『トットてれび』井上剛が語る――第1回 満島ひかりが居なければ、成立し得ない世界観
渥美清、向田邦子…テレビの偉人たちに囚われ過ぎないキャスティング
-
満島ひかり(黒柳徹子役))/『トットてれび』 -
満島ひかり(黒柳徹子役))/『トットてれび』
――主演の満島ひかりさんの起用は、黒柳徹子さんのリクエストだと伺いました。出演にあたり、ご本人はずいぶん躊躇されたとか。
井上 それこそ本当に、満島ひかりさんがいなかったら『トットてれび』は成立しませんでした。いつものドラマ企画なら、『トットひとり』の原作者である徹子さんがOKを出してくれたら、そこからスタートできちゃうんですね。でも、今回は、キャスティングまでが“企画”。いってみれば『トットひとり』は芸能史。方向を変えれば“立派な、硬苦しい”偉人伝にもできる素材です。それを“とてつもなく明るい”ドラマに仕立てるには、役者の力あってこそなんですよね。『トットひとり』をドラマ化するのは難しいよね、やり方に発明が要るよね、ってとにかく模索しました。何かが欠けてしまったらできない。色んな奇跡が必要なんだけど、でもドラマがどの方向に向かうかは、最終的には役者の力量にかかっていると考えていたので、そこはスタッフともすごく話し合った部分ですね。
――そのほかの方のキャスティングにも苦労がありましたか?
井上 満島ひかりさんが決まってからは、わりとスムーズだったと思います。憧れのテレビ界の大先輩を演じるのは荷が重いところもあるんでしょうが、皆さん、まんざらでもないというか(笑)。衣装合わせのときに、一様に“俺でいいの?”って聞いてくるんですが、その表情が照れているようでもあり、ちょっと嬉しそうでもあり(笑)。渥美清さん役の中村獅童さんは、“なんで俺なの? やれないよ~”って言っていました。
――どういった経緯で、渥美清さん役を中村獅童さんにお願いしたのでしょうか?
井上 獅童さんが心地いい下町言葉を話せることは以前から知っていたんです。それに、醸しだす雰囲気が渥美さんにピッタリだなって。人柄ならぬ、「柄」が似てるというんでしょうか。顔立ちや背格好が似ているわけではないけれど、しっくりなじむに違いないと。第6回放送では、徹子さんとの出会いから別れまでを30分で見せたわけですが、これがとにかく泣ける。役者の底力を改めて感じました。
――ミムラさん演じる向田邦子さんも、それこそ向田さんは、写真などで何度も見たことがあるのに、ミムラさんが向田さんそのものに見えてきます…
井上 ミムラさんは、一度、『おまえなしでは生きていけない〜猫を愛した芸術家の物語〜』というNHKのBSプレミアムの番組で向田邦子さんを演じたことがあるんですよね。だから他の方よりは向田さんを演じることへのハードルは低かったと思います。ですが、今回は表現方法がまるで違います。「今回はそうとう(コメディに)振り切りますけど、大丈夫ですか?」と最初に恐る恐る聞きました。この『トットてれび』の場合、振り切らないと面白さが出ないんです。遊んでいる空気感が1カット1カットのレベルでしっかり出てないと、偉人たちに圧倒された、どこかびびったドラマになってしまう。それに、なんといっても徹子さんが『トットひとり』で書いている渥美さん像、向田さん像がとてもユニークですから。それを大事にしないとつまらない。それが『トットてれび』だもん、という気持ちでつくっていました。
6月4日に放送された第5話、徹子さんと青春の一時期をともに過ごした向田さんの出会いから別れまでを描いた回は、切ない感動を呼んだと大好評。ミムラさんの“向田力”が“ツボすぎる”“もはや向田邦子にしか見えない”と大絶賛されている。
笑って泣けて元気になれる『トットてれび』。次回インタビューでは、井上氏が見た『トットてれび』出演者たちの魅力についてうかがう。
<次回放送情報>
第7話 6月18日(土)NHK総合 20時15分より
再放送:NHK総合 6月23日(木) 16時20分より
<キャスト>
満島ひかり(黒柳徹子)、中村獅童(渥美清)、錦戸亮(坂本九)、ミムラ(向田邦子)、濱田岳(伊集院ディレクター)/安田成美(黒柳朝)/松重豊(中華飯店の王さん)、大森南朋(飯沢匡)/武田鉄矢(大岡龍男)、吉田栄作(黒柳守綱)、岸本加代子(沢村貞子)、吉田鋼太郎(森繁久彌)/黒柳徹子(100歳の徹子さん)
<あらすじ>
惜しまれつつの最終話は、徹子と森繁久彌との出会いから別れまでを描く。徹子はテレビ朝日『徹子の部屋』25周年のお客様に、第1回のゲストだった森繁久彌を招く。第一印象は「ちょっとエッチなおじさん」だった森繁。ドラマで共演した際にも、大事なシーンでもセリフを憶えず、大胆なカンニングをして徹子を驚かせる。『徹子の部屋』の収録は進むが、やる気を見せない森繁。見かねた徹子はCM中に『こんな森繁さん見たくない!』と叱るが…。
<プロフィール/井上剛(いのうえつよし)>
NHKチーフ・ディレクター。『64(ロクヨン)』『クライマーズ・ハイ』『ハゲタカ』などの重厚なドラマから、『ちりとてちん』『てっぱん』などの連続テレビ小説、夜ドラ『帰ってきたロッカーのハナコさん』、大人の恋愛『はつ恋』などの演出として活躍する。
阪神・淡路大震災の特集番組『その街のこども』ではテレビドラマとドキュメンタリーを融合、自身初となる監督映画作品として劇場公開もされた。チーフ演出を務めた連続テレビ小説『あまちゃん』は数々の伝説と話題を生み、新たな視聴層を開拓。東京ドラマアウォード2013 演出賞を受賞した。
<撮影/五十嵐美弥(本誌)>