- 批判的意見のパターン化
安倍総理が2年半の延期を発表し消費増税問題は決着した。筆者は歓迎しているが、これに対しては各方面からの興味深い反応がある。特に批判的意見につていはパターン化できる。
まず消費増税うんぬんとは関係なく、元々安倍政権に否定的なメディア(毎日新聞や朝日新聞など)や野党はもちろん批判的である。しかし野党は再延期に賛成に回ったため批判は分かりにくい。彼等はこれをアベノミックスの失敗と責めている。そして総理の発言が以前から変ったことも攻撃材料にしている。
しかしこの批判は本質的なものではなく、また彼等が良いアイディアや代案を持っているという訳ではない。政治的意図を持つ参議員選を睨んだ言動と筆者は思っている。
注目されるのは与党、特に自民党内からの批判である。元々自民党内には「増税推進派の議員連盟」があり、一大勢力を形成している。これに参加している政治家は財務官僚と近くガチガチの財政再建派と見なされる。これまで安倍総理は、党内のこれらの政治家にも配慮した発言をしてきた。しかし筆者は彼等にはどれだけ論理的に話をしても説得不能と見ており、放っておくしかないと考える。
ガチガチの財政再建派ではないが、今回の増税の再延期に批判的な発言をしている自民党議員がけっこういる。中には安倍政権を支持し要職に就いている者さえいる。これらの政治家は「2020年のプライマリーバランス回復」や「社会保障と税の一体改革」といった観念的な方針(目標)に異常なこだわりを持っている。したがって消費増税がなければ社会保障費はビタ一文増やせない思い込んでいる。
このように考えるのは弁護士など法曹界出身者や法曹人的発想の政治家に多いと筆者は認識している。つまり彼等は現行の枠組み(「2020年のプライマリーバランス回復」や「社会保障と税の一体改革」)でしか物事を考えない傾向が強い。ただ法曹界出身でも、一方には柔軟な考えを持っている政治家もいるので一概には決めつけられないが(高村副総裁など)。
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」で述べたように、元々筆者は弁護士などの法曹界出身者は政治家に向かない職業と思っている。特に状況が変化している今日のような時代は(例えば日銀が国債をどんどん買っている)、政治家は現行の枠組み維持するのではなく、これを変える働きが必要になってくる。また法曹界出身の政治家は、総じて経済や財政に疎いことも事実と筆者は思っている(法律しか勉強していない官僚も同じ)。
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」で述べたように、筆者は、今後、日本の財政に対する人々の認識が大きく変ると思っている。もちろん正しい方向に変るのである。ところが「日本の財政は最悪」という完全に間違った話による日本人全体へのマインドコンロールはきつく、一気に状況が変るとは思われない。
しかし認識が変る徴候が少しずつ現れている。先日、テレビのワイドショーである政治評論家が「これまで財務官僚が作った日本の財政が悪いといった虚構に我々は踊らせられて来たのではないか」という驚く発言をしていた。筆者は「その通り」と思う反面、「この評論家は本当に大丈夫か」と感じた。そのうちこの政治評論家はテレビに登場しなくなるかもしれないが、注目される発言である。またこれに似た発言がポンポン出るようなら、財政再建派の力も陰ってきた証拠と判断できる。
- 高齢者の万引
前段で自民党内の財政再建派の話をしたが、最近、「財政再建派」ではなく「財政規律派」と呼ばれているケースに出くわした。たしかにその時にだけそう呼ばれただけかもしれないが、もし「財政規律派」の呼称が定着するようなら注目される出来事である。これが本当なら「財政再建派」の勢いも弱まった明かしになると筆者は解釈する。
もっとも安倍政権が再増税を2年半延期することに加え、今年の秋に大型の補正予算を編成すると報道されている。これが通るなら財政再建派の最後の砦である「2020年のプライマリーバランス回復」は空中分解状態になることを意味する。たしかに安倍総理は「2020年のプライマリーバランス回復」は堅持すると発言している。しかしこれをまともに受取っている者は少数派であろう。
たしかに「財政規律」という言葉には誰も反対できない。筆者でさえ無駄な歳出は削った方が良いと考える。ただ同じ歳出でも、考えや立場で「有益」になったり「無駄」になったりする。例えば安保政策に反対する者は、防衛費は無駄の象徴と考える。
筆者は、人々が「有益」とか「無駄」とか言うのは自由であるが、最終的に歳出入の規模や内訳を決めるのは政治と考える。16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」で述べたように、無駄と決めつけられている「バラマキ」も時には有益と筆者は言ってきた(特にこれからの時代は社会保障のバラマキが必要になる)。
政府が歳出を増やすことに対して、財政規律派は「モラルハザード」を生むと猛反発している。おそらく今年の秋に編成が予定されている補正予算に対しても、野党やマスコミから同様の批判が出ると思われる。特に批難の標的になるのは、公共投資と高齢者の低所得層に対するバラマキ的給付金と筆者は思っている。
しかし日本経済がおかしくなった原因は、大平内閣あたりからの財政再建政策(運動)と筆者は思っている。途中これに反発する動きもあったが(小渕政権など)、積極財政に転換して大体一年くらいで潰されている。アベノミクスも13年度の一年で潰された。潰したのは財政再建派であり財政規律派である。
しかし日本では筆者が考えるようなモラルハザードは以前から起っている。日本は自殺者が異常に多く、長い間3万人を超えていた。特に緊縮財政を指向した小泉政権下では最悪であった。また自殺の原因は病苦などが多いとされているが、間接的なものを含めれば金にまつわる経済的な理由がダントツと思っている。
財政規律派は財政赤字こそが「モラルハザード」と決めつけるが、日本の財政赤字はバーチャルなものである。金利もずっと世界で最低水準で推移していた。つまり日本の財政赤字は問題ではなかったのである。むしろ財政の赤字によって(財政で需要を創出)、かろうじて日本経済支えられて来たと筆者は考える。
最近、日本では高齢者の万引が異常に増えている。一部には病的な万引犯もいるだろうが、大半は経済的な理由と聞く。中にはかなり高額の年金を受取っている者も万引で捕まっている。やはり年金給付額が少なくなっていることや、想定以上に寿命が延びていることが原因と考えられる。
これからの高齢者の年金はさらに減額される。寿命が延び貯えが尽きれば、生活保護に頼るか、犯罪に走る他はなくなる。法曹人的発想の政治家は「刑罰を重くし」「警備を厳重にしろ」と言い出しそうである。筆者は一人の自殺者の裏には6倍の数の自殺予備者がいるという話を聞いたことがある(自殺を試みたが失敗した)。したがって高齢者の万引犯罪者も逮捕者の数倍の予備者がいるとしても不思議はない。おそらく高齢者による万引は今後も増えそうであり、これこそ新たな「モラルハザード」と言える。
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