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「才能ない」生意気な子供でも天職は見つかる 数学者・秋山仁氏が説く努力の尊さと儚さ

「才能なんて要らないと思うし、それはほとんどの人にないと思います」(撮影:尾形 文繁) © 東洋経済オンライン 「才能なんて要らないと思うし、それはほとんどの人にないと思います」(撮影:尾形 文繁)
 子どもが社会に出た時により活躍していくためにどのように観察眼を磨き、自身の置かれている状況を把握すべきか、また子どもにそうなってもらうにはどういう点に気をつけるべきなのか。本連載は算数学習支援サービスの「RISU」を立ち上げた筆者が、そんなテーマに迫っていく。
 第5回はボサボサヘアーとバンダナがトレードマークの数学者で東京理科大学教授の秋山仁さん。今回の対談では、自身の来歴を振り返って「自分は落ちこぼれだったからうまくいった」と評するに秋山さんに「上手な子どもの育て方」から「落ちこぼれでも大きな夢を叶える方法」を聞いた。
 加藤エルテス聡志(以下、エルテス):私は「子どもの才能はどうすれば開花するのか」ということをテーマに研究しているのですが、秋山先生は子どもの頃から算数が得意だったんですか?
 秋山仁(以下、秋山):それほど得意じゃなかった。はっきり言って、僕は小さい頃から勉強が嫌いでしたし、今も人より優れた才能があるとは思っていません。
 エルテス:そんな秋山先生がなぜ数学者になれたのでしょう?
 秋山:別に成績が良かったわけでもなかったけど、他の教科と比べて、算数や数学だけは好きだった。たいして強い意志があったわけではないけれども、成り行きで数学者になっちゃったんです。ただ好きなことをずっとやっていたら、後から才能がついてきたんだと思います。学者として「ノーベル賞をとりたい」とか「歴史に名を残したい」とか、そんな野心はぜんぜんなかった。
 大言壮語というか、デカいことを平気で言う生意気な子がいるじゃないですか。そういう子は結構侮れないんです。ノーベル物理学賞を取られた小柴昌俊先生も「自分はすごく出来が悪かった。でも、物理学者にはなりたかったんだ」と仰っています。
 「自分の目標にするものになりたい!」という気持ちが、原動力になるんです。才能なんて要らないと思うし、それはほとんどの人にないと思います。なにかやりたいことや、なりたいものがあれば、努力次第で才能は開花して、自分の野望は成就すると私は思っています。だから、野望というか志というのは非常に大事。
 エルテス:志とそれに向かって努力を続けられることが大事だと。
 秋山:そうですね。さらに、もうひとつ大事なことがあるんです。それは「挫折や屈辱に耐える力」です。努力を続けられる力があっても、常に努力が報われるとは限りません。僕はやれば必ず上手くいくなんて甘いことは言いたくはない。やっても上手くいかないことはいくらでもある。でも、挫折したときや悔しい思いをしたときに、歯を食いしばって、それでも努力を止めず、むっくりと起き上がって、また一歩ずつ前進できなきゃいけない。そういう力も必要なんです。
 要するに、七転び八起きのできる精神力を持たなければいけないよね。打たれ強くなくちゃいけない。頭が良くて、それなりの才能があっても、1回、2回の失敗でめげて諦めちゃう子もいるんです。そういう子たちが諦めたおかげで、僕みたいな学校では大したことのない人間が数学者になれたんです。だから、ずっと続けていくことが大事だよね。
 エルテス:先生は子ども時代に、もの分かりの遅い子として扱われていたんですか?
 秋山:そうだね。教師が授業で「まだ理解できない者は手を挙げろ」って言うの。それで手を挙げるともう1回説明してくれる。そして、もう1回理解したかどうかを聞いてくる。それでも、僕は理解できないから、遠慮して何も言わないでいたの。つまり、他の人に比べて非常に理解が遅いの。
 ある時から、授業をあまり聞かなくなった。すべての教科を独学でやらざるを得なくなった。だから、自分の全神経を集中して、五感を総動員して、難解な抽象的な理論を理解しようと、歯を食いしばって、必死になって、理解しようとした。そうやって大変な思いをして理解したことは、そう簡単には忘れないし、応用力もつく。変な言い方だけど、もの分かりが悪かったから考える力が培われ、今こうして数学者をやっていけているのだと思う。
 エルテス:勉強に対する好奇心があれば、どんな子どもでも成長できるとお考えですか?
 秋山:はい。僕は、学びに一番必要なのは「興味・関心」だと思います。それがないと、子どもは学ぶことを止めてしまいます。だから、もし今、子どもの成績が伸びずに悩んでいるお母さんやお父さんがこの記事を読んでいるなら、まず苦手科目に対する興味づくりから始めてほしい。そうすると良い循環が生まれるんです。
 勉強に興味を持てば授業を聞くようになり、授業を聞けばなんとなく理解する力がつく。理解する力がつけば親や教師から褒められて子どもが優越感を感じるようになる。優越感を持てば、自分から進んで勉強しようという原動力になりますよね。
 一方で、最悪なのが、いきなり興味をくじかれること。そうすると勉強への関心をなくし、当然授業も聞かなくなり、両親や先生からもガミガミ言われる。そんな状況から、学習の動機を作るのはとても難しい。
 だから、僕はメディアや講演会を通じて数学の魅力をわかりやすく説明したり、数学を五感で体験できる「数学体験館」を開いたりしているんです。「見る」を英語にすると“See”、でも「わかる」を英語にすると“I see”になるでしょ。実際に見たり、触ったり、実験したり、物を動かしたり、議論したり。こういう活動が数学の授業に今まであったかというと、皆無に等しい。先生が一方的に数十名の生徒に説明をして、それをただ子どもたちが聞くスタイルじゃあ、さっき言った興味や好奇心は育たないよね。そういったところをカバーできるような活動を続けているんです。
 エルテス:なるほど。ただ、親や教師にとって好奇心を育てるのがいちばん難しい気もします。
 秋山:そうだねえ。小学校の算数ぐらいまでなら、その知識がどんなふうに世の中に役立っているか、まだわかる。いちばん身近なものだと、おつりの計算とか。ところが、中学、高校レベルの問題になると、今勉強している計算や定理が社会の何に役立つのかが急にわからなくなる。学習内容と社会の接点が見えづらいんです。
 エルテス:大人たちの関心や理解も薄いですよね。子どもの好奇心に火をつけようと思っても、歴史や理科なら知っているけれども算数・数学と社会の接点についてはそもそも自分も知らない。
 秋山:そう。大人たちの問題でもある。昨年、ある県の首長さんが「女子に高校でサイン、コサイン、タンジェントを教えて何になる」といった内容の発言をして波紋を呼びました。彼の問題は、「女子だけに限定したこと」と「サイン・コサイン・タンジェントが無意味」と発言したこと。
 前者は問題外だけれども、後者はわりと共感している人もいるんじゃないかな。三角関数は、古くからは測量や神殿の設計、新しいものだと病院のMRIの設計やCG制作の現場でも使われている。でも、そんなことを知っている人はまずいないよね。
 エルテス:数学マニアの先生だとしたら、そういう教科書に載っていないおもしろさも伝えてくれるのでしょうが。学校ではなかなかカバーしきれない部分だと思います。
 秋山:そうだね。教師の資質によるところが大きい。ただ、最近はそれもだいぶ変わってきた。今は、小学校の算数の授業にもグループワークを取り入れたり、友達同士で教え合ったりしている。昔の授業は先生が主体だったけど、今は子どもたちを主体にするようになったね。それは非常に良い傾向です。だから、好奇心を育むという教育は以前よりは、改善されている気がしますね。
 エルテス:算数が苦手な親は、子どもにどうやって接してあげればいいですか?
 秋山:例えば、中学校の算数がとても出来ない子どもがクラスで1、2番になるためにはどうしたらいいか。3〜4カ月ほど毎日3時間の勉強を続ければ、成績がビリの子どもでも1番になれると僕は強く確信しています。
 ただ、ビリの子どもが数学をそこまで熱心に勉強できるかというと、難しいじゃないですか。本当に成績を上げたければ、数学を習得したければ、努力を続けられるんです。でも、その動機がない。じゃあ、動機はどうしたら生まれるのかというと、ここからが親御さんの腕の見せどころです。
 教育の原則は「褒めること」と「しかること」なんです。それを適切に行っていくと、子どもは非常に伸びる。
 日本で大成した教育者たちも、子どもをどう褒めて、どうしかれば、成長するかわかっていたんです。例えば、薪を持った銅像でおなじみの二宮尊徳。彼は、「可愛くば、五つ数えて三つ褒め、二つ叱ってよき人となせ」という一句を残しています。
 これは、怒りたくなったら五つ数えるぐらいの間をおき、長所を三つあげて褒めてから二つだけしかる程度にすれば、子どもは、言うことをよく聞き、育つということ意味です。
 また、花巻農学校の教師としても優れた才能を発揮した宮沢賢治も、生徒を「三つ褒めて、一つしかること」を意識していたそうです。例えば、タバコを吸っている生徒がいたら、まずはその生徒のいいところを褒め、それから「タバコは身体に悪い」を注意する。
 二宮尊徳も宮沢賢治も、子どもを褒めるときは理路整然としていると同時に、相手への愛情や思いやりがあるのです。これが子どもの教育には非常に重要でして。
 エルテス:なるほど。
 秋山:同じようにちゃんと子どもを褒めて、かつしかっているご家庭はやはり成績も伸びるんです。だから、それさえできれば、どんな子どもでも成長します。
 「僕には無理だ……」「私にはできない」と言う子どももいますが、それは好きになろうというきっかけがなかっただけ。そこを親や先生がうまくカバーしてあげないといけない。過去に何十万人の生徒を指導してそう確信しました。
 エルテス:ですが、そこは「わかってはいるけど、実行するのは難しい……」と大人たちも思っている気がします。
 秋山:そこも段々と変化していくんじゃないかな。今は囲碁までコンピュターが人間に勝っちゃう時代だから、これまで親や教師がフォローできなかった部分をこれからITがカバーできるようになる可能性はあるね。だから、教育分野でのITの活用はそんな悪いことだとは僕は思わない。ただし、一番大事なのは、子どもに愛情を注ぎながら、上手に褒めてしかることです。その教育の原則だけは絶対に覚えておいてほしい。
 秋山:愛情を持って褒めてしかって自尊心を育ててあげれば、芯のある子に育ちます。そんなふうに育てられた子どもは、どんな挫折にあっても、何度も起き上がることができるし、どれだけ大きな夢でも実現できると僕は思います。
 エルテス:さきほど秋山先生がおっしゃった、「好きなことを続ければ、後から才能がついてくる」ということですよね。
 秋山:そう。生まれつき才能がある人なんてほとんどいません。好きで何年も続けたから、上手くなっただけ。ただし、続けたからといって、それが報われるとは限らないからね。
 僕の座右の銘は、「努力は報われず正義は滅びる」という言葉なんだけれど、知っての通り、努力しても報われる人もいれば、そうじゃない人もいます。でも、この言葉は「それでも報われにくい努力を続けなさい」「正義は強くいつも勝つなんて甘っちょろい考えはやめなさい。でも、正義を貫くべき」と反語的に言っているんです。100%報われる努力なんてありません。だけれども、努力を続ける姿勢や、続けたことで得られたものは非常に尊い。
 エルテス:先生ご自身の来歴を振り返ってもそう思われますか?
 秋山:そうだねぇ。数学の勉強は続けたけれど、学校で褒められることはなかったね(笑)。試験の点数も、僕の半分以下しか勉強していない友だちのほうが高かったりした。僕は理解の速度が遅くて非効率。はっきり言って“バカ”だよね。
 でも、そのおかげで良かったこともある。理解の速度は遅いけれど、大変な思いをして身につけたことはそう簡単に忘れない。それどころか応用力もつく。
 僕より優秀な人は大体早く出世しました。でも、僕は一人地面に這いつくばって進んでいるからこそ、道端に咲く美しい花、つまり新しい数学の定理や公式を見つけることができたんです。
 だから、自分がバカで良かったと思う。バカにしか見えない世界がいっぱいある。人間、その人にしか見えない世界があるからこそ、その人にしかできない仕事や役割もあるんです。それが、“個性”であり“天職”であると僕は思います。そこを育ててあげるのが、理想の教育ではないでしょうか。
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