聖史:すごく基本的なことですけど、読み物として意識したネームを作ること。簡単なようで、これが意外と難しくて…。ただ、キャラクターに入り込むことができれば、物語に合った台詞がふっと浮かんだり、この台詞はこのキャラクターしか言えないな、って言葉がスラスラ出てくるんです。
斉史:そう、台詞が生きてくる。ネーム段階でキャラクターに入り込むことは本当に大事。弟の漫画を読んでいると、その部分が少し弱いかなって思うんで。もう少しこの部分、作り込めるのになとか。描いたものを見てもらって面白いって言われなきゃ意味がないので、そのためにもネームにはとにかく入り込め! ってよく言ってます。
聖史:よく説教されました(笑)。確かに昔は無理して作品を描いてた分、ネームへの入り込みが甘かったかも。それと比べると今はネームを描くノリも変わってきたけど…作品のテイスト上、どうしても辛い、暗い気持ちに寄っていっちゃうんだよなぁ。
斉史:入り込む以上、気持ちが引っ張られるのは仕方がない。僕もネーム中はとにかくキャラクターに入り込むので、逆に現実世界からの邪魔が入ると、また1から入り込まないといけなくて辛いんですよね。
斉史:そうなんですよ。例えばインターホンとか、子供と遊んだりとか…ほんの数分意識が別のところを向いただけで仕事モードに戻るのに時間がかかりますから。仕事とプライベートの時間は厳しく分ける、これは大きな課題ですね。
斉史:普通、作品の1話目って敵キャラとか出して今後の興味に繋がるような展開をもってくるんですけど、今回の外伝に関しては王道から外した部分があって。
斉史:そこは「NARUTO-ナルト-」と違って新鮮味がありましたね。サラダはあんまり“女の子”って雰囲気のキャラクターじゃないんですけど、一応女子の心理とか勉強しないとなって思って「女子力UP」みたいなHOW TO本を何冊か買って、研究したりしたんですよ。
斉史:本で勉強したことを元にキャラクターを作ったつもりだったんですけど…なぜかその成果はサラダじゃなくチョウチョウ(チョウジの娘)に反映されてしまったんですけどね。
聖史:チョウチョウ、いいキャラだもんな。今回の外伝は暗めな雰囲気で展開していたから、ああいう明るいキャラクターは大事だと思う!
斉史:キャラクターの出生の秘密とか、ちょっとドロドロした感じするからな。明るい脇のキャラクターで作品のバランスを取れていたから、結果的によかったのかな。僕の周りでのチョウチョウ人気も高かったし。
斉史:めったに会えない夫婦なんですが、サクラの言うとおり二人はちゃんと“気持ちが繋がってる”。外伝を最後まで読むと、その言葉の真意がわかると思うので、ぜひ最初から最後まで読んでサクラとサスケの繋がりを実感してもらいたいです。
斉史:短期集中連載とはいえ、外伝を描くことにはプレッシャーがありましたから。「NARUTO-ナルト-」本編があんなに人気だったのに、外伝は面白くないって言われたくなかった。だから意地でも面白くしてやろうって。だって面白くないと、描いた意味がなくなっちゃうから。
聖史:兄の作品とは言え、僕は純粋に「NARUTO-ナルト-」が好きなファンの一人ですよ。ネタの相談をされた時も、「どういう風にしたら面白くなるだろう」ってすごい熱心に考えちゃう。それは作家としての意見はもちろん、やっぱり僕自身この作品に対する愛情が深いから。「NARUTO-ナルト-」は普通じゃつまらない、予想を裏切るような斜め上な展開を仕組んでいかないと。
斉史:作者を目の前にハードル上げるよな~(笑)。
聖史:そのくらい「NARUTO-ナルト-」に期待してたし、何より作品が好きだったんだよ。あ、でも作者のことはまったくファンじゃないけど。
斉史:うるさいよ(笑)。でも実際、聖史と話をしてると台詞とか展開のヒントにつながるようなことを言ってくれるんですよ。台詞が決まらなくてどうしようかなって思ってる時に、電話で印象的なことをポロっと言われたり。作品を好きな気持ちがあったからこそ、こういう言葉を言うことができたのかなって…ちょっと納得しました。
実家のこたつの上で斉史先生が
ラフスケッチを上げた時から
ナルトを知っていた聖史先生。
「NARUTO-ナルト-」のことを
語る中、笑顔で一言
「僕にとって元気をもらえる
作品です!」と言った言葉に、
並々ならぬ作品愛を感じました。
実家のこたつの上で斉史先生がラフスケッチを上げた時からナルトを知っていた聖史先生。
「NARUTO-ナルト-」のことを語る中、笑顔で一言
「僕にとって元気をもらえる作品です!」と言った言葉に、並々ならぬ作品愛を感じました。
斉史:…これで大丈夫でしたか(笑)?
聖史:本当、普段の会話の延長だったよな(笑)。
斉史:第三者を間に挟んでの対談でどうなるかと思ったけど、僕的には普段通りに飾らず話が出来てよかったなと。聖史はカンペまで用意して、バッチリ作り込んできたけど(笑)。
聖史:作ってないし(笑)!!
斉史:でも今回の対談読んでもらえるとわかると思うんですけど…僕らって、電話で雑談してても結局漫画の話になっちゃうんですよ。
聖史:あの映画面白かったって話から、その作品のカメラワークとか演出とか…漫画で活かすとしたらどうだろう? とか。
斉史:で、最後は僕が聖史に漫画の説教(アドバイス)して終わり。ちゃんと伝わってるのかなって思うんですけど…。
聖史:わかってるって! だから本当に今は説教されないような漫画、描いてるから。「助太刀09」は斉史に読んでもらいたい作品になってるよ。
聖史:僕の目標は“作品を面白くしていく”その一言です。今日は斉史に結構言われましたけど、いくら反論しようと結局は作品が全てだから。ドラマはもちろん人間一人一人をしっかりと描いて、自分が伝えたいことを最大限表現していきたいです。「助太刀09」を今後ともよろしくお願いします。
斉史:外伝執筆は終わりましたが、これから映画の公開が始まります。単行本で外伝を楽しんでもらうことはもちろん、一人でも多くの読者の方に映画を見てもらいたいなと思います。自分で言うのもなんですが、すごく面白い映画になってますよ。あと新作の漫画も動き始めているので、こちらにもぜひ期待していただきたいです。
聖史:僕の場合、作品が終了したり、次の作品の仕込み期間として漫画が描けない時期を経験しているので…“描くことができる”それだけで嬉しいですよ。漫画家って自分の表現を形にして見てもらえることが何より大事だと思うので。
斉史:読者のリアクションほど、嬉しいものはないからな。僕が喜びを感じるのは…ネームを仕上げた時ですね。ネームってすごくエネルギーを使う作業なんですよ。楽しい反面、やはりキャラクターに入り込んで作っていると…辛い時も多くて。
斉史:そうですね。入り込んでネームを描いていると、どうしてもそうなってしまうんですよ。「NARUTO-ナルト-」のペイン戦の時は特に辛かった。眠れないし、脂汗が出るし…。ネームが終われば開放感でいっぱいになるんですけど、最中はとにかく精神的にキツイ。聖史も精神的に辛い経験とか、あっただろ?
聖史:あった。僕の場合“この時期”っていう明確なものはないけど、徐々に精神的に追い詰められて…気がついたら体重が40キロ台まで落ちたことがあって。その時初めて、漫画って身体も心も元気じゃないと描けないなって思った。
斉史:本当にそう。あと身体面で言うと、ぎっくり腰やった時もキツかった。
聖史:僕も未だに腰痛に悩まされているよ…。
斉史:座り仕事だから、腰は大事だよな。僕は、身体の丈夫さってネームの面白さに比例するんじゃないかなって思っているんです。だから漫画家は技術的なことはもちろん、食生活とか整えて身体も作っていかないと。
聖史:やっぱり精神的に弱ってる時は頼ることはありますね。斉史から電話がきて、話し相手になったりするし。
斉史:作家なら誰でもそうだと思うんですけど、ネタが出てこないと本当に辛いんですよ。会話の中でアイデアがまとまることもあるので、やっぱり身近な存在である聖史に話を聞いてもらったり。
聖史:作品の演出面とか、バトルのイメージとか…お互い話をする中で盛り上がって固まっていくこともあったり。
斉史:でもそうすると、担当と弟の意見の間で揺れるんですよ。担当と弟、二人と話をしていいところを取ろうとするけど、ある日担当に「担当と作家の二人で話を作っていくんだから、他の人の話を聞いてぶれないで欲しい」って言われて。そこからはあまり作品のことで連絡はしないようにしました。
聖史:とか言いながらも電話してきてたし(笑)。でも斉史は僕や担当さんの意見がどうであれ、ぶれない軸を持っているから、他人の意見はきっかけにすぎないんですけどね。
斉史:“どうしてもこれを描きたい”っていう軸がないと、読者に何も伝えられないって思っているから。よく新人作家で担当編集の意見でコロコロ考え方を変える人がいるって聞くんですけど、そういう人って実は自分の主張したいことがないんですよ。自分の想いを編集にぶつけられるくらいの人の方が、作家としての伸びしろはあると思う。
斉史:でも僕も新人時代、当時の担当に「言うこと聞きすぎ」って怒られたことあったんですけどね(笑)。ただ、それでも担当は僕の主張したい想いをわかってくれてたから、自分の軸がぶれることなく漫画を描くことができて…結果的には良かったです。
聖史:電話で相談するのはもちろん、僕は連載前に斉史にネームを見てもらったりしてますよ。
斉史:その度に、説教という名のアドバイスをしてるんですけど(笑)。
聖史:また言いたい放題言うんですよ。設定漫画はやめろとか、もっとこの部分こうしろとか…。
斉史:僕、弟には厳しいので。でも「助太刀09」はキャラクターを描けていたから、珍しく褒めた気がする。
聖史:“犯罪”とか“仇討ち”とか、ちょっと重たい題材を扱ってますからね。でも僕自身が元々、元気で明るいタイプの人間じゃないから、自分が描きたい作品を考えた時にこういう作風になってしまうんです。昔は無理をして元気を与えるような作品を描いていたけど、今は自分が伝えたい想いを込められる作品を描きたいって…。
聖史:はい。この「助太刀09」の大きなテーマが“比べる”っていうことなんですけど、それは僕自身がずっと経験してきたことなんですよ。双子なのに斉史と比べて身体の大きさも、丈夫さも違う。周りの子と比べても、身体が弱いせいでみんなと同じものを食べられない、遊んだりもできない。そういうことを常に感じてきた自分だからこそ、いろんな角度から物事を比べてみる作品を描きたかった。
斉史:双子ってどうしても比べられてしまうんですよね。でも“比べる”って嫉妬とか、有利・不利、勝者・敗者とか、想像が広がって面白くなりそうなテーマだな。
聖史:神経質で比べたがりな主人公の優二は特に、僕自身を反映させた部分が多いですね。そんな優二を始めとする助太刀人たちが、遺族に代わって加害者に仇討ちを執行していく物語なんですが、失われた命と自分が奪う命に対し様々な想いを巡らせていく。友人、家族、恋人──繋がっている人間が多ければ多いほど命の重さに繋がるけど、加害者にだって繋がっている人間はいる。その“命”の重さの狭間で、助太刀人はどう被害者・加害者と向き合うのか。読者の皆さんにぜひ、注目してもらいたいです。
聖史:さっきも斉史が言っていたけど“どうしてもこれが描きたい”っていうぶれない軸が、表現できているからかな。
斉史:そういう想いの強さが、作品にとって一番大事なものだからな。結局どんな作品も何を伝えたいか、だと思うんです。その伝えたい想いが強ければ強いほど見せ場へと繋がって、面白さへ変わる。聖史の想いが強い分、読んでいる人にも自然と伝わる作品になっているんじゃないかな。…と、褒めるのはこの程度にしておこう(笑)。
聖史:斉史って僕の漫画に関して厳しいくせに、たまにわざわざ連絡してきて面白かったって言うんですよ。「666~サタン~」の7巻の時とか、そうだったよな?
斉史:あの時くらいですよ。普段は弟の作品読んでいい場面だなと思っても、もう少し温め具合が欲しいなとか。このシーンは顔見せない方がもっと画面が映えそうだなとか…。そういう部分に目がいってしまいますね。
聖史:でも「助太刀09」は斉史が好きそうな作品だと思うから、単行本発売したら読んでもらいたいよ。
斉史:話題になったら読むよ。正直、弟をまだ“漫画家”って認めてない部分があるんです。売れる、売れないは関係なく、ここらでガツンとした作品作って「おっ」と思わせるものを見せて欲しいから、「助太刀09」がそういう作品になるか…見物ですね。
「助太刀09」1話のネームを読んだ斉史先生。
その後のネームは見てないものの偶然何かの機会で3~4話の功太編(単行本2巻収録)を読んだそう。
「僕、漫画は面白くないと途中で読むのをやめてしまうんですけど、あの犬の話は最後まで読んだ。面白かったよ。」
滅多に自分の漫画を面白いと言わない兄からの言葉に、聖史先生は少し恥ずかしそうでした。
「助太刀09」1話のネームを読んだ斉史先生。
その後のネームは見てないものの偶然何かの機会で3~4話の功太編(単行本2巻収録)を読んだそう。
「僕、漫画は面白くないと途中で読むのをやめてしまうんですけど、あの犬の話は最後まで読んだ。面白かったよ。」
滅多に自分の漫画を面白いと言わない兄からの言葉に、聖史先生は少し恥ずかしそうでした。
岸本聖史 (以下、聖史):よろしくお願いします(ガサガサと紙を取り出す)。
岸本斉史 (以下、斉史):何? その紙。
聖史:自分用のメモ。今日話したいこととかまとめてきた。
斉史:真面目かっ! そんなの答えがまとまるまで考えればいいのに。
斉史:そうなんですよ。子供の頃から僕はズボラで、こっち(聖史)は神経質で。聖史って言い合いになったら絶対譲らないんですよ。例えば些細なことなんですけど、寝る前の電気をどっちが消すかとか。僕もそれがわかってるから、仕方なく折れることが多かったですね。
聖史:自分のことズボラとか言ってるけど、斉史は漫画のこととなると変わるんですよ。普段、家でゴロゴロしてるくせに漫画のこととなると資料探したり調べ物したり…とたんに行動派になる。
斉史:僕ら二人共おばあちゃんっ子なんですよ。その祖母の下、しっかり教育されていたので、僕は学校とかでは真面目なキャラを貫いてましたね。
聖史:斉史、宿題とかもキッチリやってたもんな。でもその祖母の教育のおかげで、幼稚園で軍歌を歌っちゃうような…ちょっと変わった子供だったかも(笑)。
斉史:遊びに関しては、幼稚園の頃は二人で粘土作りに夢中でした。
聖史:当時流行ってた「Xボンバー」っていう作品のロボットを見よう見まねで。
斉史:もちろん、絵を描くのは小さいことから好きだったんですけど。幼稚園の時はもっぱら粘土で立体物を作るのにハマってましたね。
斉史:親が厳しかったので、おもちゃとか買ってもらえなかったんですよ。だから欲しいおもちゃは自分で作るしかなかった。でも完成させることよりも、作ってる過程が楽しくて…。
聖史:作るのはもちろん、ロボットものはTVアニメにも夢中でしたね。今でも覚えてるけど「ザブングル」のOPとか、カッコ良くて好きだったな。
斉史:「ザブングル」と言えば…言い合いになったことあったよな。僕が「ザボングル」って言うのに対して、お前は「ザブングル」って言ってて。オンエアーを見てどっちが正しいか確かめようってことになって、結局僕が間違ってた…。未だにトラウマだわ、あれ。
聖史:そんなことあったな(笑)。まぁ二人してロボット作品にハマるも相変わらずおもちゃは買ってもらえず…。欲しいプラモデルを絵に描いてみたりして。だんだんと遊びが粘土から絵の方にシフトしていきました。
斉史:でもぶっちゃけ、嫌でしたけどね…一緒に遊ぶの。まぁ結局、周囲の友達が共通なんで、一緒に遊ぶことになるんですけど。
聖史:よくケンカとかで「お前のかあちゃんデベソ」って言うじゃないですか。斉史とケンカしてそれを言うと「あれ? 斉史のかあちゃんって俺のかあちゃんじゃん」って(笑)。
斉史:本当それ(笑)。そんなに大ゲンカしたこともないですけど、ある時にケンカしたら損だなって気づいたんですよ。体力使うし、面倒だし…何より相手が家族なら家に帰っても顔を合わさないといけないから。
聖史:あとアニメも漫画も一緒に見てたから、話をして盛り上がってる中でケンカしてたことすら忘れたり。ま、兄弟ってそんなもんですよね。
聖史:小学生の時とかは「ドラえもん」や「キン肉マン」かな。
斉史:僕は「Dr.スランプ アラレちゃん」と「ドラゴンボール」。うちは漫画とかも買ってもらえなかったので、小学校の廃品回収でジャンプをもらってきて二人で読んでたんですよ。
斉史:ええ。特に鳥山明先生の絵には感銘を受けていたので、たくさん描きましたね。
聖史:僕も「キン肉マン」の絵、すごい描いてました。作品のキャラクターがとにかく好きだったんですよ。王道の“カッコいいヒーロー”からちょっと外れたダメな部分とか。
斉史:漫画は二人で一緒に読んでたんですけど、兄弟でちょっと視点が違ってたりするんです。例えば聖史は「作品のキャラクターが好き」って部分で惹かれていく。対して僕は「この作品の絵が上手い」って部分で惹かれていて…。
聖史:だから斉史、「キン肉マン」より「ドラゴンボール」の絵ばっかり描いてたもんな。
斉史:自分が上手いと思った人の絵を描いた方が、絵が上手くなるだろうなって思ってたから。
聖史:で、少年ジャンプ作品に夢中だった僕らだけど、中学生になると二人して「AKIRA」にハマって。
斉史:僕はこの作品に出会って、漫画家を目指すと決めました。
斉史:中学2年の時「AKIRA」のポスターを見たんです。その瞬間、ものすごい衝撃を受けて…。今思い返しても、あんな衝撃はあまり経験したことがないくらい。
聖史:まさに、斉史のターニングポイントだな。
斉史:元々、絵で飯が食えるようになりたいって思っていたんですけど、その絵を見た時に「漫画家になる」っていう確信的な目標に変わった。そんな瞬間でしたね。
聖史:全然。僕、元々漫画家になろうとは思ってなかったんですよ。漫画はもっぱら読んで趣味で描く程度。だから高校卒業後も普通に地元の運送会社に就職したし。
斉史:きっと聖史は、僕の連載が始まったのを見て「斉史がなれるんだったら俺も」って感じだったんですよ(笑)。
聖史:違うし(笑)。特に何も考えず就職したものの、体力的にもキツくてやりがいも感じられなかったんですよ。これでいいのかなと思いながらも、時間は失われていく。そんな中でも、なぜか絵や漫画を描くことはやめられなかった。本当に自分が好きなことってこれなんだってわかってから、好きなことをやりたい気持ちが強くなってきて…。そこから漫画家になることを意識しましたね。
斉史:まぁ本当に、僕ら子供の頃から絵を描くのが好きだったんですよ。そう考えれば、自然な流れというか…。
斉史:子供の頃から漫画家を目指した僕からしてみたら、感覚的に甘いですね(キッパリ)。
斉史:それもありますけど…目標に向けて努力する時間の使い方とか。僕は高校が進学校だったので、漫画に時間を使いたくても勉強に時間を取られることが多くて。対してその時期、聖史は時間に余裕があって好きなことができた。その時にもっと、漫画家になることを意識して絵を描いたりすればよかったのになって。
聖史:だから斉史は、後から漫画家を目指す僕に対してすごく厳しかったですよ。
斉史:もちろん、聖史を応援したい気持ちはあるんですけど…ちょっと腑に落ちないところはあったかもしれないですね。
聖史:そうですね。昔は少年ジャンプに持ち込みに行くって言ったら、マジ切れされたりしたし。
斉史:当時の聖史が「少年ジャンプ」っていうものをわかってなかったんですよ。仮にも漫画家を目指そうとしている者が、ジャンプを読んで平気で「面白い」って言ってたし。掲載している作家と戦わなきゃいけなかった僕から見たら、勝負しようって気持ちが足りてない。そういう気持ちで投稿したところで、戦っていけるわけがないですから。
聖史:そういう斉史の厳しい言葉、言われた当時はわからなかったけど、自分が連載作家になった時にすごくわかったんですよ。物語を生み出す苦しみや、作品を続けていくことのプレッシャーがどんなものなのか…。心構えが甘かった分、実際デビューしてから追い詰められることが多くて…漫画家って思った以上に大変だなって。