近藤 誠
市川海老蔵さんが6月9日にひらいた記者会見は、妻の小林麻央さんへの愛と思いやりがあふれていて心を打たれました。お子様たちのためにも麻央さんが全快されますよう、心からお祈りします。
ただ、マスコミが「乳がん検診を受けて」と叫んでいるのは問題です。その影響で、意味もなく乳房を失う女性が激増してしまいます。僕は日本で最初に「乳房温存療法」を唱えて全国に広めるとともに、1万人以上の乳がん患者さんを診てきました。その経験をもとに、麻央さんのケースについてお話します。
まず乳がんが見つかったきっかけについてですが、海老蔵さんは「人間ドックを2人でうけており、何回か調べたうえでわかった」と答えています。
もし人間ドックで乳房のレントゲン検査「マンモグラフィ(以降マンモ)」をうけたということなら、担当医の「かなりスピードが速く、大変なもの」という言葉が説明しにくくなります。
なぜなら、マンモで見つかる乳がんの99%以上が、スピードがゆっくりで、命にかかわらない「無害な」乳がんだからです。
また乳がん検診は、シコリなどの自覚症状のない人がうけるものです。もし麻央さんが、シコリに気づいて人間ドックへ行ったのだとしたら、受診先を間違えたことになります。
麻央さんの乳がんは「中間期がん」ではないかと、僕は見ています。前回の検診では異常ナシだったのに、次の検診の前に急にシコリが大きくなって見つかるがんのことで、進行が速いものです。
中間期がんはスピードが速く、肺や肝臓などの臓器への転移がひそんでいることがほとんどで、抗がん剤で治すことはできません。肺がん検診、胃がん検診、子宮がん検診などをうけたあとにも、この「中間期がん」が見つかることがあります。患者さんやご家族が「きちんと検診をうけていたのに、どうして…」と嘆くのはたいていがこれです。
それと関連しますが、検診で小さながんを発見して、治療したのに治らない場合があります。精密検査でも見つけられない、ごく小さな臓器転移がひそんでいたためです。
これは、中間期がんのようにタチが悪く、進行が速いものが、まだ小さな時期にたまたま検診で発見されたと考えられ、マンモで見つかった乳がんの1%程度が該当します。
つまり、命にかかわるような乳がんがマンモ検診で見つかる可能性は、たった1%程度なのです。
※第17回へ続く。6月26日(日)公開予定です。
■近藤 誠
1948年東京都生まれ。73年、慶應義塾大学を卒業。76年、同医学部放射線科に入局。79~80年、米国留学。83年より2014年まで同医学部講師。12年、「乳房温存療法のパイオニアとして、抗がん剤の毒性、拡大手術の危険性など、がん治療における先駆的な意見を、一般人にもわかりやすく発表し、啓蒙を続けてきた功績」によって「第60回菊池寛賞」受賞。現在は東京・渋谷の「近藤誠セカンドオピニオン外来」【http://www.kondo-makoto.com/】で年間2000組以上の相談に応えている。
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