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第225話 王の系譜
諸事情により、2話同時投稿になります。
後の第226話とあわせてどうぞ。
「おーす、帰ったぞー! またすぐ行くけど……っておい、何だ誰もいねーのか?」
ネスティア王国、『ウォルカ』近くのとある場所。
『認識阻害』を発動させて停泊している、ミナト達の現在の拠点、『オルトヘイム号』に……この船の主の師匠であり、この船の製作者の1人でもある彼女・クローナが、いつぶりかになる帰還を果たしていた。
もっとも……船の主は、今現在留守にしているのだが。
一瞬怪訝そうな表情を浮かべるクローナだが、直後、手持ちの『マジックスマートフォン』に、以前『クエストで出かけます』というメールが入っていたことを思い出す。
「……ああ、まだ帰ってきてねーのか。ま、いいか、どうせ俺もすぐ出……ぉ?」
船の主が不在だということを知っていてもなお、遠慮皆無で中に入ってきたクローナは……リビングで、奇妙な光景を目にすることになる。
そこでは……留守番ということで船に残っているシェーンとターニャが、『マジックタブレット』の画面を覗き込みながら……顔を青ざめさせていた。
その様子に、直感的にただならぬものを感じたクローナは、何があったのか聞こうとして……その直後、クローナのスマホにも、メールが届いた。
それを開いてみてみると……どうやら、送り主はネリドラらしかった。
ミナトに代わって、自分の『スマホ』から送ってきたらしい、その報告の内容は……
『『リアロストピア』で護衛任務中、『ハイエルフ』を含む正体不明の武装集団の攻撃を受けて商隊が壊滅。ミナト含め重軽傷者多数につき、近くの町に避難。そこから動けず。エルクちゃん拉致されました。帰る時期その他未定。事態が動き次第続報送ります』
「……おいおい、エレーことになってやがんな」
☆☆☆
一方その頃……こちらは、リアロストピア某所にある……とある砦の中。
その地下牢に……先の戦いの中、転移魔法で連れ去られた者たちが捕われていた。
魔力の鎖で捕われ、逃げられないようにして転送されてきた……レジーナにステラ、そして……エルク。
3人共別々の牢に入れられ……ほとんど何も言わず、うつむいているばかりである。
つれてこられてすぐに、武装解除と身体検査がなされ……服を剥ぎ取られるようなことこそなかったものの、武器やマジックアイテムの類は、見つかった端から全て没収されていた。
地下ゆえに窓もなく、ロウソクの明かりだけが薄ぼんやりと室内を照らしている中で……長い沈黙を破ったのは、レジーナだった。
「……聞かないの?」
「え?」
エルクの方を見て、そう一言。
突然話しかけられたエルクは、驚いたように聞き返して振り向くと……レジーナが、気まずそうな、申し訳無さそうな目を向けてきていた。
「……何でこんなことになったのか、あんた達は何者なのか、ってさ。ホラ……あの騒動の中で……私、『姫』とか何とか呼ばれてたじゃん」
聞いてたでしょ? と問いかけてくるレジーナに……そういえば、とエルクは思い出す。
戦いの中、『フラワー』の男衆たちが、レジーナを『姫』と、自分達を『家臣』『家来』などと読んでいたことや……彼女を守るため、全員が命がけで俗に立ち向かっていたこと。
それこそ、本当に……お姫様を守る家来たちのように。
「……そういや、そうだったわね」
「そ、そういや、って……」
「やはりというか……冒険者の方、さすがですね。こんな状況になってでも……そんな風に落ち着いていられるなんて……」
「……逆よ、逆。ただ単に……不安で何も考えられなかっただけ。そこまで私、強かないわよ」
ステラの賛辞に、ぷいっとそっぽを向くように言うエルク。
実際、本音だった。今、自分が置かれているこの状況に……エルクは、確かに落ち着いてこそいれど、全く平気であるはずもなく……内心、不安や恐怖、焦燥を必死に抑えていた。
今は何とか収まっているが……少し前まで、手足が震えているのを必死で押さえ込んでいたし、かちかち、と時折歯が音をたてていたくらいだ。
レジーナとステラは、その告白に少し驚きつつも……それで態度や何かを変えるつもりもなかったようで、再び伏し目がちになって、口を開いた。
「……エルクちゃん、ステラ……本当に、ごめん」
「何が?」
「こんなことに巻き込んじゃって……。狙われてるのは……私だけだったのに」
「レジーナ、それはっ……!」
ステラが何か言おうとするも、視線を合わせたレジーナは、ふるふる、と首を横に振ってその先を言わせまいとした。そして、続けて自分が口を開く。
「……私のせいだよ。1から10まで……全部。だって……私なんかと出会いさえしなければ、商隊が襲われることもなかったし……ミナト達だって……」
ぽつり、ぽつりと、呟くように言葉をつむいでいくレジーナ。
エルクは、先ほどはああ言ったものの、レジーナが言いかけている……というよりも、これから言おうとしている内容について、少しずつ興味が出てき始めていた。
よくよく考えてみれば……気にもなろうものなのだ。
レジーナは、というか団長やステラを初めとした『フラワー』の面々は、これでもかというくらいに明らかに、そして何か……かなり重大な隠し事をしている。確実に。
そしてレジーナの言葉をそのまま信じるとすれば、今回のこの一件はその『隠し事』に原因があるようであり――それだけではなさそうな部分も若干あるのだが――それを知りたい、という欲求が浮かび上がってくるのもまた、当然の流れだった。
あるいは、少しでも気がまぎれるような話を欲しただけかもわからないが……ともかく、エルクはその話に興味を抱いて聞く姿勢に入り、それを察したレジーナが口を開こうとした……その時。
「……どうやら、思っていたより頑丈な精神をしているようだな」
「「「!?」」」
聞き覚えのある声と共に、かつん、かつん……と石造りの階段を下りてくる足音が、地下室に聞こえてきた。
程なくして、ロウソクの頼りない明かりの前に姿を見せた、その足音の主は……見間違おうはずもない。あの戦場に現れ、ミナトと切り結んでいたあのハイエルフだった。
しかもその後ろには、エルクたちを捕えてここまで転送してきたあの女戦士と、そば仕えか何かと思しき装束の、おそらくは同じハイエルフであろう女性が数名付き従っていた。
手に食べ物の乗った皿や飲み物を持っている。食事を持ってきたようだ。
そして、先頭の2人以外は……エルクたちを、明らかに蔑視するような視線を投げかけてきていた。舌打ちしたり、露骨に顔をゆがめたりするものもいた。
そのことに気付いていつつも、特にたしなめるつもりも無さそうな、先頭のハイエルフの男は……特に何も感情を浮かべない、スカした無表情のままで淡々と口を開いた。
「……何か用?」
「食事の時間だ」
男がそう言うと同時に、そば仕えのハイエルフ達は、牢の鉄格子に付けられた出し入れ口から、牢の中の3人にそれぞれ食事を入れて渡した。
そしてすぐさまそこを離れる。侮蔑の視線で一瞥をやるのも忘れずに。
「食材の質はいいとは言えんが、味付けは一応、人間好みのものになっているはずだ……それよりも、何か話をしている最中のようだったが、続きをしなくていいのか?」
「……別に」
「っ……! 貴様、クラウド様に無礼な……」
そば仕えの1人が、レジーナの態度に腹を立てた様子で怒鳴ってきたが……それ以上何か言う前に、クラウドと呼ばれたハイエルフの男が、それを手で制した。
少し不満そうに死つつも、それに素直に従い、そば仕えが下がると、男が口を開く。
「我々のことは気にしなくていい。ただ、食事を持ってくるついでに様子を見に来ているだけだ……構わず先ほどの話の続きをすればいいだろう」
「いいし、別に。今じゃなくても。あとで気が向いたらやるよ」
「……そうか。なら……私が代わりに説明してやろう」
「……は?」
驚き、きょとんとした表情になるレジーナの視線の先で、クラウドは表情を変えず、繭一つ動かさずに続ける。淡々と……あらかじめ用意してある台本を読むかのように。
「丁度、話しておきたいこともあった……それに、上でうるさく喚いている人間達が落ち着くまで待つ時間もある」
「……聞かされてんだ? 私が狙われる理由」
「ああ、知っているとも。それに……一応訂正しておきたいこともある。無理もないことではあるが、どうやらお前達は……1つ、勘違いをしているようだからな」
「? 勘違い?」
「ああ……そこの緑髪の娘について、な」
「……は?」
今度は、エルクの方がきょとんとした声を上げることになるも……やはり、クラウドの表情は全く変わる様子を見せないのだった。
☆☆☆
所変わって……場所は。あの襲撃があった現場からほど近い、ある町の郊外。
もっとも……すでに人のいない廃村のような所で、打ち捨てられた建物だけがある。
そこで……空き家、というよりは廃屋と言った方がよさそうな建物の中に……襲撃を生き延びた者たちが、寝転んだり腰を下ろして、ひとまず休息を取っていた。
怪我人も多く、雨風をしのいで治療し、落ち着ける場所が必要だったためである。
無論、その中には……ミナト達『邪香猫』のメンバーも含まれている。
――がらっ
「「「……!」」」
重苦しい空気と沈黙の中、引き戸になっている扉が開き、今まで別室にいた2人……ミナトとネリドラが戻ってきた瞬間、ほぼ全員の視線がそこに集中する。
武器の破損・磨耗具合を確認したり、簡単な怪我の手当てをしている、『邪香猫』メンバー。
ほとんどが戦えない面子であるがゆえに、攻撃によって傷を負った者が多くを占める商隊の者たち。中には……襲撃の際、命を落とした者たちもいた。
そして……戦場で見られた不可解な言動や行動から、疑惑ありと判断されて全員縛られて拘束されている、『フラワー』の生き残りのメンバー達。その中には、『団長』も含まれていた。
そんな彼ら・彼女らが視線を向ける先で……隣の部屋から戻ってきたミナトは、全身のあちこちを包帯で覆われていた。ネリドラに手当てしてもらったのか、薬品のような匂いもする。
その姿に、そこにいた者たちは……痛ましげに思いつつも、ある種、当然だと納得しているようにも見えた。
彼が、何をしてこの怪我を負ったのかを知っていたから。
もっと言えば……なぜ自分たちが生きていられるのかを理解しているから。
あの時……ハイエルフの軍勢の1人、あるいは援軍か何かと思しき『何者か』が放った、最後の攻撃魔法。ミナトが両手を掲げて止めていた、あの光球。
あれが、最後の瞬間……内包していた魔力を一気に暴走させ、周囲一体を巻き込んで爆風と超高熱を撒き散らす大爆発を引き起こそうとし……その直前、ハイエルフ達は一斉に撤退して行った。
それを察知したミナトは、咄嗟に、今まで支えていたその球体を、逆に地面に叩きつけ……その上に覆いかぶさるようにして、さらにまとう魔力も全開にして……次の瞬間の爆発を、体を張って押さえ込んだ。
結果、完全に威力を殺すことこそ出来なかったものの……撒き散らされる高熱と暴風の大部分を遮断することに成功し、爆発の規模は本来の数分の一にまで減衰した。
それでも、爆風と熱波で、近くにの荷馬車や人員は甚大なダメージを負うこととなった。打ち所が悪かったがゆえに、死んだ者もいる。
だが間違いなく、そのおかげで助かった者が大半だった。
しかし、その対価はなんだったのか……それを今、部屋にいる者達は目にしていた。
支えたりしているわけではないが、隣についているネリドラの手に携えられているのが、医療用のキットであることはわかる。全身に包帯を巻いているミナトの姿から……それを使って、今まで治療を行っていたのであろうことも、容易に想像がついた。
普通に歩いて、動いているように見えるが……余波でなお荷馬車が吹き飛び、死人が出たあの爆発の大半の威力をその身で押さえ込んだ以上、相応の大傷を負っているであろうことは、誰もが思い至ることだった。むしろ、生きているだけで信じられないと思う者もいたほどだ。
そのミナトは、窓際にあるのベンチのような長いすに腰掛け、背もたれに体をあずけると……床に座らされ、こちらを見上げる形となっている『フラワー』の面々をじろっと見た。
その大半は気まずそうに目を伏せるか逸らすかしたものの……その代表をはじめとした何人かは、何かを真剣に考え、決意したような表情で、真正面から視線を受け止めていた。
先に口を開いたのは、見下ろすミナトでも見上げる代表でもなく……それを、横から見ていた者だった。
「……黙ってちゃ何にも進まないでしょーが……誰が何から聞いたり、話したらいいのかわかんないなら……私が仕切るわよ?」
そう、ぴしゃりと言ったセレナは、返答を待たずにつかつかと両者に歩み寄り……キッと鋭い目つきで『フラワー』の代表を見下ろして言った。
「話してもらうわよ……あんた達は何者? 何が目的? 言っとくけど……強情張るつもりなら、こちらも手段を選ぶつもりはないわよ? これでも一応、尋問の心得は……」
「……その必要はありませぬ。最早、隠し立てする意味は無い……我々に出来ることはただ、あなたがたに真実をお話しし、その上で……伏してお願いすることのみにございますゆえ」
「……お願い? 何を?」
セレナのその問いに、『フラワー』の代表は、一瞬、何かを迷うように言葉を詰まらせ――あるいは、覚悟を決めるための沈黙にも感じられた――そして、再びミナト達を見据え、
「そのためにはまず……我らの素性と過去から、順々に話していく必要がございます。まず最初に、前提として……我ら『フラワー』のうち、この事実を知っていた者は一部の者のみにございます……そのことをご承知の上でお聞きいただきますよう、お願いします」
そう、前置きした上で、話し始めた。
「……我々『フラワー』……旅芸人一座というのは、世を忍ぶために作り上げた仮の姿。もともとは……かつて栄華を誇りつつも、およそ20年前に滅びた『ベイオリア王国』に……忠臣として使えていた者達でございます」
その名前に聞き覚えのあったナナが、
「ベイオリア……? 現在のここ……『リアロストピア』がある場所にあった国ですね。たしか、20年前に起こったクーデターによって当時の王権が妥当され、新政府が立ち上がったとか」
「現在はリアロストピア北西に、当時よりも大幅に規模を小さくした領地だけが、自治区として残っている……って聞いてるよ。もっとも、自治区とは名ばかりで……実際は、行政から治安維持に至るまで、リアロストピアからの、援助という支配に甘んじなきゃ成り立たない状態だって」
「……その通り。あんなものは、他国に対して体裁を保つためだけの方便に過ぎません。かつてのベイオリアは、もうどこにも残ってなどおりません。旧王家の血筋はもちろん、それに付き従っていた縁者たちも……ことごとく、命を散らしました」
少し悔しげにそう言った後、さらに代表は続ける。
「ですが、一部の者は混乱に乗じて逃げ延びました。私もその1人……名をガルパン・ロプスと申す者。当時、王族の護衛部隊の副団長を務めておりました……逃げ延びたその日より、我々はこうして再起の時を待っていたのです」
「……ベイオリア王国とやらの復活のためのゲリラ活動ってわけ? 20年前から各地で頻発してる紛争やテロ行為の裏には、旧王家派の影があるっていう話は聞いていたけど……」
「いえ、過激派たるその者たちとはまた別……我々はただひたすらに耐え、力を蓄え、同士を探し、集め……期を待っていたのです。来るべき……決起の時のために」
「……そして、その時が来た、と」
セレナがそう聞くと、代表……もとい、ガルパンと言う名の古き忠臣は、力強く頷いた。
「正確には、ここからさらに準備を進め、現政権を妥当するべく立ち上がるつもりでした。現在の政権による当地は、お世辞にも上手くいっているとは言いがたい……行政府では賄賂やえこひいきが蔓延し、地方間の格差は開く一方。民達の不満も高く、革命のための下地はある……我々はそれを利用するつもりでした。戦いの旗印となる者を示し……ともに立ち上がれ、と」
「……旗印、ね。普通に考えれば、亡国の復古なわけだから……旧王家の血族かしら?」
「全員処刑された、ってさっき言ってませんでした?」
「そう思われていたのですが……生き残りがいたのです。かつて……不幸な『取り違え』によって、王家の血を引きながら、その事実を知らされずに市井に生まれ育った血脈が……代を経て地は薄まっておりますがしかし、紛れもなく王家の血を引いている、生き残りが……」
「……それは……あんた達があの時、『姫様』と呼んでいた……」
「そう……レジーナ様です」
ガルパンの説明によれば……レジーナの曽祖父に当たる人物が、傍流ではあるが、王族に名を連ねる者だったのだという。
彼はある時、遠征先の辺境の町で、家事雑用係として軍が日雇いで雇った1人の女と一夜を共にした……その女は、すでに夫を持つ身であったにも関わらず。
そして、その娘は……身ごもった。
しかし、『他人の子かもしれない』などと言い出すことも出来ず、産み、育てていた。
本当に夫との子かもしれないし、そちらの方が可能性が高い、と自分に言い聞かせて。
その者は普通の平民として生まれ、育ち、子を成し……そして、死んだ。
ただし、成人した時……母親から、本当の出自を聞かされていた。自分が、王族の血を引く者である可能性があるということを。
しかし、不確かな情報……その上、確認する手段もない。
告げられたその言葉1つで人生が変わることもなく……秘密はただの『可能性』から、『武勇伝』や『笑い話』のようなものとなり、代を経て……レジーナにまで受け継がれた。
レジーナもその話を聴いた時は、ただの笑い話として……酒の席で『うちのご先祖様が王族に抱かれたことがあるらしいんだよねー。一夜の過ちってやつ? もしかしたら私、王族の血引いちゃってるのかもねー、あはは』と皆で笑う程度の認識だった。
誰が思うだろう……それが本当のことだなどと。
それをが、あるマジックアイテムによって、彼女が本当に『王権』の継承者であると明らかにされる時が来ようなどと……誰も、知ることなど出来るはずもなかった。
「おい、何だよそれ……代表!? あんた、俺達を騙してたのか!? 利用してたのかよ!?」
字自称を知らされていない……本当に『旅芸人一座』としての『フラワー』に所属していた……つもりだったのだろう、1人の青年が、愕然とした表情で、責めるように、目の前の男に食って掛かった。
その周囲には……同じような表情の者たちが何人かいる。ほとんどが若い者たちだった。
20年前から待っていた、というだけあって……『忠臣』としての側面を持つ者達は、ほとんどが年を重ねた者たちであるようだ。
彼ら若いメンバーは旅芸人一座として不自然に見えないように、カモフラージュとして雇われていた、ということだったのだろう。
目の前の男の、裏切りといってもいい事実の暴露に、自分たちがこうして縛られている理由がようやく理解できた彼らは……思い思いの感情をぶつけていた。
「代表っ……俺達、あんたを信じてたのに……」
「このまま団員が減って解散になっちまった後も、あんたとなら、小さくても一座を続けてもいいって、本気で思ってたんですよ……!?」
「本当に、すまない……しかし、どうかわかってくれ……。全ては……私がこの命を捧げて忠義を尽くすと誓った、かつての王国を取り戻すためだったのだ……!」
心からの謝罪……には、程遠い言葉だった。少なくとも、聞いている者たちにとっては。
忠義のため、信念のためといっても……結局は自分達を騙して利用していたことに変わりはなく、しかもそのために……命の危険すら抱え込まされていたことになる。
旧王家派、しかも王家の生き残りまで擁しているとなれば……現政権に命を狙われることも当然であり、それを目の前の男がわかっていなかったはずもないのだ。
「レジーナ様は、紛争によって故郷を追われ、元々旅芸人として各地を転々としていた時にめぐり合い……当初、私は彼女を単に踊り子として迎え入れました。しかし、酒の席で例の話を聴いて、思い出したのです。かつての王家の傍流に、戦いと色をこのむ家柄の公爵がいたと」
「それで調べてみたら、レジーナこそが、あんた達が探していた『生き残り』だった」
「……これは運命だと、思いました。我々と共に戦うために、レジーナ様は……王家の血を引くあの方が、こうして天の、あるいは今はなき王家の方々のお導きによって現れたのだと」
「…………」
「真実を知った我々は、レジーナ様に旗印となってくださるよう……現政権を打ち倒し、この国の新たな君主となって我らを導く座についていただけりよう、お願いしました。彼女は当初、それをかたくなに拒んでおられましたが……幾度かの説得の末、立ち上がることをご了解いただけました。しかし、ここに来て我々の前に、2つの大きな誤算が挙がってきたのです」
「その、誤算とは?」
「1つは……理由はわかりませんが、どこからかレジーナ様の……王家の最後の生き残りの存在が漏れ出し、我々を見つけ出そうとする動きが強くなったことです。ここ最近、紛争地帯で現政権による過剰な弾圧がよく聞かれるのも、そのせいでしょう」
その言葉に……『知らされていなかった組』が、怒りや驚きをより大きくして表情に浮かべた。
自分達は、知らない間にそんな危ない団に所属させられていたのか、と。下手をすれば、何も知らず、わけもわからずに、犯罪者として、殺されていたかもしれなかった……と。
わなわなと震える者も出てくる中……ガルパンは続ける。
「そして、もう1つ……ごく最近になって明らかになったことで……レジーナ様以外に、もう1人……王族の生き残りの存在が明らかになったことです」
「「「!!」」」
その言葉に、周囲にいたほとんどが、大なり小なり驚いたような表情になる。
その内何人かが、戦場での出来事を、襲撃犯たちが叫んでいた内容を思い返し……独自に結論を予想できてしまった結果、『まさか…!?』と、更に驚いた様子になった。
生き残りがいたという事実によってではなく……それが『誰か』という点で。
「……私達は当初、『ユミルの目』というマジックアイテムの鏡によって、レジーナ様の王位継承権の存在を証明することを、旅の目的の1つとしていました。かの鏡は……資格を持つ者、すなわち王家に連なるものが魔力を流すことで、飾り立てられた宝玉が光を放ちます。そして、王の『直系』に近い者ほど、12ある宝玉のうちの多くが光を放ち、光も強くなる……」
「……ちょ、ちょっと待って!? か、鏡に、12個の宝玉って……」
「王族が魔力を流すと、宝玉が光る……それって……」
今の説明に……大きな反応を見せたのは、シェリーとナナだった。
当然だろう……今しがた存在を明かされたマジックアイテムの『鏡』……その特徴に合致するものをごくごく最近、その目で見て、その手で触れているのだから。
「……レジーナ様は傍流の出。しかも、代を経て血が薄まっている……12あるうちの5つしか宝玉が光らなかったのは道理と言えましょう。しかし……今や彼女以外に、資格を持つ者がいないのも事実。女王として即位するのにも、旗印として人心を集めるのにも、不都合はない、そう思っておりました……12個全てに光をともした者がいた、などと聞くまでは」
その言葉に……その場にいた幾人かの視線が、自然と……ある1人に集まる。
周囲にいる、事情を知らない者たちも……何事かとその視線の先を追って、その人物に目をやり……さらには、節目がちになっていたガルパンまでもが、その人物を仰ぎ見た。
誰に言われるともなく、その場にいる者たち全員の視線が集まった先に座っているのは……黒髪黒目、黒装束に……今は、巻かれた白い包帯が奇妙な彩りとなっている少年。
何も言わず、拘束されたままのガルパンを見下ろす彼に……ガルパンは、
「……私は思い出しました。20年前……クーデターの直前に、当時3人いた王妃様のうちの1人が難産でお亡くなりになり、そのお子も『死産』となっていたことを。ですが……当時から噂があったのです、その時のお子は死産ではなく……無事に生まれていた。しかし、何らかの理由で忌み子とみなされてしまったがゆえに殺された、あるいは捨てられた、と」
「…………」
「しかし、もしその……存在を知られざる王子様が生き残っていたならば、真に王位に就く資格を持っているのは紛れもなくそのお方……革命後にその存在が明らかになっていたならば、国を割る大事となっていたかもしれません。ある意味では……今、それが見つかったのは、幸運。そしてそのお方がこのように我々を、悪しき現政権の者達が放った魔の炎から救ってくれた上で、こうして生き残ってくださった……これもまた運命、天の導き……そう、私は思うのです」
そしてガルパンは、その目に、顔に、期待と歓喜を浮かべて……目の前に座る少年を見上げ、拘束されたままで、深々と頭を下げ……言うのだった。
目の前の……ミナトに向けて。
「レジーナ様が捕まってしまった今、最早あなたしかおりません。どうか、あなたのお力とそのご威光によって、この国の民達のため、かつての祖国ベイオリアの復興のため……我々と共に立ち上がり、戦い、悪しき現政権を打ち倒し、この国の新たな王となってくださいませ! ベイオリア王国第38代国王、ピエール陛下がご嫡男…………ミナト・ベイオリウス王子……!」
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