アピタル・酒井健司
2016年1月4日07時00分
E型肝炎はウイルスによる感染症で、多くは自然に治癒しますが、重症の急性肝不全を引き起こして死亡することもあります。経口感染で、ウイルスに汚染された水やブタ・イノシシ・シカの生肉を口にすることで感染します。先進国では水から感染することはほとんどありません。
日本では豚を生で食べる習慣は例外的でしたが、2012年に牛の生レバーが規制されたためか、代わりに豚の生レバーを提供する飲食店が出てきました。
一般的なイメージの食中毒とは違って、どんなに肉が新鮮であってもE型肝炎のリスクはあります。というわけで、2015年の6月から、豚の生レバーや生肉を飲食店で提供することが禁止されました。
さて、医師がE型肝炎を診断したら、全例、保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることが感染症法に基づいて義務付けられています。なので、日本でE型肝炎と診断された人の数はかなり正確にわかります。
では、規制によってE型肝炎は減ったのでしょうか?
過去数年間の報告数をみてみると、2011年までが60人台だったのが、2012年から2014年までは3年連続で100例を超えています。
さらに2015年は、国立感染症研究所のサイトによれば12月16日(第50週)の時点での報告数がすでに187例となっており、過去最高が確定しています。
豚の生レバーを禁止したのにE型肝炎の報告数は増加しました。豚の生レバーの規制は無意味だったのでしょうか? それとも、禁止に伴う駆け込み需要で増えたのでしょうか?
どちらでもないと、私は考えます。ポイントは、「E型肝炎に実際にかかった人の数」と「E型肝炎だと診断され、報告された人の数」は異なることです。
E型肝炎は、医師が病気を疑い、検査をオーダーしないと診断できません。E型肝炎と診断されなくても、原因不明の急性肝炎として多くが自然治癒します。実際の疾患の発生数が変わらなくても、検査の機会が多くなるだけで診断数は増えるのです。
2011年から2012年にかけて、E型肝炎の報告数は2倍になっています。これは、2011年10月にE型肝炎の検査(抗HEV-IgA検査)が保険適用になったことが原因だと考えられています。
2015年の増加も、実際の疾患の発生数を反映しているとは限りません。豚の生食禁止の報道によって関心が高まり、検査が増え、診断数が増えただけかもしれません。E型肝炎に限らず、疾患への注目や検査の増加が診断数の見かけ上の増加を招くことはよくあります。
病気が本当に増えている可能性がある以上、警戒は必要です。同時に、単なる見かけ上の増加である可能性も考慮する必要があります。マスコミで報道されると関心を引き、検査が増え、ますます見かけ上の増加を招きます。感情的な不安が大きくなると冷静な対応が困難になります。
E型肝炎については、みなさんが気を付けることははっきりしています。豚やジビエの生肉は避けてください。生肉だけでなく、火の通りが不十分だったり、まな板やお箸を不衛生に使ったりしてもE型肝炎に感染する危険があります。
また、サルモネラ菌や有鉤条虫など、E型肝炎以外の感染症のリスクもあります。豚肉を食べるときは十分に火を通すようにしてください。
【参考】 農林水産省・食品安全に関するリスクプロファイルシート(ウイルス) http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/pdf/150216_hev.pdf
<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・人工栄養法を考える>
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
トップニュース
新着ニュース
おすすめコンテンツ
良い終末期医療とは何か。日本をはじめ、諸外国の制度や課題についてまとめてみました。
認知症にまつわる悩みは尽きません。「メディカル玉手箱・認知症にまつわる悩み」シリーズ、「医の手帳・認知症」、「もっと医療面・認知症」の記事をピックアップしました。
三カ月以上続く「慢性腰痛」は、ストレッチや筋力強化といった運動で軽減しやすいことが科学的にも明らかになってきました。腰痛の専門家が提唱する「腰みがき」と「これだけ体操」の具体的なやり方などを動画で解説します。
PR比べてお得!