「オデッセイ」(原題: The Martian)は、2015年公開のアメリカのSF映画です。アンディ・ウィアーの小説「火星の人」(2011年出版)を原作に、リドリー・スコット監督、マット・デイモンらの出演で、火星に一人置き去りにされ、残り少ない物資と科学の力を武器に生き残ろうとする宇宙飛行士と、彼を火星に置き去りにしてしまったことを悔やみ、懸命に救出しようとする人々の努力を描いています。第88回アカデミー賞で、作品賞など、7部門にノミネートされた作品です。
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監督:リドリー・スコット
脚本:ドリュー・ゴダード
原作:アンディ・ウィアー「火星の人」
出演:マット・デイモン(マーク・ワトニー、アレス3のクルー、技術者、植物学者)
ジェシカ・チャステイン(メリッサ・ルイス、アレス3の指揮官、地質学者)
マイケル・ペーニャ(リック・マルティネス 、アレス3の操縦士)
ケイト・マーラ(ベス・ヨハンセン、アレス3のシスオペ、原子炉技術者)
セバスチャン・スタン(クリス・ベック、アレス3の航空宇宙医師、生物学者)
アクセル・ヘニー(アレックス・フォーゲル 、アレス3の天体物理学者)
クリステン・ウィグ(アニー・モントローズ、 NASA広報統括責任者)
ジェフ・ダニエルズ(テディ・サンダース、NASA長官)
ショーン・ビーン(ミッチ・ヘンダーソン、 NASAのフライトディレクター)
キウェテル・イジョフォー(ビンセント・カプーア、 NASA火星探査責任者)
ベネディクト・ウォン(ブルース・ン、 JPLの所長)
マッケンジー・デイヴィス(ミンディ・パーク、NASAの衛星制御エンジニア)
ドナルド・グローヴァー(リッチ・パーネル 、 JPLの科学者)
ニック・モハメッド(ティム・グライムス 、JPLの科学者)
エディ・コー(グオ・ミン、中国国家航天局の主任科学者)
チェン・シュー(チュー・タオ、中国国家航天局の副主任科学者)
ジョナサン・アリス(ブレンダン・ハッチ 、NASAの衛星制御エンジニア)
ほか
【あらすじ[編集】
宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)が参加する人類三度目の有人火星探査ミッション「アレス3」は、18日目に突然吹き荒れた猛烈な嵐の為、ミッションを放棄、6名のクルーは全員、火星から撤収することになります。ところが、撤収の途中にワトニーが突風でバラバラになった通信アンテナの直撃を受けて吹き飛ばされ、行方不明になってしまいます。タイムリミットが迫る中、必死の捜索する指揮官のメリッサ・ルイス船長(ジェシカ・チャステイン)でしたが、ワトニーを発見できず、やむなく離陸を決断、ルイス船長以下5人は宇宙船ヘルメス号で地球への帰途につきます。ワトニーは死亡したと判断され、NASAのサンダース長官(ジェフ・ダニエルズ)が記者会見を行いますが、彼は生きていました。辛うじて人口住居施設である「ハブ」に帰還した彼は、地球と連絡する術もないまま、残された物資を使って生き延びようとします。次の探査ミッション「アレス4」のクルーが火星にやってくるのは4年後、それまで生き抜くためには酸素や水を作り出すところから始めなければなりません。植物学者でメカニカル・エンジニアのワトニーは、ありったけの科学知識と持ち前のポジティブ思考によって、これらの途方もないハードルを1つずつ乗り越えていきます。やがてNASAもワトニーの生存に気付きますが、火星の厳しい環境がワトニーに行く手に立ちはだかります・・・。
科学的に正確、リアル、スリリングでありながらユーモラスなメガヒット小説の感動を忠実に再現する本作は、リドリー・スコット監督の的確な演出、マット・デイモンら俳優の好演により、原作同様の素晴らしい作品になって当然という期待に見事に応えています。
原作のもつスケール感や緻密感をすべて映画の中に再現するのは不可能で、当然、省略や脚色が必要となりますが、巧みでメリハリの効いた取捨選択と構成により、映画として的確にまとめながら、原作から受ける感動を忠実に再現する脚本・演出に舌を巻いてしまいます。また、火星の風景など美しいシーンも多く、絵が得意なリドリー・スコット監督の本領を感じます。
映画は、
- 火星での主人公のサバイバルを描く部分
- 宇宙船のクルーを描く部分
- 地上のスタッフを描く部分
と、独立した三本の映画のように別々に撮影、緻密なシナリオと編集により、これらを同時進行しているように見せています。数多い俳優と巨大で精密なセットの都合を考慮しながら、複雑な大プロジェクトを遅滞なくを進め、感動的な作品を作り上げているのも巨匠リドリー・スコットならではです。
原作の主人公は若くてユーモアたっぷりなので、マット・デイモンでは少し重いのではと思いましたが、余計な心配でした。また一人で単調になりかねない火星部分で、長いサバイバルによる心理の変化をうまく演じられるのもマットならではです。火星部分はずっと彼一人の撮影でしたが、無線でルイス船長と話すシーンでは主人公の火星での孤独な生活を思い、マットはこみ上げる涙を止められなかったそうです。彼は以前、減量がたたり、長く健康を害したことがあるのですが、主人公の長期サバイバルを表現する為に、減量に挑戦しようとしました。これはリドリー・スコット監督に止められボディ・ダブルが使われたのですが、マットの人柄が感じられるエピソードです。
ルイス船長を演じるジェシカ・チャステインは、この作品でも美しく知的な指揮官を別人のように演じています。ルイス船長役の第一選択はケイト・ブランシェットでしたが、スケジュールの都合がつかず、ジェシカの起用となりました。リドリー・スコット監督もマット・デイモンも彼女を絶賛していますが、私は特に後半の彼女の線が少し細い気がしました。ケイト・ブランシェットならばもう少し男性的に太く演じたのではないかと思いますが、ジェッシカは部下を火星に置き去りにしてしまった負い目と、女性であることに重きを置いて演じているようです。また「この映画を見た女の子に宇宙飛行士なりたいと思ってもらいたい」という彼女の想いには目からウロコでした。ルイス船長は火星にディスコ音楽を持って行きましたが、ジェシカが持って行きたいものはビートルズの「リボルバー」、TVドラマシリーズ「ブレーキング・バッド」、そしてシェークスピア全集(さすが役者!)だそうです。
小説よりわかり易いと思ったのが、地上の人々の描写です。小説と異なり、映画では表情や服装、口調、動作などでも人物を描写することができます。宇宙服は厳しい制約となりますが、その点、地上の人々は制約がなく、のびのびと描くことができます。またこの映画は登場人物が多く出番が限られるので、キャラが立っている人が記憶に残りやすいです。クルーで印象に残ったのが、
マイケル・ペーニャは何を演じてもあまり変わらないですが、いつも通りのいい味です。ケイト・マーラは有名なルーニー・マーラの姉ですが、本作ではちょっとオタクなシステム・オペレーターを演じています。オタクと言えば、エイミー・アダムスが「her/世界でひとつの彼女」でオタクなプログマーを演じており、タイプは少し違うものの、両者を見比べてみても面白いと思います。
地上のNASAの人物では、
- ジェフ・ダニエルズ(テディ・サンダース、NASA長官)
- ショーン・ビーン(ミッチ・ヘンダーソン、 NASAのフライトディレクター)
- キウェテル・イジョフォー(ビンセント・カプーア、 NASA火星探査統括責任者)
の三人のパワーゲームと、それを横から見ているクリステン・ウィグ(アニー・モントローズ、 NASA広報統括責任者)が面白いです。彼女はコメディエンヌでもあり、ちょっとユーモラスな独特の存在感がいい味を出しています。また、
- ベネディクト・ウォン(ブルース・ン、 JPLの所長)
- ドナルド・グローヴァー(リッチ・パーネル 、 JPLの科学者)
- エディ・コー(グオ・ミン、中国国家航天局の主任科学者)
- チェン・シュー(チュー・タオ、中国国家航天局の副主任科学者)
も短い出演時間で、しっかりとキャラを立てています。ドナルド・グローヴァーはアメリカの俳優、作家、コメディアン、ミュージシャンで、まだ三十そこそこ、今後が楽しみです。
70年代のディスコ・ナンバーをたくさん聞けるのも、映画ならではの楽しみです。これは、火星にはルイス船長が残した趣味の悪いディスコしかなかったという原作の設定に沿ったものですが、ルイス船長が10代の頃に聞いていた曲というわけでもなさそうです。さもなければ2030年代のルイス船長は70代にということになります。原作者アンディ・ウィアーが彼女に1970年代のディスコを持たせたのは、未来のハイテク環境に懐古趣味を混ぜることによって、遠い将来の話ではないという親近感を狙ったものでした。また「趣味の悪い」というのもこの映画特有のユーモアで、ディスコファンであるアンディ・ウィア自身も友人にそんな趣味をさんざんバカにされているそうです。映画でもこれらの曲はアナログでノスタルジックな感じで、明るく、深刻にならない効果が出ています。良い曲ばかりですが、例えばワトニーが核燃料電池で暖をとる際の「ホット・スタッフ」や、エンディング・クレジッのずばり「アイ・ウィル・サバイブ」など、歌詞も考慮した選曲がなされています。
- Turn the Beat Around by Vicki Sue Robinson(ヴィッキー・スー・ロビンソン「ターン・ザ・ビート・アラウンド」)*3
- Hot Stuff by Donna Summer(ドナ・サマー「ホット・スタッフ」)*4
- Rock the Boat by The Hues Corporation(ヒューズ・コーポレーション「愛の航海」)*5
- Don't Leave Me This Way by Thelma Houston(テルマ・ヒューストン「ジス・ウェイ」)*6
- Starman by David Bowie(デヴィッド・ボウイ「スターマン」)*7
- Waterloo by Abba(アバ「恋のウォーター・ルー」)*8
- Love Train by The O'Jays(オージェイズ「 ラブ・トレイン」)*9
- I Will Survive by Gloria Gaynor(グロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」)*10
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マット・デイモン(マーク・ワトニー、アレス3のクルー、技術者、植物学者)
ジェシカ・チャステイン(メリッサ・ルイス、アレス3の指揮官、地質学者)
マイケル・ペーニャ(リック・マルティネス 、アレス3の操縦士)
ケイト・マーラ(ベス・ヨハンセン、アレス3のシスオペ、原子炉技術者)
クリステン・ウィグ(アニー・モントローズ、 NASA広報統括責任者)
ショーン・ビーン(ミッチ・ヘンダーソン、 NASAのフライトディレクター)
キウェテル・イジョフォー(ビンセント・カプーア、 NASA火星探査統括責任者)
ドナルド・グローヴァー(リッチ・パーネル 、 JPLの科学者)
火星の風景が撮影されたWadi Rum周辺
映画で実写にCGが重ねられている。
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