにもいるしね。とびっきりヤバいのが……あたっ」
「誰が飛びっきりヤバいアウトローやて? コラ」
びしっ、と後ろから決まるチョップ。
振り返ると……そこには、半眼になってこっちを見ているノエル姉さんがいた。
「あたた……見てたの? ずっと」
「話の内容によっては止めたろ思てな。あんた交渉事得意やあらへんし、変な約束取り付けられでもしたら困るやろ?」
「それは確かにね。ありがと姉さん……それはそうと、さ」
そこで僕は言葉を区切って……姉さんの姿を、改めて見る。
今、姉さんが纏っている服は……いつもの服とは違うそれだ。
いつもの服が、『和服+洋風+薄桃色』って感じのゆったりめのものだとすると……今着てるのは、『道着袴+洋服+黒』って感じだ。
コスプレ……に見えなくもないんだけど、何か、着てる人が人だけあって、貫禄とか威圧感がすごい。加えて……今のノエル姉さん、いつものノエル姉さんじゃないので。見た目も、中身も。
どういうことかというと……
「昨日も聞いたけど……ホントにノエル姉さんも戦んの?」
「あぁ?」
目を細め……ぎろり、とにらみを利かせてくる。
怖い。顔はかわいいのに、怖い。
「昨日ゆーたやろが……。うちかてなァ……こないなことされて、黙って泣き寝入りなんぞするつもりあらへんねん。国だろーが軍だろーが、きちんと落とし前、つけなアカンやろ……?」
切れてる。完全にブチ切れてる。
所詮は商隊……商人の馬車隊だと見て、巻き添えにしても問題なしとして襲ってきたこの国の現政権の軍勢。しかも、そのせいで商品や設備に多大な損害が出た。
馬車・馬・天幕・その他諸々……幸い、ノエル義姉さんが保管してた、売上金や貴金属類なんかは無事だったらしいけど、それでもかなりの被害である。
加えて、真実を語らずに商隊に同行していたせいで被害が出た『フラワー』の皆さんにも怒ってたけど、そこは『自分が裏事情を見抜けなかったのも一因』として、軽めの賠償請求くらいで手を打つつもりらしい。あ、請求はするのね。まあ、わかるけど。
しかし、実行犯である『現政権』には容赦するつもりはないとのことで……昨日、『カチコミやったらうちも行くさかいな』とのお言葉を頂いた。
そして、この戦装束である。さらに手には、妖刀『朱星』。
いつものノエル姉さんとは違い……なんと言うか、伝説のスケ番か、あるいは女極道といった感じの……鋭く研ぎ澄まされた殺気を纏っている。
……と、その時、
僕とノエル姉さんは、同時に気配を感じ……上を向いた。
その直後、甲板にすたっ、と1人の……黒装束の人間が降り立った。
「おや、こりゃ驚いた……『大灼天』が復活しちゃってるよ」
「ほう……わしが言うのもなんだが、この眺めだけでも軽く絶望的な面子だな……待ち合わせたつもりもないのだが、問題児の同窓会になってしまったか」
そしてもう1人分……空から、声が聞こえた。
見上げると……そこには、巨大な骨だけのドラゴン数匹の首から鎖を吊り下げさせ、それを両手でつかんで、若干コミカルに見える感じで空を飛んでいる巨人がいた。
いやまあ、口調からもわかる通り……イオ兄さんなんだけどね?
なんか、あんな感じで大型車両とかコンテナを、ヘリコプター数台がかりで飛ばして運んでるの、映画とかテレビで見たことあるな。
そんでもって、そのヘリ役をしている骨ドラゴンを『作った』のであろう、甲板の黒装束――ミシェル兄さんは、相変わらず、僕よりも面積の広い黒色に身を包み、戦闘モードのノエル姉さんをおかしそうに眺めて笑っていた。
まあ……別に、彼らが来たことには驚かない。
実は、昨日のうちに『行くから』って連絡貰ってたので。
「何や……えらい早かったな? 連絡行ったん、昨日やろ?」
「軍隊で来るわけじゃなし……僕ら2人だけなら、移動速度なんてこんなもんでしょ。空飛んできたから、障害らしい障害もなかったし」
「しばし留守にする旨は、集落の皆に伝えてある。わしの弟……それも、先だって集落を守ってくれた恩人を助けに行くと言ったら、皆快く送り出してくれた」
「僕も、姉と弟に舐めたマネしてくれた分の借りは返したいんでね……それに、個人的に僕、この国ちょっと好きじゃないんだ。そーいうわけで……加勢するよ、ミナト、ノエル姉さん」
「さよか……まあ、頼もしいんは確かやし、ここはひとつ……共同戦線といこか?」
「そだね。んじゃ、朝ごはん食べてから、作戦会議でもしよっか。そろそろいい時間だし」
魔力を糧に数百・数千の死者の兵士を生み出して使役することが出来、通常の魔法にはない様々な外法の術を使いこなす『死霊術師』……『怪童』ミシュゲイル・クルーガー。
山賊集落『ローザンパーク』の頭目であり、巨体と怪力から繰り出される剛撃によって、真正面から全てを粉砕する破壊王……『黒鬼』イオ・プロセドン。
今でこそ商人として穏やかに暮らしているものの……かつてSランク冒険者として、刀一本で数多の魔物を斬り倒してきた伝説の剣客にして、その強さや、女であることを感じさせない力強い生き様に憧れた多くの舎弟を率いていた女傑……『大灼天』ノエル・コ・マルラス。
そして……およそ自重という言葉とは無縁、思いついたものを何でもかんでも作って試して既存の価値観を簡単にぶっ壊し、色んなパワーバランスを破壊し、自分で言うのもなんだけど、兄弟姉妹で最も危険とまで言われた僕……『黒獅子』ミナト・キャドリーユ。
キャドリーユ家『四大問題児』……この度、売られた喧嘩を買うことにしたので夜露死苦。
全面戦争だ……覚悟はいいか、クズ野郎共。
今回、ちょっと展開的に無理があるというか……詰め込みすぎ、唐突すぎだったかもしれません……。
いきなり9種族て……もう少し伏線とか入れとけばよかったかな……?
ちょっと無理やり感ある運び・登場だったかもですが……今後頑張ります。
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