各政党の党首らが街頭演説に繰り出し、公約も出そろって参院選は事実上スタートした。

 その中で、与党側からぱったり聞こえなくなったのが、憲法改正をめぐる議論である。

 安倍首相の最大の政治目標が憲法改正であるのは周知の事実だ。先の国会では「参院選でも訴えていきたい」「私の在任中に成し遂げたい」と強い意欲を何度も示してきた。

 ところが、これまでの街頭演説では一切、触れていない。

 民進党の岡田代表が、安倍政権による9条改正反対を公約の2本柱のひとつに掲げ、街頭演説でも力を込めて訴えているのとは対照的だ。

 憲法改正は、日本国民が戦後経験したことのない極めて大きな政治テーマだ。それを実行したいなら、最大の争点と位置づけてしかるべきだ。

 それなのに、首相は国会中の雄弁とは打って変わって口をつぐむ。この姿勢は不可解であり、争点隠しの意図があるなら不誠実と言わざるを得ない。

 自民党が公約で憲法改正について触れているのは、26ページの冊子の末尾の2項目だ。

 この参院選から導入される、県境をまたぐ合区を解消するため、「憲法改正を含めそのあり方を検討します」とうたい、次に「衆議院・参議院の憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します」と記している。

 合区の解消から改憲に取り組むのかと思いきや、稲田政調会長は「そこはさまざまな考え方がある」とはっきりしない。

 これでは憲法改正といってもどの条文を、どのように改正するのか、有権者には相変わらずわからないままだ。

 一方、自民党と連立を組む公明党は、公約で憲法改正に触れていない。山口代表は「議論が成熟しておらず、参院選の争点にはならない」と説明する。

 自民、公明の両与党とも、国民に正面から憲法改正を問おうとしない。それで両党とその補完勢力で改憲発議に必要な3分の2の議席を得たとしても、改憲論議を一気に進めることが許されるはずがない。

 安倍政権はこれまで、世論が割れる政策については選挙の際に多くを語らず、選挙で勝てば一転、「信任を得た」とばかりに突き進む手法をとってきた。特定秘密保護法や安全保障関連法の制定がその例だ。

 公約の末尾に小さく書かれた「憲法改正」の4文字。これを、同様の手法を繰り返す伏線とさせるわけにはいかない。