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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第13章 コード・オブ・デイドリーマー

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第224話 最悪の展開

感想、まだ全部返せてません……近日中に必ず返しますので、ご容赦ください。

第224話、どうぞ。
  
 少しだけ、時をさかのぼり……ある天幕の中にて。

「………………」

 外と同様、夜の闇と静けさにつつまれている……ある天幕の中。

 そこで、レジーナは……ぱっちりと目を開いたまま、布の天井を眺めていた。

 天井からは、ごく弱い光を放つマジックアイテムがついており……そのため天幕の中は完全な暗闇ではない。何かあったときにすぐに動けるようにだ。
 それでも、大概の人は寝る分には支障ない程度の暗さである。

 しかし、ここで横になっている少女は、いつまでも眠る気配は無かった。

「……眠れませんか?」

 そんな彼女の様子を察してか、横から声がかかった。

 直後、隣に寝ていた、彼女と同じくらいか、少し年上に見えるくらいの少女――ステラが、むくりと上体を起こし、寝転がっているままのレジーナに問いかける。

「もしご所望なら、寝酒か何かを用意しますが? それか、気分転換に一度外へでも……」

「ねぇ、ステラ……普通に喋ってよ」

「! それは、しかし……」

 どもるような、躊躇するような様子を見せるステラ。

「ここには私達しかいないよ。うるさいじーさん達は、1個以上離れた所の天幕の中……むしろ、他のメンバーの人にその話し方を聞かれて不審に思われるほうがまずいんじゃないの?」

「…………」

「お願い……ステラ」

「……わかったわ、これでいい? レジーナ」

「うん! やっぱり、ステラ姉さんはその話し方の方がいいよ」

 その途端、「にひひ」と楽しそうな、嬉しそうな笑みを浮かべるレジーナと……呆れたような困ったような、しかし、同時に嬉しそうにも見える苦笑を浮かべるステラ。

 そのまましばし談笑した後、ふとレジーナは言う。

「いっつもそう話してほしいし、呼び方も元に戻したいんだけどなー……あのじーさんたち、うるさすぎ。ストレスばっかりたまるよ……」

「……仕方ないわ。こういう『振舞い方』もいずれ必要になる、っていうのは……本当だもの。そもそも、私がこうしてあなたの隣に今もいられること自体……」

「……それがそもそも納得いってないんだよ、私……」

 そう、呟くように言うレジーナの表情は……いつの間にか、先ほどまでとは一転し、悲しげでさびしげなものになっていた。
 その目はまるで、遠い過去を懐かしむかのように、愁いを帯びている。

「……何で、私なんだろう?」

 ぽつり、とレジーナの口から漏れる、そんな一言。
 誰に向けられたものというわけではなく……自然に、口から出た言葉に見えた。

「何で、私が……こんなことしなきゃならないんだろ? 私、ただ……毎日を皆と、楽しく過ごすことが出来てれば……それで満足だったのにさ」

「仕方ない……なんてこと、言うべきじゃないでしょうね」

「でも……そうとしか言えないんだよね。結局。いつも」

 レジーナのその言葉に……ステラは、何も返せない。

「……もし、全部上手く行って、全部終わったら……昔みたいに、また皆で過ごせるのかな? ホラ、その頃には私、すっごく偉い人になってるわけじゃん? だったらさ……また、ステラと、皆で……昔と同じ感じでさ……」

「……そうね。私も……そうなってほしいわ。がんばってね、レジーナ」

「……がんばるよ。うん、私……がんばってみせる」

 ……すっかり、しんみりした空気になってしまった、天幕の中。

 余計なことを考えたせいで、間違いなく、余計に眠れなくなったことを確信しつつも……レジーナの頭の中には、考えるのをやめようとしても、脳裏を離れようとしない、暗い暗い思いが、いつまでもこびりついている。

 仕方ないから、あとで寝酒でも飲んで寝よう、と考えた……その時だった。

 
「――敵襲―――!!」

 
「「……っ!?」」

 しんみりした空気を取り払ったのは……あまりありがたくない、予期せぬ事態だった。

 ☆☆☆

 戦闘が始まって十数分――けど、体感的にはもっとずっと長い時間が経ったように感じる。

 戦ってみて判明したことだけど……どうやら襲撃をかけてきた者たちの人数は、数十人どころじゃなかったらしい。
 『サテライト』の範囲に、後から後から追加の人員が押し寄せてきて……撃破した人数も含めれば、200人をゆうに超えている。

 絶対コレ盗賊じゃない……何なんだよマジで、こいつらは!?

「くっ……死ね、このガキ!」

「うっさい!!」

 槍を突き出してくる男の攻撃をよけ、懐に飛び込んで肘鉄を叩き込む。
 割と加減抜きで打ったので、鎧の上からでも衝撃がガツンと胴体に伝わり……肋骨を粉砕して内臓を破壊。男は大量の血を吐きながら、吹き飛んで茂みの向こうに消えた。

 そこから僕は更に横に飛び、飛びまわし蹴りでそこに立っていた男2人の首をへし折り、そいつらを足蹴にさらに跳躍してまた別の延髄を蹴り砕く。

 そこで着地し、周りを見回すと同時に……『サテライト』の脳内地図をチェック……ちっ、また増えてる! 一体何人来るんだよ!?

「ミナト! このままじゃ埒が明かないわよ! どうすんの!?」

 斜め後ろから飛んでくるエルクの声。

 彼女には、どちらかといえば防御に徹してもらっている。障壁と暴風で馬車とか非戦闘員を守りつつ、隙をついて暴風の魔力団や雷、ダガーでの急所狙いの一撃で攻撃、って感じ。

 同じようにミュウ、ネリドラ、クロエ、ザリーには防御を頼み、残りのメンバーで攻撃および迎撃に出ている。ネリドラは非戦闘員だけど、広域バリアフィールド発生装置を使って防御を担当してもらっている。

 今んとこ、『邪香猫』メンバーには怪我人はとか出てないけど……相手の数が数だけに、気が抜けない戦いだ。

 加えて……それ以外の護衛には、すでに何人か犠牲者が出てしまっていた。
 運悪く複数に襲い掛かられ、味方の加勢が間に合わなかったり、暗がりからの不意打ちを受けたり……規模が規模だけに、周囲の状況を把握するのが難しい。それゆえに、こちらにもどうしても隙が出来てしまうようだった。

 そしてとうとう、守りきれずに僕らから遠い所では馬車や天幕がやられ始め……いよいよもってもう余裕がない感じになってきている。あーもう、『真紅の森』の時も思ったけど、ただ戦うだけじゃなくて守りながら戦うのってホント大変だな!

「こうなりゃ……ザリー! クロエ!」

 僕の声に反応し、3人がこっちを見ると同時に……僕は、帯からトランクケースを取り出して放り投げた。『CPUM』入りのケースを。

 僕の意図を察したザリーとクロエは、トランクケースをキャッチして中身を取り出し、次々に『デストルーパー』達を発生させる。

「クロエ、命令内容に注意して!」

「わかってる。よしあんた達! 天幕とその中にいる人達、そして今現在それを守って戦ってる人達を守りなさい! 天幕に攻撃を加えようとしている者は排除。以上、行け!」

 クロエが素早く出した指示に反応し、黒金の兵隊達は戦場に散っていった。

 今ので、わかる人にはわかったと思うけど……『デストルーパー』……に限らず、『CPUM』に搭載されている自制礼式人工知能は、そんなに頭がよくない。

 こないだのチラノースの時みたいに、『門めがけて攻めて来る敵を倒せ』くらいの簡単な命令ならいいんだけど……今回みたいな、敵味方入り乱れる戦場では使いづらいのだ。間違えて味方を攻撃する可能性があるので。だから出し渋ってたのである。

 今のクロエの命令みたいに、防御に専念、くらいが関の山である。今後の課題かな。

 で、ザリーには……

「ミナト君! あのアレ……あのサソリはどれ!?」

「その中にはない! こっち!」

 言いながら、僕は帯から新たに、1枚のカード――キャッシュカードとかクレジットカードみたいに、厚みがあって固いカード――を取り出した。
 その面には……魔法陣のような回路のような模様と、サソリの絵が書いてある。

 それに僕は魔力を流し込み、遠くの地面に向けて手首のスナップで放ると……そこにカードが突き刺さった直後、そこを中心に魔法陣が広がり……

『Antares!!』

 そんな電子音声ちっくな声と共に、サソリ型CPUM『アンタレス』が姿を現した。

 量産型でない一品物のCPUMは、カード型で保管してるんだよね。加えて、召喚できるのは魔力を記録してある僕だけ。

「アンタレス、ザリーの指示に従え! じゃ、ザリーそいつよろしく!」

「了解!」

 巨大な黒金のサソリを操り、塊になっていて攻撃しやすい敵から排除していくザリー。散っていて狙いにくい相手は、自分が仕留めていっていた。

 よし……これで、最大の懸念だった頭数の問題はどうにかなりそうだ。
 他の護衛の人達も、これで自分達の防衛と反撃に専念できるだろう。

 ……『CPUM』をよそであんまり使うな、って前にノエル姉さん達に注意されてたのは守れなかったけど……この場合仕方あるまい。

 ……なんて考えていた、その時だった。

「―――っ!!?」

 本日二度目となる、強烈な寒気が背筋に走ったその直後……前後左右、全方向に、妙な魔力が展開するのを感じた。

 攻撃魔法の類じゃない。でも、何か見覚え?がある気がする。
 コレは……この魔力の感じは……そうだ!

(転移魔法……!)

 それに気付いた直後……今度は全方向、とは言わないまでも、あちこちで攻撃魔法の魔力が練り上げられているのが感じ取れて……そのへんに敏感な僕やエルクといった魔力感知能力に優れている面子がそれに気付いてぎょっとする。
 しかし硬直している場合では無いので、各自対応に走る。

「アルバ! 全方位広域に障壁魔法……じゃ間にあわないから、攻撃魔法ぶつけて相殺! 出来るならぶち抜いて術者を潰せ! あと打つ前に小技をぶつけて出来る限り潰せ!」

 言いながら、僕らはそれぞれ魔力が感じられる場所に駆けていって身構え……その直後、全部の箇所で、ほぼ同時に攻撃魔法が発射された。

 暴風が、火炎弾が、電撃が、岩塊があちこちから飛んできて……それを僕らは、魔法や魔力弾をぶつけたり、剣で切り払ったり、盾や障壁でガードしたり、拳で粉砕したりして打ち払う。

 連携が上手く行き、被害はほとんどなかったけど、今の、ホントに見事に殺す気で来……っ!?

「――るぁっ!!」

 背後に気配……というか殺気を感じ、振り向きざまに裏剣を振るう。
 すると、今正に振り下ろされんとしていた剣をガキン、と受け止め……一瞬の拮抗の後、弾き返した。

 フードをかぶって剣を構えている男(多分)は、暗さとフードでよく見えないが、驚いたような表情になって……その場から鋭い動きで飛び退り、僕から距離を取った。
 そして、剣を油断なく構えなおす……見る限り、隙はない。いい構えだ。

「……驚いたな。反応されるとは……Sランク冒険者とやらの肩書きは伊達ではないか」

「……なんだよ、あんた?」

 思わずそう聞き返しつつ……僕は、少し困惑していた。

(何だ……こいつ……?)

 何か『変』だ。
 構えに隙がないのは……まあいいとして、こいつ、漂ってくる魔力の感じが……異質、とでも言えばいいのか……人間のそれとは、何か違う気がする。

 けど、今までにこんな感じの魔力を漂わせている人も亜人も、僕は見たことはない……ような……いやでも、似た感じの魔力なら前にもある、ような……?

 表情に出ていたかどうかはわからないが、困惑していた僕の目の前で……その男は、どういう意図からかはわからないが、おもむろにフードをはずした。

 その下から現れたのは……長い耳。
 ウサ耳ではない。エルフ耳。

 コレがあるということは、こいつは……と僕が予想しようとした所で、いいような悪いようなタイミングで、怒鳴り声による横槍が入ってきた。
 予想をする前に上回る、驚愕の事実の暴露と共に。

「っ……クラウド・クレリオン、貴様、無断で……しかも、何のつもりだ今の攻撃はっ! 我が軍の兵士達を巻き添えに……作戦に協力すると言ったのは偽りかぁっ!?」

「お前達が全く予定通りの行動を取れずにいたからだ、我々は時間の浪費を避けたまで。あのまま続けても到底勝ちの目があったとは思えんぞ? 人間の将よ」

「っ……ハイエルフだか何だか知らんが、亜人の分際で我々に……」

 はい!? 『ハイエルフ』!? 『ネガエルフ』と同列の、エルフ系亜人の最上位種族!?

 将とか何とか呼ばれてたおっさんによって、ムダに大声で暴露されたその事実に……『邪香猫』のメンバー達も含め、こっちサイドの周囲の人達が仰天していた。
 な、何でそんなのがこんな所に!?

 そして……その一瞬の硬直がまずかった。

 茂みから次々と飛び出してきた、新手……それも、魔力の感じからして、おそらくこいつと同じ『ハイエルフ』の兵士達が参戦し……戦況を一気に押し戻していく。

 あまりに突然のことに加え、さっきまでの連中とはレベルが違う者達の参戦に、こちら側は到底対応できていない。応戦できてるのは……防御に徹してる連中か、『邪香猫うちの』メンバーくらいのもんだ。

 しかも、連携が取れてるようだから攻めるペースも速……げ、『デストルーパー』も1体やられた!? ちょ、コレはまずい!

 まずいんだけど……!

「……はっ!!」

「なぐっ!」

 ギィン、と耳障りな音を立てて、最初に切りかかってきたハイエルフによって振るわれる剣をはじく。即座にカウンターを放とうとするが、またしてもそいつ――クラウド、とか呼ばれてたっけ?――は、素早く飛びすさって距離をとってしまう。
 くそ、強いなこいつ……!

「…………当然といえば当然だが……似てはいないな」

「は? 何が?」

「……人間の将よ。やる気がないのなら引いてもらおう。ここは我ら戦士団だけで事足りる」

「何をバカなことを!」

「ならばさっさとやることをやったらどうだ?」

「言われなくてもやるわ! ええいお前達、何をてこずっている!? ただの殲滅指令だ、小難しい作戦ではないのだぞ! 『出来れば捕える』として指定されている者もたった2人だけで、そいつらも別に一緒に殺してしまっても構わんのだ!」

 ……こいつら(特にハイエルフ)、キレイにこっちのこと無視しやがって……

 上等だよ、別に僕もあんたらが何者で何が目的かなんて、後から尋問でも何でもして聞き出せばいいんだから、ここはきちんと戦闘に専念……しようと思ったそのタイミングで、その将軍のおっさんの口から、耳を疑うような言葉が飛び出した。

 

「捕えるのは茶髪に猫目の踊り子の娘と……そこにいる、黒髪黒目に黒装束の小僧だ! ぼけっとしてないでお前達さっさとかかれぇ!!」 娘の方はさっさと探せぇ!

 

 ………………は!?
 え、ちょ……黒髪黒めに黒装束って……僕!? 何で!?

 瞬間、驚く僕が逆に隙だらけになってしまい、それを見逃さなかったハイエルフが三たび斬りかかってきた。

 慌ててそれをいなすも……困惑、継続中。
 ちょっと!? 何で僕が狙われてますか!? 僕、あんた達のこと何も知らないよ!?

 しかも、『茶髪に猫目の踊り子の娘』て……レジーナか?
 何であの子が……ていうか、あの子と僕がセットで盗賊なんかに狙……いやコレどうみても盗賊じゃなかったねそうだったね!

 盗賊にしては鎧が立派だし、将とか言ってたし……ひょっとしてこいつら、どこかの軍隊か何かか!? どこのかは知らんけど……何でそんな連中に狙われてんの僕!? あ、僕()か。

 困惑している間にも、苛烈さを増していくハイエルフとどこぞの軍の攻撃。ああもう、埒が明かない!

「『パワードアームズ』『アメイジングジョーカー』――どぉらぁあ!!」

 時間短縮版で全身装備と闇の魔力を身にまとい、えぐるように突き出される剣を蹴り返す。
 補助装備によって先ほどよりも大きな魔力を纏えるようになり、攻撃力・防御力共に増強された僕の蹴りの一撃の前に、クラウドとかいうハイエルフもたたらを踏んでいた。

 その隙を突く形で攻め込もうとする……僕の隙をつくために、斜め後ろから別な誰かがかかってきたので、前に突っ込むふりをして急にぐるんと回り、その勢いで回し蹴りを放つ。

「がはっ!?」

 突っ込んできていた別のハイエルフの顔面を捉えた僕の蹴りは、鼻の骨とか歯とか色々粉砕して血を噴出させながら、そのハイエルフをエビ反りのような姿勢にしていた。

 意識……無さそうに見えるけど、念には念を。そのままもう半回転しつつ、もう片方の足で蹴りを振り下ろし、首の骨を蹴り砕く。

 『ハイエルフ』は人間よりも魔力の扱いが上手い。そのせいで、身体強化魔法もより強力なんだろう……普通のゴロツキとかより、蹴った体の感触が頑丈だった。
 それでも……殺せないってことはなかったけど。

 首が砕けた感触はきちんとあった。目の奥の光も消えた。きっちり絶命。

「おのれ人間、よくも同胞をっ!!」

 その光景に逆上したらしい別なハイエルフが、今度は槍を手に飛び掛ってきたけど……振り下ろされる一撃を、今死にたてのハイエルフの死体を盾代わりに使って防御し、その所業に驚きと怒りの表情を浮かべるも、反応が追いついてこないハイエルフに接敵……蹴り上げる。

 顎に命中した僕の蹴りは、割と本気で放ったため……ゴギバキミキャアッ!! と、聞いたことのないような音を出して、おそらくは顎の骨はもちろん、頭蓋骨も粉砕した。首の骨の連結も外れただろう。頭が若干変な形になってるし、首が少し長くなってる。

 と、その直後……さっきまで僕が切り結んでいたハイエルフの剣から、ウェスカーが使うアレとよく似た光の刃が放たれ、こっちに飛んできた。

 かなりの出力で、僕も直撃は避けたい威力のようだったので……蹴り砕くかどうにかしようか、と足を軽く引いた……その時だった。

 
「女の方がいたぞ――っ!!」

 
「……っ!?」

 突如、そんな声が聞こえた。

 聞こえた方を見ると……そこには、ステラさんと一緒に夜の闇の中を必死に逃げるレジーナと、それを守るように展開している、『フラワー』の若手から壮年までの男衆の皆さん。
 そして、それを追いかける……どっかの軍(多分)の連中という構図。

 それに気を取られて迫ってきた光刃が直撃……なんてことにならないようにしっかり蹴り砕きつつ、聞き耳は一応立ててみると……

 ……何だか、不穏な会話が……

「お逃げください姫様! ここは我々が!」

「だーっ、もう! 姫じゃないってか、そう呼ぶなって――!!」

「姫様……いえ、レジーナ様をお守りしろぉっ!」

「応! ベイオリアのためにッ!」

「この……新体制派の犬めがぁあ!!」

「貴様ら……やはり、旧王家派の中核だったかっ!」

「ここで貴様らを仕留めれば、我が祖国に安寧が訪れる!」

「大人しく死ねぇっ!」

「ぐああぁっ! す、ステラ、姫様をお守り、し……」

「副団長ぉっ!」

 ……なんか……味方にもよくわかんないの混じってたっぽいんですけど……?

「ったく、次から次へとわけがわからんことに……」

 悪態の一つもつきたくなったその時……石ころか何かに躓いたのか、ステラさんが転んだ。

 当然、それを狙って走ってくる兵士達だけど……そこで、意外な根性を見せたのは、隣を走っていたレジーナだった。
 近くに落ちていた剣――元の持ち主は天に召されている――を拾い上げ、果敢にも立ち向かおうとする。

「なっ……れ、レジーナ! 何してるの!?」

「見りゃわかるでしょ! バカやろうとしてんのよ!」

「なっ……お、おやめください姫様! 無謀です!」

「家臣のために君主が剣を取るなど……」

「うっさい!」

「なっ……!? 何を、姫さ……」

「家臣言うな! 姫言うな! 私は自分を姫だなんて思わないし、ステラのことを家臣だなんて思ったことは無いッ! あんた達が何言おうと、私は大事な人に背を向けて逃げ出すなんてこと、したくない!!」

 そう、力強く言い切って……逃げずに立ち向かわんとする。

 ……やば、かっこいいんですけど。

 ただ、それでも正直無謀なのだが……問題は無い。
 なぜなら……

「エアロスラッシュ!!」

「「「なっ……ぎゃあぁあああ!?」」」

 追っ手達とレジーナがぶつかる前に、うちの嫁の放った何枚もの風の刃が、追ってきた連中を切り刻んだからである。さすがエルク。

「あ……ありがと……」

「どういたしまして」

 あっけに取られた様子で、どうにかお礼の言葉を搾り出したレジーナ。淡々と返すエルク。

 しかしレジーナ今、人間が鎧ごとぶつ切りになるショッキングな瞬間を見たはずなんだけど……エルクの魔法のインパクトが強かったのか、認識してないっぽいな。不幸中の幸いだ。

 とか思っていたその時、戦場の少し近くで、またあの『転移魔法』が使われた気配があった。
 そしてその直後、

「……っ!?」

 視界に移っていない、戦場のまだ外のあたりから……凄まじい魔力が練り上げられている感触が伝わってきた。ちょ……何だコレ!?
 一体何が起き……てか、この練り上げられてる魔力の量、あの時のウェスカーの超大技と同じくらい……いや、それ以上だ!

(これはまずいって!!)

 クラウドとかいう奴とのチャンバラを、剣をガギンと力任せに蹴り上げて強引に切り上げ、その魔力の気配がする方向に視線を向けたその瞬間……

 
「死ね、汚らわしき裏切り者と縁持つ者よ……『シャグナトル・ラグナ』」

 
 上空に、突如……巨大な白熱電球か何かのように、強烈な白い光を持つ球体が発生し……戦場のど真ん中に落下してきた。

「う……うぉぉおおっ!?」

 とっさに両手で受け止めたけど……これ、重いっ……!?
 しかも、纏ってるっていうかこめられてる魔力が洒落にならん量で、プレッシャーも……。

 でも勘だけどコレ……地面に落としちゃまずい気がする……と考えたその時、視界の端に、こっちに向かって猛烈なスピードで突っ込んでくる、あのハイエルフが映った。

 聞かなくてもわかる……この隙に仕留めるつもりで来ていると。
 こんの野郎……でも、コレほっとくの絶対まずいし……片手で支えるのは難しそうだし……こうなりゃ蹴りで……と、そこまで考えたその時、

 
「……ったく……依頼主働かせてどないするっちゅーねん」

 
 僕の隣を風のように駆け抜けて……刀を手に持ったノエル姉さんが、ガギン、とハイエルフの剣を受け止めた。

「……もう1人、忌まわしき縁を持つ者がいたか……」

「こっちのあんちゃんはまたよーわからんことゆーとるな。初対面の相手に……」

 た、助かった……おっしゃるとおり情けない限りだけど、最高に頼もしい援軍が来てくれた……。

 と、喜んだのもつかの間……反対側の視界の端に、茂みから飛び出してエルクとレジーナたちに襲い掛かる、ハイエルフと思しき女戦士が映った。
 細身の剣を振りかぶり、レジーナめがけて斬りかかる……かに思われたその時、

「バカめ、甘いわ……下等種族!」

 剣は軌道を変え……地面に突き立てられた。
 直後、魔法陣が展開し、急激に大きく広がったかと思うと……なんと、レジーナ、ステラ、そしてエルク……その他、周囲にいた家臣(自称)さんたちを纏めて包み込んでしまうような範囲で展開し、そのまま何かの術式を構築し始めた……って、コレは……!?

(転移魔法っ!?)

 同時にそれに気付いたらしいエルクが、阻止しようと術者である女戦士に斬りかかるも……接近戦では向こうに分があるのか、予備らしいもう1本の剣でいなされてしまう。
 同時に、彼女いわくところの『下等種族』に攻撃されたのが気に入らなかったのか……乱暴に、払いのけるように剣を振るう。

 発動中に起点である剣から離れるわけにもいかないのか、不自然な体勢での一撃。
 しかし、それゆえに受ける方も妙な受け方になってしまったのか……ダガーでいつものように受け流そうとした……その時、

 

 ――バキン

 

「――え?」

 不自然な受け方をしたのがまずかったのか……とうとうダガーの金具が破損し、根元から折れてしまった。

「……う、そ……」

 その光景に……愕然としてしまい、硬直するエルク。

 その一方……なぜか、攻撃して武器を下側の女戦士もまた、何かに驚いたように硬直していた。

「この魔力……まさか、本当にこやつは……クラウド様!」

「……なるほど、やはりか。ステファニー、手はずどおりに」

「はっ! では……」

 何かを了承した感じで女戦士が頷くと……剣(予備)を手放し、その手を突き出し、そこから魔力の鎖が飛び出して、レジーナとステラさんとエルクを絡め取……エルク!?

「ちょっ、エルクちゃん!? 何ぼさっとしとん!?」

「……ぁっ!!」

 『ダガー』が破損した衝撃で硬直していたエルクは、その言葉でようやくはっとするが……時すでに遅く、魔力の鎖が自分の両腕を絡め取っていた。

 やばい! 何でレジーナと僕に続き、エルクまで狙われるのかわかんないけど……あの女ハイエルフが転移魔法を使おうとしてることを考えると、目的は……

 そこで気を取られたのが……まずかったらしい。僕も……ノエル姉さんも。

「余所見とは余裕だな……罪深き者共よ」

 そんな声が聞こえた直後、同じような魔力の鎖が、僕と姉さんの両足を一瞬で縛り上げた。
 なっ……一瞬で!? さっきの女の奴とは全然違う……何も感じ取れないうちに縛られた!?
 誰だ術者!? クラウドとかいうのでも、他のハイエルフとかでもない……というか、今の声……それに、この魔力の感じって、

(この光球と同じ……!?)

 そして、立て続けに変化する戦況に、不運なことがいくつも起こり、僕も姉さんも(精神的にも物理的にも)動きを止められてしまった……その一瞬に、

「っ! ミナ――」

 そんな、儚げで悲しげな声を残して……足元の魔法陣がより一層輝きを放ち、
 女戦士や、レジーナたちもろとも……エルクの姿が、その場から掻き消えた。

「…………っ……!!」

 その光景に、僕が絶句した……次の瞬間、

「……死ね」

 そんな声が、どこからともなく聞こえたかと思うと……僕が落下を抑えていた光球が、一際強力な光を放ち始め……

 

 ……数秒後、白い光が、その場の全てを包み込むかのようにあふれ出た。

 
 
今回、めずらしくピンチっぽいことに。
なるべく次を早く更新するように頑張ります。
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