国民投票運動再開 「残留派が事件利用」
【ロンドン三木幸治、坂井隆之】欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票に向けた残留、離脱派双方の運動が19日、再開された。16日に英中部バーストールで起きた残留派の女性下院議員射殺事件後、中断していた。23日の投票に向け双方とも支持拡大に力を入れたが、離脱派の中には「残留派が事件を利用している」との声が広がっている。
ロンドンのテムズ川岸で開かれた離脱派の集会では、前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏やマイケル・ゴーブ司法相らが演説。ジョンソン氏は「EUから権限を取り戻し(能力などの評価に基づいて入国を許可する)ポイントシステムを導入すれば、世界のどこから来る人でも公平に扱える」と述べ、離脱派が移民排斥を掲げているという見方の払拭(ふっしょく)を図った。
「VOTE LEAVE(離脱の投票を)」のバッジを胸につけたデイビッド・テナントさん(65)は事件について「一人の正常でない人間がやったもので、政治的背景はない」と話した。
マリオン・ウッドワードさん(63)は残留を訴える労働党の支持者だが「ずっと離脱すべきだと主張してきた。ようやく機会が巡ってきた」。事件について「彼女の死はとても悲しい。だが、残留派は事件を利用しようとしている」と批判した。アブドラハム・アルムタルさん(59)は「事件は人々の感情に何らかの影響は与えるだろう」と懸念した。
一方、残留派の市民団体「BIG IN」は同日、英国の「言論の自由」を象徴するロンドン中心部のハイド・パークで約500人の集会を開いた。主催団体メンバーのチャールズ・ペリーさん(47)は「事件は言論の自由を暴力で弾圧した。人々が民主主義を思い起こし、EUを分裂させないように団結する場にしたかった」と語った。
集会には離脱派を率いるジョンソン前市長の父で元欧州議会議員のスタンレー・ジョンソン氏(75)も出席。「(息子は)EUという船が間違った方に向かっているとして、船から飛び降りておぼれようとようとしている。だが移民や経済などの問題に立ち向かうにはEUに留まらなければならない」と訴えた。
元教師のメアリー・スミスさん(64)は「離脱すると何が起きるかわからず、将来が不安だ。環境政策も後退する可能性がある」と述べた。事件については「極右による思想的な事件と感じる。残留派を後押しするのでは」と話した。IT会社に勤めるイアン・ウィリアムさん(44)は「離脱で文化など他分野にも影響が出る。愛国主義は視野が狭くなりがちで、それが事件につながったのでは」と、離脱派を批判した。