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検証・地方創生 交付金のゆくえ

東京一極集中を防ぎ、地方を活性化しようと2年前に始まった「地方創生」。
国は、地方を支援するため新たに「地方創生交付金」を設け、これまでに総額2700億円が全国の自治体に配られました。
しかし、取材を進めると交付金が必ずしも有効に使われていないケースが見えてきました。
国が掲げる「地方創生」の現場を取材した社会部の津武圭介記者が解説します。

目標達成は4割未満

「地方創生交付金」は自由に使える財源として国から地方に配られるもので、観光振興や産業育成、それに、移住の促進など、さまざまな事業に使われます。
国は、交付金が単なるばらまきに終わるのを防ぐため、事業の効果を検証する仕組みを導入しました。その柱となるのが、自治体に経済効果や人口増加といった数値目標を設定させることです。
しかし、内閣府が先進的事例として紹介する75の事業についてNHKが調べたところ、自治体がみずから設定した目標を達成できたものは28の事業、37%にとどまっていることが分かりました。

電子マネーを発案・会津若松市

目標を達成できなかった自治体のひとつが、福島県会津若松市です。
会津若松市が発案したのは地域限定の電子マネー。交付金1200万円で電子マネーを導入し、低迷する地域経済を活性化するねらいでした。
この電子マネーでは、地元での買い物だけでなく、健康診断を受診したり、ボランティアに参加したりしてもポイントが貯まる仕組みです。導入から5年後には、カードの利用が市内全域に広まり、経済の活性化にとどまらず、市民の健康増進や地域づくりが実現できると見込んでいました。

“誰も知らない”カード

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市は電子マネーを会津地方の民芸品「赤べこ」にちなんで「Becopo(べこぽ)」と名付け、去年の夏、専用のカードを市民1万人に配りました。
ところが、取材で訪れた今月上旬、市の中心部で1時間近く取材しても、知っているという人は1人もいませんでした。
市内のスーパーで買い物を終えたばかりの女性は「カードは見たことも聞いたこともありません。いつから始まっているのでしょうか」と話していました。
カードを使えるという飲食店を見つけて訪ねましたが、レジにあるはずのカードを読み取る専用端末が見あたりません。店の人に尋ねると、裏の倉庫にしまわれていました。
店長の男性は「市から町おこしにつながると聞いて協力したが、利用があまりに少ないので撤去した」と話していました。利用した客はこれまで3組ほどしかいないということです。

なぜ利用広がらない

会津若松市は、電子マネーの事業を地元の民間会社に委託していました。
市がこの事業で掲げた目標は、1年でカードが使える店を市内に100店舗確保することでした。この会社は、目標を達成しようと飲食など400か所以上に営業に回りましたが、操作が面倒だなどと断られ、結局、導入できたのは僅か11店舗でした。
交付金1200万円を費やした会津若松市の電子マネー。カードを使った買い物の総額は、これまで市内全域で18万円。市は事業の継続を断念しました。

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会津若松市商工課の江川忠課長は「国から交付金がもらえることになり新しい事業に取り組んだが、こうした事態になるとは予想もしていなかった。今から考えると見通しが甘かったと」と話していました。

スーパー開店で目標達成・秋田県

一方、目標を達成したとする自治体の事業にも課題があります。
秋田県は、商店がない過疎地域の買い物弱者を支援するため、「お互いさまスーパー」と呼ばれるスーパーを作る事業を提案しました。目標は、交付金2400万円を使って県内の3か所にスーパーを設置すること。使っていない児童館を改装するなどしてスーパーを相次いでオープンさせ、目標は達成しました。

スーパー運営は住民が

しかし、店舗開設の目標を達成したものの、今後の店の運営には課題があります。
「お互いさまスーパー」は、その名のとおり、住民が助け合って運営する仕組みです。住民が出し合ったお金をもとに仕入れを行い、商品の売り上げで経費を賄う必要があります。

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秋田県五城目町の浅見内地区に、ことし3月オープンした店では、人件費を抑えるため地域のお年寄りがボランティアで店頭に立っていました。店員の平均年齢は72歳。スーパーで働くのは初めての経験で、レジの打ち方や商品の陳列方法を懸命に学んでいました。
オープンから3か月は、少ないながらなんとか利益を確保していますが、住民たちは安定して経営できるのか不安も感じています。
店長の松橋勇子さんは「大きな利益はいりませんが、電気や水道など店を維持できるだけの経費は確保しなければなりません。赤字が出たらどうするのか不安は尽きません」と話していました。

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秋田県活力ある集落づくり支援室の佐藤廣道室長は「店舗の設置にはまとまった投資が必要で、交付金は非常に助かった。今後は、住民が互いに助け合い地域を支えるような店に育ててほしい」と話しています。

地方創生を進める国は

地方創生事業の現状について、内閣府地方創生推進事務局の宇留賀敬一参事官補佐は「『地方創生』は人口減少問題という難しい問題に対応するものなので、1年や2年で簡単に成果が上がるとは思っておらず、試行錯誤するなかで失敗事例が出るのはやむをえない。各自治体が失敗から学び成功につなげられるよう支援していきたい」と話します。

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国は、失敗する事業を減らそうと、2年目以降、地方の提案を事前に審査する仕組みを本格的に導入しました。審査では、交付金をもとに新しい名産品を作り出したり、多くの観光客を呼び込んだりすることができるか、さらに将来、交付金に頼らなくても事業として成り立つ見込みがあるかどうかなどをチェックしているとしています。

今後の地方創生は

そうしたなかで、新たに選ばれた事業は、連携ということが一つのキーワードになっています。忍者にゆかりのある三重県や滋賀県など10の自治体が連携して新しい観光戦略を打ち出す事業や、地元の銀行と連携してオリーブを使った新しい産業を作り出そうという鹿児島県日置市の事業など。その数は1900余り、事業費は合わせて約1000億円に上ります。
さらに、国は今後も毎年1000億円規模で交付を続けていきたいとしています。
こうした地方支援について、三菱総合研究所の白戸智主席研究員は「地方への投資は一定の範囲で必要だが、国からお金が降ってくるという意識を自治体が改めなければ、ばらまきになってしまう。国の厳しい財政状況を考えれば、地方に投資していく最後のチャンスでもあり、むだづかい許されない」と指摘しています。
国のかけ声で始まった「地方創生」が、地方の活性化や経済成長などに結びつくのか、しっかりと見ていく必要があると思います。

津武 圭介
社会部
津武 圭介