もう十数年前のことだ。高校生の時、最初の彼女ができた。そのとき、俺はとんでもないDV野郎だった。顔も、腹も、痣だらけになるよう、俺は彼女を殴り続け、逃げ場がなくなるような言葉を吐いて、彼女を傷つけた。そして、その子と別れた後、数人と付き合い、それから約十年後の今、妻と結婚した。どんなに苛立っても、最初の彼女以外に手を出すことはなかった。
なぜ殴るんだ?最低だな?
わかってるよ。殴っている側もわかってるんだ。わかっていて、止めたいんだけど、腕が止まらなくなるんだ。何度か同じことで殴っていて、前と同じことに対しての、何度目かのごめんなさいを繰り返される度に「これで何度目なんだ。本当は殴りたくないけどまた殴りたくないから、それをわからせるために徹底的に殴らなきゃいけない。つらい。苦しい。」そう思いながら殴り続けていた。「ごめんな。でも、お前みたいなダメなやつのことを好きでいられるのは、俺だけなんだよ。」「大丈夫、どんな顔になっても俺が守ってやるから。」そう言って退路を塞ぎながら、俺は大人しい彼女を殴り続けた。そして、周りの友達の前では、いい彼氏の顔をしていた。絶対に見られてはいけなかった。要するに、当時の俺は彼女を完全に所有して、コントロールしたがった。この関係は、高校生のよくあるいざこざで最終的には終わってしまった。
次の彼女は自分の思ったとことをはっきりと言うタイプだった。最初に腕が出そうになったときに、手が止まった。「この子は殴っても自分の思い通りにはならない。だから、殴っても意味は無い。」自分の汚い思考パターンに気付いた。そして、ふと自分を外側から眺めて、自分の思い通りにならないことに対して、自分の感情が異常に暴れていて、それを抑える力がない自分の精神の薄弱さに気付いてしまった。暴力だけではなく、言動すべてが、相手をコントロールするためのものだと、稲妻が走ったように気付いてしまった。
すぐにはそのコントロール思考は治らなかった。だけど、最低限「これは他の人に見せられるか?聞かせられるか?」と、問いながら過ごすことで、自分の言葉の暴力を抑えた。そして、その頃、文学と出会い、それらを読み漁った。そこにいる人々はとてつもなく弱く、自分に似ていて、過ちを犯しては、悔いていた。俺は、人間の汚いところを見つめて、自分に投影して問い続けた。そして、数年かけて、俺は自分の未熟さを少しづつ克服して、在るべき自分の姿と、ここに在る自分の姿を重ねていった。
何が一番の間違いだったかって、「すべてが自分の思い通りになる」と思っていたことだ。世界は自分の思い通りになると思っていた。そこそこ勉強も部活もできて、俺は人気があった。一人っ子だった俺は、俺が機嫌が悪くなれば、周りが合わせてくれるし、ほとんどのことが自分の思い通りになっていた。勘違い甚だしい。そんなはずがない。そして、俺の初めての彼女は、俺の彼女なのに、俺の思ったことと違うことをした、だから俺は最初は機嫌を悪くしながら、彼女を自分に従わせた。今ならわかる。これは、何も言葉を発していなくても、DV、所謂モラハラ(モラルハラスメント=精神的DV)だ。それが、徐々に言葉の暴力になり、そして実際の暴力となった。
俺は自分に絶対的な自信を持ちながらも、自信がなかったのだ。自分のコントロール下に置かなくては、コントロールできなくなってしまうから、自分の元から離れていってしまうから、だから力で押さえつけた。力で押さえつけて手に入れたものに、何の価値があるというんだろうか。俺に力が無くなって、俺が心だけになったときに、離れていってしまうものに、何の価値があるというんだろうか。
皆に問いたい。「恋人と貴方のやりとりは、友達にそのまま見せられるか?」
イチャイチャしてて恥ずかしいとかではなくて、「俺の体外的な良い人間のイメージが崩れる」と思ったか、を聞きたい。思ったら、黄信号だ。よく考えてほしい。貴方の恋人は、貴方のパートナーであって、物じゃない。人の心というものは、貴方の思い通りに動きやしない。貴方の思い通りに世界は動かない。貴方にとってどんなに大事なものでも、時には世界は貴方を裏切る。誰かを守るためでなく、自分のために力を振るうとき、それは貴方の弱さだ。力がある者ほど、その力の使い方を支える心の強さが必要だ。ちなみに俺は武道を嗜んでいたが、武道ではこれに気付くことができなかった。あのとき、文学と出会っていて本当に良かった。
ある場所で絶対の力を振るえる王様は、最もそこで精神的に薄弱であることがある。自分の思い通りにはならないことに、耐えるだけの力を持っていない。それに耐えて合わせてくれる周りの優しさや、哀れみに似た慈悲の心や、ただの恐怖に支えられているだけだと、王様は気付かなくてはいけない。ただ、本当に気付いてほしい人間は、「俺が一番頑張っているから当然だ」とか「いいじゃんそのくらい」と言ったりするものだし、既に多大な力を持っていてどうしようもなかったりするものだ。貴方がそんな人間の側にいるのなら、今すぐ離れたほうがいい。引き止められても、当人が変わらないかぎり、同じことが繰り返されるだけだ。離れてあげるのが、その人のためにも、貴方のためにもなる。優しさを持って、離れよう。
よく言うようにDVは、被害者にはどうにもできないのだ。加害者が気付いて変わらなくてはいけない。しかし、加害者が自分が加害者であることに、多くの場合は気付くことなく、事態は悪化する。DV被害者の声はよく聞くが、加害者の声はあまり聞くことがないだろう。だから、少しでも引っかかることがあるのなら、貴方に変わって欲しいと思う。
いかにもDVと共依存を引き起こしそうな陶酔したやつだなあ…