あまりにも重苦しい空気のグループインタビュー中、ドライバーの小林可夢偉が、「もう、ブラッド・ピットに映画にしてもらいましょう」と機転を利かせた軽口を発して、やっと日本人メディアやその場にいた人々に笑みがこぼれた……。
第84回ル・マン24時間レース。結果は、すでに数々のメディアが速報したとおり。トヨタの5号車は、グランドスタンド前で停車し、なんとか再び走り出したが最終周回を6分以内に走りきらなければならない規定に違反、失格。そこまで3位を走行していた6号車がトヨタ通算5回目となる2位を獲得したが、そこに笑顔は無かった。
重苦しいグループインタビュー
レース終了後、約1時間半が経とうとした午後4時半頃(現地時間)、事前に予定されていた日本人メディア向けのグループインタビューがトヨタのホスピタリティにて行われ、そこに中嶋一貴と小林可夢偉がやってきた。日本人メディアたちも、立場として聞かなければならないと、あのメインストレートでの停車の原因を聞いた。
「時間的に残り2周くらいですか(残り6分)、チームからもクルマに優しくと指示されたタイミングでポルシェコーナーに入ったら、突然パワーがなくなって、(ドライバーは)自分でスイッチ操作とかをしていますから、よくよく考えればあり得ないことなんですが、チームに(無線で)”何かした?”と聞いたくらいで。で、そこから(遅いまま)まるごと走ったんですが、いったん(メインストレートで)止めて、再スタートしようとしたのですが……(最終周回6分の規定に引っかかり失格)」と、中嶋も時折、言葉に詰まるというか、あの場面を正確に思い出しながら、前に座るメディアの質問に答えていった。冒頭の小林の軽口は、そうした状況のなか発せられたものだ。
激しいつばぜり合いをリードし続けたトヨタ
あのメインストレートに5号車が停まった3分前までは、レースは近年まれに見る名勝負であり、接戦だった。2台のトヨタと1台のポルシェ。レースの2/3を消化して、優勝はこの3台に絞られた。TMG代表の佐藤俊男氏は「最終ラップまで1分以内の勝負になるだろうと感じていました」と答えたほど、どちらも一歩も譲れないガチンコ勝負だった。18回目の挑戦となるトヨタにとっては、残り7時間を切ったところで、5号車のセバスチャン・ブエミ、6号車のマイク・コンウェイをセーフティーカー中に2台同時にピットインさせる戦略が決まりトップに立った。しかし、2号車のポルシェを逆転したときから、トヨタは追われる立場となった。一方のポルシェは、18回目の勝利を目指していたが、すでに本命の1号車は脱落。ル・マン王者のポルシェにしてみれば、守りに入っての2位や3位に価値はなく、もう失うものはない。ポルシェもまた勝利だけを目指しプッシュしてきた。
そこからのレースは7時間のスプリントレースだった。時折ピットのタイミングの違いやドライバー交代で長くピットインすることからポルシェが1位になることはあったが、基本的にはレースペースはトヨタが支配しつつあった。だが、そこに余裕はなく、タイムも3分23〜25秒前後と、予選を戦うようなペースとなり、3位から再びポルシェを逆転して2位を目指していた小林も「こっちも車両をいたわりたいからペース落としたいけど、相手がプッシュしてくるから落とせない。さすがポルシェ、しぶといなって本当に思いましたよ」と、激しいつばぜり合いであったことを明かした。