こんにちは、らくからちゃです。
たまには自分たちの取り扱っている商材のことについて勉強でもしてみようかなあと、パッケージベンダーの決算資料を『へえ、そんな儲かってるんですねえ』もう少し分け前寄越せやと思いながら眺めておりました。
業務用システムをやっていると、いつも気になる存在がSAP。HANAの上で動く新ver S4も登場してからそろそろ経ちましたので、もう少し事例も聞きたいなあと思うところですが、会社全体としての業績は中々好調の模様。
(独SAP社決算発表資料より筆者作図)
全体の売上高は、2015年度では前年比+18%の約208億ユーロ(2兆7000億円)と順調に伸びています。ただ今回の決算で『面白かった』のは、全体の伸び率よりもクラウドに関連する結果の伸びでしょう。
どれぐらいかというと、こんな感じ。
- 2013年度 ・・・ 6.96億ユーロ
- 2014年度 ・・・ 10.87億ユーロ (+56.17%)
- 2015年度 ・・・ 20.74億ユーロ (+118.10%)
とんでもないペースで成長しています。2018年度には既存のライセンス売上を抜くことになるのではないかと、同社では予想している程です。
あのいかにも『オンプレミスでござる』といった感じのSAPですらこんな感じの状況ですが、いったい何で稼いでいるのか?というと、Ariba,Fieldglass,Concurなどのプラットフォーム型のビジネスが大きく貢献しているようです。
Aribaって何?
SAP社のビジネスは、今も昔もERPが中心であることは間違い有りません。しかし、もはやERPだけでは付加価値を作り出すことが難しい環境になりつつあります。そこで、更なる業務改善の方法として、同社が注力しているのがビジネスネットワークと呼称している領域です。その中でも特に成長著しいAribaは、2012年にSAP社が買収した会社がAriba社の開発したシステムです。
まずは、簡単に説明します。
皆さんが、会社でボールペンか何か、消耗品がほしいなーと思った時、どんなことをしなければならないでしょうか?まあ色んな会社はありますが、結構いろんな手続きやらがあるはずです。
適当に買ってきたものを、適当に申請して経費として落ちるようにしてしまうと、友達の会社から定価の倍の値段で買ってきたり、各部署でバラバラのモデルを使っていたり、必要な書類がきちんと管理されていなかったりと、全くもってカオスな状況になってしまいます。
そういったことを避けるために、稟議という名のスタンプラリーをしてみたり、相見積を取らせてみたり、色んな作業が発生するわけですが、面倒くさい話です。Aribaは、そんな調達業務を効率化するためのシステムです。概要図を見てみれば『ああー』と伝わる人も多いでしょう。
(出典:クラウドソリューションAribaで実現できること | SAPジャパン ブログ)
これだけ切り取ってみれば、一般的な『購買管理』『ワークフロー』といったシステムに近いものですが、大きな特徴が2つあります。
ひとつは、自社にサーバを持つ必要がない『クラウド』のシステムであること。まあここらへんは今時珍しく有りません。ただ、それ以上に大きな特徴が『Ariba Network』という調達網も合わせたエコシステムであるということです。
日本の国家予算を超えるAriba Network
イメージとしては、『会社の使うあれやこれが、Amazonや楽天みたいに、色んな会社の中から検索して購入することが出来て、色んな事務作業が全部オンライン上で完結する』という感じでしょうか。
こういった企業向けの調達システムといえば、古くは大塚商会のたのめーるやアスクル、最近だと製造業向けのモノタロウなんかも有名どころでしょうか。
これらの企業でも、ワークフローを搭載した承認システムを提供してる会社もありますが、AribaはSAPのデータと直に連携が取れるのが一番の強みですね。自社で在庫を持ってビジネスを行うのではなく、Ariba Networkというエコシステムを管理していますが、これがどれ位の規模になっているのか2015年度のアニュアルレポートから引用するとこんな感じ。
The Ariba Network is a leading marketplace used by approximately two million companies to discover, connect, and collaborate over US$740 billion in commerce every year
( Д ) ゚ ゚
年間7400億ドルが取引されているとのことです。1ドル104円とすると77兆円になります。国債の利払・償還費を除いた日本政府の一般会計予算が73兆円くらいですので、日本の国家予算を超える規模の金額が同システムを介してやり取りされていることになります。
Aribaの他のシステムも見てみましょう。Fieldglassも、2014年にSAP社が買収したシステムですが、こちらは短期労働者の管理を行うシステムです。
As a centralized, single point of access to engage with more than 1.9 million external workers in approximately 130 countries,
こちらは130カ国、190万人の利用実績が有ります。
またConcurも2014年に買収した企業ですが、出張の際の交通費やホテル代の申請を行うシステムです。領収書を写真撮影して読み込んだり、Suicaのデータを読み込めたりと、『今時』な感じの機能も取り込んでいるのが素敵ですが、ホテルの予約までアプリケーション上から出来るところが、Aribaの戦略に近いところを感じます。
Concur Travel & Expense is the world’s leading travel and expense management system, with more than 32 million user
こちらは、既に3,200万人の利用実績があるようです。
ただオンライン上にあることだけがクラウドの時代の終焉
SAPの謳う『クラウド』のビジネスを聞いていると、なんだか『クラウド』と呼ばれていたものが本格的に質的な変化を遂げつつあるんだなーというような感じがします。
今までクラウドと言えば、
- インターネット上で定額でシステムを提供
- 初期導入に必要なハードウェアが不要
- 遠隔操作できてクライアントの環境を選ばない
- オンラインでアップデートが可能
- バックアップに係る手間が無い
- 複数のユーザでのコラボレーションが簡単
などなどを大きなメリットとして普及してきたように思われます。勿論、それだけでも便利っちゃー便利なのですが、SAP社の展開しようとしている『クラウド』はその先を見ているような気がします。
インターネット空間上でサービスを展開する大きなメリットは、ただ単純に先にあげたようなものだけでなく、直接インターネットを介して多数の人や企業とコラボレーションが図れることにあります。
SAPは、まさしくエンタープライズ系の代表格というか総本山のような企業であり、こういった分野については奥手の会社のように見えました。しかしながら、自社の持つ強みにマッチした領域で、相次ぐ企業買収を繰返し、非常に大きな成長を遂げました。また、買収されたベンチャーの側も、『大きな得物』を狙っていたからこそ、大企業に買収されるメリットが十分に高かったように思えます。
翻って日本のIT環境を見ると、ベンチャーが狙っている市場の規模も、それを取り込む大企業の目利き力も何だか雲泥の差があるように思えてなりません。
まあすくなくとも、AWS上にシステムを移しただけで『クラウドビジネス』なんて喜んで言っているようじゃ、いかんのでしょうね。
ではでは、今日はこの辺で。