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【英国の選択】
「英連合王国は崩壊する」恐怖あおる扇情的論戦が招いた悲劇 民主主義揺るがした凶弾
残留派も「離脱が決まれば、景気後退から世界恐慌に陥る」「英連合王国は崩壊する」など国民の「恐怖」と不安感をあおり運動を展開した。双方ともに国民の感情に訴え、英国を二分する論戦になっていた。
各種世論調査では今週、離脱派がリードを広げたとの結果が相次ぎ、英経済紙フィナンシャル・タイムズがEU残留支持を表明、大衆紙ザ・サンは離脱支持を打ち出し、論戦は終盤になり熱を帯びていた。
コックス議員は、将来を嘱望される若手女性政治家だった。昨年春の総選挙で初当選し、1995年にケンブリッジ大を卒業後は、複数の慈善団体で人道支援活動に携わり、議員としてシリア支援の超党派議員団として難民支援に取り組んでいた。英国のシリア空爆にも反対していた。
事件前の10日には、ツイッターで「移民問題は大切な関心事だが、EU離脱の理由にはならない」と残留を呼びかけていた。
しかし、3カ月ほど前から嫌がらせのメッセージを受け、警察が身辺警護の強化を検討していた矢先の事件だったという。
「ブリテン・ファースト」「英国を優先しろ」。そう叫び、銃撃に及んだトミー・メイア容疑者の背後関係は明らかではない。しかし、移民抑制を最優先の公約に掲げる離脱派には、移民や難民支援を推進するコックス議員の言動は看過できなかったのかもしれない。
今回の事件で、コックス氏への同情とともに、残留への理解が深まる可能性が指摘されている。しかし、国民投票で残留となったとしても、火がついた両派対立のしこりは残り、混乱は免れないとみられる。(ロンドン 岡部伸)