EU残留派逆転、優位に 議員射殺影響か
【ロンドン矢野純一】英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う23日の国民投票で、残留運動を推進する女性下院議員が射殺された後に2社が行った世論調査の結果が19日公表された。いずれも、事件を挟んで残留派が離脱派を逆転して上回った。残留・離脱両派は、事件後中断していた運動を同日から再開。議員襲撃事件で訴追された男(52)が移民排斥を主張する極右団体の思想に染まっていた疑いが濃厚になるなか、移民問題を取り上げていた離脱派に逆風となる可能性がある。
世論調査会社「YouGov」が事件直後の16、17両日に行った調査結果によると、残留支持は44%と、離脱支持(43%)を1ポイント上回った。事件前の12、13両日に行った調査と比べると、残留派は5ポイント伸ばし、離脱派は3ポイント減らした。
事件前の調査で、どちらに投票するか分からないと答えていた割合が11%から事件後には9%と減少しており、事件をきっかけに、どちらに投票するか迷っていた層が、残留支持に流れた可能性がある。
また、事件直後に行われた世論調査会社「Survation」の結果では、残留支持が45%と、事件直前の15日に行った調査より3ポイント上昇。離脱派は事件後には42%と前回より3ポイント下落して形勢が逆転した。世論調査の動向は4月下旬以降、それまで劣勢だった離脱派が、残留派を上回り始めていた。
「YouGov」の政治社会調査チームのアンソニー・ウェールズ代表は、「形勢が逆転し反対が勝利した2014年スコットランドの独立を問う住民投票の動向と似ている」と指摘する。独立の住民投票の際も、運動当初は変化を期待して独立賛成が多かったが、直前に反対が増えたという。ウェールズ代表は「悲惨な事件と関係があるとの推論もあるが、当初は離脱による変化の予感に興奮して離脱を支持していた人たちが直前になって変化を恐れ、残留派に支持が集まっている」と分析した。
調査は離脱・残留派の双方が、射殺された議員に哀悼の意を示すため、運動を中断していた期間に行われた。双方の運動を推し進める下院議員らはメディアにコメントを求められても慎重に言葉を選び、公には事件と国民投票を関連づけることを避けてきた。19日に再開された運動で同情票に加え、現状維持を求める層も増え、残留派が勢いづく可能性もある。