現在ではゾウはアフリカゾウ、アジアゾウの2種類しかいないが、昔はたくさんのゾウが棲んでいた。日本にも有名なナウマンゾウがいたことはよく知られている。ナウマンゾウは日本と中国の一部に生息し、およそ約30万年前から2万年前の間存在していた。アフリカゾウよりも一回り小さいゾウであるが、牙はとても長く内側に湾曲していて迫力がある。絶滅した理由は諸説あって特定できないが、マンモスとともに絶滅を惜しむべき存在だったと思う。 僕ら日本人はゾウに対するなんらかの集合的無意識が働いているんだと思う。懐かしさ、優しさ、厳しさ、怖さ。ゾウと目の前に対峙すると、そういういろんなゾウに対する感情が溢れてきては消えていく。インドやタイでゾウが特別に崇高な生き物として扱われているのも、日本人だけではなくすべての国々の人たちの根底に潜む共通の感覚なのかもしれない。 ただ現在という時代はすべての人々の感覚を変えてきた。ゾウの牙は商品であり、ゾウの生命は粗末に扱われた。無意味に軍用ライフルで殺されて、チェーンソーで頭部の一部から切り取られて捨てられているだけなのだ。その殺された写真を見たことがあるが、ゾウの頭上から口にかけて、切り取られて真っ赤な血で染められた肉が見えているだけの悲惨な死に方だった。確かにマンモスやナウマンゾウも狩猟されて、その牙を利用した彫刻なども見つかっている。しかしあくまで食料としてゾウが存在していた。食料として生き物をみるとき、絶滅するまで殺していたら、それはそのまま自分たちの生存まで脅かすのである。石器時代の人がほんとう絶滅するまでしただろうか?しかし現代人はそれをやろうとしている。 アフリカゾウはアジアゾウに比べると品がある。猫背のようなアジアゾウに比べるとやっぱり背筋がしゃんとしてみえるだけかっこいい。ゾウはマサイマラNR、アンボセリNPではよく集団でいるのを見ることができた。これだけの巨体である以上、やっぱり動物園ではお話にならなくて、果てしなく広大なサバンナが似合う。サバンナとマッチする生き物はやはりゾウとキリンだというのが僕の印象なのだ。 ゾウはもちろん草食なのであるが、樹皮などを食べることでも知られており、消化器官がほかの草食動物よりも強力であることを示している。つまり長時間の消化活動が必要になるのであるが、これには胃を巨大化して対応することが求められる。ゾウが巨大化した理由は樹皮なども食べるために胃を大型化することにより巨大化した。かつてこの試みをしたのがシダ類やソテツ類を食べる草食恐竜たちだった。彼らも胃を大きくすることによって巨大化していった。 ゾウが草を食べるには、上唇と鼻が一緒に伸びて長く進化した器用な鼻を使う。ゾウの進化の過程を追うと、もとは4000万年前のモエリテリウムという祖先に行き着く。このモエリテリウムの鼻は現在のような長い鼻ではなく、少しだけ動かせる短い鼻であることがわかっている。 ゾウの鼻には筋繊維が4万ほどもあると書かれた本を見かけた。実際テレビや動物園などでも見られるが、豆くらいの大きさならつまむことができるくらいにその鼻は非常に自在に扱うことができる。草の食べ方は鼻で上手に草をまるめて足などで押さえながら引きちぎって食べる。 ※イネ科の草を食べるゾウ ゾウの鼻は二本の穴が通っており、水を飲むのも鼻を利用する。ただし、鼻から直接飲むと我々人間と同じように鼻腔がキーンとするのかわからないが、いったん水を鼻の二本のトンネルに格納してから鼻先を閉じて口に持っていく。そして閉じた鼻先を開いて口から飲むのである。一回の鼻ポンプで7〜8リットルも吸い込めるという報告がある。 ※鼻に水を吸い込むゾウ ※そのまま口に鼻を入れて口から飲む 僕がマサイマラNRからナイロビに戻るために、マサイマラNR内にある飛行場にいるときに50mほど離れたところに一頭のアフリカゾウが悠然と食事をしていた。飛行機がくるあいだずっとこのアフリカゾウを眺めて退屈しなかった。マサイマラNRの飛行場は動物たちがいる草原の中にあるので、動物たちがこの滑走路に入ってくることも可能なのだ。「すべてのマサイマラの動物たちよ」、と思う。この滑走路の中に入って轢かれないで欲しい。 マサイマラとのお別れはアフリカゾウになった。 |