日本企業の特徴として下請け構造があげられる。
とりわけ製造業には顕著な重層下請け構造がみられる。一次、二次、三次と垂直型のピラミッドモデルが確立されている。
国内最大企業であるトヨタ自動車ともなると、下請け企業のすそ野はあらゆる方面に広がっている。直接、間接取引のある下請け企業だけでも、全国に約2万9,300社もあることが、帝国データバンクの調べでわかっている。
さらにその従業員総数は135万人あまりにのぼるとされる。ピラミッドモデルの上層企業になれば、その規模も巨大だ。たとえば、優良企業のデンソーもトヨタ自動車の一次下請けにあたる。
具体的に説明すると、ピラミッドモデルでは、ねじやバネなどの部品は三次下請け、車体フレームなどは二次下請け、最終工程としてシートなど内装品が一次下請け、というように展開される。
この分業体制により、元請け企業は時間と製造コストを削減できる。生産体制も変化に対し柔軟に対応でき、好況期には下請け企業への発注を増やし、景気の後退局面になると減産要請を出すことで、効率的かつ緻密な工程管理ができる。
これは、「ジャスト・イン・タイム」というシステムで、トヨタのかんばん方式として知られている。多かれ少なかれ、トヨタ式生産方式は国内メーカーの多くで採用されている。
ヒエラルキー型の産業構造は、品質の良い製品を大量生産することを成功させ、製造業の発展期に大いなる貢献をしてきた。下請け企業にとっても受注や雇用が確保され、多大な恩恵を受けてきたという側面がある。
ところが、時に安定している取引関係にも軋みが生じることがある。元請け企業の業績次第で、取引の減少や停止が発生することもあり、下請け企業にとっては、永続的な安定受注が担保されない事態も起こりうる。
また景気の後退期には、納期の短縮要請、代金の値引き要求や賃金未払いなど、下層企業の足元をみる元請け企業も目立つ。
一概に評価しづらいピラミッドモデルであるが、下層企業は本来、下請法によって守られているはずだ。しかし、この法律はすでに形骸化しており、時代にマッチしていないなどとささやかれている。
横浜市のマンション傾斜問題も、下請け構造の影響があるという分析がなされている。
マンション建設になると、ピラミッドモデルは三次下請け業者のさらに下の層まで広がっており、より下層に位置する企業が重要な工事を担うこともある。
建設業界の下層企業は小規模業者がほとんどで、低予算でタイトな工期を強いられ、限られた作業員で工事をしなければならず、データ偽装が発生しやすい土壌があると言われている。
工事の細分化、専門化が進み、元請け企業の検査、チェックが甘くなっている、との指摘があるのも、下層企業になるほどさまざまな負担を強いられる仕組みになっているためだ。
建設業や製造業では、長年の慣習のもと下請け構造が根付いている。横浜市のマンション傾斜のような問題を繰り返さないためには、監視体制の強化が当然必要だろう。しかし、それだけでは解決できない。
必要なのは、ピラミッドモデルによる弊害を少しでも軽減させるための環境整備、法整備を行っていくことではないだろうか。
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2016年6月16日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。