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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第13章 コード・オブ・デイドリーマー

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第223話 動き出す歴史

  
 ある晩、どこかの暗い部屋。壁と天井が布であることから、大きめの天幕だとわかる。

 そこに、壮年の男たちが集い……小さなロウソクの明かりだけで、顔を突き合わせていた。

 その顔は皆、一様に複雑で微妙な、深刻そうな表情になっている。
 不安や疑念、戸惑いや焦燥といった感情の他……歓喜や興奮を混じらせている。

 そして、ぱっと見ただけではわかりようもないが……彼らは、盗聴防止のマジックアイテムを使った上で、この怪しげな会合を執り行っていた。
 その事実からもわかるように……この会合、決して公にできるような内容のものではない。

 顔を突き合わせている男たちのうち、顔に刻まれているしわが一際深い、老人と言ってもよさそうな年のころの男が、口を開いた。

「……連絡の内容は聞いた。確かなのか?」

「はい、間違いないようです。先ほど『ステラ』から報告を受け、確認しました」

「なんと……まさか、そんなことが……!」

 いくらか年若そうな男にそう返事を返され、質問した老人のみならず……集っていた全員が、その表情を驚きに歪ませる。

 老人は、手を顔の前で組んでそこに額を乗せるようにし、

「失われてしまったと思っていた『ユミルの目』が戻ってきたのは……まあ、今は我々の手にはないとしても、後でどうとでもできよう。純粋に喜ばしいことだ。レジーナ様が、『資格』を持つ者であることが証明できたことも、また然り。だが……」

「問題はその後……『鏡』の宝玉を12個全て光らせたと言う、あの黒い少年……」

 そう答えながら、男は……先ほど自分が目にした光景を思い出す。

 数十分前、『重要な話がある』と呼び出された彼は……信じられないものを見た。

 不幸な行き違いの末に、軍によって押収されてしまった、『鏡』がなぜそこにあったことに始まり……その場でレジーナがそれを使い、あることを証明してみせた。
 そこまではよかった。問題は……その後。

 その次に『鏡』を手にした、ある冒険者の少年が……同様に『資格』を証明してしまったのだ。それも……こちらの予想、というか前提を、根本から覆し、破壊する形で。

 その事実に、ポーカーフェイスをあっさりと崩し、愕然とした表情をさらしてしまった男は……あわててその場を取り繕った後、こうして大急ぎで『会合』を設定したのだった、

「ここに来てもう1人、生き残りが見つかるとは……」

「しかも、12個全ての宝玉が光を放ったとなれば、レジーナ様よりも……」

「幸運ととるべきか、不幸と取るべきか……」

「普通に考えれば幸運なのでしょうが……正直、微妙なところですな。上手く行けば我々の目的と、もたらされる結果はより磐石なものとなりましょうが……悪くすると、仲間内で真っ二つに割れかねませんぞ?」

「どちらかを排除し、どちらかに絞るべきでしょうか?」

「排除って……どちらを?」

「……そ、それは……」

 様々な意見が飛び交うも、一向にまとまる気配がなく、混乱ばかりが加速する。
 そんな中、最初からずっと静かに熟考していた老人が顔を上げ、

「……今考えても始まらん。が……放置することもできんだろう。いずれ何らかの形で決着させねばなるまいが……今はことを荒立てるべきではない」

「し、しかし……」

「少なくとも、レジーナ様がいれば、計画の遂行事態に問題は無いのだ。どう対応するかは今後つめていくが……もし彼――ミナト・キャドリーユ殿を迎え入れるならば、全ての準備を整えた上で、正直に話すより他にない。……排除するならば、その上で、何らかの形でだ……」

「そうですな……無理に取り込もうとしても毒にしかなりますまい。今はひとまず、我々の『目的』を達成することを最優先にするべきです」

「わかった……ならば……」

「それよりもまずは、その者の出自について……」

 老人の決定により、今後の筋道が定まったことにより……幾分か落ち着きを取り戻した室内の男たちは……今後起こりうる事態に対処していくべく、話をつめていくのだった。

 そして、それがまとまった頃……老人は、彼らの意思を確認し、その上で1つにまとめるかのように、全員を見渡してこう言った。

「では、このように……皆、わかっておるな?」

「はっ、全ては……」

 
「「「『ベイオリア』の栄光を取り戻すために!」」」

 

 ――その直後、狙ったようなタイミングで、

「あの~、すいませーん。明日以降の旅程について話し合いたいそうなんですけど……『フラワー』の責任者の人いますかー?」

「はいはい、承知いたしました。今参りますゆえ、しばしお待ちくだされ」

 外からの、小間使いらしき誰かのそんな声に……先ほどまで会議を纏めていた老人は、温厚な好々翁を思わせる、穏やかで人のよさそうな表情になって……何事もなかったかのように、天幕の外に出て行った。

 表の顔……旅芸人一座『フラワー』の頭目として……今の旅路を進めるために。

 ☆☆☆

 同じ日、同じ頃……また別な場所。
 こちらは、しっかりしたつくりの大きな部屋で……高級そうな家具や絨毯があった。

 部屋の中心に置かれた大きなテーブルに、豪華、あるいは華やかと言っていい身なりの者たちが何人かついていた。壮年の者もいれば、年若い者もいる。男もいれば、女もいる。

 そして……人間以外の種族の者もまじっていた。

「驚きだな……まさか、生き残りが2人もいたとは」

「はっ……先ほどもたらされたばかりの情報です。ですが報告では、当初目をつけていたあの女よりも『直系』に近い、あるいはそれそのものである可能性も高いと……」

 その報告に、会議室と思しきその部屋に集まった面々は、一様に驚愕を浮かべる。

「なんと……し、しかしあの一族に名を連ねる者達は、20年前に殺しつくしたはずでは!?」

 驚き、狼狽した様子でそう口にする中年の男を、その男よりも上座に座っている髭面の男がぎろりと睨み、たしなめるように言った。

「落ち着け、喚いても始まらん! おい、大臣……仮にその男が『直系』だとして、あの粛清を逃れて生き残ることが出来た存在に、何か心当たりはあるか?」

「そ、そうですな……20年前、直系血族は妾腹も含めて全て調べつくした上で処刑いたしました。名簿とも照合・確認をいたしましたゆえ、生き残りなど…………いや……」

 そこまで言って、『大臣』と呼ばれた中年の男は、しばし視線を空中にさまよわせる。
 不穏な様子に気付いた会議の出席者たちは、視線を大臣に集中させた。

 全員の視線を受けて緊張が倍増しになった様子の大臣だが、どうにか声を絞り出す。

「……1人、おります。いや、生き残りというか……間違いなく実際に『死んでいる』のですが、それゆえに『名簿』との称号の対象外となっていたもの者が、1人だけ……」

「? いっている意味がよくわからんが……誰だ、その者とは?」

「……アドリアナ様です」

「……あの女か」

 大臣の言葉に……一番の上座に座っていた男が、呟くようにいた。
 その声色は、不機嫌さを隠そうともしないようなもので……耳にした出席者たちのほとんどは、額に、あるいは背筋にじっとりと汗を浮かべていた。

「確かに……いささか特殊な死に方をした女だったな。もしやその時に……ならば納得できる。その男を探し出して、つれて来い。出来なければ……殺せ」

「は……はっ! 直ちに手配いたします、陛下! お、おい将軍! 直ちに軍の用意を……」

「わかりました、では……」

「……その一戦、我らも一枚かませてもらおう」

「「「!!」」」

 唐突に割り込んできた、別な声に……今度は出席者達の視線が、下座の方に集中した。

 そこには……この場にいる者達の中では一番ではないかと言っていいほどに、若く、整った顔の男が座っていた。腕を組み、目をつぶって座っているその姿からは……年若い見た目に似合わない、威厳や貫禄のようなものが、気のせいか感じられる。

 しかし、それ以上に印象的で特徴的なのは……その耳が、長く、尖っていることだ。

 一見して『エルフ』系の種族であろうとわかるその男は、ゆっくりと目を開け、髪の毛と同じ金色の瞳を動かして上座を見据える。

「その者には我々も興味がある。戦うならば、条件次第で手を貸してもよい」

「何だその言い方は!?」

「亜人風情が無礼な……我々を何だと心得ている!?」

 他の出席者たちが、先ほどまでとは打って変わって、尊大で見下したような口調と共に男を怒鳴りつける。

 言われている男はどこ吹く風で、上座の男のみに目を向けていた。
 その視線を受け止めている、先ほど『陛下』と呼ばれた壮年の男は、

「ふん……我らの戦に関わりたがらない貴様らが、珍しいな? 何が目的だ?」

「お前達が知る必要は無いことだ……人間の王よ」

「……貴様……!」

 再び巻き起こる罵詈雑言の嵐。
 それに加え、『将軍』と呼ばれた壮年の男もまた……今のは許しがたく思えたのか、ぎり、と歯を鳴らし、不愉快そうな顔で鋭い視線を向ける。

 王もまた不愉快そうな顔になったが、ふん、と鼻を鳴らした程度だった。

「聞けば、その男は相当な腕利きの様子。我ら『ハイエルフ』の戦士の力も必要となろう」

「好きにしろ。将軍、お前に任せる」

「了解しました……では、後ほど作戦をつめましょう。クレリオン殿」

 ハイエルフの、『クレリオン』と呼ばれた男は何も答えず、目をつぶってもとの姿勢に戻った。

 ☆☆☆

 ……なんか、最近おかしい。
 何がって? 色々。

 護衛の仕事や、姉さんの商会の営業その他……それら自体は、何も滞りなく進んでいると言っていい。特に目立った問題は、何も起こっていない。

 起こっていない、けど……やっぱりおかしい。

 思えば……こないだ、レジーナやステラさんにあの変な『鏡』を見せたときあたりから、かな……変なことが起こるようになった。

 それまで、軽く挨拶する程度だった『フラワー』のリーダーさんが話しかけてきて、やたら飲みに誘ってきたり、色んなことを聞いてきたり……
 同じく『フラワー』の、他の団員さんにも話しかけられることが多くなった。

 レジーナやステラさんもそうだけど……加えてこっちは、何か意味ありげな視線を時々向けてくるようになった。
 僕が気付いてないと思ってるのか、そっち向くと視線逸らしたり、別なことし始めるんだけど。

 それに……あの『鏡』の光、アレあの後さらに何度かやって見せさせられた。
 結局アレが光るメカニズム、わからなかったんだけど……何か関係あるのかな?

 ……ありそうだな。アレが光ってから、何だか『フラワー』の皆さんの空気が変わったのは確かなんだから。
 ……不安だ。何か、面倒ごとの匂いがしてきた。

 起こるなら起こるで、まあある意味いつものことではあるんだけど……さっさと解決させられるようなことならいいんだけどな……ああ、そうだ、他にもあったっけ、気になること。

 これも同じく、あの『鏡』を触って光らせてからのことなんだけど……何か、夢を見るようになったのだ。

 毎晩のことじゃないし、前に見てたあの『悪夢』――母さんと僕が戦ってるあの過去の記憶――とは違うんだけど……こっちはこっちで、わけのわからない不思議な夢だ。

 何せ、僕が(多分)仰向けで横になってて……それを上から、女の人が見下ろしているのだ。

 というか、その時の位置関係を思い浮かべてみると……抱き上げてられている赤ん坊の視線、って感じに見えるのである。

 となると、また過去の記憶か?……とか思ったんだけど、それもちょっと怪しいのだ。

 だって、見えるのが母さんじゃなくて……見覚えのない女の人の顔だから。

 若くて……美人だけど、何か顔色悪そうで、儚げな感じ。
 明るい茶髪を頭の後ろで纏めていて――でもたぶん解いたら長いと思われる感じだった――なぜか汗だくで、息が荒い。

 そして……こっちを見下ろしてくるその目が、なぜか…………ん!?

 
 ―― ぞ く り

 
「――っ!?」

 唐突に、何の前触れもなく……背筋にツララが100本くらい突き刺さったかのような、強烈な寒気を感じ……僕は、天幕の中で仰向けに寝ていた姿勢から飛び起きた。

「……? ミナト? どうかしたの?」

 横で寝ていた僕が突然起き上がったことを不自然に思ったのか……隣で、寄り添う感じで寝ていたエルクが、少し不安そうに聞いてくる。
 けど……それに答えるだけの余裕が、残念ながら、まだ僕にはなかった。

 何だ、今の……? 何か……変な感じ、いやそれどころじゃない、嫌な『何か』が……!

 ていうかこの感じ、前にもどこかで……ああ、そうだ、ダモクレスのウェスカーだ。
 あいつが近くにいる時に、なぜか直感的にその存在がわかる感じがするアレと似てる。

 けど、さっきのはウェスカーじゃない。もっと何か……

 そこまで考えた所で、僕の肩に、羽ばたく音もなくアルバが舞い降りた。
 そして同時に、何かを言う前に『サテライト』が発動し……そのイメージが僕とエルクの頭の中に送り込まれたその瞬間……

「「……っっ!?」」

 僕らは……理解した。ようやく。

 野営張ってるこのキャンプが……何者かの手によって、囲まれてしまっているということに。

 まだかなり距離あるけど……かなり数が多い。
 魔物じゃないな、人間だ。何だ、盗賊か? けどそれにしちゃ、妙に統率取れた動きしてるような気が……。

 いずれにせよ、ぼさっと寝てられる場合じゃないのは確かだ。
 この数だと……守る方の規模もあいまって、油断が許されない戦いになりそうだし。

 素早く身支度を整えて外に出ると、他の天幕から、丁度同じくらいのタイミングで『邪香猫』メンバーが一斉に出てくる所だった。状況を理解しているのだろう、完全武装で。

 さっきアルバが『サテライト』のサーチ結果を、メンバー全員に強制的に届けたというか送りつけたので、おきていたメンバーはもちろん、眠っていたメンバーも飛び起きて準備したようだ。

 脳内地図に移っている盗賊(?)達は、じわじわとその包囲を狭めてくるが……その間に、僕らもテントで寝ている人達に言って準備をさせて回る。気取られないよう、認識阻害を絡めてこっそりと移動して。

 数分とかからず、ほとんどのテントで護衛たちが武装を終え、迎撃体勢が整ったのを確認できた。

 コレがもう少し早く完了してたら、先手を取ってこっちからぶちかましてもよかったんだけど……だいぶ包囲網狭まってるな。確実に防衛しつつ、攻撃と防御に役割をきっちりわけて戦ったほうがいいか……何て思っていた、その時。

「―――てっ!」

 暗闇の向こうから、何かを指示するような鋭い声が聞こえてきたかと思うと……次の瞬間、遠くの茂みから……小さく光っている何かが、上空に向けて飛び出した。

 おそらく、というか確実にそれは、こちらへ狙って放たれたのだろう……放物線を描いて落ちてくる…………ん? アレ……矢!?
 先端部分に炎がついて燃えてる……火矢か!?

 ぎょっとしつつ、エルクとアルバ、それにナナに指示を出して、暴風を起こしてもらい……色んな方向から飛んでくるそれら全てを打ち落としてもらう……が、

「んなっ!?」

 しかしその直後、今度は同じように四方八方から、魔法を練り上げる気配が感じ取れたかと思うと……大きな火の玉が高速でこっちに飛んできた。

 これもアルバ達と……今度はミュウにも、さらに、スタンバってもらってた他の護衛の人達にも頼んでどうにか防御するも……しきれなくてはじいたりそらしたりした火球が、周囲の地面に着弾して派手に炸裂した。轟音と共に。

「きゃあっ!?」

「な、何だぁっ!?」

 そこらじゅうのテントから聞こえてくる、驚愕と恐怖の声。

 しかし、僕らも負けず劣らず、敵さんのこの対応、というか攻撃には驚愕している。

 だって……手口が乱暴どころじゃない。
 今の攻撃、僕ら護衛を殺そうとしてたであろうことを考えても、規模が大きすぎる。防御してなかったら、確実に天幕や荷馬車とかにも当たってたはずだ。

 そうしたら……積荷を奪うどころじゃない。

 そもそも、さっきの火球は明らかに魔法だ。それも、結構なレベルの。
 それが四方八方から飛んできた……つまり、相応の数の魔法使いがいる。
 盗賊に魔法使いなんて……そう多くいるもんじゃない。

 これらのことを考えるに……

(こいつら、やっぱり盗賊じゃない……? そして、目的は……命か!?)

 それに答えるかのように……茂みから飛び出して襲いかかってくる、甲冑で完全武装した何十人もの男たち。歩兵だけでなく、騎兵や重歩兵?までいる。

 どう見ても物盗り目当ての賊には見えず、どう見てもこちらを殺す気でかかってきている連中が、四方八方から殺到し……真夜中の、突然の戦いが幕を開けた。

 
 
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