松隈ケンタ氏にアイドルのボーカルディレクションとレコーディングのやり方を聞いてきましたよ。

2016/06/17 18:55編集後記 BiSH POP 松隈ケンタ 

やまー。

最近、CDや配信などでアイドルの曲を聴いていると楽曲のクオリティは上がっているけれども、アイドルの歌やボーカルについては以前とあまり変わっていないような気がしていました。「曲はいいのに歌が...」と思うことが増えてきたのです。

歌の上手い下手に関しては、歌っている本人の実力に依存するところが一番大きいのですが、果たしてそれだけが理由かな?上手くはなくても魅力的に聴こえるアイドルのボーカルもあるよな?と思ってもいたので、その辺りのところをBiSHやPOPを始めとする数多くのアイドルやアーティストのサウンドプロデュースでお馴染みの音楽制作集団SCRAMBLES代表の松隈ケンタさんにぶつけてきました。

最後には、松隈さんが主催する音楽スクール「SCRAMBLES MUSIC COLLEGE」についても語っていただき、ミュージシャンを目指すの若き人材へのアドバイスや音楽スクールに通う意味などについてネタバレ覚悟のかなり際どいところまで話していただきました。


インタビューをした【ガチ恋!】編集長

インタビューを受けた松隈ケンタ氏

プロローグ -最近のアイドル楽曲について-

今回お聞きしようと思ってた話はアイドルのボーカルとレコーディングについてなんですが。

松隈 曲ではなくて、ってことですね。

そうです。松隈さんの楽曲制作の話は今まで多くありましたが、レコーディングとかボーカル・ディレクションの部分も実はかなり重要なんじゃないかな?と思ってまして。

松隈 そこを聞いてきてくれる人は中々いないんで、「いいとこ突いてきますね!」と思ってました。

BiS以降の流れだとは思うんですけど、クオリティが高いアイドル楽曲がすごく増えてきた印象があるんですよ。

松隈 アイドル全体的に?

はい。底上げされたというか。松隈さんはどう思われてますか?

松隈 "BiS以降..."っていうのは僕らは当事者なんでおこがましくて言えないですけど、段々上がってきてる感じはしますよね。

で、松隈さんが実際にアイドルのボーカルをどんな風に扱ってるかを聞かせてもらおうと思ったんです。

松隈 歌に関するこだわりっていうのは、もしかしたら今のアイドルブームの中では早かったかもしれないですね。"全員で歌うのがアイドル"みたいなのが僕は嫌で。そうじゃないものを作りたかったんです。僕がロックバンドをやってたせいもあるんですけど、バンドは下手なボーカルもいっぱいいるじゃないですか。だから上手い必要はないけど歌はしっかり録りたいと思っていました。

松隈ケンタのボーカル・ディレクション1 -中川翔子との出会い-

松隈さんが一番最初にアイドルのレコーディングをした人って誰なんですか?

松隈 しょこたん(中川翔子)です。しょこたんが最初だったからその考えが染み付いたっていうのはあるでしょうね。初めてしょこたんの曲(「フライングヒューマノイド」の作曲を松隈氏が担当)をやらせてもらえた時、作曲家として「レコーディングに来てください」って言われて、見学がてら勉強させてもらったんですけど、しょこたんって子がすごくて。当時からものすごい忙しかったから事務所の方から「◯◯時ぐらいまでに...」ってお願いをされるんですけど本人がやめないんですよ。「もっと歌いたい」とか「ここがもう少し」とか。で、その時は結局15テイクぐらいまでいって。

へぇー!

松隈 「ここまで歌うアイドルっているんだな」っていうのがまずびっくりでした。ディレクターの方もそれに付き合うし、逆に「こういうのやってよ」とかガンガン指示を出すので、僕も「これをやりたいな」って思ったんですよ。で、しょこたんの曲を何曲もやらせてもらううちに僕がボーカルディレクションをすることが増えたんですけど、毎回ヘトヘトになるまで歌って、その中から一文字単位でかっこいいテイクを選ぶんです。そうやってつなぐと紛れもない中川翔子ちゃんの声なんですけど、全く別の中川翔子ができ上がるんですよ。僕の曲に僕が歌って欲しい感じがちゃんと入った楽曲ができ上がってて。"ここまでやらないといい曲にはならないんだな"って思いました。

最初がしょこたんだったのは松隈さんにとって重要だったんですね。

松隈 そうですね。しょこたんとのレコーディングで勉強させてもらったし、"ここまでやりたい"って思うようになりましたね。

松隈ケンタのボーカル・ディレクション2 -アイドルボーカルの録り方、活かし方-

その後にプールイさんやBiSになっていくというと思うんですが、その時はどんなことを思いました?

松隈 みんなによく聞かれるんですけど「上手い人はいいけど、下手な人は大変そうですね」って。でも、そういうことは一切感じたことがないんですよ。面白がって「下手だなー。困ったなー」って言うことはありますけど、「ヤバい。これは作品にならないぞ」みたいなことはなくて、「こういう感じかー。どう料理しようか?」って思うんです。ただ、プールイもそうでしたけど新人をやることが多いので説明はちゃんとしますね。「何テイクも録っていいものをつなぎ合わせるから、自分流の歌い方もいいけど、オレから言うこととか、自分のキャラにないこともやってみようぜ」って。でも、一回メジャーとか行ってる人だとそこは難しいんですよね。

もう染み付いちゃってるから。

松隈 そう。でも、プールイとかは毎回十何テイクも録って一番いいのをつなぎ合わせると"ベスト・オブ・プールイ"な一曲ができあがるんですよ。そうするとそれを聴きながら練習したりライブを繰り返していくうちに、自分がそういう歌い方だと認識していくんですよね。で、次のアルバムを作る時には既にそういう歌い方になっているので、テイク1で前回のベストが録れるので、テイク2は「もっと違うことをやってみよう」って言えるんですよ。そうやってどんどん成長していく感じが僕は楽しいんですよね。

最初から「ダメだぁ」ってお手上げ状態にはならないんですね。

松隈 最初は「そんなにうまくいかないだろうな」って感覚しかないし、その子の今できる実力をちょっと大きくしてあげよう、というのは一回目のレコーディングでは思いますね。で、繰り返していくにつれて広がっていく感じはありますね。サキちゃん(POP:カミヤサキ)は、この間久しぶりにPOPでレコーディングをしたんですけど、あの子自身がすごく上手になってるし、よく考えてみたら今一番長く僕のディレクションでやってるのがサキちゃんなんですよ。だから僕が言わんとすることをすぐ歌うことができるというか。

へぇー。

松隈 「それ!それ!それ!」みたいな(笑)リズムも一番よくてちょっとびっくりしましたね。

例えばですけど、新人の子にすごい可能性を感じて、それが自分のモチベーションにもなってレコーディングに挑む、みたいのが普通なのかな?と思うんですが。

松隈 俺はないっすね、そういうの。どんな具材でも並べられたらどう調理しようかな?って考えてるし、わざとそういう風に思わないようにしてる方が強いかも。なので僕のパターン多いのが「この子がメインなんですよ」って言われても無視する(笑)そう言われるとむしろメインじゃない子の歌を聴きたくなるし、昔Dorothy Little Happyの...

「Get You」("BiSとDorothy Little Happy"名義でのコラボシングル)ですか?

松隈 そう。「Get You」を作った時は僕がレコーディングもしたんですよ。「歌割りも自由にしていい」って言われたので香美ちゃんを一番バッターに起用したんですけど、運営の方たちにも「えぇっ!?」って言われて。でも、俺はBiSもドロシーも含めた全員の中でその子の声が一番いいなと思ったから使っただけなんですけど、それがすごく斬新だったらしくて。まあ、「どうしてもこの子が"売り"だから、サビで使ってくれ」って言われた時は使いますけどね(笑)

そうやってまだ荒削りだったりする子の歌をレコーディングしている時、それが"売れる"とは思ってました?

松隈 売れるなんか思わないっすよ(笑)「DEADMAN」(BiSHのメジャーデビューシングル)なんか、あんな無茶苦茶なの売れないでしょ。

いやいやいや(笑)

松隈 「DEADMAN」作った時は心配になって淳之介(BiSHやPOPのマネジメント&プロデューサー・渡辺淳之介氏)に電話しちゃったもん。「これ、ヤバくない?無理じゃない?」って(笑)(結果「DEADMAN」はオリコンウィークリーチャート5位を獲得)

松隈さんがアイドルのレコーディングやボーカルディレクションをする時に一番気にするのはどんなところですか?

松隈 一番気にするのはビブラート?"しゃくり"とかよく言いますけど、"アイドルチックなこぶし"というか...。

まっすぐいき切らない感じ?

松隈 そうそう。アレってすごく上手な人がやるからかっこいいんであって、カラオケの時にモノマネしてやる、みたいなのはコミカルにしか聴こえないんですよね。で、真面目に歌わせようとすると下手になるし、ごまかして歌っちゃう子が多いので、そこは「まっすぐ歌って。いらない"揺らし"をしない」って。でも、その中で本当にその子のかっこいいしゃくりもあるので、おいしいところはおいしいところで録っておくから、そっちに逃げるのはやめようって方向に持って行きます。

そうやってレコーディングをしながらどこかでOKを出すわけですよね。それを決める基準はあるんですか?

松隈 基本的に僕の理想はないので、理想までいったらOKって感覚はないですね。僕は時間があればあるだけいいテイクが録れるんじゃないか?と思うので何回でも歌って欲しいんですよ。ただ、プロデューサーやディレクターの仕事の一つとして"きっちり終わらせる"というのも大事なので。自分でもビビるんですけど、5〜6人で4〜5時間って決めたらピッタリに終わらせますよ。15時59分とかに終わる(笑)そうやって配分しながら録っているので、「ここで次の子にいかないと終わらないな」ってギリギリまでやったところで諦める感じですけど、テイクはあればあるほどいいですね。"その子の限界を超えたい"って常に思ってるし、その子が歌えるレベルの歌を録ればいいなら、別に俺がやる必要はないと思うので。

松隈さん自身がそういう瞬間をたくさん見てきたってことですよね。

松隈 歌を録った全ての子がCDをもらって聴いた時に「うわ!かっこいい!」って思ってもらいたいんですよ。「この人に録ってもらったらすごくよくなった」って。そこはディレクターとしてこだわってますね。

スクランブルズミュージックカレッ ジ 2016年6月・7月のセミナー日程

2016年6月26日(日)下北沢校
「楽器を弾けなくてもOK!! ゼロから始めようDTM作曲!」講師:田仲圭太 時間:12:00~
「コード進行で楽曲の質が変わる!?~ コードとメロディの関係性~」講師:松隈ケンタ 時間:14:00~

2016年7月9(土)大岡山校
「高い声を出すボーカル講座!チェスト ボイス&ヘッドボイスをマスターして ボーカル力アップ!」講師:高木誠司&松隈ケンタ 時間:12:00~
「リズム隊のコンビネーション講座! バンドはベースとドラムで決まる!」講師:若山トシユキ&坂内"noriP" 孟紀 時間:14:00~

2016年7月17(日)下北沢校
「今話題の「コライティング」に挑戦! 課題トラックにメロディを入れてみよう!」講師:田仲圭太&松隈ケンタ 時間:12:00~
「プロ作家のメロディをアレンジしてみ よう。課題曲のアレンジに挑戦!」講師:佐藤カズキ&松隈ケンタ 時間:14:00~
※本セミナーは受講者参加型のチャレンジセ ミナーです。

参加費:1講座 2,500円(税込)
※5回分の講座が受講できる回数券チ ケット10,000円(税込/複数人での使用OK)

時間:各90分ほどを予定
定員:各10名 (講座により多少前後)
※申込先着順、定員に達し次第締め切り 予定

ご参加予約、お問い合わせ
03-5726-9169(11:00~20:00)
smc@scrambles.jp(名前、連絡先、希望講座を明記)

詳細はオフィシャルサイトへ
SCRAMBLES MUSIC COLLEGE http://scrambles.jp/smc/
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