今年4月、新宿ゴールデン街のバー「The OPEN BOOK」に一風変わったレシートが登場した。“一冊と一杯”を唄うこのバーでは、読書と共にお酒を楽しむことができるのが特徴だ。だが、カードでお勘定を頼んだ客はあることに気づく。レシートにサインをしようとするが、なぜか名前を書くことができない。
実は、このレシートはインクが載らないように特殊加工されたレシートになっている。訝しがりレシートをめくると、2枚目には先ほど書いた自分の名前が複写されている。この2枚目のレシートが募金の同意書になっており、あとは「募金します」にチェックを入れるだけで、「世界寺子屋運動」(公益社団法人日本ユネスコ協会連盟)に寄付ができる仕掛けだ。
「DONATE YOUR SIGNATURE」と名付けられたこのキャンペーンを考案したのは、ビーコン コミュニケーションズのエクスペリエンスデザイナー 中島琢郎さん。このアイデアは、昨年中島さんがカンヌのヤングライオンズ メディア部門でGOLDを受賞したものを実現したものだという。
出題された課題は「非識字問題へ世の中の関心を集め、募金を拡大するアイデアを考えよ」というもの。文字の読み書きができないという状況を身近に感じさせつつ、その場で募金のアクションを促すために、クレジットカード決済の瞬間に着目した。直接的に非識字を訴えるのではなく、世の中には自分の名前すら書けない人がいる、という共感しやすいメッセージをレシートの2枚目(=募金同意書)で伝えている。
このアイデアを実現するにふさわしい店舗として、かつてゴールデン街の顔として知られた直木賞作家 田中小実昌の蔵書を受け継ぐバー「The OPEN BOOK」に着目した。直木賞作家 田中小実昌の孫である田中開さんがオーナーを務めるこのお店で本を楽しんだ後こそ、非識字問題を訴えるのに最良のタイミングと考えた。田中小実昌の誕生日である4月29日の直前である4月20日〜24日の5日間、店頭にて募金活動を実施。集まった募金は「世界寺子屋運動」(日本ユネスコ協会連盟)を通して途上国に寄付した。
「昨年ヤングカンヌに参加し、『実現しないアイデアに意味はない』と感じました。ただの若手の企画の品評会になっているヤングカンヌに一石投じてやろうという気持ちで実現させました」と中島さんは実現の背景について話す。
「クリエイティブを名乗る以上、実際につくって、人の反応をみて、アップデートを繰り返すというプロセスを大事にしたい。レシートのプロトタイプをつくってからは、面白がって協力してくれる人が次々にあらわれて、なんとか実現することができました」。
「The OPEN BOOK」には編集者やライターなど、識字率99%の日本の中でも特にリテラシーの高い人々が集まる。このレシートはWebメディアやブログで取り上げられ、昨年と比較して、個人からの募金額は21%向上した。今後さらにこの施策を広げていきたいという。
中島さんはこの企画を今年6月に開催されるカンヌライオンズにもエントリーした。ヤングカンヌ生まれのアイデアでカンヌは獲ることができるのか。まもなく出る結果に注目したい。
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