【フランクフルト=加藤貴行】独フォルクスワーゲン(VW)は16日、排ガス不正発覚後の新たな経営戦略を発表した。2025年までに電気自動車(EV)の年間販売台数を最大300万台に増やし、全体に占める比率を現在の1%から25%近くに高める。自動運転車も21年に投入する。不正の要因とされる規模重視の戦略を改め、経営の効率性を高める。
独北部ウォルフスブルクで同日記者会見したマティアス・ミュラー社長は「販売台数を追わず、持続可能な利益を伴った成長を追求する」と強調した。マルティン・ヴィンターコーン前社長は18年までに販売台数を1千万台にし、世界首位に立つ計画を策定した。15年の排ガス不正の発覚を受けミュラー氏が25年までの戦略を発表した。
電池だけで駆動するEVは25年までに30車種以上を投入し、25年時点で200万~300万台の販売をめざす。グループ全体のEV比率を20~25%に高める。全体の台数は示していないが、15年の世界販売実績(993万台)から大きく伸びない前提だ。
EV事業を大規模に展開するには基幹部品を安定的に調達し、電池に組み立てる必要がある。工場を建設する可能性について、ミュラー氏は「素材から完成車まで関わっていく」と述べ、含みを残した。
デジタル化の波にも対応。21年には完全自動運転車を市販し、関連システムをグループ内で生産する。傘下の高級車メーカーの独アウディを中心に実証を続け、ソフトウエアの技術者1千人を追加で採用する計画だ。
新車販売に次ぐ柱と位置づけたのが、人の移動にかかわる「モビリティーサービス」だ。5月には米ウーバーテクノロジーズの競合でもある相乗りサービス大手のゲット(イスラエル)への3億ドル(約310億円)出資を決定。ゲットのサービスを各地に広げる。
相乗りや自動運転タクシーなどサービス分野で25年に数十億ユーロの売上高を見込む。米国などのIT(情報技術)大手が存在感を増すなか、傘下ブランドを生かしながら関連サービスと組み合わせて提供して違いを出す。
経営の効率化にも取り組む。25年までに80億ユーロ(約9400億円)のコストを削減。グループ会社で世界26カ所に散らばるエンジン、変速機、樹脂部品などの部品事業を1社に集約する。25年の売上高営業利益率(特殊要因を除く)を7~8%と、15年実績の6%から引き上げる。人員削減には言及していない。
排ガス不正問題では4月、米国の当局と顧客対応で大筋合意した。6月28日までに最終合意に達する見込みだ。刑事訴追のリスクは残るが、対策費用が見通しやすくなってきた。「次世代の移動サービスで世界首位に立つ」(ミュラー氏)と攻勢に出る考えを示した。