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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第13章 コード・オブ・デイドリーマー

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第221話 踊り娘達の将来設計

あけましておめでとうございます!
今年も『魔拳のデイドリーマー』をどうぞよろしくお願いします!

新年一発目は諸事情により、2話同時投稿になります。
後の第222話とあわせてどうぞ。
 

「しっかしこの国って、ホントに何もないな……見張りとかする分には楽でいいけど」

「もともとそーいう気候なんだってさ。もうちょっと南に行くと、緑も多くなってくるんだけど……このへんはもう、どこ行ってもほとんど土と砂利ばっかりみたい」

 今日も今日とて、『マルラス商会』の馬車はリアロストピアの大地を進んでいる。

 僕ら『邪香猫』はその護衛として、馬車周辺の見張りなんかもやっているわけだけど……今言ったとおり、この国、ホントに荒野ばっかりで遮蔽物が何もない。

 凹凸に乏しく、ただひたすらに平坦な地形、生えている草木は背が低いものばかりで、視界をさえぎるような背の高い木々はほとんどなし。たまにサボテンに似た木が生えてるくらいだ。

 川や丘陵地なんかもほぼなし。たまに……『元』川と思しき干上がった溝を見ることはある。

 さっきまで僕、馬車の屋根の上で見張りしてたんだけど……今言ったとおりの景色なので、僕の視力なら『サテライト』を使うまでもなく周囲が見渡せる。
 魔物も盗賊もほとんどいないので、どっち道安全確認後はやることがなくて暇なだけだけど。

 そして、そんな僕の愚痴気味の話を横で聞きつつ、おかしそうに笑っているのは、こないだの町で出会った旅芸人・レジーナである。

 彼女が何でここにいるのかと言うと……理由は簡単。彼女達の一座が、この商隊に一緒についてくることになったからだ。主に、安全上の理由で。

 前にもチラッと言ったと思うけど、この世界においては、商隊なんかは一般的に、規模が大きくなればなるほど、盗賊や魔物に襲われにくい。
 逆に、個人や少数の馬車で旅をしている商人なんかは、襲われる危険性が大きい旅路になる。

 そのため、個人ないし少人数の旅人や行商人は、時にお金を払って大規模な商隊なんかに一緒についていかせてもらったりするのである。その方が安全だから。
 ついていかせる方も、お金は入るし人手にもなるので、条件次第でOKすることが多い。

 レジーナの一座も、そんな感じでノエル姉さんの商隊についてくることになったのだ。

 作業員みたいなスタッフの人達はもちろん、歌姫・踊り娘の子達もみんな働き者で、商隊の仕事とか進んで手伝っていた。

 仕事って言っても、もちろん金勘定とかじゃなくて、休憩とか食事の時の盛り付け・配膳とかそのへんの雑用系だけど、そういう仕事も一生懸命かつ丁寧にこなしていた。
 若いのに偉いな、対したもんだ、って、姉さんの商隊の人達も感心してた。

 それに、営業努力かもしれないけど、人と仲良くなるのも早くて、ごく自然に商隊の人達の所にとこけこんで談笑したりしている。
 僕ら『邪香猫』にすっかりなじんでしまっている、レジーナみたいに。

 今もこうして、一緒にご飯食べてるし。

「しっかし、ミナトのところのお仲間さん達ってすごいねー。皆若くて美男美女なのにも驚かされたけど、ほぼ全員が実力AAランク以上とか……しかも、まさかミナトがSランクだとは」

「あははは、そう見えないってのはよくいわれてるけどね」

「ああ、そう聞こえちゃったなら謝るよ、ゴメンゴメン。純粋に驚かされちゃったからさ」

 今日はここまでってことで、キャンプを張って夕食をとることになった。

「私達って基本、守られる側ばっかりだからさ。傭兵とか冒険者の人達にはいつも……ってわけじゃないけど、お世話になりっぱなしで……流れ流れてここに集まった連中が大半の一座だから、戦闘訓練なんてやったことある人ほぼいないし。だからって別に、それをおかしいと思ったことはなかったんだけど……いるところにはいるんだなあ、って思ったわけ」

 そう言って、レジーナは僕らをさっと見渡して、

「私達と年も変わらないのに、そんなすごい人達がいるんだな……って思ってね。正直、全然想像もできないもん。ドラゴンを倒せる人間とか、そーいうの」

「まー、それが普通だろうね。かくいう僕らも大半は、ちょっと前までそういう存在を見上げる側の人間だったからよくわかるよ」

「いつの間にか『否常識』の側になっちゃいましたねー、誰かさんに関わったばっかりに」

 ジト目笑顔でこっちを見ながら言うミュウ。悪かったね、魔改造マニアで。
 まあ……確かにその通りだけど。

 なんとなく頭の上に『?』が見える感じのレジーナには想像もつかないだろうけど――それこそ、全員のランクを聞いた上での話であっても――今揃ってるこのメンバー、見た目からは絶対に想像もできない戦闘力を有してる集団だからなあ。

 ザリーもそろそろAAAに手が届くんじゃないかな、って位に強くなってる。特に、こないだの『ローザンパーク』での一件依頼、一層トレーニングに身が入るようになったみたいで、めきめきと実力は上達中。

 加えて、ミュウも扱える召喚獣がまた増えたのに加え、本人の実力もここにきて加速度的に伸び始めていたりする。

 もともとミュウは一般人で、戦闘訓練や魔力運用なんかの基礎訓練してなかったからね。そういう面で地盤がしっかりしてきた結果、伸びるべき力がはっきりしだしたんだろう。
 師匠の所で訓練したとはいえ、短期間じゃ限界ある部分もあったんだろうし。

 ……その師匠だけど……なぜかここんとこ姿を見ないんだよな……。

 ここんとこっていうか、『ローザンパーク』にいた頃の途中からそんな感じだったんだけど、最近とんと出かけっぱなしで姿を見ない。船に帰ってきたと思ったら、すぐ出かけるし。
 何か用事があるみたいだ。行っても『ああ、ちっとな』って教えてくれないけど。

 ……まあでも、もともと師匠って研究目的で『オルトヘイム号』にいただけで、家は『暗黒山脈』にあるあの邸宅だから、別にどうこうないんだけどね。
 ……もしかして、帰っちゃったのかな? いや、荷物一部あるし……それはないか。

 まあ、それは今度の機会に聞けばいいか。

「それにさ、さっきも言ったけど、揃って美男美女……っていうか、美少年美少女ぞろいなんだもん。正直な話……冒険者だって思えないって皆言ってたし」

「まあ、実際冒険者でも、武闘派でもないのもいるけどね」

 と、クロエ。ネリドラもその隣でこくり、と頷いた。

「基本、このチーム、ミナトが欲しがる何らかの『技能』を持ってるメンバーで構成されてるから」

「スタッフ1人に至るまで、適当に選んだメンバーはいないからね。自慢になるけど、うちのチーム、戦闘要員8人、非戦闘員4人……全員そんじょそこらにはいない逸材ぞろいだよ」

「……あれ? 人数……あんた、私、ザリー、シェリー、ナナ、ミュウ、セレナさん、シェーン、ターニャ、クロエ、ネリドラ……と、クローナさん?」

「違う違う、リュドネラ」

「ああ、なるほど」

 師匠はメンバーに数えてないから

『こらこらー、忘れるなー?』

 と、頭の中にネリドラそっくりの、しかし調子の違う軽い感じの声が響いた。
 ああ、そーいやこないだ念話機能付け足したっけ。

「……あたしもメンバーに入ってんの?」

「うん。実質そんなもんじゃん? いつも一緒だし」

 ああ、そういやこの人正確にはギルド所属だったな、なんてことを思い出しつつ、セレナ義姉さんにはそう返しておく。

 ふと見ると、一連の会話を聞いていたレジーナが、視界の端で『ふ~ん……』と、感心したような悩んでるような顔になっていた。かと思うと、

「ん~……こりゃ、余所者が入り込む隙間は無いね、うん」

「ん? どういうこと?」

「いや、一座の皆に言っとこうと思ってさ。売り込んでも無理そうだから、やめといた方がいい、って」

 と、レジーナ。
 売り込む……って何だ? 僕のチームに?

 何、レジーナのとこ、人材派遣か何かでもやってんの?

 そう聞くと、レジーナはなぜかちょっとばつが悪そうな顔をして、

「んーとね……簡単に言うと、今、私達の一座の中にはさ、旅芸人辞めて、他の職業探してる連中もいるんだ。近々、一座そのものをたたむかもしれないから」

「え、そうなの?」

「うん。魔物に盗賊に、物騒な世の中だからね……私達みたいなかよわい旅芸人は、護衛無しじゃ満足に移動も出来ないし。それに……旅芸人って職業自体、寿命の長いもんじゃないから」

 旅芸人一座『フラワー』は、主に2通りの人間からなっているらしい。
 簡単に言ってしまえば、歌や踊りが好きで、それで食べて生きたい者……と、それ以外だ。

 レジーナは前者らしいけど、後者に分類される者たちの中には……単に生活できればいいっていう出稼ぎ・バイト感覚の者や、旅の道程で色んな所を訪れるのが好きな者、という感じに、様々な思惑・思想を持った人たちで構成されている。

 それでも、基本的に皆仲良しでここまでやってきたらしいけど、最近は色々な理由から、旅芸人という立場に見切りをつけて、一座を抜けていく者も多いそうだ。

 そして、そういった中には、町で出会っためぼしい相手に見初めてもらったりして、使用人、あるいは愛人なんかとして雇い上げてもらったり……という人もいるらしい。

 ああ……それか、さっき『売り込んでも無理そう』って言ってたの。

「『フラワー』の面子は基本、はぐれ者・流れ者で主になってるんだけど、そういう人が沸いて出て、どんどん入ってくるわけじゃないし……最近は減る一方。多いときで踊り子、今の人数の倍くらいいたんだけどさ……今は人数不足で、欠番になってる演目とかもあるんだ」

「へー……それで、解散する見込みになってるの?」

「うん。近頃はだんだん、この国の政情も安定してきてるからね。雇用も生まれるだろうし、職に就いたりもできるようになるだろうから、いい機会だって。もともと、職がなくて放浪して入ってきた人も多いから」

「でも、そういう人ばかりでもないんだよね? レジーナとか」

 彼女はただ単に、歌と踊りが好きだから旅芸人やってた、ってさっき言ってたし。
 そういう人はどうするんだろ? そういう人だけでまだ旅続けるのかな?

 そうたずねるとレジーナは、ちょっと迷ったような仕草を見せた後、

「うーん……その辺はまあ、色々考えてる最中、かな。続けるかもしれないし、続けないかもしれないし……」

 とのこと。

 気のせいか……なんだか、ちょっとさびしそうに言っているように聞こえた。

 
 ☆☆☆

 
「ただいまー」

「お帰り、レジーナ。今日は少し暑いわね……お水飲む? 商隊の人が安価で売ってくれたの」

 一座『フラワー』の、自分に割り当てられている馬車に戻ったレジーナを、中から出てきた1人の少女が、そんな言葉と共に出迎えた。

 レジーナよりも少し年上といった感じである。この世界では珍しい黒髪に、おかっぱのような髪型。髪留め2つで頭の両サイドに小さなポニーテールを作っている。
 美少女と美女の中間と言った感じの、凛々しくもかわいらしい顔。目はやや細く、きりりとしている。

 落ち着いた調子の、ゆったり目の服。麻か何かで作られていると思しき、派手さのない質素な感じの服に身を包んでいた。

「あー、もらうもらうー。ありがとステラ」

 ステラ、と呼ばれた彼女は、にこりと微笑んで水筒を差し出した。
 そして、それを受け取ろうとレジーナが身を乗り出した所で、自然な動きで自分も少しだけ身を乗り出し……

「……数日中には到着します。そこで『鏡』を使って『確認』を、とのことです」

「はいはい、りょーかい」

 誰にも聞こえない音量で、そんな会話が一瞬のうちになされた後……2人は、何食わぬ顔で、自然に別れた。

 ステラは壁に寄りかかって荷物の整理を始め……レジーナは反対側の壁際に座り込み、喉を鳴らして水筒の水を飲んで、息をついていた。

 
 
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