許しがたい背信行為が明らかになった。しかし、検証作業はなお道半ばである。

 東京電力福島第一原発の事故発生直後、当時の清水正孝東電社長が「炉心溶融(メルトダウン)」という言葉を使わないよう社内に指示していたことがわかった。東電の設けた第三者検証委員会が報告した。

 原子炉の核燃料が溶け落ちる炉心溶融は、深刻な原発事故を象徴する言葉だ。未曽有の原発災害のさなか、トップ自らが周辺住民を含む国民に事故の重大さを隠そうとしていた。

 東電は4年以上もの間、炉心溶融の通報遅れを追及する新潟県に対して「炉心溶融の定義がなかった」「炉心溶融の言葉を使わないよう社内に指示したことはない」などと虚偽の説明を繰り返していた。

 今年2月になって定義があったことを認め、その間の経緯を明らかにしようと設けたのが第三者委である。

 第三者委は、その役割を果たしたか。東電社長の指示を指摘したのは一歩前進だが、「ノー」と言わざるをえない。

 納得できないのは、田中康久委員長(元仙台高裁長官)が記者会見で「意図的な隠蔽(いんぺい)とまでは言えない」と述べたことだ。

 事故当時、炉心溶融は原子力災害対策特別措置法で通報すべき緊急事態に明記され、「炉心損傷5%超」という東電の判定基準にも達していた。当初はそれを認めず、社長の指示もあった。隠蔽でなくて何なのか。

 東電以外の関係者からの聞き取りを尽くさないまま、社長の指示は首相官邸側からの要請に基づいたものと推認されると結論づけたことも疑問だ。田中委員長は「調査権限が限られ、短期間では難しい」と釈明したが、そもそも聞き取りを申し込んでもいない。当時首相だった菅直人氏や官房長官だった枝野幸男氏は否定している。

 東電は新潟県からの要請事項に関して県と合同で検証を続けるという。さらに幅広く事故を振り返り、結果を公表することは東電の務めだが、国会が果たすべき役割もあるはずだ。

 炉心溶融に関する官邸からの要請の有無に限らず、事故後の官邸や各省庁と東電とのやりとりも断片的にしか分かっていない。国会は事故調査委員会による報告書をまとめているが、国政調査権を使って明らかにすべき点はなお多い。

 福島第一原発事故から教訓をくみ取り、同じ失敗を繰り返さない。そのために、まずは事実を徹底的に解明する、それが後の世代への務めでもある。