国境超えた藤山直美の存在感

2016年6月20日13時46分  スポーツ報知
  • 上海国際映画祭で日本人初の最優秀女優賞を受賞した藤山直美

 19日に閉幕した上海国際映画祭。昨年に続いて取材の機会に恵まれた。会場はどこも映画ファンで熱気ムンムン。まだ今年19回目だが、勢いづいているのが分かった。

 コンペ出品作「団地」で主演女優・藤山直美が日本人初の最優秀女優賞を受賞したばかり。映画賞を総なめにした「顔」(00年)以来、16年ぶりの阪本順治監督とのタッグ。昨夏、撮影のロケ現場から何度となく取材してきたが、“定点観測”を通して見えてくるものは少なくない。

 公開中の日本でヒットしているが、直美の舞台に足を運ぶ高齢層がかなり多い。商業演劇の座長が激しく様変わりしてきた中、四半世紀もの間、主役を張り続けている現役は、彼女の他に見あたらない。映画の客層は、直美がお客さんを裏切ることなく、舞台女優としてぶれずに歩んできたことを意味する。

 上海は若い層が目立った。監督いわく「28年撮ってきて一番、実験的な作品」。ジャンルこそコメディとなっているが、その枠を大きくはみ出している。「団地」という小宇宙で肩寄せ合うように生活する人たち。SFの世界まで出てくる仰天のラストに賛否両論が飛び交っているが、実は哲学的で内容が深い。

 直美を一言でいうなら「覚悟の人」だろうか。信頼する阪本作品ということで、直美は久々の映画に不安や迷いもあっただろうに、脚本も役も聞かずに仕事を引き受けた。上海のお客さんと一緒に映画をみていて驚いたのは、感情豊かに大声で笑ったかと思うと、涙を拭いている人がみられたことだ。

 笑いから、哀しさ。哀しさから笑いにもっていく演技力。相反する感情なようで紙一重であり、表裏一体の世界。絶妙な間合いで変幻自在に見せていく直美の巧みさに、中国の人はのめり込み、主人公ヒナ子に感情移入していた。

 個人的に好きなのは、ヒナ子がパート勤めしているスーパーで、店長から「要領が悪いからクビや」とひどく罵倒されるシーン。独り残されたヒナ子は、長袖シャツのしま模様をバーコードに見たて、レジの練習を繰り返す。「今日はおでんですか」なとどひとりで客に語りかける。形容できないいろんな感情が込み上げ、思い出すだけで涙が出てくる。

 藤山直美を初めて取材したのは、記者になりたての25年前。取材対象としては、一筋縄ではいかない“手ごわい人”だが、映画祭の授賞式で「ナオミ、フジヤマ~」のプレゼンターの声を聞いたとき、鳥肌が立った。こういうのが、記者の幸せなのかな、と思ったのだった。(内野 小百美)

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