2016年6月20日11時08分
◆「都民は1増喜んでいるのか」
「一票の格差」を是正するため、今回の参院選で東京選挙区の改選数は1増えて6になる。一方、県境をまたいで初めて導入された合区で、鳥取と島根、高知と徳島が統合され、改選数は各1に。人口約1360万人の東京の「6議席」について、都道府県で人口が最も少ない鳥取県(約57万人)で考えた。
鳥取県中部、人口5万人の倉吉市。「一票の大事さは田舎の方が分かってますよ。東京の人たちより」。タクシー運転手歴12年の男性(62)は言った。
鳥取と島根は、ともに有数の自民党王国。自民党は今回、新たな選挙区に島根選出の現職を擁立する。「運転手仲間と『人口最少県は地元の代表を出さなくていいってことだろ』と話した」。1日の客は平均15人。初乗り料金の630円で降りる客が多い。「東京では3万円払う客もいるとテレビで知った。経済も政治も差が開くばかり」
市内の農協の集会室ではこの日、鳥取選出の石破茂地方創生相の集会があった。会場は、お年寄りや作業着姿の建設業者ら約400人で埋め尽くされた。
「鳥取の端から島根の端までは、東京から名古屋より遠い。1人の候補でどう回るんだ」と石破氏。ただ「閣僚として(合区に)反対はできなかった」と打ち明けた。「東京に出た若者が帰らない。東京への人口集中は止まらない」。嘆き節が続いた。「不便すぎることが問題だ。山陰新幹線をつくろう」
壇上には前鳥取市長の竹内功氏もいた。合区の救済策で、自民党本部が「鳥取代表枠」として比例区に擁立した新顔だ。得票の目標は全国で15万票。ただ陣営幹部の上杉栄一・鳥取市議の表情は厳しい。取材に対し、「県外で知名度があるわけじゃない」。そして、こう続けた。「東京で1増を喜んでいる都民が何人いるのか知りたいぐらいだ」
帰京後、鳥取県育英会が運営する学生寮「明倫館」(世田谷区成城1丁目)を訪ねた。約70人が暮らしているという。
寮の自治会長で慶応大法学部3年、野坂亮太朗さん(20)が鳥取・島根の合区を知ったのは昨年7月。鳥取県伯耆(ほう・き)町の実家で目にした地元紙の日本海新聞に大見出しが躍っていた。《良識の府 どこへ》《置き去りにされる》――。大学で一票の格差を学んでいたころだった。「鳥取の人口は世田谷区(約89万人)より少ないんだから仕方ない」「鳥取はこの程度にしか思われていないのか」。思いが交錯した。
野坂さんの血縁には、自民、社会、さきがけの3党連立の村山政権で内閣官房長官や建設相を務めた元社会党衆院議員の故野坂浩賢(こう・けん)さんがいる。小学生の時に地元にできた大きな橋を、父親は「野坂大臣がつくってくれた」と話していた。
東京出身の友人たちは合区を知らなかった。「東京の『1増』って意味があるのか」と友人。「地方の代弁者が減るのは問題だと思う」と野坂さん。議論の結論は出なかったという。
東京選挙区に新たに配分された1議席。望まれるのは、六つの議席をめぐる活発で具体的な論戦だ。
(別宮潤一)
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