市民が参加する裁判員裁判を経て、少年だった被告への死刑が初めて確定する。宮城県石巻市の3人殺傷事件で16日、最高裁が被告側の上告を棄却した。1審で元少年と向き合い、「究極の刑罰」と更生可能性の間で揺れた裁判員経験者は複雑な思いを明かした。【伊藤直孝、本橋敦子】
「決まったか……」。1審・仙台地裁の審理に参加した40代の裁判員経験者は16日午後、車を運転中にラジオのニュースで元少年(24)の上告が棄却されたと知った。
2010年11月、裁判員に選ばれて初めて法廷に入った。被告は当時19歳。地裁の配慮で傍聴席に背を向け、裁判員に向かって座っていた。5日間の審理中に顔をよく見て思った。「子供だ」
証人や被告の話をメモしながら、発言の背景や意図をじっくり考えた。「今までにないくらい、人の話を一生懸命聞いた」。評議ではそれぞれ法廷で感じた考えをぶつけ合った。ぐったりと疲れ、帰宅してからも事件のことばかり考えたが、家族には言えなかった。
死刑求刑の可能性があると報道されていたが、実際に求刑されると重みを実感した。「どうすればこの子(被告)のためになるか」と、何度も悩んだ。
時間が足りなかったとは思わないし、後悔もない。だが判決後、何度も死刑の重みに押しつぶされそうになった。出勤中に具合が悪くなり、電車を降りたこともある。裁判員の経験は自分のためになったと感じる一方、死刑事件は「覚悟して職に就いた職業裁判官が審理した方が良いのではないか」とも思う。
1審判決後、記者の接見に応じた元少年が事件への後悔を語る記事を読んだ。「事件を起こす前に気付いてほしかった」と感じた。
1審の判断は最高裁にも認められたが、気持ちは変わらない。「どう言い繕おうとも、見ず知らずの人に『死ね』と言ったことに変わりはない。『人を殺した』という気持ちは、これからも抱えていくと思います」
◇弁護団「最高裁は取り返しのつかない選択した。非常に残念」
元少年の弁護団は判決後、東京都内で会見し「最高裁は取り返しのつかない刑事罰を選択した。非常に残念だ」と語った。
判決は事件の計画性を認めたが、主任弁護人の草場裕之弁護士は「警察に通報される前に、被害者から取り上げた携帯電話を返すなどのやりとりがあり、殺害計画は全くなかった」と強調。「2人が殺害された事件の裁判例から考えても突出して重い。死刑にする理由を十分に説明すべきだ」と述べた。
守屋克彦弁護団長は、家裁調査官が成育歴や家庭の事情を踏まえて意見をまとめた記録などが、口頭でのやりとりを重視する裁判員裁判では十分に調べられなかったとし、「元少年の未熟性に関する資料が十分調べられなかった。事件は少年事件を裁判員裁判で審理することについても議論を呼ぶ」と述べた。
一方、最高検の榊原一夫公判部長は「死刑を是認した判決は妥当なものと考えます」とコメントした。