米Appleがデジタルアシスタント「Siri」の機能強化を発表した。だが専門家によれば、新たな競争市場である人工知能(AI)の分野では、Appleは依然、GoogleやAmazonといった競合他社に後れを取っているという。
今回AppleがSiriに関して発表した最大のニュースは、この音声アシスタント機能をサードパーティー開発者に開放し、サードパーティーアプリに組み込めるようにするというものだ。これにより、ユーザーは音声コマンドを使って「Uber」に配車を頼んだり、中国Tencentの「WeChat」でメッセージを送ったりできるようになるという。
AI分野の専門家らは概ね、Appleの今回の動きを重要な一歩として高く評価している。AIシステムを使うユーザーが増えれば、その分、AIの性能も向上するからだ。
ただし一部からは、なぜAppleはもっと早くにSiriをオープンなプラットフォームにしなかったのかという疑問の声も上がっている。Amazon.comの「Alexa」やMicrosoftの「Cortana」、Googleのアプリなど、競合他社の製品は既に開発者に開放されている。
「少し遅すぎはしないだろうか。Siriは5年前に登場したのに、いまだに他社サービスとの連係を図る段階にあるとは」。アレン人工知能研究所のCEOでワシントン大学教授のオレン・エツィオーニ氏は、そう指摘する。
AIでは、音声認識など、通常は人間が行う機能をコンピュータが実行できるようにする。
現在スマートフォンアプリやキーボードとマウスを必要とするタスクの多くは、いずれ音声対応のデジタルアシスタントが実行できるようになるとみられている。そのため、デジタルアシスタント技術は目下、多くのIT大手にとって企業戦略の主戦場とみなされている。
デジタルアシスタントをめぐる戦いに勝利した企業は恐らく、自社のプラットフォームを経由したオンライン購入から手数料を徴収したり、ユーザーを自社やパートナー企業の製品に誘導したりできるようになる。
「これは新たなプラットフォーム戦争であり、その賭け金は莫大だ。最終的には、Googleの検索機能、ひいては時価総額にも影響を及ぼすことになるだろう」。スタートアップ時代からSiriに出資しているベンチャーキャピタリストのゲイリー・モルゲンターラー氏は、そう語る。
Appleは当初の勢いを生かせなかったのかもしれない。そもそも、Siriという名前のデジタルアシスタントを開発していたスタートアップ企業を買収し、このカテゴリを打ち立てたのはAppleだ。iPhoneに搭載されるやいなや、Siriは大いに注目を集め、文化的試金石のような存在となった。
スタートアップ企業で開発されていた時代には、Siriはさまざまな人気アプリとの連係が図られていた。だがAppleがSiriを買収して間もなく、サードパーティーによるSiriへのアクセスは打ち切られた。Appleが13日に発表したSiri開放の動きは、Siriを当初のビジョンに近付けるものだ、とモルゲンターラー氏は語る。
「元々の開発チームに参加していた私たちにとっては、Siriの技術革新のペースが想像より遅れているのはとても悲しいことだ」と同氏は語る。
専門家の中には、AI分野でのAppleの力量に疑念を抱いている向きもいる。AppleはGoogleやAmazonといった競合他社と比べて人材確保でも後れを取っている。また、デジタルアシスタントをより賢くしていくためにはデータ収集が欠かせないが、Appleの厳格なプライバシーポリシーはそうしたデータ収集を制限する内容となっている。13日には、こうした懸念を解消する発表はほとんどなかった、とエツィオーニ氏は語る。
「一部のポリシーは変更されているし、小さな変化は幾つかある。だが爆発的な発表は何もなかった」と同氏は語る。
ただしAppleは、AIを自社OSにより緊密に統合するための各種の取り組みを進めている。例えば、写真アプリは近く、写真に写っている内容を認識し、旅行やお気に入りの出来事など、イベントごとに写真を分類できるようになるという。メッセージの文脈を判断し、ユーザーが返信しやすいようサポートする機能も発表された。
「Appleにもチャンスはある。Appleはこの分野に懸命に取り組んでいる。確かにGoogleの後塵を拝してはいる。だが完全に水をあけられるほどの後れではない」とモルゲンターラー氏は語る。
copyright (c) 2016 Thomson Reuters. All rights reserved.
(翻訳責任について)
この記事はThomson Reutersとの契約の下でアイティメディアが翻訳したものです。翻訳責任はアイティメディアにあります。記事内容に関するお問い合わせは、アイティメディアまでお願いいたします。
(著作権、商標について)
ロイター・コンテンツは、トムソン・ロイター又はその第三者コンテンツ・プロバイダーの知的財産です。トムソン・ロイターから書面による事前承認を得ることなく、ロイター・コンテンツをコピー、再出版、再配信すること(キャッシング、フレーミング、又はこれらと同等の手段による場合を含む)は明示的に禁止されています。トムソン・ロイターは、コンテンツの誤謬又は遅延、或いはコンテンツに依拠してなされたあらゆる行動に関し一切責任を負いません。 Reuters(ロイター)及びReuters(ロイター)のロゴは、トムソン・ロイター及びその関連会社の商標です。ロイターが提供するその他のメディア・サービスについてお知りになりたい場合は、http://about.reuters.com/media/をご参照ください。