民進公約、独自色に苦心
民進党は15日に発表した参院選公約で、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を「富とチャンスが偏った」と批判し、「ふつうの人から豊かになる経済」を打ち出した。ただ、自民党も同一労働同一賃金や最低賃金引き上げを公約に盛り込んでおり、「本家争い」をするだけでは対立軸は見えてこない。今後の論戦で、政策実現の道筋を示せるかどうかが問われている。
岡田克也代表は15日の記者会見で「いきなりかぶせてきたのが自民党の『1億総活躍社会』だ」と述べ、安倍政権の看板政策は、民進党に「著作権」があると言わんばかりに対抗意識をあらわにした。
自民党の「同一労働同一賃金」に対し、民進党が提起したのは「同一価値労働同一賃金」。実現すれば賃金格差是正はより担保されるが、言葉だけでは有権者に違いは伝わりにくい。安倍政権の「働き方改革」を念頭に、労働分野の施策を「働き方革命」とうたった点にも苦心の跡がうかがえる。
民進党の経済政策のキャッチフレーズは「分配と成長の両立」。岡田氏は会見で、経済成長を前提にした自民党の「成長と分配の好循環」を「税収が想定を超えたから介護や子育てに充てるという発想は間違っている。予算配分を組み替えて安定した財源を生み出すべきだ」と批判した。これまでよりも「分配」政策に軸足を移している自民党に、民進党は財源論で挑む構えだ。
民進党は今回の公約を「国民との約束」と銘打った。旧民主党時代の2003年から国政選挙の公約は「マニフェスト」(政権公約)が定番だったが、民主党政権失敗の象徴のように批判されたため、イメージの刷新を図ったとみられる。
マニフェストは、政策の具体的な数値目標や財源、実現過程を明示するのが特徴。政党が選挙時の約束を果たしたかどうかを有権者がチェックする手段でもあった。しかし、民主党政権は09年衆院選で掲げた「子ども手当月額2万6000円」などを実行できず、マニフェストは失敗だったと批判された。今回の民進党の公約には、かつてのマニフェストのような精密さはない。
マニフェスト選挙を提唱した北川正恭元三重県知事は「非常に残念だ。参院選にも政策中心のマニフェストはあった方がいい」と述べている。【野口武則、朝日弘行】
◇民進党参院選公約・要旨
◆ふつうの人から豊かになる経済
・消費税率引き上げを2019年4月まで延期
・年金、医療、介護の充実と子育て支援は予定通り来年4月から実施
・行政改革と身を切る改革を徹底
・20年度基礎的財政収支の黒字化目標は守る
・軽減税率は中止し、消費増税分を中低所得者に払い戻す「給付付き税額控除」を実施
◆チルドレン・ファースト、子ども第一
・保育園と幼稚園で働く人の月給5万円引き上げ
・返済不要の給付型奨学金を創設
・児童扶養手当は20歳になるまで支給期間を延長
・医療、介護、保育、障害福祉の自己負担合計額に上限を設ける「総合合算制度」を創設
・全ての選挙で立候補できる年齢を5歳引き下げ
◆働く人を守る、働き方を変える
・「同一価値労働同一賃金」の法律を作る
・誰もが時給1000円以上となるよう最低賃金を引き上げ
・正規雇用を増やした中小企業に対し、増えた社会保険料の事業者負担分の2分の1相当額を助成
◆女性の声で社会を変える
・政治家が男女同数となることを目指す
・選択的夫婦別姓を可能とする法律を作る
◆シニア世代の安心を守る
・来年4月から低年金者の年金をかさ上げ(年間最大6万円)。年金受給に必要な保険料支払い期間を25年から10年に短縮
・介護職員、障害福祉従事者の月給を1万円引き上げ
◆次世代にツケ回さず
・財政健全化推進法作成
・30年原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入
・金融所得課税の税率を5%引き上げ、高所得者の所得税率も引き上げ
・国会議員の定数削減
・行政改革実行法を作る
◆地域経済を立て直す
・一括交付金を復活
・農業者戸別所得補償制度を法制化、恒久化
・今回の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)合意に反対
◆復興と防災力強化
・東日本大震災の復興事業は復興・創生期間(16〜20年度)も全額、国の税金で原則負担する
◆国を守り、世界に貢献する
・領域警備法を作る
・沖縄との対話を重ねながら米軍再編に関する日米合意を着実に実施。日米地位協定の改定を提起
◆憲法の平和主義を守る
・昨年成立した安全保障法制を白紙化
・平和主義を脅かす憲法9条の改正に反対
・未来志向の憲法を国民とともに構想
◆国民の自由と人権を守る
・特定秘密保護法を見直す。放送局の電波停止は恣意(しい)的な運用をしない
・LGBT差別解消法(性的指向や性自認で差別されない法律)を作る