2016年4月の電力小売り全面的自由化から2カ月間で、電力大手から新規参入の小売電気事業者に契約を切り替えた件数が全国で100万件を突破した。日経BPクリーンテック研究所の『小売電気事業者総覧』では、4月20日時点の小売電気事業者の販売戦略などをまとめたが、電力大手を中心に顧客の生活支援サービスを合わせて提供することで、競合との差異化につなげようとする事業者も登場している。
全国レベルで電力需給を管理する電力広域的運営推進機関によると、5月31日時点の切り替え件数は全国で103万5500件に達した。電力大手のエリア別で見ると、東京電力エリアが64万7300件と最も多く、関西電力エリアの21万6300件、中部電力エリアの6万4000件、北海道電力エリアの4万5900件が続く。
切り替え件数の約60%を東京電力エリアが占めており、自由化前の予想通りに顧客争奪戦の主戦場になっている。訪問販売が功を奏した東京ガスの申し込み件数が5月9日時点で30万件を超えたほか、東急グループを挙げて売り込む東急パワーサプライも4万件を突破するなど激しい戦いが続いている。
■使用電力量データで高齢者見守り
主に価格競争で攻め込む新規参入組に対し、電力大手は対抗策の一つとして顧客の生活支援サービスを打ち出している。専門のサービス事業者と提携し、電力大手の信用力をバックにした、“もしも”の時に備える安心・安全サービスを売り物にすることで、顧客の離脱を防ごうという狙いだ。
例えば、7月1日から首都圏での小売りに参入する関西電力は、月300円(税別)で「はぴe暮らしサービス」を提供する。具体的には、24時間365日、家庭の水回りや窓ガラス、玄関鍵にトラブルが発生した際に専門業者が駆けつけ、無料で解決するものだ。部材費などは別途必要になる。飲食店や宿泊施設、レジャー施設などを優待価格で利用できる特典もあり、顧客は2017年4月分までは無料で利用できるという。関西電力エリアでは、月100円(税別)ですでに提供している。
1年間で何回も利用する機会があるものではないが、トラブル時にあわててサービス業者を探す手間を考えると、保険として利用する顧客もいるだろう。
キーワードは“離れて暮らす親”の見守り――。九州電力と九電みらいエナジーの「九電安心サポート」の「みまもりサポート」と「親孝行サポート」は、遠く離れて暮らす高齢の親の安否を確かめるものだ。前者は一人暮らしの親宅に設置したスマートメーターによる使用電力量の30分値データを監視して異変を察知し、顧客に電話などで知らせるのが特徴である。スマートメーターの導入が進んだことで実現できた新しいサービスだ。
通常の使用電力量の推移と比較し、朝の使用電力量が少ないままなら体調不良を、夕方に使用電力量が増えなければ外出からの未帰宅などを疑う。オプション契約で高齢者宅に駆け付けるサービスもある。後者は、首都圏の顧客を対象に九電エリアで暮らす両親宅への訪問や電話連絡を九電が代行し、その様子を顧客に報告する。